昭和天皇物語(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『昭和天皇物語』とは半藤一利の『昭和史』を原作とする、『ビッグコミックオリジナル』2017年9号より連載を開始した能條純一による歴史漫画である。原作以外にも複数の文献資料や当時の新聞などからも補強されている。主人公は昭和天皇である。明治天皇崩御から大東亜戦争前、戦中、戦後という激動の日本を昭和天皇がどのように駆け抜けたのか描かれている。他の重要人物も活々とリアルに描かれており、二十世紀日本の歴史全体の流れや天皇制の在り方など改めて振り返られる内容である。

足立タカ「雑草という名の草はありません。」

第1巻1話に登場する。
皇孫御殿における養育係に任命された足立タカが幼い裕仁に向けて話した言葉である。裕仁がタカと共に敷地内を散策中見たことのない草に遭遇する。それに対し草花が好きな裕仁はタカに「この草は何という?」とタカに尋ねる。するとタカは反射的に「その草は雑草です。」と答える。しかしここでタカは咄嗟に「あ、違います!タカが間違っていました。」と訂正し、続けた言葉が「雑草という名の草はありません。」である。「その草がどのような名か後で調べておきます。」とし、タカは決して誤魔化すことをしなかった。どのような生命にも名前があるとする、どのような生命も大事にし、尊重することを裕仁はここで学ぶとても重要なシーンでもある。この言葉は裕仁の胸に強く刻まれる。

裕仁「竹山!!永遠に永遠にさらばだ…朕は国家なり。」

第2巻9話に登場する。
ミジンコを採取している裕仁の元へ東郷訪ねた時、東郷は“竹山”と彫られた判子を偶然見つける。“竹山”とは裕仁が自ら名付けた仮名であった。級友達が苗字で呼び合う姿に憧れた裕仁は、一時期、自らを“竹山”と名乗っていた。またその仮名を刻んだ判子もまた掘っていた。しかし、杉浦重剛から教育勅語の講義を受け、将来天皇に即位するであろう身分への意識が芽生えたのを気に、御学問所の敷地内に流れる小川に放り捨てていた。東郷はそれを偶然発見する。裕仁はそれを東郷から返してもらう。その頃、欧州では第一次世界大戦が勃発していた。それを憂いてか裕仁は「僕が天皇になる頃には平和かそれとも…」と案じる。更に「ならば人に命を捧げても恥じない天皇になろう」と“竹山”と彫られた判子を再度投げ捨てる。続けて述べた言葉が「竹山!!永遠に永遠にさらばだ…朕は国家なり。」である。裕仁自身が国であるという天皇像が裕仁の中にしっかり刻まれた重要なシーンである。

原敬「御意!!言わせとうございます!!」

第4巻26話に登場する。
裕仁の欧州外遊中に大正天皇である嘉仁の病状は悪化してしまう。嘉仁の病状悪化に伴い、宮中や政界では裕仁の摂政就任により国事を委ねるべきという声が上がり始める。第19代内閣総理大臣である原敬も裕仁の摂政就任を望んでいた。その意を伝えるため皇后節子の元へ謁見した際、原は偶然嘉仁と出くわす。挨拶をする原に嘉仁は「はて、誰だったか。」と原を理解できないでいた。その元へ節子がやってくる。すると原は土下座をして節子へ「天皇陛下のご親署が戴けなければ…国家機能が停止してしまいます!!」とし、改めて裕仁の摂政就任を願い出る。それに対し節子は「私に“わかった”と言わせたいのか?」と改めて問う。この時の原の名言が「御意!!言わせとうございます!!」である。不安定な国際情勢の中、国家機能の停滞をさせるわけにはいかないとする原の意思が最も如実に表れているシーンである。

裕仁「…正直、後悔してる。」

第8巻59話に登場する。
関東軍の謀略により行われた張作霖爆殺事件に陸軍出身で元陸軍大将の第26代内閣総理大臣の田中義一は関与していたはずであった。しかし、その事件について上奏した際には誤魔化し「陸軍の者が関与していればその者を厳罰に処するつもりでございます。」と発言する。その後、田中が事件の調査結果を上奏したのは半年後であった。そこで田中は「…関東軍にも責任があり、軽度の行政処分で済ませたいと存じます…。」と苦し紛れな回答をする。これに対し裕仁は「話が違うではないか。」と激怒する。更に「日本に嘘をつく総理などいらない!!」として結果的に田中内閣を総辞職に追い込む。その日の夜、裕仁が妃の良子にぽつりともらした言葉が「…正直、後悔してる。」である。感情に任せ田中を追い詰めたことと“君臨すれども統治せず”という大原則を破ってしまったことに裕仁は激しく後悔する。「天皇として抱いてはならない言葉を考えていた」という前置きがその事の重大さを物語る。田中はその後急性の狭心症で死去する。その後裕仁は政府の方針に不満があっても決して口を挟むことはなかった。

