
『やけっぱちのマリア』とは、手塚治虫作の少年漫画作品および、それを原作としたラジオドラマ。1970年4月から11月にかけて『週刊少年チャンピオン』で連載された。同時期に流行した「エログロナンセンス」路線の一作で、主人公の焼野矢八と対立する不良グループと、そのボスである影のスケ番とが入り乱れた、学園恋愛ドタバタコメディを描いている。青少年への性教育向けの意図がある作品のため、掲載した『週刊少年チャンピオン』が福岡県の児童福祉審議会から有害図書の指定を受けた逸話も有名である。
『やけっぱちのマリア』の概要
『やけっぱちのマリア』とは、手塚治虫作の少年漫画作品および、それを原作としたラジオドラマ。原作コミックは1970年4月から11月にかけて、『週刊少年チャンピオン』で連載された。当時は永井豪が手掛けていた『ハレンチ学園』などを始めとした「エログロナンセンス」というジャンルの作品が流行の兆しを見せており、その流れに乗って、青少年への性教育を意図して描かれたものとなっている。結果的には性表現ブームの過熱や、学園青春漫画における暴力表現などを売り物にした商業主義作品に対し、いくらかの風刺がこめられた作品として世に送り出された。しかしその内容が非常に過激なものであったことから、『やけっぱちのマリア』を掲載したことで『週刊少年チャンピオン』1970年8月23日号が福岡県の児童福祉審議会から有害図書の指定を受けている。
単行本は全2巻で刊行され、後に秋田書店や講談社から発売された手塚治虫全集などにも収録されている。全10回にわたるラジオドラマ化もされており、2012年12月よりNHK-FMの青春アドベンチャーにて放送された。
主人公の焼野矢八(やけの やはち)と対立する不良グループや、そのグループのボスである影のスケ番とが入り乱れ、学園恋愛とハチャメチャなドタバタナンセンスコメディが展開されていくが、ハチャメチャなストーリーの中でも、「ヤケッパチとマリアの青春は、ほろ苦く、どこか懐かしい余韻がある」と評判を呼んでいる。
恋と性欲の間にワンクッションを置いた、友情以上恋愛未満の甘酸っぱい男女の関係を描いており、性教育漫画として描かれた作品ではあるものの、どちらかといえば青春もの作品として扱われている。
『やけっぱちのマリア』のあらすじ・ストーリー
マリアの誕生
暴れん坊の少年・ヤケッパチこと焼野矢八(やけのやはち)は、一匹狼気質の硬派な少年だった。ある日、妙に神妙な顔をして保健室に向かった彼は、先生に「妊娠してるかもしれない」とこぼし始める。
そんなヤケッパチのおかしな言葉はすぐに噂の的になり、彼は帰り道ヤンキーに待ち伏せされ、ボコボコにされる。
その時から、ヤケッパチの体の中に棲む不思議な生き物が少しずつ姿を現し始める。これを具現化しようとした周囲の協力によって、ヤケッパチの父が作ったダッチワイフに生命が憑依するのであった。
かくして、はからずも可愛い女の子を出産してしまったヤケッパチ。その女の子はマリアと名付けられた。性格はヤケッパチそっくりで粗暴だが、それもそのはずで、実はマリアは、ヤケッパチのエクトプラズムだったのだ。
エクトプラズムのマリアは結局ヤケッパチと同じ学校へ通うことになり、教師の秋田先生(あきたせんせい)だけが、この奇妙な現象の唯一の理解者となってくれるのだが、もちろん学校は大混乱に陥る。
その中でも特に、以前からヤケッパチに目をつけていた不良グループ「タテヨコの会」は、マリアの秘密を探り、彼を倒そうと目論む。また、可愛らしいマリアが男子からモテ始めたことに腹を立てた「タテヨコの会」の女ボス、雪杉みどり(ゆきすぎみどり)もマリアを潰すことを決心する。
忍び寄る「タテヨコの会」
ハイキングに出かけるヤケッパチとマリアたち。 秋田先生はそこで二人に男と女について語る。 それがわずらわしくなったヤケッパチはマリアにひどいことを言って突き放してしまい、マリアはへそを曲げてもとのエクトプラズムに戻ってしまう。
中身が出てしまったことでただのダッチワイフとなったマリアの体は川に流されてしまうが、ヤケッパチが何とか救い出したことで事なきを得る。しかし、そのドタバタで瀕死の状態になったヤケッパチが乗った車は、みどりの部下の若松(わかまつ)がアレンジしたもので、捕まったマリアの体は火あぶりにされてしまう。怒ったヤケッパチはひと暴れし、若松ら「タテヨコの会」のメンバーを下すのであった。
「B.Gクラブ」誕生とマリアの結婚
秋田先生は健全な男女交際を教えるための会である「B.Gクラブ」を設立する。しかし、みどりの率いる「タテヨコの会」の圧力がかかり、男の参加者はヤケッパチ一人だった。 それでもクラブの面々は親睦を深めるために合宿へ赴き、海岸でキャンプファイヤーを囲んで過ごしていたが、そこへ不良がやってきた。 ヤケッパチは彼らを追い払うが、すぐ近くにヤケッパチを見つめるみどりの姿があった。
「B.Gクラブ」の決まりで喧嘩は禁止されていたが、父親にどやされたヤケッパチは「タテヨコの会」に挑む。 ぼろぼろになった彼を見て何か思うことがあったのか出かけていったマリアは、「タテヨコの会」との諍いの末に網走の刑務所へ送られてしまった。
刑務所では、死刑を待つ1313号という囚人の下に置かれ結婚式を挙げることになったマリア。その頃、ヤケッパチもマリアを追って網走に来ていたが、1313号の刑を執行するまでマリアを連れ出さないことを約束する。しかし1313号はマリアの体に刺青を入れようとした上に、彼女を連れて脱獄してしまった。
