罪か癒しか?『火の鳥』各編の女性キャラ抜粋
手塚治虫氏未完の大作『火の鳥』。永遠の命、愛、名誉。種々の欲望入り乱れるこの物語を、火の鳥同様に彩る女性陣をまとめました。
【ストーリー】都で平家が権勢をふるっていた頃から源義経が追われる身となるまでを描く。平家のみならず義経の栄枯盛衰も描かれており、権力闘争について一考させる。
【変更点】
弁太の名前:COM版では「まきじ」になっている。
文庫版にない描写:平清盛が見た、「永遠の命を得た」夢。500年後同じ顔をした子孫だらけになり、1000年後にはたまりすぎた記憶のせいで発狂。5分ごとに記憶喪失装置にかけられるなど危険人物扱い。地球の終わりが来ても死ねず、苦しみの声を上げる。
義経と清盛の転生:義経、清盛がそれぞれ時代を少しさかのぼって同時に犬と猿に生まれ変わり、またも権力争いに身を投じるという展開で終わっている(角川版では冒頭で描かれている。また、人間時代のことを思い出すというくだりがない)。親友同士だった犬と猿が自分のまとめる一族の為に殺し合う。
義経の死に様:朝日ソノラマ版では弁太により丸太で顔を潰される。文庫版では追っ手による矢を刺されての死。
義経の口調:朝日ソノラマ版では匿ってくれていた権力者にぞんざいな口調で話していたが、文庫版では敬語に変更。
おぶう
木こりの弁太と恋仲だった美女。その美しさに目を付けられて宗盛の妻により教養を受け、彼女の姪として平清盛の元へ。清盛は一族の由末を案じた結果火焔鳥(火の鳥)の生き血を望むようになります。火焔鳥の一件で清盛を怒鳴りつけますが却って気に入られて、「お前の言うことだから聞いたけど、他の奴なら殺していた」とまで言わしめるのでした。
「一の谷の警備が手薄」なことが気にかかるなど、貴族や武士とは目の付け所が異なり、清盛の死後も平家一門を案じるようになります。清盛に対しそれなりに愛情を持っていたことも語られました。壇ノ浦の合戦の際、源義経の家臣になっていた弁太と再会。舟の上で義経と刺し違えようとしますが「邪魔だ」と言われ斬殺。彼女の出番はこれで終わりですが、弁太が義経や侍を更に憎むきっかけになりました。COM版では弁太(まきじ)と兄妹という設定。
ヒノエ
弁太の妻。「おぶうのことはいいの!?」となりそうですが、「見初めあった者同士が夫婦になる」という祭りにたまたま参加し弁太を見初め、半ば強引に妻になったのでした。一種の盗癖を持っていましたが、弁太に許されたことで解消した模様。壇ノ浦の合戦後紆余曲折の果て再会して夫婦生活が始まりますが、義経によりまたも弁太が駆り出されることに。堪忍袋の緒が切れ義経や部下の兵士を殺した弁太共々行方不明となります。
生命編
【ストーリー】
テレビのプロデューサー、青居は過激な番組を求め、クローン人間を狩る番組を思いつく。ペルーに行けばクローン人間が作れると聞き赴くが、自身のクローンが大量に作られた上、彼自身も「狩り」の対象として狙われることとなる。火の鳥はかつてこの地の長との間に娘をもうけた模様。後述のジュネと共にいた青居の最期について、オリジナルかクローンについてなど種々の変更点が見受けられる。
【変更点】
青居の最期:雑誌掲載時は射殺。単行本や朝日ソノラマ版、文庫版などでは爆弾を仕込んだ義手でクローン培養施設ごと爆死。
オリジナルかクローンか:雑誌掲載時はクローンと明言。単行本以降では、クローン製作の際失った指などから、オリジナルの青居の可能性が示唆されるものの、どちらか分からずじまい。
ジュネの祖母:雑誌掲載時には生きた人間だったのが、単行本以降ロボットのような外観の「サイボーグ」に変更。
ジュネ
