小さいおうち(小説・映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『小さいおうち』とは、中島京子の同名小説を元に2014年に映画化された日本の恋愛映画である。山形から東京に女中奉公に上がった布宮タキ(ぬのみや)は、赤い屋根のちいさなおうちに住む平井時子(ひらいときこ)の元で働いていた。時子はその外見と内面から、誰でも虜にしてしまう女性だった。そして時子は夫の部下である板垣正治(いたがきしょうじ)と道ならぬ恋をしてしまい、日本も戦争への道を着実に進み始めていた。この作品は昭和という激動の時代を生きていた人々の、血の通った温かい生活と小さな秘密を描いた物語である。

タキが生涯抱えていた罪を知った晩年期の恭一が、亡くなったタキに想いを馳せて言ったセリフ。タキは板倉の出征前日に時子から託された手紙を、板倉に届けず2人を会わせなかった。それは「主人(時子のこと)を間違った道に進ませてはいけない」というタキの思いからだったが、タキは最後に2人を会わせなかったことを生涯悔やんでいた。その戒めとして時子の手紙を大事に保管しており、タキが亡くなってその手紙は恭一の元へ渡った。恭一は「この年になって、母親の不倫の証拠をまざまざと見るとはな」と落胆するが、同時に「タキちゃん、そんなに苦しまなくっていいんだよ。そんなちいさなちいさな罪は、とっくに許されているんだから」とも言う。時子の手紙は何十年も前のものであり、書いた本人の時子も防空壕の中で平井とともに亡くなっている。幼い頃からタキを慕っていた恭一は、生涯悔やみ続けたタキの気持ちを案じて「もし会えたら言ってあげたかったなぁ」と言うのだった。

『小さいおうち』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

細かい所作にひそむ感情表現

襟をなおすタキ(中央)

監督の山田洋次は、時子役の松とタキ役の黒木に仕草や所作のアドバイスを細かくしていた。特にタキは物語中盤まではセリフが少なく、その所作やたたずまいで感情を表現する必要があった。そのため黒木に「着物の襟もとを直す仕草ひとつにしても、いろんな感情が表現できる」「着物のたもとをつかむのは不安だったり落ち着かなかったりするときの動作なんだよ」とアドバイスをしていたという。他にも松に対しては「このセリフは帯を直しながら言って」といった指示を出し、感情表現の一つとしていた。

緊張感に包まれた長いワンカット

板倉の元に行こうとする時子(左)を止めるタキ(右)

板倉の出征前日、時子がタキの制止を振り切って板倉のもとに向かおうとするシーンは、ワンカットで撮影された。それまで時子に反抗らしい反抗をしてこなかったタキが初めて時子に意見するシーンで、いわば物語の山場でもある。このシーンは平井家の縁側、廊下、玄関といった場所を時子とタキがそれぞれ動き緊迫したセリフを言うシーンで、撮影現場は緊張感に包まれていた。タキ役の黒木は何度かNGを出してしまったというが、松の気さくな様子と監督の「主人に意見しなければいけないタキちゃんの緊張と、華ちゃんの緊張が合わさっていたから良かったよ」というねぎらいの言葉で、黒木は「本当に救われました」と回想している。

タキをときめかせるように演じた時子

時子(画像)がタキの前で見せるリラックスした表情

物語中の時子は、主にタキからの目線で描かれている。時子はタキの主人であるためにどうしても生活の大部分を占める人物であり、上京してきたタキにとって物珍しくて「東京」を象徴する人でもある。そのため、時子役の松は「時子さんが振る舞うのを見て、タキちゃんの目がキラキラしていることが一番大切なので、彼女をときめかせる存在でいることがわたしの役目だなって思ったんです」とインタビューで語っている。それに対しタキ役の黒木は「タキちゃんが時子さんに憧れていたり、いとおしいっていう気持ちはよくわかるんです。わたしにとって松さんはもともと心から尊敬している女優さんなので。だから、その意味でタキちゃんにわたし自身が重なっていた気がします」と返している。松と黒木の間に時子とタキのような間柄の雰囲気がすでにあったため、作中でもその雰囲気が違和感なく描かれていたのだ。

『小さいおうち』の主題歌・挿入歌

オリジナルサウンドトラック:『赤い屋根のおうち』

『小さいおうち』60秒特別映像の0:35頃から、『赤い屋根のおうち』が流れ始める。制作はジブリ映画でも知られる久石譲で、山田洋次監督作品に参加するのは『東京家族』に次いで2作目となる。『小さいおうち』は戦時中の話ではあるが、久石譲の上品なテイストの楽曲がこの時代でも豊かな生活を送っていた平井家の様子をうまく表現している。

『赤い屋根のおうち』が収録されているオリジナルサウンドトラックの曲順は、以下の通りである。
1.プロローグ
2.僕のおばあちゃん
3.上京
4.赤い屋根のおうち
5.昭和
6.タキと時子
7.雨の日も風の日も
8.南京陥落
9.師走
10.正治と恭一
11.嵐の夜
12.タキの幸せ
13.本当の所
14.タキの悲しみ
15.開戦
16.事件
17.別れ
18.手紙
19.B29
20.イタクラ・ショージ記念館
21.時効
22.小さいおうち

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