呪詛(台湾映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『呪詛』とは、動画配信サービスNetfliXで2022年7月8日から公開されている台湾発のホラー映画。ケヴィン・コー監督による本作は、2019年に国際映画祭に出品され、2022年3月に台湾で公開されると、史上最高の興行収入を叩き出した。また、台湾映画祭では長編映画賞・監督賞ほか7部門にもノミネートされている。過去に宗教施設で禁忌を破り、呪いを受けたリー・ルォナン。命を賭して一人娘の命を守ろうと視聴者に語り掛けるリーの姿が、モキュメントの形で描かれる。
『呪詛』の概要
『呪詛』とは、ケヴィン・コーが監督・脚本を務める台湾史上最恐のホラー映画作品。台湾の高雄市で実際に起きた実話をベースに、5年の準備期間を経て制作された。
その事件は、2005年に6人家族の呉(ウー)一家のもとで起きた。その内容は、一家6人がそれぞれ自分に神が憑依していると主張し始め、お互いを誹り、暴力をふるい、また時には互いの排泄物を食べさせるなどして傷つけ合い、さらには自傷行為を繰り返すなどして、最終的には監禁された長女が死亡するに至ったというショッキングなものだ。
ケヴィン・コー監督は学生時代から短編映画を中心に映画制作を手掛けており、2009年には長編映画『絶命派対(Invitation only)』で監督デビューを果たした。ホラー以外では『ハクション!』(2020)といったメジャー作品も手掛けており、活躍が注目されている実力派の1人である。これまで台湾発のホラー映画作品としては、『紅衣小女孩』(赤い服の少女)、『粽邪』(ロープの呪い )、『女鬼橋』(幽霊橋)が注目されてきた。そのような中で、ケヴィン監督は、呉一家長女死亡事件に着想を得て、「世界中のホラーファンが眠れなくなる」作品を作るという意気込みから、本作の制作を手掛けた。また、本作の続編についても、同監督が引き続きメガホンをとる予定だ。
本作は動画配信サービスNetflixで2022年7月8日に公開が開始されると、同月4日から10日までの世界全体の視聴時間で、非英語映画部門の世界4位に入った。アジア地域を中心に注目を集めている(台北中央社調べ)。
本作のキャストは、ツァイ・ガンイエン(リー・ルォナン役)、ガオ・インシュエン(シエ・チーミン役)、ショーン・リン(アードン役)、阿Q(アーユエン役)、ホアン・シンティン(娘ドゥオドゥオ役)。
本作では映画『パラノーマル・アクティビティ』を彷彿とさせるファウンド・フッテージの方式が採られており、呪いで死にゆくリーの残した録画が、現在進行形でライブ配信されているという設定となっている。ストーリーは、6年前に宗教施設で禁忌を破った現在のリーが視聴者に語り掛ける形で展開されていく。随所で録画を通す形でリーの過去が語られており、そこでは禁忌を破って呪いで死んでいく仲間の姿、宗教施設から逃げ出した後も呪いの影響で様々な怪奇現象に見舞われ崩壊していくリー・ドゥオドゥオ母娘の日常、リーに関わった周囲の人間に次々と降りかかる不幸・死の有様がありありと描かれている。
本作の魅力は、ホラー映画に見られがちなグロテスクで奇怪な死の描写だけにはとどまらない。なんといっても、台湾では口に出すのも憚られるようなカルト集団の事件を題材にした毒々しい邪教の内実と狂気を描いている点が台湾ホラーとしては目新しい。また、呪いから生み出される得体の知れない恐怖、一体となって恐怖に立ち向かおうとする家族間の愛情が描かれている点が、多くの視聴者の共感を呼んでいる。
『呪詛』のあらすじ・ストーリー
6年前、主人公のリー・ルォナンは、彼氏であるアードン、アードンのいとこであるアーユエンと共に、怪談や都市伝説を取り扱う動画の配信に心血を注いでいた。心霊スポットに足を運んでは、その様子をライブ中継して世界に発信することを生業とする自社メディアを立ち上げていたのである。
