草摩紫呉(フルーツバスケット)の徹底解説・考察まとめ

草摩紫呉(そうま しぐれ)とは、高屋奈月による漫画作品『フルーツバスケット』に登場する、戌(犬)の物の怪に取り憑かれた人物である。一見すると爽やかな美形で性格も飄々としている。その一方で自身を「最低」と評するように、十二支の神である草摩慊人を自分のものにするという己の野望の為に他者を利用する。といっても完全な悪人ではなく、物の怪憑きを受け入れる本田透を巻き込むことへの罪悪感も口にした。職業は小説家で、時たま迷い、悩む若者たちに道を示すこともある。

草摩紫呉の概要

草摩紫呉(そうま しぐれ)とは、高屋奈月の漫画、及びそれを原作とするアニメ作品『フルーツバスケット』に登場する、戌(犬)の物の怪に取り憑かれた人物である。愛称は「ぐれさん」、「しーちゃん」など。丑(牛)憑きの草摩潑春(そうま はつはる)からは「先生」と呼ばれている。
和装の似合う知的な美男子。飄々とした態度を取り、他者をおちょくることが多いが年長者として若者を諭すこともある。その一方で、十二支の神に当たる草摩慊人(そうま あきと)を自分だけのものにする為に、他者を利用する腹黒い一面も持つ。
職業は小説家。複数のペンネームを持ち、「麦茶の中にゴキブリが入っていた」などゾッとする話をまとめた本や、続き物の少女向けライトノベルを半ば趣味で執筆している。
本家から離れた土地に一軒家を構え、子(鼠)憑きの草摩由希(そうま ゆき)、猫憑きの草摩夾(そうま きょう)の他、赤の他人である本田透(ほんだ とおる)を自身の家に住まわせている。十二支で1番尊ばれる子憑きを神から離す、十二支の仲間外れの存在を物の怪憑きと共に暮らさせる、他人をその輪に入れるといった行為は、いずれも十二支と神の関係に変化を生じさせて絆の崩壊を促し、慊人が紫呉に1人の人間として関心を抱くよう仕向ける為である。

草摩紫呉のプロフィール・人物像

CV:置鮎龍太郎(旧アニメ版)、中村悠一(新アニメ版)/日野まり(新アニメ版幼少期)

基本的には飄々としており、他者をおちょくることもあるものの気さくな印象を与える。一方で、十二支の神に当たる草摩慊人(そうま あきと)を自分だけのものにする為に、他者を利用することも厭わない。そんな性分を自覚し、度々「最低」などと自嘲する。
自身の家に赤の他人である本田透(ほんだ とおる)を住まわせることにしたのは、慊人に「そう遠くない未来に呪いは解け、十二支と神の絆は終わる」ことを知らしめる為である。透を利用することにためらいはないものの、純粋で優しさの塊のような彼女を巻き込んでいることにいくらかの罪悪感も抱いている。
気さくな態度を取る一方で、自分の心に他人を踏み込ませないところがある。かつて交際していた白木繭子(しらき まゆこ)からは「近づこうとすると逃げていく、さざ波のような男」と評された。慊人には異性として想いを寄せるが、「好きだから彼女を甘やかしたくなり、またぐちゃぐちゃに踏みにじりたくなる」という歪んだ愛情を見せる。慊人の母草摩楝(そうま れん)と関係を持つなど、度々慊人の神経を逆なでするのは、そうした性分から来ている。自分の感覚が歪なものだとの自覚はあり、透との生活の中、「本当に夢に見るべきは君(透)の方だったかもしれない」との思いを抱く。
「1番呪われているのは自分」と称するように、他の物の怪憑きとは違い、子供の頃から親の愛情を欲しいと思ったことはない。
小説家らしく洞察力があり、透や猫憑きの草摩夾(そうま きょう)といった若者の悩みを見抜き、的確なアドバイスを送ることもある。
辰(龍)憑きの草摩はとり(そうま はとり)は「はーさん」、巳(蛇)憑きの草摩綾女(そうま あやめ)は「あーや」など他者にニックネームを付け、その名で呼ぶことが多い。

