火の鳥(手塚治虫)のネタバレ解説・考察まとめ

『火の鳥』とは漫画界の巨匠、手塚治虫の描く漫画作品。その血を飲むと永遠の命が得られる伝説の鳥である「火の鳥」。この伝説の鳥を巡り、古代から未来へ、未来から古代へ。またミクロからマクロへ、マクロからミクロへと想像を絶するスケールで世界が流転する。文明の進化と衰退、科学の罪、生命進化、人間の心と、「火の鳥」を狂言回しに、あらゆる要素を紡ぎ、手塚治虫が読者へ送る「究極の物語」だ。

『火の鳥』の概要

『火の鳥』とは、現代日本のマンガ産業、アニメ産業を築いた巨匠・手塚治虫の描く漫画作品。その手塚治虫が漫画家として活動を始めた初期の頃から晩年まで手がけられており、ライフワークとなったマンガが『火の鳥』である。
『火の鳥』の舞台は日本から、やがては宇宙全体へと移り、時間は太古の昔から超未来までを経由し、「命」をテーマに描かれた連載マンガ。
狂言回し(筋の運びや主題の解説を行う重要な役)として登場するのが、その血を飲むと不死を得られるという、伝説の鳥である火の鳥。
この不死の血を巡り、様々な場所や様々な時間で、人間があがき続ける物語だ。

『火の鳥』のあらすじ・ストーリー

『火の鳥』は伝説の火の鳥を巡り、場所と時間を超越し「永遠の生命」というテーマで描き続けられた物語で、複数の「〜編」によって構成されている。
『火の鳥』の物語は「過去からスタートする物語」と「未来の物語」を交互に描き続け、最終的に現代に到達して完結するという、手塚治虫の壮大な構想に基づいて執筆が進められた。
場所と時間が超越しているため、各「〜編」の順番が決まっていない。そのため、多数の出版社から『火の鳥』が出版されているが、各「〜編」の順番は統一されていない。

しかし、手塚プロダクション公式の「マンガwiki」では、『火の鳥』単行本の長編12作を第1作目〜第12作目と分類して作品順を位置付けている。
ここでは手塚プロダクション公式の順に紹介し、外伝的な編及び幻の最終編13編目を紹介する。

第1作 黎明編(1954, 1967)

場所:日本
時間:2世紀後半から3世紀

『火の鳥』連作の第1作目。黎明編がもっとも古い時代で、日本が建国される場面を描いている。厳密には、雑誌『漫画少年』版と雑誌 『COM』版の2作ある。

『漫画少年』版(1954)

ある村の少年イザナギの父親が重病になる。上空にある「血の星」が沈む前に病が治らなければ、村の掟により父親は村人に食べられてしまう。火の鳥の生き血があれば病が完治すると知ったイザナギは、火の鳥の元に向かい生き血を手に入れる。しかし、帰る頃にはすでに「血の星」は沈み、父親は村人に食べられてしまった。やむを得ず、イザナギは妹のイザナミと火の鳥の血を飲み、不死の身体となる。

豊かな土地を探し移住をする村だったが、船で移動する途中に嵐に遭い、イザナギとイザナミは見知らぬ土地に流れ着いてしまう。不死である2人は原住民から天照大神(あまてらすおおみかみ)と呼ばれ、原住民の長である卑弥呼(ひみこ)と出会う。

しかし、卑弥呼が岩戸に入った場面で、雑誌休刊のために未完で終わった。

『COM』版(1967)

黎明編の主人公・ナギ(画面左下)。

古代の日本列島には、女王ヒミコが統治するヤマタイ国・クマソ・騎馬民族の高天原族(たかあまのはら)の男ニニギなどが、群雄割拠していた。
主人公の少年ナギは、クマソで生活していた。ナギの姉ヒナクは破傷風にかかり、生命の危機にあった。ヒナクの夫ウラジは、火の鳥の生き血を求めて火の山に入るが、火の鳥の炎に焼かれてしまう。

