映画評論家・町山智浩の『桐島、部活やめるってよ』の解説を書き起こしてみた!
映画評論家・町山智浩による『桐島、部活やめるってよ』の解説を掲載。WOWWOWで同作品を解説をしていたのですが、それがとても素晴らしかったため、内容を書き起こしました。「単なる青春映画ではなく、魂の彷徨いを描いた作品」と評する理由など、町山智浩の視点で見た『桐島、部活やめるってよ』を紹介していきます。
しかもそこですごくよかったのは、顧問の先生がジョージ・ロメロとかマニアックなこと言うなよっていうんですけども、ジョージ・ロメロはマニアックではないです。はっきり言って映画秘宝とか読んでいる人にとってはジョージ・ロメロは入り口中の入り口です。ブルース・リーにとっての燃えろドラゴンと一緒です。ブルース・リーにとっては死亡の塔の事を言ったらマニアックです、でも燃えろドラゴンについてはマニアックではないんですよ。その辺も上手いんですよ。この先生わかってない感じっていうのがよく出てるんです。
あと日曜日にですね前田くんが映画に行って、そこで観ている映画が鉄男っていう映画なんですね。そこでかすみと出会うんですけども、観てる鉄男っていう映画は、塚本晋也監督の映画で、どういうシーンかっていうとペニスがドリルになってそれで女の子の股間を貫通して殺すっていうシーンが出てきてるんですね。これはもうすごくわかりやすいですね。これはものすごい性的コンプレックスと攻撃性ですよね。
それが前田くんの中にあるんですよね。もちろんこれは伏線になっていますね。単に鉄男を観ているっていうわけではないんですね、これは。前田くんの心のなかを覗いているんですよ。それをかすみちゃんも覗いてくれたんですね。っていうシーンなんですねこれは。
なぜ前田くんっていう非常におとなしい、オタクの少年がスプラッター映画ばっかり、映画秘宝的な映画ばっかり、残酷な映画ばっかり観ているのかっていうのも、ちゃんと意味がありますよね。そう考えると。もちろんそれは伏線で最後のクライマックスに突入していく時にわかるわけですけども、全部意味がありますね。意味が無い人間なんていないですよ。
実存とのぶつかり
ところがここで大事なのはひろきくんが意味を見失ってしまったんですね。何のために部活やっているんだ、何のために野球やっているんだ、野球選手なるわけじゃないじゃん、野球で大学行くわけじゃないじゃん、もっと突き詰めると何で大学行くの?、何で会社入るの?、何で社会で働くの?何でお金もうけなきゃいけないの?、何で子供作らなきゃいけないの?、何で結婚しなきゃいけないの?、何でそんな恋愛したいの?、俺恋愛してるけど全然楽しくないよ、なんのために生きてるの?全然楽しくねえよ!ってことですね。ひろきくんがぶつかっている問題っていうのは。
で、この中で友弘っていう男の子が出てきますね。友弘くんは「セックスしてーなー」って言って、セックスっていうものはすごくいいものなんだって思っているんですね、彼は。その先に何かあると思っているんですね。このひろきくんはたぶんしたんですねこのいやーな女と。いやーな女ってことはないけど沙奈ちゃんと。そんなに楽しくなかったんですね。いやーほんとは楽しいんですけどね。(笑)楽しみ方を知らないのかもしれないですけど。楽しくなかったんですね、彼。たぶんこの女の子がやな子で、気ばっかり使ったからだと思うんですけど、まあとにかく楽しくなかったんでしょうね。友弘くんは童貞ですからセックスに何かあると思ってすごく憧れているんですけど、ひろきくんはセックスにも、恋愛にも何も見いだせなかったんですよ。
で、勉強できるから受験っていうのに集中することも出来ないんですよね、逆に。どこでも入れるんですよね、たぶん彼は。みんなコンプレックスあるじゃないですか。かっこわるいとか、背が低いとか、彼にはそれもないんですね。超えるんべきものもないんですよね、完璧だから。その時ぶつかったのは、その先に何もない世界なんですよ、彼は。
これって何を意味しているんでしょうか。こんな完ぺきな人いないですよね。
彼と同じような悩み持っている人他にいないですからね。でも逆に彼はすべての人を意味しているんですね。すべての若者じゃなく、すべての人ですよ。誰でも必ず何のために生きているか、何のために生活しているのか、例えば車を買いたいと思っている人がいるかもしれないですけど、その車を買うっていうのに何の意味があるのか。おしゃれすることに何の意味があるのか。ふと気付いてしまったら、何の意味のないことに気づくんですよ。
だって人間どうせ死んじゃうんですよ、何をしたって。何の意味があるんだっていう根本的な問題にぶつかったんですよ、ひろきくんは。これを実存と言うんですね。実存主義っていうのは何の意味があるんだって、ほんとに悩みだしたら意味なんてないんじゃないのってことが実存主義っていう哲学ですね。彼は、ただの高校生であるにもかかわらず、実存主義って言葉をしらないにもかかわらず、実存主義にぶつかったんです。
そんなことを考えながらこの映画を観てもらうと、いろんな言葉が生きてきますね。だからただの青春映画と思わないでほしいです。そういう風には監督は作ってませんから。
ではいったい何なのかってことは、このあと復習編でお話したいと思います。
復習編はこちら
https://renote.net/articles/218813
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映画『桐島、部活やめるってよ』予告編 - YouTube
www.youtube.com
早稲田大学在学中に第22回小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウのデビュー作を映画化した青春群像劇。学校一の人気者である男子生徒・桐島が部活をやめたことから、少しずつ校内の微妙な人間関係に波紋が広がっていくさまを描く。学校生活に潜む不穏な空気感を巧みにあぶり出したのは、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の吉田大八監...
【宇多丸】桐島、部活やめるってよ《批評》 H.24.9.15 - YouTube
www.youtube.com
『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』【ザ・シネマハスラー】 http://www.tbsradio.jp/utamaru/index.html
宇多丸さんの解説動画です。
橋本愛、大後寿々花ら女優陣が号泣/『桐島、部活やめるってよ』初日 - YouTube
www.youtube.com
神木隆之介、橋本愛、松岡茉優、山本美月、清水くるみ、大後寿々花ほか/『桐島、部活やめるってよ』初日舞台挨拶 (作品紹介はこちら) http://www.moviecollection.jp/movie/detail.html?p=2170
初日挨拶。感動する動画です。
ぷらすとアーカイブス『「桐島」、ぷらすとで話すってよ』(2012/8/22配信) - YouTube
www.youtube.com
第21回目のアップロード、テーマは『「桐島」、ぷらすとで話すってよ』について。出演は大谷ノブ彦、花くまゆうさく、松崎まこと、松谷創一郎、プチ鹿島、佐藤貴博。 あの「おっサニー軍団」に緊急アッセンブルが! 映画「桐島、部活やめるってよ」に骨抜きにされた大の大人たちの桐島への想いが激しく決壊! この名作を世に問うた佐...
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