草摩慊人(フルーツバスケット)の徹底解説・考察まとめ

草摩慊人(そうま あきと)とは、高屋奈月の漫画『フルーツバスケット』に登場する十二支の神に当たる人物で、草摩家の当主である。十二支の物の怪に取り憑かれた「物の怪憑き」たちを絆という呪いで縛り付け、その心身を徹底的に痛めつける。登場時より不穏な言動が多かったが、本当は誰よりも絆に縛られ苦しんでいた。母の草摩楝の命令で男性として育てられたが、実は女性。主人公本田透との出会いが元で加速する環境の変化に怯えるも、最終的にすべてを受け入れる。

次々と去っていく十二支たち

慊人の自室に、依鈴がいた。依鈴は無断で慊人の部屋に入り、晶の箱を持ち出そうとしていたのだ。怒った慊人は依鈴を猫憑き用の離れに閉じ込め、髪まで切る。後日、怒り狂う潑春が慊人の元を訪れた。依鈴の怪我の原因が慊人であることを聞いたらしい。慊人は、自分ではなく依鈴の方を取ったお前が悪いと潑春を責める。そこに、紅野が現れた。依鈴のことは紅野が助け出し、病院に運んだという。紅野は、慊人が何ものであろうと他者を監禁するなどしてはいけないことだと諭す。
依鈴が監禁されたことを聞いた潑春は怒るが、慊人を殴らずに病院へ向かおうとする。呼び止めようとする慊人の声に一瞬踏みとどまりそうになる潑春だが、紅野に背中を押されて去って行った。
潑春が神である自分ではなく、依鈴を選んだことに慊人はショックを受け、皆自分を裏切ろうとすると嘆く。紅野は、裏切りたいわけではないと言った。
日々が過ぎ、慊人は久しぶりに父の夢を見た。慊人は十二支の神であり、愛される為に生まれてきた。誰も慊人を置いては行かない。そんな父の言葉を聞いた時、絆が切れる感覚がした。兎の物の怪が去っていく。慊人が紅葉の下へ行くと、紅葉は泣いていた。慊人を見る紅葉の目には、もう神に対する畏敬の色はない。紅葉は、慊人に「今日は帰って」と冷たく言うだけだった。
紅葉は自身の母から拒絶され、病んでしまった母の心を救うべくその記憶から消えてしまった過去がある。父とは交流があるが、妹の草摩モモ(そうま モモ)や母との接触は禁じられており、もしであったとしても親類の1人として振る舞っていた。物の怪憑きでなくなった以上、紅葉は仲間ではない。また、家族の下にも帰れないと慊人は言う。それに対し、紅葉はそれでも自分の道を行くと答え、慊人に「君はいつまでそこにいるの?」と問うた。

終わりを突きつけられる慊人

ある夜、晶の箱を抱えた慊人の下に紅野が来た。話があるという紅野に、慊人は初めて由希に会えた時のことを語る。あの頃は誰の呪いも解けておらず、十二支との絆を楝に見せつけることもできた。しかし、いつからか慊人の世界は壊れ始めてしまった。
そう思案しているところに、刃物を持った楝が現れる。晶の箱をよこせと言う楝に、慊人は「こんなものくれてやるよ」と箱を投げつけた。中が空であることに拍子抜けした楝を見、慊人は初めから自分は誰にも求められてなどいなかったと自嘲する。楝の落とした刃物を拾い、楝を斬りつけようとした慊人だが、その手を下す。今度は燈路の呪いが解けた。慊人はここへきて、遂に十二支との絆の終焉を実感する。楝についていた使用人たちは、ここぞとばかりに慊人や古株の使用人たちを非難する。その会話から、慊人は自分が使用人たちから祭り上げられていたこと、草摩家の格式をさして重視しない使用人からは世間知らずの出来損ない扱いされていたことを知る。
慊人は自分が狭い世界で生きてきたことを、あの時突き放さなかった紅野のせいだと彼を責める。これから変わって行けばいいという紅野だが、慊人には「中途半端に救って放り出す」無責任な言葉にしか思えず、紅野の腰を刺してしまう。

