
『ゲット・アウト』とは2017年に公開されたアメリカのサイコ・スリラー映画である。監督・脚本を務めるのはジョーダン・ピール。主人公の黒人男性をダニエル・カルーヤが演じた。アフリカ系アメリカ人の写真家、クリス・ワシントン。白人の恋人であるローズ・アーミテージの実家を訪れたことで、常軌を逸脱した悍ましい陰謀に巻き込まれていく。大勢の白人が集うパーティーが開かれ、クリスは次のターゲットに選ばれていた。本作はアメリカに深く根付いている人種差別の社会的な問題に、映画で踏み込んでいった作品である。
『ゲット・アウト』の概要
『ゲット・アウト』とはアメリカのサイコスリラー映画である。原題は『Get Out』。ホラーや社会派サスペンスの要素も含んでいる。アメリカでの公開は 2017年2月24日。日本では同年の9月17日に「第10回したまちコメディ映画祭in台東」で初上映。その後の10月27日に全国で公開された。監督・脚本を勤めているのはジョーダン・ピール。アメリカのお笑いコンビ“キー&ピール”の活動で知られているピールの初監督作品だ。500万ドルという低予算の製作費でありながらアメリカで大ヒット。社会問題をホラー形式で描いた革新的作品として興行的にも批評的にも大成功を収めた。2018年に開催された「第90回アカデミー賞」では脚本賞を受賞している。他にも「第27回IFPゴッサム・アワード」で3冠を達成。「第70回WGA賞」ではオリジナル脚本賞を獲得し、英エンパイア誌の2017年のベスト10入りを果たし、英国映画協会(BFI)発行のサイト&サウンド誌が選ぶベスト25では1位を獲得した。また製作を務めているのは数々のサイコスリラーを手がけているプロデューサー、ジェイソン・ブラム。彼の代表作には『パラノーマル・アクティビティ』シリーズ(2007年〜)や『インシディアス』シリーズ(2010年〜)、『スプリット』(2017年)などが挙げられる。ジェイソンは低予算・高品質の映画製作モデルを開拓した人物であり、2017年にはTIME誌の“世界で最も影響力のある100人”にも選出されている。そして主演を務めるのはダニエル・カルーヤ。彼は本作で国際的な評価を獲得した。「全米映画批評家協会賞」では主演男優賞、「MTVムービー&TVアワード」ではブレイクスルー演技賞を受賞。他にもアカデミー賞、ゴールデングローブ賞、全米映画俳優組合賞、英国アカデミー賞などの各主演男優賞にノミネートされた。
アフリカ系アメリカ人の写真家クリス・ワシントン。彼は白人の恋人であるローズ・アーミテージと共に彼女の実家を訪れた。ローズの家族や使用人たちはクリスを笑顔で迎える。表面的に見ればクリスは何の問題も無く歓迎されているのだが、拭えない違和感がクリスに付き纏っていた。後日、アーミテージ家でパーティーが開かれる。パーティーに集まった裕福な白人たちの中には30歳以上離れた妻を持つ黒人男性、アンドリュー・ローガン・キングの姿があった。そこでもクリスは多くのゲストに注目され、快く受け入れられていたがやはり違和感が払拭されず、その正体を探ろうとした。やがてクリスは来客に紛れていたアンドリューの以前の姿を、親友のロッド・ウィリアムスから聞くこととなる。クリスとロッドはアンドリューと過去に面識があったのだ。しかしパーティーに参加している彼は、クリスの知るアンドリューとはまるで別人。嫌な予感は的中し、クリスはすぐさまアーミテージ家からの脱出を試みるのであった。
『ゲット・アウト』のあらすじ・ストーリー
アーミテージ家で催眠術をかけられたクリス・ワシントン
黒人写真家のクリス・ワシントン。白人の恋人ローズ・アーミテージと共に、彼女の実家を訪問することが決まった。しかし向かう道中、ローズの運転する車が鹿を轢き殺してしまう。駆けつけた警官は運転していたローズだけでなく、クリスにも身分証の提示を求める。ローズがクリスを庇ったことで、身分証の提示は不要となりその場は収まった。到着したアーミテージ家ではローズの両親、ディーン・アーミテージとミッシー・アーミテージが友好的にクリスを迎え入れる。そこには黒人の使用人ジョージナや、庭を管理するウォルターの姿もあった。食事の席ではローズの弟であるジェレミー・アーミテージを交えて5人で過ごすこととなる。クリスと手合わせがしたいと言い出すジェレミーであったが、ミッシーは彼を止めた。しかしそこにはクリスを庇うためはなく、別の意味が込められていた。僅かな時間の間でも、アーミテージ家の違和感が拭えないクリス。ジョージナやウォルターも様子がおかしく、不気味な雰囲気をつくっていた。その晩の深夜に目が覚めたクリス。1階では明かりをつけた部屋でミッシーが待っていた。彼女はクリスと会話をしながら、ティーカップの中をスプーンでゆっくり混ぜ続ける。この時既にクリスは彼女の催眠術にかかっていたのだ。その後、クリスの意識は暗く深い底へと落ちていく。元の部屋では目を開いたまま微動だにしないクリス。彼の目を覗くミッシーの様子が沈んでいくクリスからは、高い位置にある窓から彼女がこちらを見下ろしているように見えていた。
