
『やけっぱちのマリア』とは、手塚治虫作の少年漫画作品および、それを原作としたラジオドラマ。1970年4月から11月にかけて『週刊少年チャンピオン』で連載された。同時期に流行した「エログロナンセンス」路線の一作で、主人公の焼野矢八と対立する不良グループと、そのボスである影のスケ番とが入り乱れた、学園恋愛ドタバタコメディを描いている。青少年への性教育向けの意図がある作品のため、掲載した『週刊少年チャンピオン』が福岡県の児童福祉審議会から有害図書の指定を受けた逸話も有名である。
ダッチワイフ
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ヤケッパチの父が作っていた裸の女性の人形で、いわゆる「大人のおもちゃ」の一種である。マリアが取り憑いて学校に通うことになった。
タテヨコの会(タテヨコのかい)
市立第13中学を牛耳る不良グループ。雪杉みどりをトップ、若松をナンバー2に据え、その下に構成員達が存在している。みどりの命令で幾度となくヤケッパチやマリアを襲っており、集団で1人を襲ったり、圧力をかけて「BGクラブ」の男子生徒をヤケッパチ1人になるように手を回して課外活動の妨害も行うなど、その手段はきわめて卑劣である。
B.Gクラブ
秋田先生が設立した、健全な男女交際を教えるという課外活動のためのクラブ。「タテヨコの会」の圧力で男子生徒はヤケッパチ1人となってしまったが、部員たちはそんな妨害にも屈することなく、合宿に行ったりキャンプファイヤーをしたりと、決して仲は悪くない。
『やけっぱちのマリア』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
矢八「先生…おれ、こどもが生まれそうだ」

いつもは粗暴なのにとても神妙な面持ちで保健室へ入った矢八は突如「先生…おれ、こどもが生まれそうだ」と発言し、先生を困らせた。作中の大人たちは彼の精神状態を心配し、職員会議にかけてまで対策を考えてくれているが、彼のこの言葉からこの物語の全てが始まった。
マリア「うん、べつに…地のままだもん」

ヤケッパチの魂から生まれたせいか、ガサツで女らしさがあまり感じられないマリア。
ヤケッパチの魂から生まれたせいか、ガサツで女らしさがあまり感じられないマリア。全裸で外に立っていても、まるで恥ずかしがる素振りを見せずに「うん、別に…地のままだもん」などと言うために、「恥ずかしくないのか?」と指摘したヤケッパチのほうが戸惑ってしまっている。
しかし、どんな時でも「地のままだもん」と堂々と過ごすメンタリティは、人生を渡る上で必要なものかもしれない。
怖すぎる「ライバルヒロイン」のみどり
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恋敵のマリアを捕まえてとんでもない悪行をするみどり
気に入らないヤツは容赦なく排除する、学校一の美少女であるみどり。密かに愛してやまないヤケッパチを落とすために、あの手この手でマリアを消そうとする彼女は、作中屈指の強烈な存在感を放っている。中でも実家の権力を笠に着て警察を動かし「違法のダッチワイフ」として捕らえたマリアにヤケッパチと別れることを迫り、さらに背中を開いてゴミを詰めるシーンは多くの子どもたちを震え上がらせた。
手塚治虫のかわいらしい絵柄であるからこそ、人という生き物が持つ怖さが増すような気もしてくるシーンだ。
矢八とマリアの別れ

「ボロボロの自分を箱に入れて、川に流して忘れてほしい」というマリアの望みを叶えようと決意した矢八。それはすなわち、これまで母親代わりのような存在だったマリアとの別れを意味するのだ。マリアが入った箱に向かって、言葉では「さよなら!マリアのことは忘れねえぜ」とサッパリした別れを告げる矢八は、読者に見えない部分でどんな顔をしているのだろうか。
どこかシュールで日常めいた絵面なのだが、それが妙にリアリティをかもし出していて胸を締め付ける。
『やけっぱちのマリア』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
『やけっぱちのマリア』掲載で有害図書指定された『週刊少年チャンピオン』
「マンガは悪書である」と決めつけられて敬遠されていた時代が過ぎ、1960年代末から1970年代にかけてマンガの社会的に認知が進むさなか、当時の作家たちはこれまで「タブー」とされてきた表現の波に乗り、こぞって過激な性描写や、暴力シーンを押し出し始めた。そこに乗り、一大センセーションを巻き起こしたのが永井豪が手掛ける『ハレンチ学園』だ。この作品を巡って子供たちの間に衝撃が走ったことを機会とし、堰を切ったように漫画における性や暴力の表現は加速していった。
そうしたタブーと常に戦い続けてきた漫画家のひとりである手塚治虫は「今まで自分が守ってきた表現は一体なんだったのか」というやりきれない思いを抱えていた。彼はそこで青少年への性教育を目的とし、本作『やけっぱちのマリア』を描き始める。
しかし結果的に「エロ・グロ・ナンセンス」という当時の流行に対する過熱ぶりや、学園青春漫画における暴力表現などに風刺がこめられた本作の内容は非常に過激とされ、『やけっぱちのマリア』を掲載した『週刊少年チャンピオン』の1970年8月23日号が福岡県の児童福祉審議会から有害図書の指定を受けるに至った。
作品において「表現の自由」が高らかに叫ばれている現代であるからこそ、自由というものを今一度考える必要があることを身につまされる。
目次 - Contents
- 『やけっぱちのマリア』の概要
- 『やけっぱちのマリア』のあらすじ・ストーリー
- マリアの誕生
- 忍び寄る「タテヨコの会」
- 「B.Gクラブ」誕生とマリアの結婚
- 1313号の死とみどりの策略
- マリアとの別れ
- 『やけっぱちのマリア』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- 焼野 矢八(やけの やはち)
- マリア
- 「タテヨコの会」の関係者
- 雪杉 みどり(ゆきすぎ みどり)
- 若松(わかまつ)
- その他
- 羽澄 マリ(はずみ マリ)
- 秋田先生(あきたせんせい)
- 1313号(1313ごう)
- 幽霊(ゆうれい)
- ヒゲオヤジ
- 『やけっぱちのマリア』の用語
- エクトプラズム
- ダッチワイフ
- タテヨコの会(タテヨコのかい)
- B.Gクラブ
- 『やけっぱちのマリア』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 矢八「先生…おれ、こどもが生まれそうだ」
- マリア「うん、べつに…地のままだもん」
- 怖すぎる「ライバルヒロイン」のみどり
- 矢八とマリアの別れ
- 『やけっぱちのマリア』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 『やけっぱちのマリア』掲載で有害図書指定された『週刊少年チャンピオン』