火の鳥(手塚治虫)のネタバレ解説・考察まとめ

『火の鳥』とは漫画界の巨匠、手塚治虫の描く漫画作品。その血を飲むと永遠の命が得られる伝説の鳥である「火の鳥」。この伝説の鳥を巡り、古代から未来へ、未来から古代へ。またミクロからマクロへ、マクロからミクロへと想像を絶するスケールで世界が流転する。文明の進化と衰退、科学の罪、生命進化、人間の心と、「火の鳥」を狂言回しに、あらゆる要素を紡ぎ、手塚治虫が読者へ送る「究極の物語」だ。

場所:古代エジプト・ギリシャ・ローマ
時間:紀元前

火の鳥の血を飲んで3千年の命を持った王子クラブと奴隷の娘ダイアが、死亡して繰り返し別の時代に生き返る、『火の鳥』の外伝的な作品。

大地編(構想のみ)

構想のみで描かれていない。日中戦争を描く予定で、西暦1938年の上海が舞台だった。

再生編(構想のみ)

『火の鳥』の作中に鉄腕アトムを登場させる構想。
具体的な構想は存在せず、ロボットが故に不死であるアトムの魂が火の鳥に救われるのではないか、という着想である。

第13作 完結編 現代編(構想のみ)

場所:日本
時間:現代
『火の鳥』の最終編。
『火の鳥』は過去と未来を交互に描き続け、最終的に現代に着地するという構想で進められていた。
手塚治虫は「現代」の定義を「自分の体から魂が離れる時」としていた。魂が体から離れた時に「現代編」を書くときだと語っている。

現代編では永久の罰が刻まれた猿田が救済され、「鉄腕アトム」のお茶の水博士、または手塚治虫本人が登場予定だったと言われている。

『火の鳥』の物語構造

上記のように、『火の鳥』は過去、未来と描かれており、手塚プロダクションの公式な長編12作の順番は以下の通り。

1『黎明編』→2『未来編』→3『ヤマト編』→4『宇宙編』→5『鳳凰編』→6『復活編』→7『羽衣編』→8『望郷編』→9『乱世編』→10『生命編』→11『異形編』→12『太陽編』
過去(黎明編)からスタートし、未来(未来編)と過去と未来を交互に描き、12の太陽編は作中で過去と未来が交互に描かれている。手塚治虫の構想上、最終編として描かれる予定だった13『現代編』がある。

これを時間軸で並べると、火の鳥を狂言回しにし、時間、キャラクターがループする循環構造なことがわかる(未来編の最後で、黎明編の冒頭に繋がるとされる結末になっている)。
【時間軸で配置した『火の鳥』】
過去:1『黎明編』→3『ヤマト編』→5『鳳凰編』→7『羽衣編』→9『乱世編』→11『異形編』→12『太陽編』(過去)

未来:12『太陽編』(未来)→10『生命編』→8『望郷編』→6『復活編』→4『宇宙編』→2『未来編』

13『現代編』(未執筆)

この循環構造で『火の鳥』は時間、また場所を永遠に展開し続けている。人間を超越した視点で必ず火の鳥が登場しており、永遠の生命の象徴=神以上の超存在、宇宙生命として君臨している。
手塚治虫のライフワークである『火の鳥』という「究極の物語」は、着地点である幻の13『現代編』が未執筆で終わり、事実上、永久に続き、果てしない繰り返しをする構造になっている。

『火の鳥』の登場人物・キャラクター

火の鳥(不死鳥、鳳凰、フェニックス、ファイアバード、火焔鳥)

CV:竹下景子
登場作:全編

超次元から人類と地球の歴史を見守り続ける不老不死の鳥で、「永遠の生命」の象徴。
その血を飲んだ者も永遠の命を得るため、多くの人間が火の鳥の血を巡り争う。人間からは、不死鳥、鳳凰、フェニックス、火焔鳥などとも呼ばれる。分身、未来予知など超能力を持っている。百年に一度、自らを火で焼いて再生し、復活を繰り返し生きる。鳥の姿だが、宇宙生命=コスモゾーンで構成されており、人知を超えた存在である。

