キロランケ（ゴールデンカムイ）の徹底解説・考察まとめ

北海道に渡り、ウイルクと別れアイヌの金塊について別々に調査していた。
カレバラ号が小樽に寄港する予定だったという情報を得ていた2人は、その周辺に金塊の情報があると考え、小樽のコタンにそれぞれ居を構える。ウイルクはより彼らと馴染むため、現地のアイヌ女性リラッテと結婚し、娘アシリパをもうけた。
後にウイルクは金塊の在り処を知る老人・キムシプと接触。北海道各地域に住まう過激派のアイヌらと結託する。キロランケはウイルクから声がかからなかったことで不信感をぶつけたところ、断りもなく計画を変更していたことがわかり、これをきっかけに二人は疎遠となる。
上記のとおり、もともとの二人の計画ではロシア極東・樺太・北海道に住む少数民族で極東連合を作り上げ、独立させることが目的であったが、ウイルクはより実現可能な北海道のみの独立に方針を転換。ロシア極東の少数民族に対しては、希望者は北海道への移民を募ることで体裁を整えようとしていた。
キロランケは「住み慣れた土地を捨てて移ったら文化や信仰などが消えてしまう」と、自身らの故郷と仲間を切り捨てる決断をしたウイルクに対して怒りを顕に殴り合いとなった。
この時、合理主義者のウイルクが、新しい計画の支障になり得るキロランケを始末しなかった点についても、キロランケは「ウイルクは北海道で家族を得たせいで変わってしまった」と感じていた。
その後、キロランケはウイルクと決別し、登別や苫小牧付近にいると思われる、アイヌの金塊の在り処を知る老人・キムシプを単独で探した。
1902年、アイヌの隠し金塊を巡って7人のアイヌがのっぺら坊により殺害され、表向きウイルクは死亡。のっぺら坊は逃亡したのち、囚人として捉えられることとなる。

キロランケは断絶したままウイルクが死亡したことに落ち込み、ウイルクの考えを知るため、自身も同じように現地のアイヌ女性と結婚した。のちに2人の子どもも授かったが、極東連邦のために金塊を使えば北海道アイヌのためになる、とキロランケはウイルクと同じ結論には至らなかった。

日露戦争に出兵

婚姻との前後は不明だが日本人としての戸籍を取得したことで日露戦争（1904年～1905年）に出兵。
日露戦争では第七師団に所属し工兵として活躍。馬の扱いに慣れており、軍でも馬の世話をしたほか、彼の作った手投げ爆弾が、日露戦争で手榴弾が使われるきっかけになった。また、二〇三高地ではロシアの堡塁を破壊するためにトンネルを掘ったこともあったという。

土方歳三と接触

日露戦争から北海道へもどったキロランケは、殺害された7人のアイヌの中には、失踪したとされるキムシプが居たという証言を得る。人数の都合から考えて、この殺害された被害者のなかにウイルクがいない（＝アイヌの隠し金塊の手がかりはある）という希望を抱いた。
そして、網走監獄を脱獄した刺青囚人の一人、土方歳三（ひじかた としぞう）が、「小蝶辺明日子（こちょうべ あすこ＝アシリパの和名）を探している」とキロランケの村を訪ねる。
この土方歳三は、幕末の侍、元・新選組の副長であり、公には戊辰戦争の折に戦死したことになっていたが、作中では生き抜いたものの極秘に収監されていた。彼は、蝦夷共和国の再建のための資金源とするため隠し金塊を求めており、のっぺら坊から直接金塊についての詳細を聞かされており、刺青囚人たちのリーダー的存在である。

アシリパの和名であるその名を知るのは、本来アシリパの両親など彼女にごく近しい人物しか知らないはずであった。
キロランケは、それが囚人らがアシリパに接触するための仕掛けであり、「のっぺら坊がアシリパに金塊を託そうとしていること」、「のっぺら坊＝ウイルク」であることに気づく。キロランケはウイルクが「弱くなった狼」と考え、のっぺら坊が間違いなくウイルクであることを確認した暁には、群れの一員として殺してあげることを決意した。

