平成狸合戦ぽんぽこ(ジブリ映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『平成狸合戦ぽんぽこ』(へいせいたぬきがっせんぽんぽこ/Pom Poko)とは、スタジオジブリが制作したアニメ映画。1994年に公開された。高畑勲が、原作・脚本・監督の3役を務めた映画作品。作中ではナレーションや実写採用されており、それまでのジブリ作品とは異なった赴きがある。スタジオ内の初のCG使用作品でもある。
開発が進む多摩ニュータウンを舞台に、「化け学」を使う狸が、土地開発をする人間に抵抗を試みる物語だ。

『平成狸合戦ほんぽこ』の概要

『平成狸合戦ぽんぽこ』(へいせいたぬきがっせんぽんぽこ)とは、スタジオジブリが制作したアニメ映画。英題では、「Pom Poko」と表記する。1994年7月16日に公開された。スタジオジブリの監督の1人・高畑勲(たかはた いさお)が、原作・脚本・監督の3役を務めた映画作品。それまでスタジオジブリの作品では、宮崎駿(みやざき はやお)以外の監督原作の作品はなかった。作中ではナレーションや実写映像が採用されており、またスタジオ内で初めてCGも使用した。これによりそれまでのジブリ作品とは異なった赴きがある作品に仕上がっている。公開当時の1994年の邦画・配給収入トップ26億円を記録。第49回毎日映画コンクールアニメーション映画賞、アヌシー国際アニメーション映画祭 長編部門グランプリ(1995年)などを様々な賞を受賞した。

舞台は、開発が進む多摩ニュータウン(多摩市)。多摩丘陵(たまきゅうりょう)に住む狸達は、人間による開発で住処を追われていった。しかし狸達は、「化け学(ばけがく)」を用いて人間に抵抗。開発を中止させるために奮闘していく。

『平成狸合戦ほんぽこ』のあらすじ・ストーリー

多摩ニュータウンの開発

開発を目の当たりにする狸たち

時は昭和40年代。高度経済成長期に突入した日本では、各地で自然破壊が深刻を極めていた。その中でも日本経済の中心である東京都では急激な住宅需要があり、昭和42年末に広大なベッドタウンの確保を目的とした「多摩ニュータウン計画」が推進されたのだった。それまで多摩丘陵は人家がまばらに建つ、程よい田舎だった。だが、ニュータウン計画により農地や山林が破壊され、古くからその土地に住み着いていた動物たちは餌場を無くすこととなってしまった。特に人里に一番近いところで暮らしていた狸たちが、この影響を強く受けることとなる。なぜなら狸は、人間が田畑を作ることでやってくるカエルやバッタ、ネズミなどの小動物を捕食したり、柿や桑の実を拾ったりして豊富な餌を得て繁栄していたからだ。そのため開発が進むにつれて、狸たちの間では餌場を巡る小競り合いが激化していた。

追い詰められた狸たち

ぽんぽこ31年秋。

ついに多摩丘陵の狸たちにより、餌場をかけた大規模な合戦が行われた。赤軍の総大将は鷹ヶ森の権太(ごんた)、青軍の総大将は鈴ヶ森の長老である青左衛門(せいざえもん)だ。二人とも総大将らしく、各色の甲冑を身にまとっている。周りにいる狸たちも、足軽などの服をまとい戦っていた。実は狸たちは、人間の見ていないところでは直立二足歩行で生活しており、まるで人間のような文化を築いているのだ。しだいに戦いが激しさを増すと、古狸の一人であるおろく婆(ばばあ)が権太と青左衛門を諫めにやってきた。狸同士で争っている間に、鷹ヶ森の一部が姿を消したというのだ。この惨状を目の当たりにした狸たちは、同族で争っている場合ではないと判断し、今後の身の振り方を話し合うために一族を引き連れて奥山の荒れ寺「万福寺」へ集合した。総会の議長には105歳の古狸、鶴亀和尚(つるかめおしょう)が満場一致で推薦され、話し合いは族長会議へともつれ込んだ。族長たちは人間の開発を妨害するために、すたれていた変化術「化け学(ばけがく)の復興」を図ること、「人間研究」を5年間かけて行うことを決めた。さらに化け学の指南役として、狸にとっての先進国である四国や佐渡から有名な変化狸を招こうという提案があったが、長距離の危険な旅に出たいという者がいなかったため、この案は一旦断念せざるをえなかった。

