罪か癒しか?『火の鳥』各編の女性キャラ抜粋
手塚治虫氏未完の大作『火の鳥』。永遠の命、愛、名誉。種々の欲望入り乱れるこの物語を、火の鳥同様に彩る女性陣をまとめました。
邪馬台国の将軍、猿田彦の妻となる女性。猿田彦は腕っぷしが強いだけでなく、自分を恨むナギの弓の才能を伸ばしたがったりとかなりの武人。ヒミコにも忠誠を誓っていましたが、謀反を企てたとされてハチの群れが住む洞窟に閉じ込められ鼻が腫れてしまいます。ウズメといえばウズメノミコトを想像しますが、劇中では舞こそ得意でも「ブス」の類。しかしそれは故郷をニニギに攻め落とされ捕虜となった時男たちから身を守るための変装で、実は美女。
「結婚」こそニニギの酔狂でしたが、ナギを弟子としてでなく息子のように想う猿田彦を愛します。しかし彼は戦死。ウズメの素顔を知ったニニギから自分の妻になるよう詰め寄られますが、「いくら男たちが人を殺しても、女は子を産むことができる。邪馬台国の血は絶えない」と、猿田彦の子を身籠っていると告白(真偽は不明)。ひとしきり笑った後毅然と去っていきました。そんな彼女に剣を振り下ろすこともできず、ニニギは「たかが女一人」と捨て台詞を吐くのでした。
未来編
【ストーリー】35世紀が舞台。文明は発達のピークを迎えるや衰退をはじめ、人々は懐古趣味に浸り始めました。5つの国が存在しますが、皆地下で暮らしており、各国に据え付けられたコンピュータ(劇中では「ハレルヤ」と「ダニューバー」が登場。共に女性言葉を使用)に政治的判断を委ね、それがために核戦争で滅亡。主人公山之辺マサトは火の鳥により「死なない体」にされます。
【実は最終章?】「始まりと終わりを始めに持ってきた」との説があり、事実『未来編』ラストは最終回と言っても過言ではない演出、人類に対する火の鳥の考え、「いつか人類が「過ち」に気付いて命を正しく使うこと」を願い、モノローグで終わっています。一方『未来編』と銘打たれ最終回のような演出が成されてはいるものの、「実はこの後に続く物語こそ『未来』」との見方もできるという作り。
タマミ
厳密にはムーピーという不定形の生物ですが、主人が好む姿をとる性質から、美しい女性の姿をしています。ムーピーは500年の寿命、「ムーピーゲーム」という念波による夢を見させる能力の他どんな環境でも生きることができる生物です。マサトとこっそり同棲していたのですが、ばれてしまい共に逃亡(ムーピーの所有は違法)。世捨て人的に地上のドームに住む猿田博士の元に身を寄せることになります。
5つの国が核戦争で滅んだ時、人口生命体の研究をしていた猿田博士の頼みでムーピーの持つ環境適応能力の秘密解明のため、それまでの姿を捨てることになります。猿田博士の死後、火の鳥によって永遠の命を与えさせられたマサトと共に暮らしますがムーピーの寿命が尽き死亡。その直前まで、マサトに夢を与えました。
『ヤマト編』
【ストーリー】ヤマトの王が自身の肖像画、自分を称える歌、そして墓標を作るために部下を総動員して奮闘。末の息子だけは父の「夢」、大勢の民が殉死しなくてはならないことをばかげていると称するのでした。「語り部」を「カセットテープ」と称する、国歌の内容が『鉄腕アトム』の主題歌の替え歌など、コメディタッチ。しかし、ラスト付近は死にゆく父子の、死へと向かう心情の対比が描かれてもいます。
カジカ
クマソの王の妹。細身の美貌ですが勝ち気そうな顔つき。実際かなりの男勝りで、同年代の男友達と「戦争ごっこ」をすることも。兄が自国の歴史を書き記すのを「軟弱」と嘲るものの、「戦争ごっこ」の相手をすべて打ち負かされます。その後ヤマトの王子が来ると聞き、単身馬に乗って「どんな奴か」身に行く行動派。野宿の際は熊を自力で倒した上、剣に刺した熊肉の直火焼きというワイルドな夕食をとり、「顔が気に入らなかったら自分が殺す」と物騒なことを言う人でもあります。
当初こそ見下していたものの次第に恋仲となり、兄がオグナにより殺された時も仇を討とうとしながら彼に対する愛が勝って実行できず。ヤマト王の墓標建設隊に紛れ込むため男装します。オグナが「巨大な墓と殉死者よりも建設的なもの」を作らせた(つまり父王や兄の意向に背いた)かどで投獄された後火の鳥の血がしみ込んだ布を渡されて、殉死者たちに舐めるよう頼まれるのでした。埋められた場所はオグナのすぐ近く。血の効果か、しばらくは生きて、他の殉死者と大声で歌うなどしていました。最期にオグナと結婚の約束をし、こと切れます。
『宇宙編』
【ストーリー】ザルツという植民星から地球への旅路の中、2577年、5人の宇宙飛行士を乗せた宇宙船が事故を起こしました。1年交代で冷凍睡眠から覚めてブリッジを見張る役目の牧村がミイラのように干からび、それで星にぶつかったのが原因。残りの隊員は救命艇で逃げるが、隊長は牧村の死が「他殺」であると確信。理由は、彼の手元に「僕は殺される」と書かれていたためでした。
【流刑星】火の鳥曰く「罪人」たちが罰を受けるための星。地球では考えられないような事象(毎日岩が転がり落ちるが、自分で元の場所に戻る。植物が動き回り動物が地面に根差しているなど)が多く、罪人の多くは耐え切れず「メタモルフォーゼ」と称し、巨大なサボテンとも何とも言い難い植物のような姿に変えてもらいます。その姿で永遠の時を過ごすのもどうやら「罰」のようです。女性だった罪人は母乳を出します。ナナのセリフからするに、言葉こそ話さないもののそれなりにコミュニケーションが取れるようで、「皆友達になった」模様。
ナナ
5人の宇宙飛行士の一人で紅一点。宇宙船に乗り込む前から乗組員の牧村、猿田、奇崎に想いを寄せられていましたが、彼女自身は牧村と相思相愛。「自分に嘘はつけない」とし、一人離れていく奇崎に「愛している」の言葉を与えられませんでした。死亡したはずの牧村艇が追ってくる中、鳥のような幻覚を見たかと思った後偶然流刑星に流れ着き、追ってきた牧村艇の中で赤ん坊にまでなった牧村の世話をすることに一生を捧げると誓います。
猿田から「そんなことは無理だ、自分と一緒に地球に帰ろう」と諭されますが、永遠に牧村の世話をする為に流刑星の罪人たち同様に体を変えてもらうよう、火の鳥に頼み込みます。牧村はその後不明、猿田も一人地球に戻されたため、彼女のしたことは無駄となったのでした。
『鳳凰編』
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