楽園(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『楽園』とは、瀬々敬久による2019年のサスペンス映画。
未解決の少女失踪事件が発生してから12年後、同じ場所で再び少女が失踪する。これを契機に容疑者として疑われた青年、心に傷を負う少女、限界集落に住む養蜂家の男性の人生が交錯していく。原作は吉田修一の短編集『犯罪小説集』である。主要キャストに綾野剛、杉咲花、佐藤浩市らが出演。少女失踪事件に関わりのある者たちの数年間が描かれており、人間が追い詰められていく様子に目が離せない作品である。
『楽園』の概要
『楽園』とは、2019年10月18日に公開された瀬々敬久によるサスペンス映画。原作は吉田修一の短編小説集『犯罪小説集』に収録されている「青田Y字路」と「万屋善次郎」である。吉田修一は『悪人』(2007年)、『怒り』(2014年)、『横道世之介』(2010年)などで知られるベストセラー作家。
配給はKADOKAWAである。事件の容疑者として疑われた青年を綾野剛、事件の影響で心に深い傷を負っている少女を杉咲花、限界集落で暮らし村八分に遭う男性を佐藤浩市が演じた。田舎で巻き起こる陰鬱な事件と集団心理の恐ろしさが全面に映し出されている。
本作で監督・脚本を務めた瀬々敬久は、1960年5月24日生まれの日本の映画監督、脚本家、演出家、俳優。主な監督作品に『64-ロクヨン-前編 / 後編』(2016年)、『護られなかった者たちへ』(2021年)、『ラーゲリより愛を込めて』(2022年)などがある。『護られなかった者たちへ』は、第46回報知映画賞で作品賞を受賞している。主要キャストの綾野剛と佐藤浩市は、瀬々敬久の『64-ロクヨン-前編/後編』(2016年)にも出演。
本作は第76回ヴェネツィア国際映画祭の公式イベントである「Focus on Japan」に正式出品された作品。
あるY字路で少女が行方不明になる事件が発生する。犯人は捕まらないまま12年の時が経ち、同じ場所でもう一度少女が失踪してしまう。事件の容疑者として疑われたのは町営住宅に住む中村豪士(なかむらたけし)だった。そして、中村と事件で被害者となった少女の親友・湯川紡(ゆかわつむぎ)、限界集落に住む養蜂家の田中善次郎(たなかぜんじろう)の人生が交錯していく。事件に関わりのある者たちの数年間が描かれており、閉鎖的な空間の田舎で人間が追い詰められていく様子に目が離せない作品である。
『楽園』のあらすじ・ストーリー
失踪事件
田園風景が広がる田舎町のとある神社で母親の中村洋子(なかむらようこ)とともにリサイクル品販売をしていた中村豪士(なかむらたけし)。しかし、洋子はチンピラの男に「誰に許可取ってやってんだ」と迫られて暴行を受けてしまう。それを見た息子の豪士は村の世話役である藤木五郎(ふじきごろう)に助けを求め、五郎が仲裁したことによってなんとかその場は収まった。その後、五郎の妻である藤木朝子(ふじきあさこ)が洋子の怪我の手当を行う。
同じ頃、湯川紡(ゆかわつむぎ)と一緒に下校していた藤木愛華(ふじきあいか)がY字路で紡と別れたきり消息を絶つ。やがて日は落ち、愛華の母親や愛華の祖父である五郎、豪士、地元の人たちが総出で愛華を捜索した。必死の捜索により川辺で愛華のものと思われる赤いランドセルが見つかったが、愛華は一向に見つからずただ時だけが過ぎていくのだった。
12年後
愛華が行方不明になってから12年の時が過ぎ、愛華の親友だった紡は高校卒業後に地元のホームセンターでアルバイトを始める。アルバイト後に紡は村の祭りである「秋季例大祭」に向けて準備をしていた。すると幼なじみの野上広呂(のがみひろ)が紡に声をかけ、飲み物を手渡す。その後も広呂は帰ろうとする紡を呼び止め、「車で来てるからさ、送ろうか?」と気にかけていた。しかし紡は「いい」と冷たく断り、心を閉ざす。