慊人を受け入れた透

その足で紫呉の家へと向かった慊人は、その場にいた透を責める。透との出会いが元で、十二支たちは前よりも一層遠くに行ってしまうように慊人は感じていた。十二支のいない自分には価値がない。慊人は、ずっとそう思っていた。透はそんな慊人の孤独を悟り、神ではなく1個人である草摩慊人という人物に「初めまして」、「お友達になってください」と語りかけた。約束された絆がなければ人間関係が築けないと思っていた慊人に、その言葉は意外なものだった。
直後、透が当たっていた辺りの崖が崩れる。転落し、動かなくなった透を見て慊人は錯乱。家の近くには紫呉と由希がおり、慊人は2人に助けを求める。紫呉に「君が落としたの?」と聞かれた慊人はそれを否定しつつ、紅野を刺したことを告白する。紫呉が本家と連絡を取り、慊人が今自分の家にいることを伝え、紅野が一命を取り留めたとの情報を受け取った。
後日、精神が不安定だった慊人はひとしきり暴れていたが、紅野と透が入院している病院へ向かった。そこには透の友人である魚谷ありさ(うおたに ありさ)、花島咲(はなじま さき)がいた。慊人は2人に、透は自分のせいで落ちたと語る。咲は透は誰かのせいだなんて思っていないと諭し、慊人が女性であること、紅野が傍にいてあげなくてはいけない人物が慊人であることを指摘した。慊人は紅野を好いているらしいありさに彼の病室を教え、自分は透の病室に向かった。慊人は、自分にとって透が綺麗すぎて妬ましかったと語る。透はそんな慊人に「自分は綺麗なんかじゃない」と、夾と一緒にいたいという一種の利己心から呪いを解こうとしていたと返した。慊人と透は、改めて友人となる。
透が退院したその日、慊人は神をやめ人となる決意をした。既に猫憑き用の離れを壊すなど、草摩家の改革には着手していた。生まれる前から、何百年年と続いてきた絆を捨てる事には恐怖もあったが、慊人は前に進むことに決めたのだ。

慊人の決意とその後

慊人が神をやめたその瞬間、全ての十二支の呪いが解けた。慊人は十二支だった者たちを集める。猫憑きだった夾のことも、本家に呼んだ。紫呉は「お別れを記念して」と慊人にプレゼントを渡してきた。そんな紫呉を、慊人は罵倒する。
紫呉は、父晶の望んでいたそれまでの自分と別れて、新たな自分になる慊人への祝福だと説明する。これまで通り物の怪憑きだった者たちを縛ることはできない。また、許されないこともしてきた。慊人に対し、紫呉はどう償っていくのかと皮肉めいて尋ねる。慊人からすれば、紫呉は呪いがかかっている時から自分を怖れず、思い通りに動かない存在だった。呪いが解ければ真っ先に自分を捨てるだろうと怖れていたし、手に入れたと思っても誰かの元へと飛んで行ってしまうのも腹立たしかった。そう告げると紫呉は、誰にも慊人を渡す気などないと言い、慊人に近付こうとした。それまで以上に紫呉の男性性を感じた慊人は思わずすくむ。紫呉は「少しは譲歩を覚えた」と、一旦はその場を去る。
紫呉のプレゼントとは、振り袖だった。慊人はそれを着て物の怪憑きだった者たちの前に現れる。慊人は、彼らが本来の姿に戻れたから自分もそうすると言い、神ではなくなったものの当主として皆を守ると告げた。次いでそれまでの非道を詫びようとした慊人だが、言葉が出なかった。謝ってしまえば、それで終わりにしてくれと頼んでいるように思えたからだ。
紫呉に皆への挨拶を伝えると、草摩家に残り、今後の後処理をすることを手伝えと言うのかと紫呉が訪ねてきた。紫呉は少し怒っているようだった。それは、幼い頃からずっと慊人が自分だけを見ることを待っていた為だった。長らくすれ違っていたが、ようやく慊人は紫呉と対等な恋仲になることができた。

草摩慊人の関連人物・キャラクター

慊人の両親

草摩晶(そうま あきら)

CV:石田彰(新アニメ版)

