アイネクライネナハトムジーク(小説・漫画・映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『アイネクライネナハトムジーク』とは、2014年に発刊された伊坂幸太郎の連作短編集を原作とした、2019年に公開された日本映画である。監督は今泉力哉。会社員の佐藤(さとう)は、恋愛したいと思いつつも「出会いがないから」と理由をつけて恋愛に積極的になれずにいた。それを友人の織田一真(おだかずま)や妻の由美(ゆみ)らが見守る中、佐藤と本間紗季(ほんまさき)は劇的な出会いを果たす。この作品は、佐藤と紗季やその周りを取り巻く人々が10年にわたって織りなす物語を穏やかに描き出す作品である。

阿吽の呼吸で演じられた佐藤(左)と紗季(右)のシーン

主演の三浦は、監督である今泉のアドバイスによって「初心に戻れた、気づいたことがある」とインタビューで語っている。それは「相手をちゃんと使って演技する」ということである。三浦は「自分の経験や自信から、自分の中で生まれた感情をそのまま出すということに少しとらわれていた」と言う。しかし「相手をちゃんと使って演技する」とは相手の表情や動きを見て、それに対して自分も反応するということである。一人芝居の時は自分の中の感情をそのまま表現しても良いかもしれないが、二人芝居では相手の表情の変化や吐息などをもっと敏感に感じ取り、それを受けて自分の感情とつなげることが大切なのである。三浦は「そうして意識するようになったら、自分の気持ちの移り変わりを自分が感じやすくなり、自然に芝居がしやすくなりました。相手は今こう思ってくれたのかな、今の表情はどういう意味だったんだろう、ぼくの気持ちを受け取ってくれたのかな……そういうふうに思うことこそリアルだなと気づきました」と語っている。ヒロインの紗季を演じる多部未華子と三浦は何度も共演しており、本作ではさらに互いの感情を拾い合うことで阿吽の呼吸を生み出している。

伊坂幸太郎作品の映画化が怖かった今泉監督

伊坂幸太郎作品のセリフを体現する一真

監督の今泉は原作者である伊坂幸太郎作品を多く読んでおり、『アイネクライネナハトムジーク』の映画化の話が来たときは「すごく嬉しかったけど怖いなとも思いました」とインタビューで語っている。今泉は監督になる前に映画館でのアルバイト経験があり、その中で伊坂幸太郎原作の映画作品をほぼ鑑賞していたという。そしてその中で「うまくいってる作品と、うまくいってないかも?な作品があるなと思っていた」という。さらに「自分が監督するんだったら、こうしたいな」と考える点が2つあり、本作ではその2点を意識した。1点目は「情報を出すタイミング」である。映画では映像がある分、作中で情報を出すタイミングに気を付けないと観客が情報過多になってしまう。そのため小説のように徐々に情報がわかってくる面白さを感じられるよう、「情報を出すタイミング」に気を付けたのだ。2点目は「特徴的なセリフを言うキャラクターを限定する」ことである。伊坂幸太郎作品で出てくるセリフは特徴的なものも多く、実写ではともすればキザになってしまうものもある。そこで本作では、そういったセリフを発するのは一真や美緒だけにして佐藤は聞くに徹するようにした。そうすることで、佐藤がより「普通の人」でいられるようにしたのだった。そして今泉は「(映画化とは原作を削っていく作業なので)こんなに面白い話を僕は捨てられない。そこで、伊坂さん原作の映画をいくつも手がけている脚本家の鈴木謙一さんに(脚本を)お願い」し、『アイネクライネナハトムジーク』を成功に導いたのだった。

『アイネクライネナハトムジーク』の主題歌・挿入歌

主題歌:斉藤 和義「小さな夜」

斉藤正義は主題歌とともに劇中の音楽全般を担当している。この楽曲は、物語の数々の重要場面で斉藤に扮したこだまたいちが優しい歌声で歌い上げている。また、佐藤と紗季が互いの関係性を考えるきっかけになったセリフが歌詞の中に使われており、映画と楽曲を合わせて楽しんだ観客がさらに作品の雰囲気に浸ることが出来る。

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