『火の鳥』は手塚治虫が自らのライフワークと決めた作品で、作中の火の鳥はストラビンスキーの『バレエ 火の鳥』からインスピレーションを受けている。
『ジャングル大帝』完結後、次作に悩んでいた時期に、ストラビンスキーの『バレエ 火の鳥』を視聴し、その情熱的で優雅で神秘的な姿から『火の鳥』の着想を得た。

猿田(猿田彦、猿田博士、我王、鞍馬天狗、おやじ、八儀家正)

CV:小村哲生、小村哲生、堀勝之祐
登場作:黎明編から未来編まで

『火の鳥』の物語のレギュラーキャラクター。黎明編から未来編まで輪廻転生を繰り返し幅広く登場する。
猿田(=猿田のDNAをもつ一族)は火の鳥の呪いで永遠に宇宙をさまよい、みたされない転生を繰り返す運命にある。

外見上の特徴として異様に大きな鼻があり、全ての原因は宇宙編での罪にあり、火の鳥による呪いの「子子孫孫まで罪の刻印」である。この鼻などにより猿田は酷い目にあい、時代により、戦士として暴れたり、博士として知を追求したり、女性に恋愛をしたり、仏師として芸術を追求したりするが全て失敗する。
猿田姓を名のる事が多く、人間の宿命や業を鋭く突き、孤独な生涯を送るパターンが極めて多い。
鳳凰編の我王だけは、壮絶で過酷な人生前半だったが、数百年を生き延び、晩年には乱世編に鞍馬天狗悟りを開いて安らかな死を迎えている。

実は『鉄腕アトム』のお茶の水博士は猿田の親族で、雑誌連載版の太陽編では、お茶の水博士が猿田の親族として登場している。
また、鳳凰編で我王=猿田が、良弁和尚と対峙するシーンで、我王=猿田=手塚治虫本人と示唆される場面がある(指差す良弁の影=良弁であるのに対し、驚く我王の影=メガネをかけた手塚治虫の自画像になっている)。手塚マンガの手塚治虫本人の自画像は、猿田と同じように異様に鼻が大きいなどキャラクターに手塚治虫本人とのゆかりがある。

幻の第13作『火の鳥』の完結編、現代編において、猿田は救済される予定だった。

ナギ

CV:竹内順子
登場作:第1作 黎明編

黎明編の主人公。ナミという姉、または妹がいる。
雑誌『漫画少年』版ではナギは兄、ナミは妹だが、雑誌『COM』版ではナギは弟で、ナミは姉。
『古事記』と『日本書記』の国産みの神、イザナギ神とイザナミ神がモデル。

タケル(初代、川上)

CV:浪川大輔、屋良有作
登場作:第1作 黎明編・第3作 ヤマト編

クマソ一族の長。
黎明編では終盤、初代タケルが、主人公ナギの姉ヒナクと邪馬台国の医師グズリの息子として登場する。
火山噴火で出来たクレーターの中で生まれ、近親相姦の問題と外界への憧れからクレーターの外への脱出を決意。火の鳥の励ましを受けてクレーターの絶壁を登り切り、外界へ旅立つ。のちに妻と協力してクレーターから両親と弟妹を脱出させ、クマソの復興を成し遂げた。

ヤマト編では年老いた初代タケルと、その後継者の長である川上タケルが登場する。
川上タケルは外交と文化に重きを置く人物で、九州の諸部族の連合を組み、ヤマト国に不都合な事実を書いた歴史書の制作をしていた。
また、ヤマト国の侵略も予期しており、諸部族の力で対抗しようとしていた。外交と文化のみならず、武術の達人でもある。
ヤマトから川上タケル暗殺目的でやってきた、ヤマト編の主人公オグナにもその器の大きさに感服し暗殺を思いとどまらせるほどの人物。
初代タケルの葬儀の際、最後まで墓前に残って一人だったところを、女装したオグナに暗殺される。

王子オグナ(ヤマトタケル)

髪の長い人物はタケル。苦悩している人物がオグナである。

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