草摩紫呉の能力

戌憑き

紫呉には、戌(犬)の物の怪が取り憑いており、異性に抱き着かれるか体力が落ちると犬に変身する。放っておけば人間に戻るが、変身時に服が脱げてしまう為全裸の状態で戻ることとなる。その他何をしなくても犬が寄ってくる、犬と意思を通わせることができる。本編では犬の遠吠えを聞き、崖崩れが起きることを察知した。

草摩紫呉の来歴・活躍

紫呉の決意

幼い紫呉は、夢に現れた神への思慕に取り憑かれた。

十二支の戌(犬)の物の怪に取り憑かれて生まれた草摩紫呉(そうま しぐれ)は、幼い頃から他者を観察していた。紫呉の生まれた草摩という家は高い格式を持った名家で、同じ敷地に100を超える一族の家族が住んでいた。
紫呉のように十二支、もしくは猫の物の怪に取り憑かれた「物の怪憑き」とその家族は「中」と呼ばれる中枢区域に住み、十二支の秘密を知らないその他の一族は「外」に住むといった形態が何百年も前から続いている。「中」には紫呉と同い年で巳(蛇)憑きの草摩綾女(そうま あやめ)、辰(龍)憑きの草摩はとり(そうま はとり)、2歳年少の酉(鳥)憑きの草摩紅野(そうま くれの)、更に幼い申(猿)憑きの草摩利津(そうま りつ)がいた。
動物たちを招いて宴を開いたという神も時たま草摩家に生まれてくるが、長いこと誕生していない。また、十二支は常に欠員がおり、互いに極端に年が離れていることも珍しくなかった。十二支と神は互いに切れない絆で結ばれていると、古参の使用人たちは言う。
紫呉たちは、ある朝その絆を実感することになる。夢の中に神が現れ、「もうすぐ会える」と言った。しびれるように甘い熱情と共に泣きながら目を覚ました紫呉は、他の物の怪憑きと共に当主の妻である草摩楝(そうま れん)の下に向かった。紫呉たちの自我の中に巣食う物の怪が神を求め、「待ってた、待ってた」と声を上げる。
楝が「男にしないなら産まない」と言った為、後日生まれた女児は「草摩慊人(そうま あきと)」という名を与えられ、男として育てられることになった。紫呉は未だ子供だったが、楝が夫の寵愛を奪い、生まれつき複数の異性に愛される運命の娘を妬んでいるのを見抜いていた。そんな楝や、十二支と神の絆に振り回される草摩家そのものを、紫呉は「かわいそう」と評する。
慊人が楝の腹に宿った朝の感動を忘れられない紫呉は、それを永遠のものにしたい、確かな形で手に入れたいと考えるようになる。いつしかそれは、慊人を自分だけのものにするという決意に変わった。

特別な関係を持った紅野と慊人

紫呉(左)は、慊人(右)の心をつかむことに成功した。

やがて時が経ち、次々と物の怪憑きが生まれる。宴に参加できなかった猫まで誕生し、大した年齢差もない状態で十二支と神、猫が全員揃った。草摩家の歴史始まって以来のことで、古株の使用人たちはめでたいことだと喜ぶ。一方で紫呉は、「自分たちの代で十二支と神の宴は終わりになる。だから全員が揃った」と感じた。はっきりと記憶があるわけではないが、神と十二支は太古の昔に「何度生まれ変わっても一緒になる」と約束を交わした。その約束の力が弱まっているようで、はとりはタツノオトシゴ、紅野は小さな小鳥に変身する。
それに対し、慊人は楝との確執から物の怪憑きとの絆に固執する。父の草摩晶(そうま あきら)の死後、慊人は紫呉に父親を求めるように泣きつくことが増えた。紫呉は、慊人をいずれ解ける呪いへの執着から解放し、自分にだけ注意を向けさせようと目論む。
「紫呉は僕のこと、好き?」と聞いてきた慊人に椿の花を渡し、「誰よりも君を想う。好きですよ」と告げた。
ある時期から慊人は紅野を傍に置くようになる。同時期、紫呉は紅野に対し違和感を覚えるようになった。その後、紅野と慊人が男女の仲になったことを知った紫呉は、慊人への意趣返しの為に楝を誘惑し、関係を持つ。やがて慊人とも関係を結んだ紫呉だが、彼女に対し慇懃無礼に接しながらも必ずしも慊人の思い通りに動くことはなかった。