その後、村に漂着した異国の医師グズリの手により、ヒナクは救われる。やがてヒナクとグズリは恋に落ちる。ところが結婚式の夜、グズリの手引きにより上陸した軍によって、村人は殺戮されてしまう。グズリはヤマタイ国のスパイであった。ひとり生き残ったナギも、将軍の猿田により奴隷としてヤマタイ国に連れて行かれる。

女王ヒミコは老いから逃れるため、クマソに存在する火の鳥の生き血を欲して侵略したのだった。クマソを滅ぼしたヤマタイ国だったが、高天原族に滅ぼされてしまう。結局、ヒミコは火の鳥の生き血を飲めなかった。

その後、ニニギの子孫が大和朝廷を開く。ナギはそこで死亡する。

第2作 未来編(1967)

場所:地球全土
時間:3404年

「未来編」は物語の時間軸では最後にあたり、未来の行き止まりと人類の滅亡が描かれる。

西暦3404年、地球は死にかかり地上世界は荒廃し、人類は地下都市で生活していた。人類の文明は衰退し、残った都市はすべて独立した巨大なコンピューターに支配を委ねていた。コンピューターは衰退の一因であるムーピー(自在に変化可能で、テレパシーを通して過去の世界の夢を見させてくれる宇宙生物)を禁止し、殺処分を始める。これに反対した宇宙戦士マサトは、所有するムーピーのタマミを連れて都市を離れ、地上に向かった。

マサトは火の鳥の導きで、生物研究を行っている猿田博士の研究ドームに辿り着く。地下都市ではコンピュータ同士の戦争が勃発し、超水爆によって人類は滅亡してしまう。戦争を予知していた火の鳥は、マサトを不死に変えて生命を復活させる役割を与える。マサトは不死のため死ねず、30億年間苦しみ続ける。

やがて魂の存在となったマサトは、生命の種を海にまいて地球を観察する。そして、火の鳥の内部に取り込まれ、タマミと再会を果たす。

第3作 ヤマト編(1968)

場所:日本
時間:4~5世紀

黎明編で滅亡したクマソだったが、生き残ったタケルは火の鳥の協力もあり、クマソを復興させていた。クマソはタケルの子孫、川上タケルにより栄えていた。
一方、高天原族のニニギの子孫は、ヤマト国を開いていた。ヤマト国の王子オグナは大王の命令で川上タケルの暗殺に向かう。オグナには生き埋めとされる人々を救うために、不死になる火の鳥の生き血を手に入れるという別の目的があった。

クマソに着いたオグナは川上タケルと対話し、その器の大きさに感服したことで暗殺を思いとどまるも、火の鳥の導きにより暗殺を果たす。火の鳥の生き血を布に染み込ませ、ヤマトへ帰還する。

戻ったオグナは殉死の生き埋めを止めるが失敗し、自分も生き埋めにされてしまう。殉死させられる人々が火の鳥の生き血の布を舐めると、生き埋めにされても生きながらえることが出来た。そして、土の中から歌を歌い続けるが、やがて歌は聞こえなくなる。

第4作 宇宙編(1962)

場所:宇宙の流刑星
時間:西暦2577年

『火の鳥』全ての物語の発端で、猿田が火の鳥により永遠の呪いを受け、無限に続くループが始まる。

地球に向かう宇宙船で、5人の宇宙飛行士がコールドスリープ状態で眠っていた。しかし、見張り役の牧村が自殺し、宇宙船は事故に遭ってしまう。目覚めた残りの4人は、救命ボートで脱出するが、死んだはずの牧村が追いかけてくる。脱出ボートは散り散りになり、猿田とナナ、牧村は宇宙の流刑星に不時着する。