その帰り道、パンクした自転車であぜ道を走っていた紡はその道で転んでしまう。すると車で通りかかった豪士が紡に声をかけ、紡は豪士に送ってもらうことになった。
後日、紡は祭りに豪士を誘う。しかしその日に再び、Y字路で少女が行方不明になる事件が発生した。捜索隊が組まれ、五郎も加わる。さらに養蜂家として市役所を訪れていた田中善次郎(たなかぜんじろう)も捜索に参加。すると紡の父親が「車でリサイクル品を売っている息子が怪しい」と叫びだした。さらに愛華が行方不明になった原因も豪士のせいではないかという憶測がたち、不確かな情報で豪士が犯人だと疑われてしまう。他の者たちは一斉に豪士の住む家まで走り出し、豪士の家の扉を蹴破って部屋に入る。このタイミングで仕事から帰ってきた豪士はその異様な光景に後ずさり、逃げ出した。豪士は子供の頃にいじめを受け、自宅の窓ガラスを石で割られたことを思い出すのだった。
そして追い詰められて焦った豪士は飲食店に入り、周囲に灯油をまき散らす。そして自身も灯油を被り「愛華ちゃん」と苦しそうな声を絞り出して豪士は手に持ったライターで火を付けた。瞬く間に店は燃え上がり、洋子は「豪士!」と息子の安否を確かめるかのように叫び続けた。
限界集落
翌年、上京した紡は青果市場で働き始める。広呂も紡のことを追って東京にやってくるのだった。居酒屋で酒を飲み交わし、話し続ける内に紡と広呂は心を通わせるようになる。だが、それからしばらくして紡は広呂が病気で入院していることを知る。紡がお見舞いに行くと広呂は「俺のこと好きになったのかよ」と冗談を言った。すると紡は広呂を抱きしめて「どこにも行かないで」と呟く。
その頃、善次郎は村人のために水路の掃除や草刈りなどを積極的に行っていた。そして村の寄り合いの席で善次郎は長老の娘である黒塚久子(くろづかひさこ)と出会う。妻の田中紀子(たなかのりこ)に先立たれてから独り身だった善次郎は、次第に久子との関わりを増やしていく。互いの話を聞き合ううちに仲を深め、温泉で久子の優しさに触れた善次郎は久子にキスをする。狭い村のため、善次郎と久子の関係は村中に広まっていった。
そんなある日、善次郎は蜂蜜で村おこしをしようと試みる。村人たちにも賛成されたが、市から予算が出るや否や「調子に乗るな」と村人の1人から言われ、そこから善次郎は村八分に遭うようになってしまった。それから善次郎は家に籠もる様になり、妻の思い出の写真や葉書を引っ張り出して眺めるような生活を続けた。その後も妻の墓にペンキをかけられたり、行政代執行で妻の遺骨を埋めた土地が踏み荒らされたりといった嫌がらせが相次ぐ内に善次郎の心はついに折れる。
凶悪な事件
紡は前を向いて生きるため、豪士の母親・洋子の元を訪れる。「何があったのか教えて欲しい」と迫る紡を受けて、洋子は愛華が行方不明になったあの事件の日のことを思い出していた。事件の日、恋人と会った洋子は豪士から「僕を捨てるの?」と涙ぐまれる。その出来事を思い出しながら洋子は「警察に嘘言った」と紡に言う。洋子は警察から事件の日のアリバイを聞かれて、「豪士とずっと一緒にいました」と答えたという。疑いが晴れて釈放された豪士は、微笑とも取れる複雑な表情をした。その話を聞いた紡は、最後に洋子から紙の切れ端を手渡される。それには「つむぎさんが悪いのじゃない」と書かれており、豪士が紡に手渡そうとしたメッセージだった。紡は「ありがとうございました」と小さく礼をしてその場を去る。
精神を病んでしまった善次郎は、ある日村人6人を相次いで殺傷する事件を起こす。大勢のマスコミが村を押し寄せ、久子の両親も殺傷事件の被害者であることが判明した。その後、警察は森の中で自殺を試みた善次郎を発見する。善次郎は犯行に使った鎌で腹部を刺し、空を見上げながら妻のことを思い出していた。