そのころ、元兵士の杉元佐一（すぎもと さいち）とウイルクの娘アシリパも、それぞれ「親友・寅次の妻・梅子の目の治療費の調達」と「父の死の真相の解明」という目的から隠し金塊探しに参加しており、刺青囚人の1人である脱獄王・白石由竹（しらいし よしたけ）を加えて、刺青囚人の情報を集めながら旅をしていた。白石は杉元と手を組みながらも土方と内通しており、土方から得た刺青囚人の情報を杉元らにもたらすことで旅の行き先を半ば操作していた。
キロランケは土方の来訪後、アシリパを訪ねに何度もコタンへ行くも、杉元と行動を共にし小樽の漁場で刺青囚人を追っていたアシリパには会えず、川で猟をしながらアシリパとの再会を待った。

杉元一行と初対面

キロランケは、川でイトウを獲っていた所を、小樽の漁場から戻る途中の杉元達と出会う。
そこで土方がアシリパを探して訪ねてきたこと、のっぺら坊がウイルクであることを告げる。
父の仇をとるために刺青人皮を集めていたアシリパは、のっぺら坊の正体とのっぺら坊の目的を知るため、網走監獄を目指すことになる。
キロランケも、自身の旧友がアイヌから金塊を奪ったことに責任を感じ、杉元らが相応の取り分を得た残りの金塊はアイヌに返すべきだとし、「最後まで見届けたい」と杉元一行の旅へ同行する。

もちろんこれは、あくまでも杉元らや極東連邦国家樹立の計画を知らないアシリパに対する建前であり、キロランケの目的は上記のとおり「極東連邦国家樹立のための資金を得ること」と「群れの中の弱くなった狼ウイルクを殺してあげること」であった。

蝦夷地ダービー

小樽のコタンを出たあと、一行は札幌で火薬を買い付けたものの、滞在した札幌世界ホテルの火事爆発に巻き込まれ火薬を失うことになった。一行は警察の捜査・追及を逃れ、爆薬を買いなおす資金調達のため、狩りをしながら刺青囚人の情報がある日高を目指した。
札幌から日高へ行く途中の苫小牧勇払で、占いをしながら北海道を放浪するインカラマッというアイヌ女性と出会う。

白石はインカラマッの占いによる一攫千金を狙って、苫小牧競馬場へ誘い、勝ちを繰り返して競馬にのめり込んでしまう。
キロランケはそこで、逃げ出した騎手の代走としてレースに出るよう依頼を受けることになった。実際のレースは裏でヤクザが八百長を仕切っており、キロランケが乗る馬は水を大量に飲ませて速度を落とすよう指示されていた。
しかし、馬に並みでない程の愛情を注ぐキロランケは、指示を無視し、代走するレースでモンキー乗りを披露し一着でゴール。ヤクザによる報復を恐れ、一行はすぐさま競馬場を後にした。
また、白石はこのレースでインカラマッにより別の馬を指定されていたため、これまでの大勝をふいにすることになった。

なおアニメでは、後述する熊狩りの話をカットされたため、行先は日高でなく夕張になり、競馬場は苫小牧ではなく長沼に設定が変更されている。

不死身の赤毛熊狩り

日高に到着した一行はフチ（アシリパのおばあちゃん）の姉から、一族に受け継がれていた花嫁衣裳が娘婿によって安い価格でエディー・ダンという牧場主に売られてしまった事を聞かされる。
アシリパは衣装を買い戻すためエディー・ダンのもとへ直談判へ行く。
その牧場では「指を撃ち落としても生えてくる」「目を撃っても治っている」という不死身の赤毛熊が現れ、たびたび馬を襲われ困っており、買い戻す代わりに熊を退治するよう脅迫される形で依頼を受けることとなる。
杉元・アシリパ組は熊退治に、白石・キロランケ組は森の中の農家で待機するため別々に行動する。
移動途中に、キロランケが手負いの馬を発見する。熊による負傷であったが、馬に情けをかけたキロランケは、獲物を奪われた熊に襲われることもわかっていながら、助けようとする。しかし早々に赤毛熊に見つかり、2人は馬を連れて慌てて農家へ逃げ込んだ。
そこで、先の苫小牧競馬場で八百長に失敗し大負けしたヤクザの親分・若山輝一郎（わかやま きいちろう）とその手下であり情人の中沢達也（なかざわ たつや）と出会う。彼らは代走騎手（＝キロランケ）への報復目的で一行を追っていた。
そのころ、杉元・アシリパは熊退治のため熊を誘おうと刺激したところ、2頭まとめて襲ってきてしまい、同じく農家へ退避。杉元は途中で弾薬ごうを落としてしまう。
実はこの赤毛熊は、それぞれ指を撃ち落とされたもの、目を撃たれたもの、無傷のものの3頭が巻き狩りをして馬を襲っていた。
杉元らは、屋外の3頭の熊を退治するため、（壺振り役の中沢による裏切りもあって）丁半博打で若山に勝ち、弾薬ごうを取りに行かせる役目を負わせる。
若山は、5発分の弾薬を回収することに成功するも、熊に追われ逃走。その際、ベルトを投げつけたところズボンが脱げ、下半身に金塊のありかを示す刺青が入っており、杉元らが追っていた刺青囚人であることが明らかになる。
杉元は手に入れた弾薬を装填し家屋を襲撃する熊1体を仕留める。また杉元がニリンソウと間違えて採取していたトリカブトの毒を使い、2体目の熊をなんとか弱らせることに成功。そこへ逃げ切った若山がエディー・ダンから借りたマキシム機関銃で3体目にとどめを刺す。弱っていた2体目は情人の中沢をかばおうと、相打ちの形で若山が長ドスで仕留めた。