そのような中で、リーらは絶対に入ってはいけないといわれている地下道の謎を探るべく、そのスポットが所在している山奥の「陳氏の館」に足を運ぶことになる。陳一族は呪いの根源である「大黒仏母」を本尊とする密教を信仰していた。そこでは、毎夜儀式や霊媒が行われており、一族は奇怪な八文字の呪文「火佛修一心薩嘸哞」を繰り返し唱えているという異様な状況であった。
一家の目を盗んで禁断の地下道へと足を運んだリーらであったが、いざ地下道を目前にしてみると、そのただならぬ雰囲気にリーとアードンは立入りを渋る。しかし、恐れ知らずのアーユエンを静止できず、アードンは具合の悪くなったリーを残してカメラを手にアーユエンと禁断の地下道へ踏み入ってしまう。最奥部まで踏み込んだ2人は、顔が布で覆われた大黒仏母、異様な供物、仏母を反射して移すような形で置かれた鏡の数々を目にする。
そこで仏母の奥から謎の声を聴いたアードンは、仏母の顔を覆った布をめくってしまう。しかし、その布は陳一族が仏母から発せられる呪いを弱め、呪いを直視することを防ぐためにかけられたものだった。呪いの穴を直視したアードンは何かにとりつかれてしまい、供物を次々と頬張り、鏡を壊し始めた。制止しようとするアーユエンの方を振り返ったアードンの顔面には無数の穴が広がっていた。壁に頭を何度も打ち付けるアードン、壁から伸びてくる無数の白い手、といったこの世のものとは思えない異様な光景を目にしたアーユエンの恐怖はピークに達する。発狂したアードン、録画したカメラ、入り口で待つリーを置き去りに一目散に逃げ出したアーユエンの異常を察し、リーは彼を追いかける。
しかし、彼を追ってたどり着いた広間は、いつの間にか八文字の呪文を唱える陳一族で埋め尽くされていた。彼らの身体にはいたるところに謎の経文が浮かび上がっており、母屋からは不気味な笑みを浮かべる老婆が顔を覗かせていた。ついには見えない呪いの恐怖に取りつかれたアーユエンが自殺してしまい、アードンは一族に囲まれ、まるで神仏のような扱いで立ったまま火葬されていた。恐怖とショックでパニックに陥ったリーは、お腹に身ごもった娘共々呪われながらも、カメラ片手に命からがら施設を後にするのであった。
ドゥオドゥオを蝕む呪い
約6年後、娘との二人三脚での生活を始めるべく、養育施設からドゥオドゥオを引き取ったリー。6年前に陳氏の館に立ち入った際、リーはお腹の中にいた娘の真の名も含めて名前を仏母に捧げた。これによる呪いを回避すべく娘はそれまでドゥオドゥオという仮名で過ごしてきたが、リーが引き取る際に陳楽瞳(チェン・ラートン)という真の名前を伝えたことで、ドゥオドゥオに呪いが発現してしまう。
リーは念願であったドゥオドゥオとの2人での生活を始めるが、娘の呪いの影響で数々の怪奇現象に見舞われることになる。最初のうちは、突然電気が落ちたり、家の中の物が勝手に移動するといった軽度の現象であった。しかし、徐々に怪奇現象の内容は深刻さを増していき、ある日の晩にドゥオドゥオはリーには見えない「悪者」が天井を這っていると言い始める。リーが調べても何も発見できなかったが、この日を境にドゥオドゥオは幼稚園で問題行動を起こすようになる。
ドゥオドゥオは、他の園児には見えない「悪者」と独り言のように会話を交わしていたことから、他の園児から敬遠されていた。それがいじめへと発展し、ある日ドゥオドゥオはいじめっこに嚙みついて怪我をさせてしまう。精神科医とドゥオドゥオ、リーとの間で三者面談の機会が設けられる事態にまで発展し、リーは心労を募らせていく。他の園児との間で和解は成立したものの、精神科医はドゥオドゥオの園内での様子を録画して経過観察することになった。ところが、ある日、ドゥオドゥオが独り言を発し始めたことから、ドクターがその先にカメラを向けると、そこにはドゥオドゥオに向かって伸びる無数の青白い手が映し出されていた。