テレビで善次郎の事件のことを知り、再び村に戻ってきた紡は不審者注意の看板を草むらに投げつける。そこに五郎が通りかかると、紡は「誰も信じられなくなって、こんなんでいいの?」と五郎に叫んだ。すると五郎は「ケリつけねーとみんなだめになる。誰かが罪人になれば丸く収まる」と当時の感情を口にした。紡は「みんなが殺したんだ。豪士さんを」と泣き叫ぶ。
希望
愛華が消えた日の記憶をたどった紡は、Y字路の近くの河原で善次郎が犬を拾っているのを思い出す。そして、道で泣いている豪士に帰宅途中の愛華が「どうして泣いてるの?」と声をかけていた現場も思い出した。愛華がシロツメクサで作った王冠を豪士に差し出して再び歩き出すと、愛華の後ろをたどたどしい歩き方で豪士がついていく。その光景が蘇った紡は、現場のY字路を眺めながらすすり泣いた。
すると広呂から電話がかかってくる。紡が出ると、広呂は「明日退院できることになった。5年後の生存率50%だって言われた」と嬉しそうに話す。紡は「よかった」と呟いた。そして紡は、広呂と飲みに行った帰りのことを思い出す。雑踏の中で紡は、「愛華」と呼ばれている女性を目撃していた。その女性が紡の親友の「愛華」であるかどうかは定かではないが、紡は女性の後ろ姿をじっと見つめる。そして紡は「紡は、俺たちのために楽園つくれ」と言う広呂の言葉を思い返して前を向くのだった。
『楽園』の登場人物・キャラクター
主要人物
中村豪士(なかむらたけし/演:綾野剛)
リサイクル品販売をして生計を立てている青年。一見して何を考えているのか分からず、気弱で無口な性格をしている。仕事から帰宅中、自転車で転んだ湯川紡に声をかけて知り合いになった。その後、紡の神楽で使用する笛を一緒に買いに行く。12年前の藤木愛華が行方不明になった現場と同じ場所で少女が失踪し、その容疑者として疑われた。最後には周囲から追い詰められて灯油を被り、焼身自殺で亡くなる。
幼少期の中村豪士(演:湯川颯)
幼少時代の中村豪士。同級生からいじめを受け、家の窓ガラスを割られてしまう。
湯川紡(ゆかわつむぎ/演:杉咲花)
12年前に行方不明になった藤木愛華の親友。人に対して心を開かず、自分の殻に閉じこもっている。事件直前まで愛華と一緒にいたため、自分が愛華を助けられたのではないかと自責する。心に傷を負ったまま日々を過ごしていたが、中村豪士と出会い彼を祭りに誘った。豪士が自殺したことを知ると再び心を閉ざし、田舎を抜け出して東京の青果市場で働き始める。幼なじみの野上広呂と関わっていく内に、少しずつ人生に希望を見出した。
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『キングダム2 遥かなる大地へ』とは、古代中国で“天下の大将軍”となることを目指す少年の活躍を描いた、原泰久の同盟漫画作品の実写映画シリーズ第2弾である。公開翌年となる2023年には、同シリーズ第3弾となる『キングダム3』の公開が決定している。 500年もの間戦乱の中にある古代中国。魏国の軍勢の侵攻を受けた秦国は、これを迎撃するための軍を編成する。ひょんなことから秦国王宮内の人々と知り合った奴隷の少年信は、天下の大将軍になるという夢を叶えるためここに参戦。本物の戦場の中で剣を振るう。
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地面師たち(ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ
『地面師たち』とは、2024年7月よりNetflixで配信が開始されたドラマ。2017年に発生した、積水ハウス地面師詐欺事件を基にしたクライム・サスペンス。土地の所有者になりすまして売却をもちかけ、多額の代金をだまし取る不動産をめぐる詐欺を行う「地面師」の犯罪を描いている。配信開始直後から、惹き込まれるストーリー展開や過激な内容とその中毒性や、出演陣の演技・セリフが話題となっている。