族長会議ののち、人間研究のために万福寺にはテレビが設置され、ニュースを見ることで狸たちは人間の動向を知ることが出来るようになった。化け学の復興については、おろく婆による実技指導が始まり、古来より狸が行ってきた変化の歴史は鶴亀和尚が座学で教えることになった。古くから化け学に秀でていた狸たちは、人間を化かすことによって畏怖されていた。だが文明開化以降、しだいに人間が力をつけたことにより、狸たちは正体を露見して退治されることが多くなってしまった。そこで祖先の狸たちは人を化かすことをやめ、なりを潜めた。そのため高度な化け学は継承されることなく、すたれてしまうことになってしまったのだという。だが化け学の片鱗はいまだ狸たちの中で息づいていた。狸たちが二足歩行で歩いたり、様々な衣装を着ていたりするのは、まぎれもない「化け学」の技術なのだった。

こうして若狸たちが化け学の練習にいそしんでいる間にもニュータウンの開発は続けられ、ますます山は無くなり、狸たちは生きていくのに十分な食料を確保することも難しくなっていく。そこでおろく婆は全狸たちに身を慎み、子どもを増やさないように通達を出す。おろく婆の指示通りに狸たちは「欲しがりません、勝つまでは」の精神で身を慎み、子どもを作らずに過ごした。そしてしばらく経ち、若狸たちが化け学による変化に慣れてきたころ、おろく婆たちによる「化け学卒業試験」が行われることになった。試験内容は人間に変化した若狸たちが自力で最低1000円を稼いでくる、というものだ。優秀な若い変化狸たちは、日雇いの土木工事員となったり、スナックで働いたりしてそれぞれ試験に合格していった。ただし「人間への変化」は、変化に慣れた古狸でも大量の気力と体力を使うとてもきついもので、若狸たちは変化が解けそうになるたびに市販のドリンク剤を飲んで窮地をしのがなければならなかった。

人間撃退作戦決行

ぽんぽこ32年夏。

開発により鷹ヶ森が完全に姿を消した。これに激怒した権太は、長老たち古狸に訴え「人間撃退作戦」を提案する。化け学を用いて人間を殺し、森から追い出そうという計画だ。おろく婆は若狸たちには経験が足りず、正体を露見する危険性があると計画に反対する。しかしこれを聞いていた正吉(しょうきち)は「権太がやるというのならば自分もやる」と計画に賛同する。幼いころから人間観察が好きで、誰よりも早く人間に変化できた正吉は冷静に物事を判断できるため、おろく婆たち古狸だけではなく周囲から一目置かれていた。正吉の説得により、古狸たちの承認を得て権太は計画を実行に移すことになった。勇士たちは豪雨の中で工事誘導員に化け、重機や資材を乗せたトラックをわざと崖に誘導して落下させたり、倒木に化けて故意に事故を起こさせたりして、人間を妨害していった。

翌日、狸たちは万福寺に設置されたテレビで、昨日自分たちが起こした事故のニュースを見ていた。事故の原因については、豪雨により地盤が緩んでいた為とされたが、死者が出ており、トラックの落下により建設中の住宅一棟が全壊した。この事故をうけて地元住民たちからは開発に不安の声があがったのだという。これを聞いた狸たちは、これで開発が中止となると喜びを爆発させ、宴会を開こうと盛り上がった。全員が権太と正吉を担ぎ上げる中、正吉の幼馴染であるぽん吉が「人間はみんな殺すか追い出してしまうのか」と疑問の声を上げた。まったく変化ができない並狸のぽん吉は、例えば正吉たち変化狸と違ってお金を稼いで食料を買うという方法を選ぶことも出来ない。開発によりますます山林が消え、さらに森の実りが少なくなって食糧不足が深刻な並狸たちは、人間たちが出した残飯を漁って食いつなぐこともしばしばあった。そのため全く人間がいなくなってしまっても困るぽん吉は、変化狸たちに人間を少しは残してほしいと願い出たのだ。故郷を壊された憎しみだけですべての人間を排除しようとしていた権太も、人間の作る料理は大好きだった。そこで権太をはじめとする変化狸たちは、少しは人間も残すことにしようと決め、宴会を始める。歌いながら権太を胴上げし、大喜びする変化狸と並狸たち。だがその時、テレビから「開発は中止されない」という声が聞こえてきた。これを聞いた狸たちは、胴上げしていた権太を放り出し、踏みつけにしてテレビの前に殺到した。この時権太はあわれにも内臓破裂と複雑骨折という大怪我を負ってしまったのだった。