精神科医は、ドゥオドゥオを巡る負の存在について察知し、リーにドゥオドゥオがその「悪者」の存在について語ることにより、周囲の人間が不幸に見舞われているという事情を告げられる。これを受けたリーは、現住所からの引っ越しを決意することになった。事は順調に進むかに思えたが、自宅を訪れた不動産業者との面談でリーが目を離した隙に、ドゥオドゥオは「悪者」に唆されてアパートの屋上へと足を運んでしまう。リーは屋上階に向かう一室を仏間とし、そこに6年前に禁断の地下道を撮影したビデオカメラを封印していた。しかし、ドゥオドゥオは「悪者」に言われるがままに仏間を開錠し、呪いのビデオカメラに収められた禁断の地下道の映像を見てしまう。リーがドゥオドゥオを発見した時にはすでに遅く、娘は知るはずのない「火佛修一心薩嘸哞」の呪文を仏壇に向かってひとりでに唱え、呪いの影響で半身不随の状態となっていた。
道士(霊媒師)の下へ
ドゥオドゥオは緊急入院となり、この事故がきっかけでリーによる娘の一時預かりの話は反故になってしまう。また、裁判所が親権停止の審判を下したことにより、リーの親権は剥奪され、裁判所の職員がドゥオドゥオを保護しに来ていた。一方で、リーは病院で治療を施したところで娘の症状は改善しないと確信していた。そこで、リーは解決策となる呪われたビデオカメラを片手に、養父であるミンの助けも借りながら、役員の隙をついてドゥオドゥオを道士の下へ連れていくことになった。
道士に助けを求めるリーら3人に、道士は「やはり来たか」と語り掛ける。事情を既に察知していた道士から、ドゥオドゥオに7日後に儀式を行うが、その間食事をさせてはならないという警告を受ける。食事をさせれば、道士たち自身の命が危ないのだという。しかし、突然の高熱にうなされる娘を見かねたリーは、薬を投与するため、7日を待たずにドゥオドゥオに点滴を施してしまう。
一方、ミンは呪われたビデオカメラに呪いを解くカギがあるのではないかと独自の調査を続けていた。ミンは、ビデオカメラの映像に映し出された陳一族の祈りの所作、禁断の地下道の最奥部にあった絵画、奇怪な八文字の呪文「火佛修一心薩嘸哞」の意味を考古学者の力も借りながら解析していく。しかし、禁断の地下道は、映像であっても見るものに災厄をもたらすもので、ミンは次第に呪われていく。自分の死期が近いことを察したミンは、経文に詳しい僧侶の下へ足を運んで八文字の呪文の意味を尋ねる。調査した内容を動画でリーに送信したミンは、「何かあったらすまない」とリー母娘の行く末を案じた後、アードンと同じように頭を何度も打ち付けて自殺してしまった。
衝撃の映像を緊急病棟の待合室で眺めた後、茫然自失とするリー。そんな彼女を横目に、ドゥオドゥオは「悪者」を追いかけて病院を抜け出してしまう。翌日、病院の正門前で倒れていたところを発見されたドゥオドゥオの身体には、びっしりと謎の経文が浮かび上がり、手足には呪いの痕跡として蓮コラのような無数の穴が開いていた。
娘を救うべく、7日を待たずして再び道士の下を娘と共に訪れるリー。しかし、リーが警告を無視した事から、道士は既に死んでしまっていた。真っ暗な礼拝堂に横たわる道士の死体、ひとりでに一斉にリーらの方を向く神仏像の数々、リーらに背を向けたまま不気味に佇む道士の助手兼妻、といった恐ろしい光景に、リー母娘は固まってしまう。
リーらは、道士の妻から、リーが娘に警告を無視して食事をさせたことが分かったこと、宗教施設でリーが仏母に名前を捧げた際、ドゥオドゥオの真の名も同時に捧げたことで呪いが発現したことを突き止めたことを明かされる。その後応答しなくなった彼女の方に明かりを向けると、突如として彼女は発狂し、死亡してしまった。リーらは彼女に突進され、意識を失ってしまう。
呪文の意味と露見するリーの陰謀
場面はリーの現在の状況へと切り替わる。事の経緯を説明し終えたリーは、再び禁断の地下道へと足を運んでいた。彼女の身体にはいたるところに謎の経文が書かれている。そして、彼女はおそらく巫女の髪、歯、耳と思われる供物を最奥部の仏母に捧げる。そうすると、リーの手足にはみるみるうちに呪いの痕跡である無数の穴が広がっていき、呪われていく。このタイミングで、リーは撮影しているライブ配信の視聴者に向かって、一緒に「火佛修一心薩嘸哞」と仏母に祈りを捧げてくれるように懇願する。そして一度祈りを終えた彼女は、この奇怪な呪文の真の意味を僧侶が語る様子を収めた録画を配信する。
