凶悪(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『凶悪』とは、ノンフィクションベストセラー小説『凶悪 -ある死刑囚の告発-』を元に、2013年に映画化された社会派サスペンス映画である。雑誌記者の藤井(ふじい)は、上司から須藤(すどう)という死刑囚に会うように言われる。須藤は数々の犯罪に手を染めてきていた。そして、須藤と共謀して多くの犯罪を犯し、最後には須藤をだました木村(きむら)という男の話を聞く。藤井は話を聞くうち、家庭を顧みず取材にのめりこんでいく。この映画は、私たちの身の回りのどこにでも存在しうる犯罪をリアルに描く作品となっている。

情状証人

刑事事件の裁判で、被告人の刑が少しでも軽くなるように証言する人のこと。被告人の人となりや生活状況、今後の更生に向けてどのようにサポートしていくのか等について証言する。通常は被告人の家族のうち一人がこの証人になることが多く、他には職場の上司などが選ばれる場合もある。情状証人の選定は、弁護士と被告人などが相談して決める。

『凶悪』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

牛場 百合枝「もっと飲ませてください」

百合枝の言葉に、さらに飲まされる牛場

百合枝が、夫の牛場悟をきっぱりと切り捨てた際のセリフ。牛場が木村のもとに預けられ、牛場は「家に帰りたい」と木村に訴えていた。木村は仕方なく牛場の家族に今後どうするかの確認の電話をする。酒で牛場の身体を壊す計画だったため、「酒飲ましちゃっていいの」と確認する木村に、百合枝は「もっと飲ませてください」ときっぱりと伝えるのだった。この日のうちに牛場は死亡し、家族の元には保険金が入ることになるのだった。

藤井 洋子「私は生きてるんだよ!?」

須藤の告発によって取りつかれたように取材を続ける藤井に対し、藤井の母である和子の介護に疲れた妻・洋子が放ったセリフ。洋子はもともと認知症の和子の介護を自分にだけ押し付ける藤井に憤りを感じていた。それなのに藤井は取材にのめりこみ、家庭の事がないがしろにしていく。そして藤井の「この記事を出せれば、死んでいった人たちの魂が救える」という言葉に、「死んだ人なんてどうでもいい!私は生きてるんだよ!?」と、「今生きている自分に向き合ってほしい」という気持ちをぶつけるのだった。

須藤 純次「藤井さん、神様は俺に言いましたよ。生きて罪を償いなさいって」

須藤を責める藤井に、静かに返答をする須藤

藤井が書いた記事によって木村は逮捕された。しかし次第に須藤は自分が被害者への贖罪の気持ちがあるように見せかけ、裁判で藤井や弁護人を使って周囲の心象を操作するようになった。未決ではあるが死刑囚の須藤は最高裁に上告中で、もしかしたらこの心象操作で最高裁の判決も変わるかもしれない。利用されたとはっきりわかった藤井は「あなたは生きてちゃいけない」と言うが、須藤は「藤井さん、神様は俺に言いましたよ。生きて罪を償いなさいって」と返す。木村に復讐するために藤井を利用し、生きることに執着した、狡猾な男の一言である。

『凶悪』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

木村と須藤の関係性は、リリー・フランキーとピエール瀧の普段の空気感から

木村(左)と須藤(右)

木村役のリリー・フランキーと須藤役のピエール瀧は、この作品の撮影前から約20年来の付き合いだったという。普段から一緒にお酒を飲んだり、2人で後輩に悪ふざけをしたりしており、作品中の「木村と須藤」の空気感はそのプライベートの空気感そのままなのだ。ピエール瀧自身、リリー・フランキーには作品中の先生に対してと同じように「何かあったら相談すれば大丈夫か」といった安心感を持っていると語っていた。対して藤井役の山田孝之はリリー・フランキーとピエール瀧とは初共演で、その距離感が記者と犯罪者といった形でうまく作用している。

「リアリティの追求」と、回想シーンは「生っぽく」

ワンカットで撮影された、クリスマスパーティのシーン

監督の白石和彌は、作品中の回想シーン以外は「どこの地域でも、どの家でも、どこにでもいる」そんな雰囲気の演技をキャストにお願いした。この作品の題材は実際にあった事件のため、あたかもドキュメンタリーを観客にみせているかのように描きたかったという。対して事件の回想シーンは藤井の頭の中でのシーンなので、少し大げさな演技をするように要求した。回想の中でクリスマスのシーンがあるが、このシーンもあえて生っぽさを出すためにワンカットでの撮影にしたという。

わざと「何が善で何が悪なのか」をはっきり描かなかった

藤井に離婚届を渡す洋子

作品の概要だけを捉えると、圧倒的に悪なのは木村と須藤である。対して藤井は雑誌記者というきちんとした職についている。しかし藤井は取材に明け暮れて家庭をかえりみず、自らの家庭を壊している。藤井の家庭の様子を描いているシーンは、作品の中でも非常に暗く重い雰囲気を放っている。木村と須藤はお金の稼ぎ方は別にして、家族や仲間からは慕われる生活を送っている。殺人のシーンでさえ、どこか藤井の家庭よりも明るい雰囲気がある。監督の白石和彌は原作がノンフィクションであり、実際に存在している人々を描いているため、あえて「善と悪」にきっちりと線引きをせずに描いた。そうすることでよりリアリティを追求し、この物語がどこででも起こりうるという、ぞわっとした恐怖を観客に与えるのだ。

『凶悪』の主題歌・挿入歌

挿入曲:安川午朗「ブッ込んじゃおう!」

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