権太発案の「人間撃退作戦」でも止めることが出来なかった開発を止めるべく、狸たちは新たに「ニュータウンの怪作戦」を発案した。これは権太の作戦のあと、地元住民から「祟り」を恐れる声が聞こえてきたために発案された作戦だ。開発にあたりそれまであった地蔵や道祖神を片付けた地元住民たちは、先の事故が神の怒りに触れたのではないかと怯えていた。正吉たちはこの機を逃すまいと「のっぺらぼう」などの妖怪に変化して人間を驚かせて回った。それでも開発は止まることはなく、ニュータウンの怪作戦は人間たちに面白おかしい話題を提供するだけだった。

変化術の禁止

ぽんぽこ32年秋。

自分たちの行動が人間にあまり影響を与えていないことに危機感をつのらせ始めた狸たちは、ついに四国と佐渡へ化け学の指南役として、高名な変化狸を迎えに行くための使者を決めることにした。使者の選出は白熱的なじゃんけんによって行われ、四国への使者は玉三郎(たまさぶろう)が、佐渡への使者は文太(ぶんた)が選ばれた。

二人が旅立った後も、狸たちは人間に対して変化を用いた作戦を止めなかった。それどころか、自分たちに容易に騙される人間たちに気を大きくした狸たちは、次第に化け学を「娯楽」として楽しむようになってしまっていた。正吉はそんな仲間たちを見て、このままではかつてのように正体が露見してしまわないだろうかと不安を抱き始めていた。その不安はあるテレビ特番で現実味を帯びてくることになる。人間たちの間で、この怪奇現象は「狸や狐の仕業ではないか」と噂されるようになったのだ。コメンテーターはそんな馬鹿げたことがあるはずはないし、怪奇現象も見間違いだろうと笑い飛ばすが、おろく婆の警告もあり狸たちはしばらくの間変化術を慎むことにした。

そんなある日、多摩丘陵の狸たちのもとに疲れ果てた一匹の狸が訪ねてきた。客人は林(はやし)という狸で、神奈川県からやってきたと語る。彼の目的は、自分たちの山を荒らす開発残土がどこから運ばれてくるのか突きとめることだった。四国や佐渡からの指南役を待ちわびていた正吉たちは、林が期待の地からやってきたのではないことに肩を落とすが、自分たちが開発を止めることが出来たあかつきには、近県の狸たちも助かるのだと気付いて、士気を高めるのだった。

四国の長老狸が到着

ぽんぽこ33年春。

化け学を慎んでいた狸たちに、再び恋の季節がやってきた。人間を化かすことに「娯楽」を感じていた狸たちは、他にやることもなくなってしまい「欲しがりません、勝つまでは」の精神もすっかり薄れてしまっていた。この春、そこかしこから恋のささやきが聞こえてきて、子狸があっと言う間に増えてしまった。正吉も、恋人のおキヨとの間に4匹の子狸が生まれ、狸たちの食料問題はさらに深刻化してしまうこととなった。

一方、苦労の末に四国の阿波(徳島県)にある金長神社(きんちょうじんじゃ)へ行きついた玉三郎はそのまま病の床に伏していた。しばらくして金長神社の主である変化狸、六代目金長(ろくだいめきんちょう)の娘、小春(こはる)の献身的な看病のもと回復した玉三郎は、四国の長老たちによる会議の結論を待っていた。多摩丘陵の開発を止めることは、全国で同様に行われようとしている開発に歯止めをきかせる重要な楔となると、長老たちの意見はまとまっていたが、どの長老が多摩へ赴くのか、もしその長老に何かあった場合の跡目はどうするのかなど重要な論争が巻き起こり、なかなか候補を絞れずにいた。その間、玉三郎は小春との間に3匹の子狸を授かり、つかの間の幸せを味わっていた。また、佐渡へと旅立った文太はというと、目的の長老の居場所が一向に分からず、方々を彷徨っていたのだった。

