糸(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『糸』とは、2020年に公開された日本の恋愛映画で、中島みゆきの楽曲『糸』にプロデューサーの平野隆が着想を得て制作された。監督は瀬々敬久。平成元年生まれの高橋漣(たかはしれん)と園田葵(そのだあおい)は、美瑛で出会い恋に落ちる。しかし大人たちの都合で引き裂かれ別々の人生を歩む。出会ってから18年経って平成という時代も終わりを迎えるとき、互いを忘れられなかった漣と葵は再び手を取り合うために動き出していた。この物語は、漣と葵、その周辺の人々の軌跡を「平成」という時代にのせて描く作品となっている。

真由美の死を受けて、抱きしめあう漣と葵

抱きしめあう葵(左)と漣(右)

葵の母である真由美を探しに漣と葵が函館まで行き、真由美の死に複雑な感情を抱く葵を漣が抱きしめるシーン。漣は中学生の時に葵を助けられなかったことを今でも後悔しており、「ごめんね、あの時守れなくて。手を放して、本当にごめん」と葵に謝り抱きしめるのだ。漣と葵は真由美の消息を追って函館まで来たが、真由美は兄の元ですでに亡くなっていた。葵は真由美がこれまで自分に対する虐待を知らんぷりしてきたにも関わらず知らぬ間に死んでしまい、「一度でいいから謝ってほしかった。でも、本当は一度でいいから抱きしめてほしかった」と複雑な心境を吐露する。そんな葵に漣は、中学生の時に葵を助け出せていれば何か変わったかもしれないと感じるのだった。そして葵に謝罪し、葵も漣に再び助けを求めるかのように一時身を預けるのだった。

高橋香「行けよ、もうここはいいから。行けよ、漣」

亡くなる直前の香

香の最後の入院のとき、漣に一歩踏み出させるために香が言ったセリフ。漣は葵への未練がありつつ、香と出会って家族となった。それでも漣は香と結を大切に思っており、香の病気にも胸を痛めていた。そんな時、ついに香の最期の時が近づく。なんとか葵への気持ちを忘れようとし続けている漣に、香は自分の死期を悟って「運命の糸って、私はあると思う。でもその糸はたまにほつれる。そして切れることも、ある。でもそれはまた何かにつながる。そういう風にできてるんじゃないかな、世の中って」と言う。そして「私、幸せだったんだから。行けよ、もうここはいいから。行けよ、漣」と言うのだった。その後すぐに香は亡くなり、漣は香との間の子の結を大切にしながらも、周りのすすめもあって葵の元へと行くのだった。

『糸』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

地元に残った漣と世界を目指した葵の対比

キャリアウーマンとして成功した葵(右)

物語中盤から、漣と葵の服装や雰囲気の対比がよくわかるようになる。漣役の菅田も「大人びた葵と漣の落差は、見ていて気持ちが良かったです」とインタビューで語っている。この対比は「本当は世界を目指したかったのに地元にとどまることになった漣」と「ただ普通に生きたいと思っていたのに世界へ飛び出していった葵」の姿をあらわしている。漣も葵も幼いころの希望とはまるで違う境遇である。しかし葵役のキャリアウーマンぶりが特に見ていて気持ちよく仕上がっている。

主題歌「糸」に菅田将暉が感じた縁

漣(中央)と葵(右)の結婚式の様子

漣役の菅田は今回の役を演じるにあたり、中島みゆきの「糸」について「歌詞で最後に、“幸せ”ではなく“仕合わせ”となっているところがいいなあと」と、インタビューで答えている。この「仕合わせ」とは「ハッピー」も「バッド」も含めた巡り合わせのことを言うそうで、「確かに、両方あると思って生きていったほうが楽かな」とも語っている。また、「糸」の歌詞からインスパイアを得た作中の冴島のセリフ「人は出会うべき時に出会う人と出会う」は、菅田自身も「仕事も含め、すべてが縁とタイミングでしかないと思います。僕はわりと直感的に動くほうですが、それも必然かのように思えてしまいます。ご縁がつながってここまで来ていますし、僕は本当に幸運だと思います」と話している。中島みゆきの「糸」をモチーフにしたこの作品も、菅田のキャリアの中では「出会うべくして出会った」作品だったのだ。

菅田将暉が感じる、小松菜奈のすごさ

泣きながらカツ丼をかきこむ葵

漣役の菅田と葵役の小松は、この作品が3作目の共演作となる。共に勝手知ったる間柄ではあるが、菅田は小松のことを「制御不能のダンプカーみたい」と語っている。菅田いわく小松は「よーいスタート!となると、誰も止められないぐらいのエネルギーでくるんです」という芝居のスタイルとのことだった。しかし「経験を積んできたことによって、少しずつコントロールできるようになってきたなと感じました。テクニカルな部分を習得したなと」とも語っている。特に作中で小松がカツ丼を泣きながらかきこむシーンが印象的だったようで、「さすがです。食べながら泣くのってむずかしいんです」と言い、小松の演技力をすっかり信頼している様子だった。

『糸』の主題歌・挿入歌

主題歌:中島みゆき「糸」

もともとは中島の友人の結婚を祝してつくられた曲である。1998年2月に「命の別名」とともに両A面シングルとして発売され、中島の35枚目のシングルとなる。発売からのべ30組以上のアーティストがカバーしている。楽曲が映画のモチーフとなるのは中島にとって初めてである。この楽曲は糸という存在を人に見立て、出会いと絆の奇跡、大切さを表現している。主演の小松は撮影前に「曲の世界観を大切に、中島みゆきさんの歌詞を心の中に感じながら、これからの撮影に臨みます」と語っていた。この言葉通り、作中では人と人が織りなす出会いの物語が表現されている。

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