運び屋（映画）のネタバレ解説・考察まとめ

『運び屋』の概要

『運び屋』（原題：The Mule）とは、2018年12月14日公開のクリント・イーストウッドによるアメリカ合衆国のクライム映画。
日本では2019年3月8日に公開され、8億3000万円の興行収入を記録した。

監督を務めたクリント・イーストウッドは本作で主演もしており、麻薬を運ぶことになった主人公のアール・ストーンを演じている。イーストウッドは1930年5月31日生まれのアメリカ合衆国出身で、映画監督の傍ら俳優としても活躍。これまで数々の映画作品を世に生みだし、ハリウッドで活動してきた。
主な出演作品には『許されざる者』（1992年）、『アメリカン・スナイパー』（2014年）、『ハドソン川の奇跡』（2016年）などがある。『許されざる者』は第65回アカデミー賞で作品賞・監督賞を受賞。『アメリカン・スナイパー』では第87回アカデミー賞で作品賞にノミネートされた。

主人公のアール・ストーンは家族を蔑ろにして園芸家の仕事を続け、孤独で金もない90歳の老人になっていた。孫娘であるジニーの結婚前祝いパーティーに行くも、妻のメアリーや娘のアイリスたちから煙たがられてしまう。そんなある時、アールは荷物を乗せて車を走らせるだけで高額報酬が貰えるという怪しげな仕事を引き受ける。しかし、その仕事の正体はメキシコの麻薬カルテルの運び屋だった。アールはその後も高額報酬に釣られて2回目、3回目と運び屋の仕事を続けていく。
家庭を顧みない生き方をしてきた老人の人生を描いており、家族との関係を再構築しようとするアールが見所の作品。

『運び屋』のあらすじ・ストーリー

高額報酬の仕事

豊かな農園を持つ園芸家のアール・ストーンは、デイリリーを栽培していた。そして2005年のデイリリー品評会で見事賞を受賞し、バーで祝いの酒を飲む。

同じ頃、アールの娘・アイリスの結婚式が行われようとしていた。だがアールは家庭より仕事を優先するあまり、アイリスの元には向かわず結婚式を欠席する。今までもアイリスの誕生日や記念日などにも駆けつけなかった過去があるため、妻のメアリーは「アールには期待しない方がいい」とアイリスに言う。しかしアイリスは父が来てくれるかもしれないという希望を抱いていたため、アールの行動に傷ついていた。

それから12年の時が経った。花はインターネット通販が主流になり、時代に追いつけなかったアールは自身の農園を売り払うことになってしまう。そして農園を廃業したアールは、孫娘であるジニーの結婚前祝いパーティーにやってきた。当然、アイリスたちからは歓迎されず、アールは居心地の悪さを感じる。やがて居たたまれなくなってパーティーを抜け出すと、アールの様子を見ていた1人の男性が話しかけてきた。男性はアールが無事故・無違反の優秀ドライバーであることを知ると、「長距離ドライブで高額報酬が貰える仕事をやらないか」とアールに仕事を持ちかける。続けて男性は「知り合いが安全運転のドライバーを探しているんだ」と言って、仕事の詳細が書いてあるメモをアールに渡した。

1回目の運び屋

運び屋の仕事を紹介してもらったアールは、メモの通りにテキサス州エルパソのタイヤ店を訪れる。そしてタイヤ店の倉庫に入ると、屈強な男たちがアールを出迎えた。彼らは荷物をモーテルまで運ぶことをアールに指示する。その後アールは絶対に荷物の中身は見ないという約束を男たちと交わし、テキサス州からイリノイ州まで車を走らせた。

数時間後、アールは目的のモーテルまで辿り着く。駐車場で車を降りて一時間後に戻ってくると、アールは車内のグローブボックスの中に大金が入っているのを確認した。アールが札束に驚いていると男が現われて、「また一稼ぎしたくなったらここに連絡しろ」と言ってメモを渡す。アールは「1回きりで十分だ」と断ったものの、男は強引にメモを押し付けて去って行った。

一方、麻薬捜査官のコリン・ベイツは主任特別捜査官から「1人でも多くワルを捕まえるんだ」と、結果を出すように言われる。コリンは助手のトレビノ捜査官と共に麻薬組織の捜査を開始した。

運び屋を繰り返すアール・ストーン

アールは手に入れた大金を孫のジニーの結婚前祝いパーティーに使った。そのパーティーでアールは妻のメアリーに話しかけ、「昔のように仲良くなれないか」と言う。だがメアリーは首を縦に振らず、「なぜデイリリーに時間とお金を注ぎ込んだの？」と聞いた。アールが「情熱を注ぐ価値があるんだ」と返すと、メアリーは「家族だって同じよ」と嘆くのだった。

後日、自分の農園を取り戻したくなったアールは再び運び屋の仕事を引き受ける。アールは新品の車で荷物を運んで2度目の大金を手にし、農園を取り戻した。
その後アールが馴染みの退役軍人クラブを訪れると、クラブが火事によってしばらく休業することを知る。そこで建て替えのお金を工面すれば営業を再開できると考えたアールは、3度目の運び屋の仕事を始めた。だが、今までとは異なる大きさの荷物が気になったアールは停車してついに荷物の中身を見てしまう。そこには大量の麻薬が入っているのだった。
「これはやばい」と焦るアールの元に、タイミング悪く警察犬を連れた保安官がやって来る。バレないようにと考えたアールは咄嗟に消炎剤を警察犬に近づけて麻薬の匂いを誤魔化した。そしてなんとかその場をやり過ごすと、再び車を走らせて荷物を運びきる。こうしてアールの手にした大金は退役軍人クラブの修繕費に充てられ、クラブは無事に営業再開に至った。営業再開パーティーでクラブの常連客たちからアールは感謝されることになる。