それからまた夏が来て、秋が終わろうとしていた。春のベビーラッシュでさらなる食糧問題をかかえることとなった多摩丘陵の狸たちは、ついに食料を町まで調達しに行かねばならなくなった。変化狸たちは化け学を用いて何とか食料を確保できたが、変化できない並狸たちは、交通事故にあったり人間が仕掛けた罠にかかったりして次々と命を落としていた。そこで正吉は変化狸たちによる食料の公平な分配制度を設けてはどうかと、鶴亀和尚やおろく婆へ進言した。だがその時、怪我から回復した権太が「なぜ狸が苦しまなければならないのだ、後から来たのは人間だ。だから人間を殺して追い出せ!」と言い出した。今人間が住んでいる場所はもともと狸の住処だったのだから権太の言い分も当然だ。多摩の狸たちが喧々囂々とするなか、ついに玉三郎が四国の長老を連れて戻ってきた。

玉三郎が連れてきたのは、六代目金長と太三郎禿狸(さんたろうはげだぬき)、隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)という長老狸で、いずれも四国では神社仏閣に祀られる狸たちである。かれらは万福寺までの道すがら、人間によって破壊された山林の様子をつぶさに見て憤りを感じていた。そこで三長老はすぐに多摩丘陵全狸による集会を開き、「妖怪大作戦」を行うと発表する。「妖怪大作戦」とは、変化狸たちが妖怪に化け、ニュータウンで「百鬼夜行」を行うというものだった。変化できない狸たちは、精神力を変化狸たちに送りサポートする。この作戦で行う変化はただの変化ではなく、大規模かつ多様に行う変化術であるため、今まで以上の膨大なエネルギーが必要となるまさに命をかけた大作戦だった。狸たちは覚悟を決め、長老たちの指導のもと作戦準備にとりかかった。「妖怪大作戦」で必要になるエネルギーは、個々がもつ気のエネルギーだけではなく、自然界に充満する火力、電力、浮力、飛行力などをいかに引き出し増幅するか、そしてそれらをいかに蓄積して発動するかというもので、三長老の特訓は熾烈を極めた。だが、それにより得られた若狸たちの団結力は、高く燃え上がるほどに増していったのだった。

妖怪大作戦決行

ぽんぽこ33年暮れ。

ついに「妖怪大作戦」が決行されることとなる。花咲か翁、狐の嫁入り、お化けちょうちん、がしゃ髑髏、唐傘お化けなど、狸たちは様々な妖怪に変化し、ニュータウンの道を練り歩く。はじめ人間たちは、まるでテーマパークでパレードでも見るかのように沿道に並び、拍手を送った。子ども達は「お化けの大行列だ!」と喜びの声を上げ、大人たちは急いでその光景を撮影しようとカメラを構えた。この時点では誰も狸たちが変化した妖怪に恐れをなしていなかった。

だが、だんだんとそこら中から悲鳴が上がり始める。狸たちが本格的に人間を驚かせ始めたのだ。妖怪の姿で突然飛び出しては驚かせたり、窓の隙間から侵入して家中を飛び回ったりした。人間たちが次第に恐れを抱き始めたところを見計らい、隠神刑部は拍車をかけるため念を込める。額には血管が浮き上がり、汗が噴き出した。大通りではがしゃ髑髏が人間に襲いかかり、団地の隙間に出現した大入道は津波を起こす。人間たちは脱兎のごとく逃げだし、次々と悲鳴を上げる。狸たちはさらに追い打ちをかけようと、狐火に化け上空から迫ろうとした。だがその時、がしゃ髑髏は崩れ落ち、花咲か爺が咲かせた桜が散っていった。刑部がエネルギーを使い果たし、その命を落としたのだ。刑部のそばに控え変化狸にエネルギーを送っていた並狸たちは、倒れて動かない刑部の周りに集まり涙を流した。その夜、本拠地である万福寺に無事帰還した変化狸たちは刑部の死を悼んだ後、作戦が成功したことを祝う宴を開いた。宴に夢中だった狸たちは誰一人として見てはいなかったが、今夜のニュースでは先ほどの出来事を「人間の仕業とは思えない」と、人間たちが恐怖体験を口々に語っていた。