安藤輝三の部下「早く戦地に行って死にたいと存じます!!」

第8巻62話に登場する。
昭和5年11月14日に行われた陸軍大演習において、陸軍中尉の安藤輝三の部下が安藤に「自分たちはいつ戦地に赴くのか?」と尋ねる。そこで更に言い放った言葉が「早く戦地に行って死にたいと存じます!!」である。昭和恐慌の影響でこの安藤の部下の生家は窮地に追いやられていた。そんな田舎からその部下に届いた手紙には“早く戦地に行って死んでくれ”と記されていた。戦死すると弔慰金が家族に支給されるからであった。その部下は「早く死んで親孝行がしたい。」更に続ける。弔慰金アテに実の息子に死んでくれとねだる父親、当時の異様さを垣間見れるシーンである。

裕仁「これ以上何を、何を朕に望むのか!?」

第9巻72話に登場する。
裕仁の弟である雍仁は満州において満州国を建国するなどの関東軍の暴走にやきもきしていた。雍人は裕仁の元へ直接出向き「裕仁に上奏できる軍人は正確なことを伝えていない」と伝えた上で裕仁による親政を願い出る。この時、裕仁はそんな雍仁の申し出を聞き流すだけであった。後日裕仁は雍仁を直接呼びつけ「今日は私の心の中を明かしたい。」とした上で「私は天皇による親政は望まない。」と断言する。「皇祖皇孫が悲しむ」とする裕仁に雍人は「悲しんでいるのは国民です!」と食い下がる。ここで裕仁が雍人に言い放つ言葉が「これ以上何を、何を朕に望むのか!?」である。この後裕仁は妃の良子に「しかし天皇って大変だ」とこぼす。雍人を突き放すような言葉ではあるものの天皇としての立場を貫くことの過酷さを物語るシーンである。

鈴木貫太郎「陛下!!ご試練でございます…!!…ご試練ですぞ!!」

第10巻76話に登場する。
中国における満州国建国などの陸軍の暴走の影響は日本国にも波及する。昭和7年5月15日、日本軍部による満州国建国を民主主義に反し認めないとする犬養毅が海軍の青年将校に暗殺されるという五・一五事件が起きてしまう。同日この事件を侍従武官である奈良武二から報告を受けた裕仁は動揺を隠せずにいた。「国を守るべき軍人がなぜなんだ!!」とする裕仁はここで初めて侍従長である鈴木貫太郎の前で大粒の涙を見せる。ここで鈴木が裕仁言う言葉が「陛下!!ご試練でございます…!!…ご試練ですぞ」である。裕仁が人前で涙を見せるシーンはここだけである。裕仁の無念さと苦悩を痛烈に伝わるシーンである。

裕仁「福となせ…だな」

第11巻89話に登場する。
昭和11年2月26日陸軍青年将校達により政府高官や軍幹部を襲撃するクーデター未遂事件である二・二六事件が起きてしまう。二・二六事件が起きる前その予兆はあったものの「あいつら、とうとうやってしまった…」と裕仁は半ば放心状態となる。その裕仁に正気を取り戻してもらうため、侍従である甘露寺受長は“災い転じて福となせ”という言葉を伝える。ここで裕仁は正気を取り戻し返す言葉が「福となせ…だな。」である。犬養毅が暗殺された五・一五事件の時は涙を見せた裕仁ではあったが、今回はそのようなことがない、国家を大きく揺るがす事件にも動じない成長を果たした裕仁が窺えるシーンである。

裕仁「などあだ波の、たちさわぐらむ…」

第15巻119話に登場する。
ドイツ軍がポーランドへ侵攻することで第二次世界大戦へ突入する中、裕仁の意に反して日独伊三国同盟が結ばれる。“君臨すれども統治せず”の立場を貫かなければならない裕仁は何も口を挟めずにいた。三国同盟により日本は米国を敵に回してしまう。日本では第代内閣総理大臣である近衛文麿により大政翼賛会が結党される。これにより他の全ての党が解散させられ近衛政権の一党独裁体制が始まる。その後ドイツは独ソ不可侵条約を締結したはずのソ連へ侵攻する。このような中日本は米英との戦闘状況に陥ることもも辞さないとする国策遂行要領案を作成する。昭和16年9月6日対米開戦が決定される第6回御前会議が開かれる。この会議の場で、ここでも裕仁は戦闘回避を望んでいるものの“君臨すれども統治せず”の立場を貫かなければならなかった。ここで裕仁は日露戦争回避を望んだ明治天皇かつが詠み上げた和歌を詠みあげる。本来のその内容は“よもの海みなはらからと思う世になど波風のたちさわぐらむ”というものであった。しかし裕仁はこの“波風”の部分を“あだ波”とアレンジして詠みあげる。そのシーンが「などあだ波の、たちさわぐらむ…」である。裕仁が誰よりも対米開戦回避を望んでいたかが垣間見れる非常に貴重な場面である。

『昭和天皇物語』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

通常よりも大きい文字のサイズ

連載中の雑誌では文字のサイズを大きくしてより読みやすいようにしている。

昭和天皇と香淳皇后の出会いは幼稚園時代

裕仁殿下と香淳皇后の出会いは学習院幼稚園時代ではあるが、二人の仲はこの頃からとても良かった。
当時幼稚園の先生をしていた野口幽香は「このお二人は将来、ご縁組みでも出来そう」と感想を残していた。野口の予感は見事的中した。

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