明らかになっていくアーミテージ家の陰謀
その後、アーミテージ家でパーティーが開かれる。到着した裕福な白人の客人たち。中には黒人の夫を連れている白人女性の姿もある。夫の名前はアンドリュー・ローガン・キング。クリスはアンドリューに引っ掛かりを覚えた。客人らはクリスに興味津々。中にはクリスの知る盲目の画商、ジム・ハドソンも紛れていた。疲弊したクリスはそこを抜け出し、起きたことを親友のロッド・ウィリアムスに電話で伝える。ロッドはTSA(運輸保安庁)に勤務しており、クリスがアーミテージ家に行くことを反対していた。ロッドは通話中、白人の黒人に対する恐ろしい行為の数々をクリスに聞かせる。冗談半分に聞き流していたクリスだが、アーミテージ家を抜け出すことをローズに相談した。その後パーティーが開かれていた場所では、クリスの写真が飾られたオークションが開始。クリスはジムによって落札され、敷地内には不穏な空気が立ち込めていた。部屋で帰り支度をしていたクリスだが、彼はその最中にローズが過去に付き合ってきた黒人との写真を見つける。中にはジョージナの姿もあった。ローズもクリスを騙していたのだ。一刻も早く脱出しようとするクリスであったが、催眠術によりそのまま気絶。彼は地下室のソファに縛り付けられた。目を覚ますと目の前のテレビにジムが映り、クリスに話しかける。彼がクリスを落札したのには理由があった。ジムはクリスの見ている世界を欲していたのだ。アーミテージ家は黒人を誘拐し、白人の脳を移植することで身体を乗っ取る違法手術を行っていたのであった。クリスは動画で必要な情報を与えられては意識を失うことを繰り返した。
クリス・ワシントンによって崩壊したアーミテージ家
脳の移植手術の準備は着々と進められ、ジムの脳が取り出される。すぐさまクリスを手術室に運ぶため迎えに来たジェレミー。クリスはこの時を待っていた。ソファの綿を耳に詰めることで、催眠術が効かなくなっていたクリス。彼は気を失っているふりをした。そして手を縛っていたベルトが外された瞬間、クリスはジェレミーの頭部を殴りつけ、すぐさまディーンのいる手術室へと向かう。そこで今度は壁に掛けられていた鹿の角をディーンの体に突き刺し殺害。上の階に上がるとアーミテージ家へ繋がっていた。クリスの勢いは止まらず今度はミッシーを刃物で切り殺す。その後、目を覚ましたジェレミーに再び襲いかかられるが、クリスの勝利に終わる。一方ローズは自室でヘッドホンを装着し、次のターゲットを探していた。クリスは倒れているジョージナを車に乗せ、家を脱出。だが助手席で目を覚ましたジョージナはローズの祖母が乗っ取っており、クリスに襲いかかった。ジョージナが暴れたことで車はそばの木に激突。ジョージナは死亡し、クリスは奇跡的に目を覚ます。そして間髪いれずにローズと彼女の祖父、ローマン・アーミテージの脳が移植されたウォルターが追ってくる。ウォルターの力に押されるクリスであったが、彼は咄嗟に携帯のフラッシュを使った。フラッシュにより意識を取り戻したウォルターはローマンのフリをして猟銃をローズから受け取り、そのまま彼女を撃った後に自身の頭部を撃ち抜く。ローズはかろうじて息をしていたが、そこにロッドの運転するパトカーが到着。横たわるローズを置いたままパトカーはクリスを乗せ、その場を後にした。
『ゲット・アウト』の登場人物・キャラクター
主要人物
クリス・ワシントン(演:ダニエル・カルーヤ)
吹替:三宅健太
11歳のクリスを演じているのはザイランド・アダムス。
アフリカ系アメリカ人の写真家。ローズとは交際5ヶ月の関係であり、親友はロッド。ロッドからアーミテージ家への訪問を止められていたが、クリスは耳を貸さなかった。アーミテージ家の陰謀に気付いた直後もローズは違うと信じていたクリスであったが、彼女のハニートラップにかかっていたのだと悟る。クリスは一番に心を開きながらも、冗談半分でしか話を聞いてこなかったロッドに最終的に命を救われた。クリスが移植手術のターゲットとして確定したのは、彼が亡くなった母親の話を始めた時である。身寄りのないことはターゲットとなる条件の一つであった。
