記憶にございません！（映画）とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『記憶にございません！』の概要

『記憶にございません！』とは、2019年に公開された日本映画。舞台演出を経て、日本を代表するコメディ映画監督となった三谷幸喜の長編映画第8作目。

史上最低の支持率を記録する、身勝手で横暴な総理大臣・黒田啓介（くろだけいすけ）は市民の投石が頭に命中し、記憶を失くしてしまう。金と権力に目がなく「史上最悪のダメ総理」が一夜にして純朴な普通の「おじさん」に変わってしまった。世の中と国政の混乱を避けるため、記憶喪失の事実を隠す、側近の秘書官3名。家族や大臣たちにもこの事実を隠しながら、日々の公務をこなしていくが、次々と記憶にない出来事が繰り広げられる。自らの不倫と妻の不倫、米国首脳来日、政界のライバル、マスコミからのゆすり。そして、黒田は周囲の人間全員を巻き込んで自らの夢と理想を取り戻す一発逆転のドラマが始まる。

首相の記憶喪失で引き起こされる、周囲の官僚、家族、そして日本国全体を巻き込んだドタバタ喜劇となっている。中井貴一や石田さゆりなど、実力派俳優陣のコミカルな演技に注目。

『記憶にございません！』のあらすじ・ストーリー

記憶喪失になった史上最悪のダメ総理

ある夜、黒田啓介（くろだけいすけ）は頭に包帯を巻き、体に管が繋がれた状態で、病院のベッドの上で目を覚ました。病室の前にはスーツ姿の男達。困惑しパジャマのまま病院を脱走するが、行く先々で人びとに注目をされてしまう。入った食堂でテレビに映る自分そっくりな首相が市民から投げられた石によって負傷したというニュースが流れており「おかしい」と思う。警官に助けを求めるが冷たくあしらわれる始末。街中を逃げ回るがやがてスーツ姿の男達に連行された先は首相官邸。記憶を失くしたのは「史上最悪のダメ総理」 と呼ばれる総理大臣がやはり自分だったと気づくのであった。
国会中継の録画映像に写し出された、野党議員に暴言を吐く横暴な自分の姿を秘書官に見せられ愕然とする。今の黒田とは別人格。首相の記憶喪失という世間を揺るがしかねないこの大問題は、本人と首相秘書官・井坂（いさか）、事務秘書官・番場のぞみ（ばんばのぞみ）だけの秘密とすることにした。

公邸に戻っても妻・黒田聡子（くろださとこ）や一人息子の黒田篤彦（くろだあつひこ）の顔や名前も思い出せず、料理人に抱きついたりする。おかしな行動を取る黒田に、家族は不審の目を向けるが、妻も息子も元々自分を嫌っていて興味がない。また、表面的には黒田を補佐しながらも、権力の座を虎視眈々と狙う官房長官・鶴丸大悟（つるまるだいご）と、ダメ閣僚達の中にいた黒田は、首相の地位を利用して行く先々で特別サービスを受けている始末。妻の聡子には冠テレビ番組を持たせ、国民からの支持率が最低なことも納得のダメ総理ぶり。
更に幼なじみの建設業者から賄賂を受け取り、ありえない無駄な公共事業を無理矢理進めようとしていたことや、国会で黒田の不正を厳しく追及する野党党首の山西あかね（やまにしあかね）とは実は不倫関係にあったこと、更に古郡祐（ふるごおりゆう）と名乗る、ガラの良くないフリーライターには何で脅されているのかわからないまま、ゆすられているらしいことなど、次々と明かされ家族の問題以外にも問題が山積みであることが徐々に知ることになっていくのであった。

立たされている苦しい状況に途方に暮れた黒田だったが、小学校時代の恩師を招き、密かに政治の勉強に一から取り組みはじめ、問題ひとつひとつに誠実に対処していこうとする黒田の姿に、家族以外の周囲の黒田を見る目は少しずつ変わっていった。

問題の解決と取り戻していく理想の政治家像

記憶が戻らず苦しい状況が続く中、アメリカ大統領の来日という大イベントが迫っていた。米国初の日系女性大統領スーザン・ナリカワを迎え入れ、黒田は得意のゴルフや自宅で手料理を振る舞う約束をしていたが、今の黒田にはゴルフのルールもクラブの振り方もわからず料理も全くできない状態。英語もできない始末。何とかこの場を上手く取り繕いたい黒田と井坂や番場達は「何かあったらとりあえず『me too』で！」という、この上なく不安な状態でアメリカ大統領を迎えることとなる。何とかこの問題を切り抜けた黒田達だったが、夕食後の黒田の忖度の無い発言によって大統領は席を蹴って立ち去ってしまう。「アメリカを怒らせた黒田は遂に退任だな」と、密かに喜ぶ鶴丸だったが、帰国直前のアメリカ大統領と首相との共同会見で大統領の口から出たのは、黒田の率直な姿勢はすばらしくこれこそが新たな日米関係を築いていくのだというという感動的なスピーチをしたのだった。日米外交問題をなんとか乗り切った黒田達はフリーライターの古郡に撮らせたスキャンダル写真で鶴丸を辞任に追い込むことにも成功した。

記憶喪失だからこそできた捨て身の訴え

いろいろな問題がクリアされ良い方向に流れ始めたかに見えた矢先に、今度は首相夫人・聡子と秘書官・井坂の不倫現場のスクープ写真が流出したという一報が官邸に入る。夫婦関係が冷えきっていた聡子と、政治家を志しながら叶わず、史上最低と言われる黒田の下で働く鬱憤を晴らしたい井坂は密かに関係を持っていたのが、以前、古郡に撮られていたのだった。
辞表を提出してきた井坂を引き留め「君が必要だ」と言う黒田の言葉に、これからは誠心誠意尽くすことを誓う井坂。その一方で聡子は官邸を抜け出し、姿をくらませようとしていた。聡子を取り戻すために黒田は国会中継で聡子に呼び掛ける。聡子は逃亡中に目にした「君を愛してる！」という夫の心からの訴えに、聡子は夫の元へ戻ることに決めた。
日本中が見守る中で抱き合う2人。依然、支持率は伸び悩んでいるものの、徐々に周りの信頼と妻の愛情、息子からの「お父さんみたいな政治家になりたい」という言葉を得た黒田。
そんな黒田に秘書官の番場が、黒田の小学校時代の作文を読んで聞かせる。そこには自分の性格をなかなか変えられない悩みと、頭に石が当たって記憶喪失にでもなればもっと素直な自分が出せるのにという黒田少年の気持ちが書かれていた。
「もしかして記憶は戻っていたのでは？」と言う番場の問いに、「国家機密だよ」と言う黒田であった。

『記憶にございません！』の登場人物・キャラクター

主人公

黒田啓介（くろだけいすけ／演：中井貴一）

第127代内閣総理大臣。傲慢な態度をとり、国会討論での度重なる暴言や失言などを行った結果、憲政史上最悪となる内閣支持率2.3%を記録していた。そして、演説中に一般人からの投石を受け少年期以降の記憶を失う。

秘書官

井坂（いさか／演： ディーン・フジオカ）

首相秘書官。啓介の記憶喪失を国家最高機密として扱い、記憶を失っている啓介を補佐するが黒田の妻・聡子とは不倫の仲。

番場のぞみ（ばんばのぞみ／演：小池栄子）

事務秘書官。首相秘書官の井坂とともに啓介を支える。

野々宮万作（ののみやまんさく／演：迫田孝也）

秘書官補。井坂、番場とともに、啓介が記憶喪失であることを知りながら、彼を支える。

黒田啓介の周辺人物