MW(手塚治虫)のネタバレ解説・考察まとめ

『MW(ムウ)』とは、手塚治虫による漫画作品。『ビッグコミック』誌上にて、1976年から1978年まで連載された。2009年には、玉木宏と山田孝之のダブル主演で実写映画版が公開されている。手塚治虫は1970年代の商業青年誌において、「同性愛」と「猟奇殺人」そして「個人VS国」や「善悪とは何か?」というタブー的な要素に取り組んだ。それらの要素が渾然一体となって作り出すドラマが作品の魅力である。南西諸島のとある小島で起きた事件で、人生を大きく狂わされた2人の青年を描いたピカレスクロマン作品である。

結城にキスをする賀来(少年時代)

『MW』の大きな見どころとされているのは、結城と賀来の同性愛シーンである。いわゆるボーイズラブものの先駆けと評されている同作品において、同性愛シーンの発端となったのは沖ノ真船島における少年時代の賀来と結城のまぐわいだった。中性的な魅力を放つ結城に対する性欲を抑え切れない賀来が、結城の唇を奪いそのまま行為に及んだ。後に2人は「MW」の手がかりを探すために沖ノ真船島を訪れたが、思い出の洞穴に来た際結城は「ぼくは他人とからだを触れ合ったのはあれが生まれて最初だった」と言い、初体験を振り返った。『MW』の中でも、特に印象的なセリフとして知られている。

結城の毒牙にかかった女たち

美香の首を絞める結城

結城は、女性と性関係を持つことができるバイセクシャルである。しかしながら、女性に対する愛情は全く持ち合わせていないようで、3人の女性キャラクターが彼の毒牙にかかった。その中で、美保と中田美香は結城の復讐対象者だったことから、2人とも惨殺された。残る谷口澄子は物語の最後まで生き残ったものの、結城にオモチャとして扱われており最後まで救われることがなかった。徹底的に女性を凌辱する主人公が描かれたことで、『MW』は数多い手塚治虫作品において異色作・問題作と位置付けられている。

大きな謎となった衝撃のラストシーン

不敵な笑みを浮かべる河本玉之丞(結城美知夫)

『MW』のクライマックスは、毒ガスを噴出しようとした結城が失敗に終わり、本物の毒ガスを抱いて賀来が飛行機から海へ身を投げたシーンである。その後、ミンチ中将に結城が銃殺されたことで、事件は一応の解決を見た。ところが、最後の最後で警察署から出てきた河本玉之丞が、それまでに見せたことのない野卑な笑みを浮かべたのである。明言こそされていないものの、この「ニヤリ」シーンで実は死亡したのは玉之丞で、生き残ったのが結城であることが示唆された。この衝撃のラストシーンを、『MW』最大の名場面に挙げる人も多い。

『MW』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

LGBTQを商業誌で堂々と描いた手塚治虫

『MW』第19話扉絵

『MW』が連載されていた1970年代は、同性愛がタブー視されていた時代と言われている。そのため、既存作品を二次創作することで同性愛を描く「やおい」というジャンルは存在していたが、商業誌で同性愛が描かれることは少なかった。そのような状況下で、既に「巨匠」と呼ばれていた手塚治虫が『MW』のストーリー内でゲイ、レズビアン、そして獣姦までを堂々と描き切ったことが連載当時大きな話題となったのである。特にゲイの描写が鮮烈だったと言われており、『MW』をボーイズラブ作品の先駆けとする意見が多い。

実在する事件や人物がモデル

「MW」を吸って死亡した沖ノ真船島島民の遺体

『MW』の物語の中で重要な要素になっている「沖ノ真船島事件」は、実際に沖縄本島の米軍基地で発生した致死性のVXガス漏洩事故(1969年)並びにVXガスを島外へ移送した「レッドハット作戦」(1971年)をモチーフにしていると言われている。また、手塚治虫自身は語っていないが、同作品に登場する「自政党」のモデルが「自民党」で、「中田英覚」は「田中角栄」のアナグラムであると考察されてきた。

手塚治虫多忙のため背景が描かれなかった原稿

支店長を待っていた結城

『MW』の連載当時、手塚治虫は他に『ブラック・ジャック』や『三つ目がとおる』などを並行して連載しており超多忙であった。そのため、『MW』の原稿が落ちそうになったことがあり、担当編集者が手塚治虫のチェックが入る前の原稿を持ち帰り、それがそのまま雑誌に掲載された。実は、その原稿には背景を描き足す予定だったのだが、一部背景が白いまま載ってしまったのだ。このことを知った手塚治虫が、悔しさでアシスタントの前にも拘わらず泣いたというエピソードが『漫画手塚学校』の第12話で描かれた。後に当時アシスタントを務めていた漫画家の三浦みつるがインタビューにて、「泣いたというのは多少脚色があると思う。実際の手塚先生はすぐに仕事場から出て行ったのでその場が凍りついた」と証言している。なお、背景が白い状態のコマについては、単行本化されて以降も修正が施されていない。

原作漫画を大幅に改変した実写映画版『MW』

『MW』実写映画版DVDジャケット

『MW』の実写映画版は、玉木宏と山田孝之のダブル主演で2009年に公開された。人気俳優の共演で話題になった同作品だが、登場人物の名前とストーリーの変更や原作にいないキャラクターの登場など様々な改変が行われている。特に多くのファンを失望させたと言われているのが、同性愛描写のオミットだった。この改変について、後に制作スタッフが「主演俳優と2人の事務所はOKしたが、スポンサーがNGを出した」と証言したことで話題を集めた。

『MW』の主題歌・挿入歌

実写映画版主題歌:flumpool「MW 〜Dear Mr. & Ms. ピカレスク〜」

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