そして翌日、事態は一変した。昨夜の百鬼夜行は、ニュータウン内に建設中の「ワンダーランド」というテーマパークの宣伝隊だったと、報道されたのだ。これを聞いた狸たちはパニックに陥り、こんなに高度な化かし方が人間にできるはずがないと憤るも、まずは人間たちの動向を見守ることにした。報道陣はパレードの映像を募集したが、百鬼夜行を目撃、撮影していた市民のカメラには何一つ映っておらず、映像を提供する者は現れなかった。証拠となる映像がないこともあって次第に報道はされなくなり、人間たちはこの出来事に注目しなくなっていった。苦々しいことに狸たちの努力はワンダーランドの宣伝隊による「人間離れした人間の仕業」という意見でまとめられてしまったのだ。決死の覚悟で挑んだ「妖怪大作戦」も失敗に終わり、太三郎禿狸はすっかり覇気をなくして耄碌してしまった。

狐の提案

一方で狸たちが行った「妖怪大作戦」を、自分のテーマパークの宣伝だったと大法螺を吹いた「ワンダーランド」の社長は、パレードを行った者たちを死に物狂いで探していた。社長は何としてでも今回の騒動を巻き起こした人物たちを自分のテーマパークに引き入れようと躍起になっていたのだ。電話で部下に「札束で横っ面を引っぱたいてでも実行者を探して連れてこい!」と大声を出している。そんな社長の後ろから「狸がやったんですよ」とささやく男がいた。釣り目のその男は竜太郎(りゅうたろう)といって、自分がパレードの実行者である者と話をつけると社長に申し出た。竜太郎には社長から礼金をたんまりと搾り取ろうという魂胆があり、社長は気にもとめなかったが本当に「狸」が化け学を使って今回の騒動を起こしたのだという確信があった。なかなか実行者が見つからず焦っていた社長には、竜太郎の申し出は救いの糸だった。竜太郎に一億の礼金を渡すことを約束し、彼らは手を結んだのだった。

その足で竜太郎は万福寺に滞在している六代目金長のもとを訪れた。金長は竜太郎の姿を見るなり、その正体が「狐」であると気付いた。「お見事!」と言い、狐の姿に戻った竜太郎は金長を銀座の高級クラブの一室に誘い出した。そこには人間として生きる多摩の変化狐たちがいた。竜太郎の話によると、多摩の狐はすでに滅んでしまい、唯一変化狐だけが細々と生きながらえているという。変化狐たちの現在を知り、近い将来多摩の狸たちも滅んでしまうのだと悟った金長は、がっくりと肩を落としてしまった。それを見た竜太郎は、多摩の狸も多摩の狐のように人間として暮らすように進言するために金長をここへ招いたのだと伝える。そして人間として暮らすには、人間として働いていかねばならないことを話すと、竜太郎は狸たちに職場の斡旋もすると申し出た。しかしその職場というのが自分たち狸をコケにした「ワンダーランド」だったため、金長はすぐさま反対の意を表す。だが実際、今後多摩の狸たちが生きていける有効な手立ては他にないのだということも理解していたのだった。

竜太郎と別れて万福寺に帰ってきた金長は、正吉や権太達に人間として「ワンダーランド」へ就職するしか多摩の狸たちに道はないと話す。しかし誰もこの意見には賛同せず、六代目金長の権威は地に落ち、狸たちの結束はあっという間になくなってしまった。このとき皆の輪から人知れず抜け出した鶴亀和尚は、手紙をしたためてポストへ投函する。それはテレビ局へ宛てられたもので「妖怪大作戦」は自分たち狸が行ったと記した「犯行声明文」だった。