片腕を失った青居の一人が、偶然逃げ込んだアパートの住民。幼い少女で、脳以外を機械化した祖母と暮らしていましたが、祖母がスープに入り込んでいたゴキブリに脳を食い荒らされたことにより青居と共に、彼の娘として逃亡生活をすることに。成長後、青居を父として慕いつつ火の鳥の娘と定期的に会い、「生き物としての知恵、心」を授けられます。純粋な心を持ってそのことを父にも継げますが、青居はそれを信じず、美しく成長したジュネが「男と会っている」と邪推。ジュネが傷を負ったことでようやく話を信じ、青居はクローン人間工場を義手に仕込んだ爆弾で吹き飛ばします。ジュネは父がやったことと直感。退院時、「父」青居が本物かクローンか医師に尋ねられた時「父さんは人間よ!それでいいじゃない!」と叫びました。
『異形編』
【ストーリー】
どんな病、怪我も治せるという八百比丘尼を殺しに来た左近介。殺害の動機は戦国武将である父からの解放。病で鼻が大きく膨らんだ父が直ることなく病死すれば、本来の自分である「女」に戻れると踏んでのことだった。ところが、寺を含む山は不思議な空間に包まれて時が逆行していた。
【作家によっては左近介は救われていた?】手塚治虫氏は悲劇性を高めるためか「登場人物を死なせる」ことがよくある。別作品『ブラック・ジャック』でも「死なせる必要があったのか」という疑問のあるキャラクターは多く、左近介はいわゆる時間のループの中「ひたすら患者を治し、最終的に自分に殺される」ことを罰として受け入れるのだがこれに関し「いくらなんでもひどすぎる」との声もある。また「石ノ森章太郎なら、左近介をループから逃がす措置をとったのではないか」という評がネット上にあった。
左近介(異形編)
左近ノ介、左近之介など表記に違いがありますが、ここでは「左近介」と記します。戦国時代の武将の息子、として育てられた18歳の女性。後継ぎを望んだ苛烈な父により男の子の名を付けられて、剣術から何から厳しく鍛えられました。上述の理由で八百比丘尼を殺し、殺害を隠す意味合いもあってなり替わることになります。やって来る患者の中には異形の者(後述の『太陽編』の神霊の類)もいました。それでも痛みに涙を流す様を見て治療を決意。
夢に火の鳥が現れて言うのでした。「父を見殺しにした贖罪として、ここに来る者たちを治し続けること」と。時は流れて、ある武将の家に「若君」が生まれます。それは他ならぬ自分。本当の罰は自分自身に殺されることでした。斬られる前の八百比丘尼の、意味深長な言葉を思い出し恐怖に震えますが、18年後運命の日の前。「一時的に外に出られる」ことを知り、可平を逃がします。
『羽衣編』
【ストーリー】横長のコマ割り、ストーリーの始まりと終わりに幕が現れるなど、が何だか舞台を思わせる実験的な一作。ラストで舞台に使われたと思しきバラバラになった人形が現れる。
【もう一つの『望郷編』に繋がる物語だった!?】現在『望郷編』とされているもの、実は描き直されたものなんです。『COM版』と呼ばれるバージョンの『望郷編』はまるきり違った内容でした。舞台は「第二の地球」と呼ばれる惑星で、人間も含めたあらゆる生物がクローンで生まれる時代。城之内博士はタイムマシンで娘の時子(つまり、おとき)を過去の時代に逃がしました。時子が戻ってきたところから始まります。時子の産んだ子は核戦争の影響で異形ともいえる姿。彼女の恋をしたジョシュアは博士を殺してタイムマシンを奪い取り、赤ん坊を捨てて地球へと逃げ去ります。それでも赤ん坊は生きており、クローン生物から「コム」と呼ばれるようになったとか。このコムが現在の『望郷編』でのコムの原型。直された理由として抗議があった、ともされますが、雑誌自体の廃刊も関係していたようです。
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