それは、ミンが死の直前にリーに送信したものだ。僧侶によると、6年前の儀式で祀られていたのは苦悩と苦痛を司る邪神であるという。さらに、「火佛修一心薩嘸哞」の呪文の意味は、実は「禍福相倚 死生有名」という邪神への祈りの文言がなまったものであり、その呪文を多くの人が唱えれば唱えるほど呪いは希釈化され、祈る人が守られるという事実も語られていた。
この動画を流し終えた後、リーは嘘をついていたことを視聴者に謝罪する。つまり、受けた呪いは終わらせることができず、リーは八文字の呪文が祈りの言葉だと視聴者を騙して、これを唱えた視聴者にも等しく呪いが掛かるよう仕向けていたのだ。そして、それは全て娘の呪いを希釈化するために画策したものであることを告白する。ここまで手の内を明かした彼女は、最後に娘の幸福を祈り、呪われて頭を打ち付けながら、短い生涯を終えるのであった。
場面は切り替わり、母の死と引換えに、呪いの影響が弱まり元気になったドゥオドゥオの様子が映し出され、物語は幕を閉じる。
『呪詛』の登場人物・キャラクター
リー・ルォナン(演:ツァイ・ガンイエン)
物語の語り手であり、ドゥオドゥオの母親。視聴者に語り掛けながら、娘の呪いの効果を希釈化するために、呪いの効果を視聴者にも広めようと命を賭しているのだという衝撃の目的を最後に告げる。彼女自身も、供物を仏母に捧げ、娘のために呪われて頭を打ち付けながら非業の死を遂げる。
シエ・チーミン(演:ガオ・インシュエン)
ドゥオドゥオが呪いの影響で半身不随となったことから、リーに対する親権停止の審判の申立てを裁判所になした張本人。ドゥオドゥオを呪いから救うべく、リーから受け取った呪われたビデオカメラに収められた宗教施設と呪文の真相を突き止めるべく奔走する。経文に詳しい和尚の下をリーと共に訪れて真相を突き止めるも、呪いの影響で頭をPCに叩きつけて死んでしまう。
ドゥオドゥオ(演:ホアン・シンティン)
リーとアードンとの間にできたリーの一人娘。6歳まで託児所に預けられ、仮名で過ごしてきた。というのも、リーが宗教施設に訪れた際に、お腹の中にいた状態で仏母に名前を預けられていたためである。しかし、禁忌が破られた6年後にリーに引き取られた際、ドゥオドゥオという本当の名前を教えられたことで、呪いが発現してしまう。リーが目を離した隙に、操られるかのようにアパート屋上にある封じられた仏間へと足を運び、誰に教えられるでもなく「火佛修一心薩嘸哞」を唱えたことで、呪いの効果がさらに強まって半身不随となる。腕や足には呪いの痕跡たる無数の穴が広がり、夜間に搬送先のICUから独りでに抜け出した彼女の体にはいたるところに謎の経文が浮かび上がっていた。呪いからドゥオドゥオを救うべく、リーは命を賭して一人禁断の地下道へと足を運ぶ。
アードン(演:ショーン・リン)
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目次 - Contents
- 『呪詛』の概要
- 『呪詛』のあらすじ・ストーリー
- ドゥオドゥオを蝕む呪い
- 道士(霊媒師)の下へ
- 呪文の意味と露見するリーの陰謀
- 『呪詛』の登場人物・キャラクター
- リー・ルォナン(演:ツァイ・ガンイエン)
- シエ・チーミン(演:ガオ・インシュエン)
- ドゥオドゥオ(演:ホアン・シンティン)
- アードン(演:ショーン・リン)
- アーユエン(演:阿Q)
- 『呪詛』の用語
- 火佛修一心薩嘸哞
- 超常現象調査隊
- 大黒仏母
- 『呪詛』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- リー「祈りの持つ力を信じますか?」
- 大黒仏母に名前を捧げる調査隊
- リー「ごめんなさい、嘘をついた。」
- 『呪詛』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- リーによる呪いの希釈化の実験
- アードンとアーユエンの生い立ち
- 題材となった事件の結末