悪の教典(小説・漫画・映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『悪の教典』とは、2012年公開の日本のバイオレンス・ホラー映画である。監督は三池崇史で、貴志祐介の小説が原作。高校教師の蓮実聖司は、明朗快活で同僚や生徒にとても頼りにされていた。しかしその正体は他人への共感能力に欠けたサイコパスで、自身の邪魔になる人間は躊躇なく殺してきた男だった。そしてある出来事でこれまでの罪が暴かれそうになり、蓮実は校内の人間を全員始末することを決める。この作品は蓮実というサイコパスの生き方や、その周りで生きようともがく人間の命がけの戦いから目が離せない物語となっている。

妨害電波

携帯電話やテレビ、ラジオなど正規の電波通信と同じ周波数の電波を流し、電波障害を起こすこと。ジャミングとも呼ばれる。第二次世界大戦下など政治・軍事的に使われていた技術ではあるが、現代でも試験会場付近や総理官邸付近などで活用されている例もある。個人が妨害電波を出すことは違法である。本作では、校内の集団カンニングへの対策として蓮実と釣井が職員会議で提案した。しかし違法な手段であるため、実際には蓮実が個人的にその技術を活用していた。

AED

自動体外式除細動器とも言う。心臓がけいれんしてポンプ機能が滞ってしまっている状態、つまり心室細動の際、電気ショックで心臓のリズムを正常に戻すための医療機器である。2004年から一般市民でも使うことができるようになり、駅の構内や学校、スポーツ施設など多くの場所に設置されるようになった。心室細動の治療は一分一秒でも早く取り掛かることが重要なため、AEDの導入によって患者の蘇生率が大きく上がった。本作では、学校の保健室にAEDが設置され、その録音機能のおかげで惨劇の夜の犯人が蓮実であると断定された。

主神オーディン/フギン/ムニン

作中でのフギン/ムニンの画像

オーディンは北欧神話の主神であり、同時に戦争と死の神でもある。フギンとムニンはオーディンに付き従うワタリガラスで、フギンは思考、ムニンは記憶を司る。フギンとムニンはオーディンのために世界中を飛び回り、情報収集を行っていると言われる。本作では、蓮実の家にいつも居座る一対のカラスが蓮実によって「フギン」「ムニン」と名付けられている。惨劇の夜の後、蓮実は自身を心神耗弱に見せかけるために「フギン」「ムニン」の幻覚が見えていると演技をするが、それを怜花に見破られている。

『三文オペラ』の劇中歌「メッキー・メッサーのモリタート(殺人物語大道歌)」

『三文オペラ』とは、1928年初演の音楽劇である。劇中歌タイトルのメッキー・メッサーとは、主人公であるギャングの名前である。この劇中歌は後に「マック・ザ・ナイフ」という曲名でリメイクされ、グラミー賞殿堂入りも果たしジャズのスタンダードナンバーとなる。本作では、主人公の蓮実が機嫌の良いときに口笛で吹く曲や挿入歌として使われている。

心神耗弱

心神耗弱とは精神の障害の一つであり、善悪の判断や自分の行動を抑制する力が通常より劣っている状態のことを言う。心神耗弱とされる例として、精神病、知的障害、薬物中毒、アルコールによる酩酊などが挙げられる。心神耗弱にあたるかどうかは精神科医が精神鑑定を行い、最終的に裁判所が決定する。心神耗弱を認められた場合は、課せられる刑が減刑されることが多い。本作では蓮実が逮捕される際に自身が心神耗弱であると見せかけようとしたが、それは怜花によって見破られることとなった。

『悪の教典』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

蓮実聖司「わが校に君のような生徒がいたことを、教師として誇りに思うよ」

圭介(左)を拷問する蓮実(右)

圭介は元々頭の回転が速く、少しの不審な点から蓮実へ不信感を抱くようになる。そして釣井が死んだことでなぜ釣井が死ぬことになったのか、次に死ぬことになるのは自分であることなどを瞬時に理解する。そんな圭介に蓮実は敬意を表し、半田ごてで全身をハチの巣状態にするという特に残忍な拷問で始末することにした。さらに拷問で自分のことを「誰かに話したか」と聞く蓮実に対し、圭介はどんなに身体が穴だらけになろうとも口を割らなかった。実際は怜花と雄一郎に蓮実に対する疑惑を話していたのだが、それがバレてしまうと蓮実が怜花たちを次のターゲットにすることは明らかだったからだ。明らかに誰かをかばっているのに最期まで蓮実に逆らう圭介に、蓮実はただただ感心したのだろう。その証拠に「わが校に君のような生徒がいたことを、教師として誇りに思うよ」というセリフと共に、蓮実は『三文オペラ』の劇中歌「メッキー・メッサーのモリタート」をご機嫌で口笛で奏で、圭介を埋める穴を掘るのだった。

怜花を守り生き残るため活路を拓いた雄一郎

怜花と共に生き残る決意をする雄一郎

蓮実による惨劇の夜、最後まで生き残った怜花と雄一郎は、生き残るため必死に逃げ道を探していた。まわりで血を流して倒れているのは毎日一緒に過ごしていたクラスメイトばかり、しかもそれを殺しているのは担任教師という極限状態である。普通なら正しい判断などできず、錯乱してしまってもおかしくない。しかし雄一郎には怜花という守らなければいけない存在があった。そこで避難用シューターにおとりを投げ込み二人を始末したと蓮実を油断させ、怜花と雄一郎はほとぼりが冷めるまで隠れる、という作戦を思いつく。しかしその作戦は、すでに死んでいるクラスメイトを避難用シューターに投げ込まなければならず、しかもその死体は再び蓮実に撃たれる可能性もある。雄一郎は「こんなこと許されるはずない、でもやるしかない!」とクラスメイトに対する申し訳なさや倫理観への葛藤を感じながら、作戦を決行することに決める。怜花もその覚悟を感じ取り、無事に二人は生き残って警察に保護されるのだった。しかしこの二人の脳裏には、惨劇の夜のクラスメイトの姿や蓮実の楽し気な表情、そして自分たちが生き残るためにおとりにした友人のことなどがいつまでも残ることになる。

蓮実聖司「Magnificent!!」

怜花に自分の本質を言い当てられて喜ぶ蓮実

惨劇の夜、自分の目をかいくぐって生き残っていた怜花と雄一郎の姿に、「君たち、よくあの中を生き延びられたね。担任として誇りに思うよ」と驚きつつも喜ぶフリを見せる蓮実。しかしAEDの録音機能から自分が犯人だと断定され、久米に罪をなすりつけるという計画が狂った蓮実は心神耗弱に見せかけた言動をする。そんな蓮実を見た怜花はすぐにその思考に気づき、しかも蓮実がこの状態をただのゲームのように楽しんでいることも感じ取る。蓮実の頭脳と口の上手さにかかれば、警察を丸め込むことなど簡単なのだ。しかしそれを怜花に見破られたことは心底予想外で、思わず「Magnificent!!」とつぶやくほど。これまで他人に興味を持つことがなく自身のことも理解してもらおうと思ってこなかった蓮実だったが、たった一瞬で自分のことを理解した怜花という稀有な存在は心に残る存在となったのだったのだ。

『悪の教典』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

動物的本能がリンクする蓮実聖司と伊藤英明

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