火の鳥が現れ、牧村の過去の罪により流刑星に流されたことを知らされる。牧村は永遠にこの星に閉じ込められ、絶対に死ねない罰を受けたことも知る。

火の鳥は無関係の猿田とナナを、地球に返すという。しかし、ナナは牧村に愛情を持っており、流刑星に残ることを決める。ナナに好意を持つ猿田は牧村の殺害を企てるが失敗し、火の鳥に呪いをかけられてしまう。
それは「永遠に子子孫孫まで罪の刻印が刻まれる、子孫は永遠に宇宙をさまよい、みたされない旅を続ける」という苛烈なものだった。

第5作 鳳凰編(1969)

場所:日本
時間:奈良時代

他の編と異なり、主人公が盗賊の我王(猿田)と仏師の茜丸の二人である。

片目片腕の我王(がおう)は、自身の中で渦巻く怒りから暴挙の限りを尽くしていた。些細なことで妻も殺害し、仏師の茜丸(あかねまる)の利き腕も傷つける。
そんな我王だが、命を助けられた良弁上人や病や死に苦しむ人々を見て、怒りの感情を彫刻で表現する。

一方で茜丸は、彫刻で名声を高め、東大寺の大仏建立を任されるまでになる。時の権力者の橘諸兄(たちばなのもろえ)は、大仏殿の鬼瓦の製作を茜丸と我王に競わせることに決める。
結果は我王の勝ちであった。敗れた茜丸は、我王が凶悪な盗賊だったことや自身の腕を傷付けたことを明らかにした。我王は残っていた腕を切り落とされ、都を追放されて山での生活を余儀なくされた。

その後、我王は長く生き残り、悟りを開いて聖人となる。
一方の茜丸は、慢心して堕落する。火の鳥に「もう人間に生まれ変わることはない」と突き放され、ミジンコや亀に生まれ変わる。

第6作 復活編(1970)

場所:地球各地と月
時間:西暦2482~3030年

交通事故で死んだレオナは、ニールセン博士の実験によって生き返る。後遺症によりレオナは、有機物(人間など)が無機物(機械など)に見えるようになってしまう。
ある日、レオナは事務用ロボット・チヒロと出会う。チヒロはロボットだが、レオナには美しい女性に見えた。レオナはチヒロを愛し、ロボットのチヒロにも感情が芽生える。

レオナはチヒロを奪い、逃亡する。しかし、逃亡先で遭難してしまい、臓器売買をする闇商人に捕まってしまう。レオナは闇商人のボスを射殺し、チヒロを連れ航空機で逃亡を図るが、墜落してしまう。闇医者のドク・ウィークデイは、死んだボスの体とレオナの体を融合させて、ボスを復活させようとする。

レオナは遺言として、心はチヒロの電子頭脳と一体化してほしいと言う。ドクは聞き入れて、レオナとチヒロの心を一体化したロボット・ロビタを作成する。

その後、闇商人たちは爆発事故で全滅するがロビタは生き残り、人間に拾われ量産化される。人気商品となったロビタだが、子供が事故死した事件で容疑がかけられてしまう。ロビタは冤罪で、さらに自身が人間であると主張する。しかし、聞き入れられずに、故障したとされて処理される。
この事件を皮切りに量産されたロビタが一斉に、人間であると主張しはじめる。その証明に、ロボットではできない集団自殺を開始する。

第7作 羽衣編(1971)

場所:日本
時間:10世紀

猟師のズクは、美しい布を見つけ売って金を得ようとするが、持ち主のおとぎが現れる。おとぎが天女だと思ったズクは、一緒に住むように頼む。
おとぎは1500年後の未来から来た未来人であり、未来の技術で作られた衣が売られれば、タイムパラドックス(歴史改変)が起きてしまう。そこで、おとぎはズクと暮らし始めることにする。

ある日、都の侍がズクを徴兵にくる。おとぎは衣を与えて徴兵を見逃させる。ズクは衣を取り返しに行くが帰って来ず、おとぎと授かった子供は未来に戻ってしまう。
衣を取り返し帰ってきたズクだったが、おとぎと子どもはいなくなっていた。ズクは1500年後の未来に託すため、衣を地面に埋める。

第8作 望郷編(1971, 1976)

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