ローズ・アーミテージ(演:アリソン・ウィリアムズ)
吹替:小松由佳
クリスの恋人である大学生の白人女性。良い彼女でありクリスを思いやる優しさを持っていたが、その全てがアーミテージ家の陰謀のためのものであった。彼女の役割はターゲットの恋人となりアーミテージ家に連れて行くこと。ローズの部屋にはこれまでに選ばれてきた黒人たちとの写真が飾られていた。彼女がクリスと敵対して描かれる段階に入ってからは白い服を着用しており、白人であることが強調されている。またローズはシリアルを食べる際、シリアルと牛乳を混ぜることなく、別々の容器に分けて食べる人物であった。これはアパルトヘイトへ賛同を示す彼女の考えが表れたもの。
ロッド・ウィリアムス(演:リル・レル・ハウリー)
吹替:間宮康弘
黒人であるクリスの親友。TSA(運輸保安庁)に務めており、それを誇りに思っている。最初から白人の家に行くのはやめるよう、クリスに注意していたロッド。彼とクリスは離れていても度々電話でやり取りをしているが、ロッドは白人にまつわる恐ろしい話をクリスに聞かせ、彼を説得しようとしていた。クリスの身の危険を察知したロッドは彼の巻き込まれた事件の詳細を調べ上げ、一人でもアーミテージ家に向かう。危険を冒してでも助けに行こうとしたロッド。彼のクリスを思う気持ちは本物であった。
アーミテージ家の人物
ミッシー・アーミテージ(演:キャサリン・キーナー)

出典: screenonline.jp
奥の女性。
吹替:藤生聖子
ローズの母親。催眠術を得意とする心理療法師。面倒見の良い穏やかな母の姿をしていたが、クリスの受け入れ方や術をかけるまでの促し方なども巧妙である。スプーンを使いティーカップをゆっくり混ぜながら催眠術を使う。夫婦でクリスを迎え庭で談笑していた際、クリスが亡くなった母親の話を始めたのを見計らい、ミッシーはグラスをスプーンで軽く鳴らして催眠術の準備を既に始めていた。また彼女が催眠術をかける時に使用する銀のスプーンは富と特権を象徴している。
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目次 - Contents
- 『ゲット・アウト』の概要
- 『ゲット・アウト』のあらすじ・ストーリー
- アーミテージ家で催眠術をかけられたクリス・ワシントン
- 明らかになっていくアーミテージ家の陰謀
- クリス・ワシントンによって崩壊したアーミテージ家
- 『ゲット・アウト』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- クリス・ワシントン(演:ダニエル・カルーヤ)
- ローズ・アーミテージ(演:アリソン・ウィリアムズ)
- ロッド・ウィリアムス(演:リル・レル・ハウリー)
- アーミテージ家の人物
- ミッシー・アーミテージ(演:キャサリン・キーナー)
- ディーン・アーミテージ(演:ブラッドリー・ウィットフォード)
- ジェレミー・アーミテージ(演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)
- その他
- ジョージナ(演:ベティ・ガブリエル)
- アンドリュー・ローガン・キング(演:ラキース・スタンフィールド)
- ウォルター(演:マーカス・ヘンダーソン)
- ジム・ハドソン(演:スティーヴン・ルート)
- 『ゲット・アウト』の用語
- 鹿
- アパルトヘイト
- ナショジオ
- 『ゲット・アウト』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- ローズ・アーミテージ 「私の男を守っただけ。」
- ジム・ハドソン「その通り。人生はフェアじゃない。」
- ロッド・ウィリアムス「おれはTSA野郎だぞ。困難に立ち向かう。それが任務だ。」
- 『ゲット・アウト』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- クリス・ワシントンの身分証から足跡が辿られることを防ぐために身分証の提示を断っていたローズ・アーミテージ
- 元オリンピック選手であるローマン・アーミテージの脳が移植されていたために毎晩走っていたウォルター
- 綿によって催眠術から逃れたクリス・ワシントン
- 『ゲット・アウト』の主題歌・挿入歌
- 主題歌:マイケル・エイベルス「Sikiliza Kwa Wahenga 」