1313号の死とみどりの策略
ヤケッパチは、マリアを1313号から取り返すが、再び彼に追いつかれてしまう。しかしそこに熊が現れ、1313号は自らおとりになり、ヤケッパチに向かってマリアを連れて逃げるよう話す。しばらくしてから1313号の様子を見に戻るヤケッパチだが、彼は熊に腹を食いちぎられたことが致命傷となったのか、既に事切れていた。ヤケッパチは、1313号がマリアを心から愛していたため、自らの身を挺して彼女を守ったのだと悟る。
ようやく網走刑務所から解放されたと思ったのも束の間、マリアは「違法のダッチワイフ」だとして、警察に連れて行かれてしまう。しかしそれはマリアのことが気に入らない雪杉みどりが父親に頼んで仕組んだことだった。
みどりはマリアにヤケッパチと別れるよう迫りながら彼女の背中を裂き、くさやの干物やゴミなどを詰め込んでいく。マリアと再会したヤケッパチが背中のゴミを取り出すが、その最中で野犬の群れに襲われ、マリアはボス犬に埋められてしまう。
マリアとの別れ
みどりがヤケッパチに恋していることを知った若松は、実力でヤケッパチに勝ちたいと対決を挑む。 若松に勝利するヤケッパチを見ていたみどりは、彼を「タテヨコの会」のナンバー2にすると言い始める。
その申し出を断ったヤケッパチに腹を立てたみどりは子分たちをけしかけた。その時、マリアを埋めた犬が現れ、その中からマリアのエクトプラズムが現れる。
ゴミを詰められ、ぼろぼろになった自分のことを忘れて欲しいために、犬に乗り移って自らを埋めたのだと話すマリア。窮地を切り抜けたヤケッパチは、父親にボロボロになったマリアの体を見せ、直すように頼む。しかし、最低でも10万円以上のお金が必要だと言われてしまったことで頓挫してしまう。
マリアはヤケッパチに「自分の体を川に流して忘れて欲しい」と頼む。ヤケッパチは彼女の望みを叶え、二人の奇妙ながらも温かい関係と、冒険に溢れていた毎日は終焉を迎えるのであった。
『やけっぱちのマリア』の登場人物・キャラクター
2012年12月、本作のラジオドラマ版がNHK-FMの「青春アドベンチャー」にて全10回で放送された。
出演:竹内順子/前田希美/平田裕香/佐藤せつじ/梅沢昌代/春海四方/佐藤誓/山﨑千惠子/小杉幸彦/大西多摩恵/金内喜久夫/小林勝也/関輝雄/天野勝弘/村澤寿彦/佐久間哲/嶋田真/白倉裕二/上田桃子/下池沙知
主要人物
焼野 矢八(やけの やはち)

CV:竹内順子(ラジオドラマ版)
本作の主人公で、通称は「ヤケッパチ」。市立第13中学1年生だが、2回落第しているため同級生たちより年上。3歳の時に母親を亡くし、ヒゲオヤジこと父と2人で暮らしてきた。父譲りの粗暴な性格で腕っぷしも強く、学園の喧嘩番長に君臨する一匹狼。気風の良い部分もある少年だが、番長というその立ち位置から、学園を支配する不良たちのグループ「タテヨコの会」と対立している。
ある日「妊娠したかも」と、奇妙なことを言いながら保健室に現れ、実際にエクトプラズムを生み出した。そのエクトプラズムがダッチワイフに憑依して生まれたのがマリアであるため、彼女の生みの親にあたる。その後、マリアと学校生活を共にすることになる。
マリア
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CV:前田希美(ラジオドラマ版)
矢八が産み出したエクトプラズムがダッチワイフに憑依して生まれた存在。最終的に彼にとって母代わりのような存在になっていく。
ヤケッパチの魂から誕生したためか、矢八の気風のいい性格と矢八の母親の仕草を受け継いでいる。ヒゲオヤジとヤケッパチ親子の、喧嘩っ早く粗暴な言動もしっかり受け継がれており、裸でいても恥ずかしがることがない。
物語の最後に、雪杉みどりに暴行を受け、野犬に襲われたことでボロボロになった体を「川に流してほしい」と頼み、さらに「自分のことを忘れてほしい」とヤケッパチに頼んだ。
「タテヨコの会」の関係者
雪杉 みどり(ゆきすぎ みどり)
目次 - Contents
- 『やけっぱちのマリア』の概要
- 『やけっぱちのマリア』のあらすじ・ストーリー
- マリアの誕生
- 忍び寄る「タテヨコの会」
- 「B.Gクラブ」誕生とマリアの結婚
- 1313号の死とみどりの策略
- マリアとの別れ
- 『やけっぱちのマリア』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- 焼野 矢八(やけの やはち)
- マリア
- 「タテヨコの会」の関係者
- 雪杉 みどり(ゆきすぎ みどり)
- 若松(わかまつ)
- その他
- 羽澄 マリ(はずみ マリ)
- 秋田先生(あきたせんせい)
- 1313号(1313ごう)
- 幽霊(ゆうれい)
- ヒゲオヤジ
- 『やけっぱちのマリア』の用語
- エクトプラズム
- ダッチワイフ
- タテヨコの会(タテヨコのかい)
- B.Gクラブ
- 『やけっぱちのマリア』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 矢八「先生…おれ、こどもが生まれそうだ」
- マリア「うん、べつに…地のままだもん」
- 怖すぎる「ライバルヒロイン」のみどり
- 矢八とマリアの別れ
- 『やけっぱちのマリア』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 『やけっぱちのマリア』掲載で有害図書指定された『週刊少年チャンピオン』