慊人の父で、先代の当主。紅野が言うには「美しくはかなげな印象」。
医者から短命と宣告されており、早くに跡継ぎを儲けなくてはならない身だった。しかし、使用人たちは溺愛する晶を嫁に取られまいと見合いの相手に難癖をつけ、中々結婚させなかった。そんな状況を寂しいと感じており、世話役の1人である楝を妻に選ぶ。
慊人が生まれてからは、特別な存在である娘に夢中になる。それは父親としてというより、愛する楝との間に特別な子を授かったとの喜びから来るもので、慊人自体への愛情はなかった模様。
慊人に看取られ病死するが、今わの際に口にしたのは、楝の名と、仲直りできなかったことへの後悔であった。良くも悪くも世間知らずである為に慊人を偏愛し、彼女の人格に大きな影響を与えた人物。尚、慊人は父の魂が入っているという空の箱を渡されていた。

草摩楝(そうま れん)

CV:折笠愛(新アニメ版)

慊人の母。20代の娘がいるとは思えないほどに若々しく、妖艶な女性。晶を心から愛しており、その愛の強さ故に夫の関心を奪った慊人を憎んできた。元より、多くの異性に愛される運命の我が子に嫉妬し、「男にしなければ産まない」とまで言い張った。慊人が男性として育てられたのは楝が原因であり、夫と同じく慊人の人格形成に大きな影響を与えている。
神と十二支の絆を否定し、男性の物の怪憑きに色目を使う、慊人が最も愛する紫呉と関係を持つなどして慊人の精神を乱す。草摩家の中枢や慊人に賛同しない「楝派」と呼ばれる使用人たちを従えている。
透は、楝の声を慊人と似ていると感じた。

物の怪憑き

草摩紫呉(そうま しぐれ)

CV:置鮎龍太郎(旧アニメ版)、中村悠一(新アニメ版)、日野まり(新アニメ版幼少期)

戌(犬)の物の怪憑き。爽やかな美男子だが、人をおちょくるのを楽しむ性格。職業は小説家で、若者を諭すことも多い。通称は「しーちゃん」、「ぐれさん」など。慊人より年長で、彼女の性別を知る数少ない人物でもある。十二支が全員揃ったのは、「これが最後の宴になる」からで、呪いはすぐ解けると感じていた。
慊人が楝の胎内に宿ったその朝、他の物の怪憑きたちと共に神の夢を見る。この時痺れるような甘い情熱を感じ、それを永遠のものにする為、慊人を我が物にしようと目論む。その為には、透のような優しさの塊のような少女をも利用することを厭わない。
慊人とは相思相愛で肉体関係もあるが、2人きりの時でも慇懃無礼な態度で接し、時に冷たく突き放す。十二支の一員でありながら慊人を怖れず、彼女の思い通りに動かないため「一番怖かった」を評された。
透を自身の家に引き取った理由は、他人という異分子を十二支の中に住まわせることで、慊人に絆の終わりと向き合わせる狙いもあってのことである。とはいえ、「慊人が好きすぎてぐちゃぐちゃに踏みつけてやりたくなる時もある」と語るなど、歪んだ一面も持つ。
呪いが解けた後で小説家をやめ、慊人の補佐役をすることとなった。

renote.net

草摩はとり(そうま はとり)

CV:井上和彦(旧アニメ版)、興津和幸(新アニメ版)、長谷川育美(新アニメ版幼少期)

辰(龍)の物の怪憑きで、草摩家の主治医。本人曰く「半分は慊人の世話」に明け暮れている。落ち着いた印象の青年。「記憶の隠蔽」と呼ばれる催眠術で、十二支関係の記憶を他者から消すこともできる。かつて一族の人間である佳菜と相思相愛になるが、激昂した慊人により左目に傷を負い、佳菜は自分を責めて精神を病んでしまう。佳菜から自分との記憶を消すことで、彼女の心を救った。
結果的に恋人を奪われた形になったが、楝との関係を知っていることもあり強く慊人を責めることができない。
紫呉の企みを知ってはいるが、誰の味方をするでもなく傍観者の立場を取る。尚、「理由はどうあれ変わろうとしているだけお前はマシなのかもしれない」と紫呉に言うなど、慊人や自身の現状を良いものとは思っていない。
旧アニメ版では、慊人によって左目付近を殴られ傷を負ったとの描写がなされている。この時、慊人がはとりを気遣う描写がある。

えどまち
えどまち
@edono78

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