狸たちがまとまりを無くして人間たちへの妨害作戦もほとんど行われなくなったため、しびれを切らした権太は「人間を殺してでも追い出す」という過激派の変化狸たちを引き連れて人間の姿で山へ立てこもるというデモ活動を開始した。この騒動で警察も出動し、昼から夜にかけてにらみ合いを続けた結果、ついに警官隊は彼らを強制排除することとし、突入隊を結成して進んでいく。これを見た権太たちは、ついに狸として人間たちへ直接攻撃を仕掛けることを「最終手段」として決意したのだった。

権太たちの強硬手段をおろく婆から聞いた正吉は、彼らを何とか止めようとしたがすでに手遅れだった。権太たちは狸の姿のまま空へ飛びあがり、上空から人間へと襲い掛かった。警官たちは警棒を振り上げ、狸たちを叩いて抵抗している。はじめは狸たちが優勢かに思われたが、警官たちはついに拳銃を取り出した。そして銃声が響き渡り、たくさんの同胞がこの作戦で命を落としたのだった。

権太達が警官隊により玉砕したころ、他の山ではテレビ局のクルーがカメラを構えていた。鶴亀和尚が投函した「犯行声明文」を受け取った人間たちが取材にやって来たのだ。鶴亀和尚たちは、自分たちも人間たちに正体を明かすことを決心し、カメラの前に現れる。テレビ局のクルーは震える手で何とかマイクを鶴亀和尚へ向け、インタビューを開始する。鶴亀和尚もまた人間たちとの対話に震えていて、なかなか声を出せない。そんな様子を見ていたおろく婆は、茂みから勢いよく飛び出し鶴亀和尚を担ぐと「山は全ての生き物の住処だ、勝手に無くさないでほしい!」と声を張り上げた。そして後ろに控えていた狸たちも様々な生き物に変化し、カメラに向かって大いにアピールをしたのだった。

翌日、佐渡へ長い旅をしていた文太が戻ってきた。文太が探していた長老は既に他界しており、指南役として招くことはできなかったのだという。そして文太は、変わり果てた多摩丘陵の山を見て開発を止められなかった悔しさに涙を流した。正吉はそんな文太を慰めるために「最後の力を振り絞って、風景を昔に戻してみよう」と皆に提案する。すでに変わってしまった山々を元に戻すことはできないが、最後にもう一度、懐かしい風景を見たかったのだ。正吉の申し出に賛同した狸たちは皆で手を取り合い、変化術を使って幻を作り出す。ニュータウンに住む人間たちは、突然変わっていく風景を唖然として見つめていた。すると一人の初老の女性が「あれ…お母さんみたい…」と外へ駆け出した。それに続くように、もともとこの地に暮らしていた人間たちは子供のころの記憶を懐かしみ、次々と狸たちが作り出した幻の世界へと駆けていったのだった。

戦いの果て

結局狸たちは人間との戦いに敗れ、万福寺のあった山も開発によってなくなり、トレンディーな住宅地に変化していった。だが狸たちが人間に正体を晒したことで、よいこともあった。「狸と共生できる街」としてニュータウン開発は方針を変え、もとの山林を残す形で公園が作られるようになったのだった。だが狸たちにとってこの方針変更はすでに手遅れで、比較的緑が多い近隣の町へと住居を移さざるを得なかった。しかし、これだけではやはり生きて行けず、変化狸たちは狐たちのように「人間として」生活をする決断をした。だが、苛烈なストレスで体を壊す者もおり、なかなかに生きづらさを感じているのだった。サラリーマンとなった正吉もその一人で、満員電車から降りて家への道を疲れた様子で歩いていた。すると、目の前を狸たちが横切った。それを見た正吉は目を輝かせて彼らを追いかけると、狸たちはゴルフ場で輪を作り宴会を開いていた。その輪の中にぽん吉を見つけた正吉は着ていたスーツを脱ぎ捨て、変化をといて駆け出した。正吉に気づいたぽん吉も、喜びの声を上げて二匹は久しぶりの再会を果たしたのだった。

『平成狸合戦ほんぽこ』の登場人物・キャラクター

主要人物

正吉(しょうきち)

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