傷つけられた子憑きの由希

慊人はいつからか精神的に捩じれてしまい、主に年少の物の怪憑きの心身を傷つけるようになる。特に、綾女の弟で子(鼠)憑きの草摩由希(そうま ゆき)は幼い頃から慊人の遊び相手として傍にいた時間が長かった分、虐待の度合いも強かった。暗い部屋に閉じ込められ、否定の言葉をかけられ続けた由希は精神的に疲弊してしまう。そんな由希を見かねた丑(牛)憑きの草摩潑春(そうま はつはる)は、紫呉に「由希を救ってやってほしい」と頼んできた。
紫呉は潑春に「自分を"先生"と呼ぶならいい」と冗談めかして言い、由希を自身の家に引き取る。由希を慊人から取り上げることで、何らかの変化が起きることを望んだ為である。

はとりと佳菜の出会いと破局

医者となったはとりが「外」に住む草摩佳菜(そうま かな)と交際を始めた。佳菜には学生時代からの白木繭子(しらき まゆこ)という親友がおり、紫呉は彼女がはとりに好意を持っていると見抜く。繭子は、はとりと佳菜がお似合いだからと2人と仲がうまくいくことを願っていた。そんな繭子に対し、紫呉は「僕も今誰も付き合っていないから」と交際を申し込む。交際こそしていたが、紫呉は繭子と恋人らしいことは何一つしなかった。
そんな折、事件が起きる。はとりが佳菜との結婚の許しを請いに慊人の下へ行き、激昂した彼女によって左目を傷つけられたのだ。はとりの傷は失明に近いもので、「はとりの目が見えなくなったらお前のせいだ」と言われ続けたこともあって佳菜は心を病んでしまう。はとりには、十二支の秘密を知った者の記憶を消す「記憶の隠蔽」という催眠術を施す技術があった。はとりは病んでいく佳菜から自分との記憶を消し、そもそもの原因である慊人を責めることはしなかった。

本田透の登場

透(右)は、紫呉の家の近くにテントを建てていた。

ある朝、本田透(ほんだ とおる)という女子高生が紫呉の家にやってくる。「この辺に住んでいる」と透は言うが、近隣の土地は誰にも貸していなかった。縁側に日干ししていた十二支の置き物に興味を持ったらしい透は、十二支の中に猫がいないことについて残念そうに言及した。そこに由希がやってくる。透は由希のクラスメイトだった。
夜になり、紫呉と由希は透が紫呉の家の近くにテントを建てて住んでいることを知る。早くに父を失い、最近母をも失くした透は祖父の家に住んでいた。その祖父の家を改築することとなり、その間だけテントに住むことにしたという。遠方から犬の遠吠えがした。戌の物の怪憑きであり、犬と意思の疎通ができる紫呉は崖崩れが起きるたことを察知。透のテントは崖崩れに巻き込まれ土砂に埋まってしまっていた。中にある母の写真を取り出そうとした透だが、熱を出して倒れてしまう。
紫呉は「無理をして倒れたら、お母さんが悲しむ」と言って自身の家に透を寝かせた。紫呉と由希は透を引き取ることにした。透の私物は鼠を動員した由希が夜の内に掘り起こし、回収。由希は善意から透をこの家に住まわせようと考えたが、紫呉は他人という要素を加えることで生じる変化を期待していた。
由希をライバル視する猫憑きの草摩夾(そうま きょう)も加わり、4人での共同生活が始まる。家事が得意な透により、「腐海」と称されるほど散らかっていた紫呉の家は片付き、美味しい食事もとれるようになった。勘のいい由希は紫呉が何かを企んでいると気付くか、どうにかはぐらかす。
透は少しずれた一面を持つものの、優しさと包容力があり、由希や夾、その他の物の怪憑きの心を癒していく。1年、2年と時間が経過する中、十二支と神の絶対的な絆以上の絆が、透や物の怪憑きたちの間にできていった。
透は無自覚ながら夾に惹かれていき、彼の為に呪いを解こうとし始める。

はとりと繭子の再会

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