エル・タタ

運び屋の仕事にもすっかり慣れ、アールはその仕事ぶりからメキシコ麻薬カルテルのボス・ラトンに「エル・タタ」という名前を付けられて気に入られる。そして次の運び屋の仕事でさらに大量の麻薬を運ぶことになり、ラトンの指示でアールはメキシコ麻薬カルテルのメンバーであるフリオとサルと共に行動をすることになった。
アールは麻薬を運ぶ道中、タイヤのパンクで立ち往生している家族を手伝ったり、レストランに立ち寄ってポークサンドをフリオとサルにご馳走したりと、自由な行動を見せる。そのためフリオからは「寄り道するな」と注意された。

こうして大金を稼いだアールは、孫のジニーが学費に困っていることを知るとジニーの学費を負担した。そしてジニーの卒業式に出席し、妻のメアリーと孫の卒業を祝うことができた。

その頃、DEA麻薬取締局ではルイス・ロカというメキシコ麻薬カルテルに属しているメンバーから身の安全と引き換えに組織の情報を提供してもらっていた。そしてルイスの情報と捜査から、「エル・タタ」という人物が大量の麻薬を運んでいるとの情報を掴む。

家族との和解

アールはいつものように運び屋をしている途中、カフェに立ち寄って休憩を始めるとそこにコリン捜査官がやってきた。2人はお互いの素性を知らないまま会話を交わすと、コリン捜査官が妻の記念日を忘れてしまったことをアールに話し始めた。それを聞いたアールは「家族は蔑ろにするべきじゃない」と、自身の実体験からアドバイスを返した。

一方、メキシコ麻薬カルテルの幹部であるグスタボは仕事中に寄り道ばかりするアールを許容しているボスのラトンのことが許せず、ラトンを射殺する。ラトンが倒されたことで実質的にグスタボがボスとなり、アールを始めとする他のメンバーは時間厳守での仕事を強いられた。

後日、アールが慣れた手つきで運び屋の仕事をしていると、ジニーからの電話でメアリーが病院に運ばれたことを知る。一度は「仕事で行けない」と見舞いを断ったものの、心配になったアールは仕事を中断してメアリーの元へとやってきた。だが、メアリーは既に手の施しようがなく、自宅で死を待つのみとのことだった。アールは「家での俺は役立たずだった」とメアリーに対して反省の言葉を口にする。するとメアリーは「不思議だけどあなたがここにいてくれて嬉しい」と返した。そして「どうやって大金を手に入れているの？」とメアリーが尋ねてきたので、アールは「運び屋の仕事をしている」と真実を話す。メアリーはそれを冗談だと受け取ったようで、「教えてくれないのね」と笑った。さらに「そばにいるのに、お金なんていらない」とアールに言うのだった。

その後、アールは娘のアイリスに「今まで最低な父親だった」と心からの謝罪をする。するとアイリスは「そんなことない、遅咲きなだけ」と笑って許してくれた。

逮捕

アールがメアリーの看病を続けてから数日後、メアリーは亡くなった。葬儀が執り行われ、式場はアールの栽培したデイリリーの花で埋め尽くされる。その帰り道、アールはメキシコ麻薬カルテルのメンバーに見つかってしまう。メンバーはグスタボの指示でアールを射殺しようとするが、アールが葬儀帰りだということを知ってためらった。さらに優秀な運び屋であることも幸いし、アールは殺されることなく運び屋の仕事を再開する。
しかし、この様子を盗聴していたコリン捜査官たちは「エル・タタ」が55号線を走っていることを突き止めた。ついに、アールはコリン捜査官によって逮捕される。アールは「今日、あんたに逮捕されてよかった。家族と過ごせたから」と言い残し、連行された。

やがて裁判が始まり、アールは全面的に罪を認めた。そしてアールは刑務所に行くことが決まり、アイリスとジニーは涙ぐむ。そんな2人にアールは「なんでも買えるのに、時間だけは買えなかった」と呟いた。
その数日後、アールは刑務所の花壇で汗を流して花を植える。花壇には美しいデイリリーの花が咲き乱れているのだった。

『運び屋』の登場人物・キャラクター

主要キャラクター

アール・ストーン（演：クリント・イーストウッド）

日本語吹替：多田野曜平（ソフト版）／伊武雅刀（BSテレ東版）
本作の主人公で、デイリリーを栽培していた園芸家。家庭より仕事を優先するタイプだったため、妻や娘からは嫌われていた。やがてインターネットで花の販売が主流になったが、時代について行けず農園を売り払うことになってしまう。孫であるジニーの結婚前祝いパーティーで話しかけてきた男性から仕事を紹介され、運び屋の仕事を始めた。妻のメアリーが病気になってから自身の行いを反省し、娘のアイリスとも和解した。その後、コリン・ベイツ捜査官によって逮捕される。

コリン・ベイツ（演：ブラッドリー・クーパー）

日本語吹替：桐本拓哉（ソフト版）／田村真（BSテレ東版）
麻薬取締局の捜査官。優秀なためDEA麻薬取締局に配属され、麻薬組織を摘発するために助手のトレビノ捜査官と共に捜査を開始する。その中で、「エル・タタ」という麻薬の運び屋の情報を掴んだ。カフェでアール・ストーンと偶然出会い、会話を交わした。そこで仕事に集中するあまり妻の記念日を忘れてしまったことをアールに話し、家族を大切にするようにと言われる。その後、「エル・タタ」の正体であるアールを逮捕した。