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ナミヤ雑貨店の奇蹟(小説・映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』とは東野圭吾の長編小説および、それを基に2017年に制作された日本映画。監督は廣木隆一、脚本を斉藤ひろしが手がけ、主演は山田涼介と名優・西田敏行が務めた。なんとなく悩み相談窓口を始めたナミヤ雑貨店の主・浪矢雄治は手紙のやり取りを通じ、様々な悩みを持つ人たちの人生を変えていく。雑貨店は過去と現在が繋がる不思議な場所となり、現実から逃げ続けてきた青年・矢口敦也を感化させていく。雄治と敦也の奇蹟の一夜の交流を描いた、心温まるファンタジー・ドラマである。
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オールドルーキー(ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ
『オールドルーキー』とは、2022年6月から9月まで放送されたスポーツマネジメントをテーマにしたテレビドラマ。主演はサッカー選手の新町亮太郎を演じた綾野剛。サッカーしか取り柄のない元サッカー日本代表選手の新町亮太郎が引退後にスポーツマネジメントの世界に飛び込み、様々なアスリートの代理人としてマネジメントに奮闘していくストーリー。スポーツ選手のセカンドキャリアへの挑戦がテーマとなっている。Jリーグと公益財団法人日本サッカー協会が製作協力として関わっており、随所に実在のスポーツ選手が出演している。
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目次 - Contents
- 『楽園』の概要
- 『楽園』のあらすじ・ストーリー
- 失踪事件
- 12年後
- 限界集落
- 凶悪な事件
- 希望
- 『楽園』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- 中村豪士(なかむらたけし/演:綾野剛)
- 幼少期の中村豪士(演:湯川颯)
- 湯川紡(ゆかわつむぎ/演:杉咲花)
- 幼少期の湯川紡(演:筧礼)
- 田中善次郎(たなかぜんじろう/演:佐藤浩市)
- 限界集落に住む人たち
- 黒塚久子(くろづかひさこ/演:片岡礼子)
- 黒塚久子の母親(演:吉村実子)
- 黒塚久子の父親(演:品川徹)
- 田中紀子(たなかのりこ/演:石橋静河)
- 少女失踪事件の関係者
- 藤木愛華(ふじきあいか/演:堰沢結愛)
- 藤木朝子(ふじきあさこ/演:根岸季衣)
- 藤木五郎(ふじきごろう/演:柄本明)
- 藤木将馬(ふじきしょうま/演:中野魁星)
- その他
- 野上広呂(のがみひろ/演:村上虹郎)
- 中村洋子(なかむらようこ/演:黒沢あすか)
- 中村洋子の恋人(演:モロ師岡)
- リサイクル業者(演:嶋田久作)
- 湯川紡が見かけた藤木愛華(演:祷キララ)
- 『楽園』の用語
- Y字路
- 少女失踪事件
- 秋季例大祭
- 『楽園』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 火だるまになる中村豪士
- 中村豪士「俺を捨てるの?」
- 野上広呂「紡は、俺たちのために楽園つくれ」
- 『楽園』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 役作りをせずに挑んだ綾野剛
- Y字路を探すのに3ヶ月かけた瀬々敬久
- 本作の仮のタイトルは「犯罪小説集」
- 『楽園』の主題歌・挿入歌
- 主題歌:上白石萌音「一縷」