若山の刺青人皮とフチの家の花嫁衣装を手に入れた一行は、エディー・ダンから人間の顔の皮で綴じられた本を見せられ、この本の出所が夕張であり、そこで刺青人皮を目撃したという情報を得る。

土方組と一時徒党を組む

夕張で剥製工房を訪ねた杉元一行は、土方歳三とその一行、元・新選組の永倉新八（ながくら しんぱち）、刺青囚人の牛山辰馬（うしやま たつうま）、家永カノ（いえなが かの）、第七師団から離反して土方側についていた狙撃の名手・尾形百之助（おがた ひゃくのすけ）上等兵と出会う。
その剥製工房では人間の死体を使い、偽物の刺青人皮が製作された痕跡があった。付近で鶴見篤四郎（つるみ とくしろう）中尉の腹心である第七師団の軍人・月島基（つきしま はじめ）軍曹が目撃されていたこともあり、鶴見の依頼により贋作が製作されたと知る。
鶴見中尉は、北海道に軍事政権を樹立するためアイヌの隠し金塊を求め、第七師団を率いて刺青人皮を求めていた。刺青を集めただけでは金塊の隠し場所は不明であり、暗号解読のヒントが必要であったことから、贋作を製作することで、土方らなどのほかの勢力の暗号解読を妨害しようとしていた。

杉元一行と土方はそこで、鶴見中尉による贋作の判別方法を突き止めるため、アシリパの目的「のっぺら坊の正体と目的を知る」ことと、土方の「金塊を手に入れ蝦夷共和国を再建する」目的が相反しないこともあり、一時共闘関係となった。
一行はアシリパが空腹だったこともあり、家永の作った「なんこ鍋」（馬の腸を味噌で煮込んだモツ鍋）を食べて親睦を深めた。馬を愛するキロランケは誤って口にしてしまっていたが、吐き出している。
この後、鶴見中尉の命令により、剥製工房は焼き払われることとなり、贋作の判別方法につながる証拠を失った一行は、二手に分かれて月形の樺戸監獄に収監されている贋作師・熊岸長庵（くまぎし ちょうあん）を訪ねることになった。

この際、キロランケは一時杉元・アシリパと行動を別にし、白石・土方・家永・永倉らと行動を共にすることになった。

白石の逃亡

永倉新八はかつて樺戸監獄の看守らに剣術の手ほどきをしたことがあったため、その伝手で、樺戸監獄に熊岸長庵との面会を申し込むも、熊岸は死亡したと返答を受ける。
月形で杉元らの合流を待つことになったが、土方と内通していたことがバレて杉元の恨みを買うことを恐れた白石は、一行からひっそりと逃げ出す。白石は、そこでウッカリ第七師団に捕らえられることになった。
白石が第七師団に捕らえられたことに気づいた土方らはさらに二手に分かれて、キロランケと土方で白石を追跡、家永と永倉が杉元らと合流する。

白石が旭川の第七師団基地に確保される前に逃亡を促そうと、キロランケと土方は変装して隙を生み出そうとするも、白石はもとより逃げる気がないため、機会を何度も無碍にする。
土方は第七師団が白石を連れてカムイコタンのつり橋を渡る際に、吊り橋を切り落とし川へ転落させ、キロランケが木舟で白石を救出・奪還しようとしたが、迷いのある白石はその手を取らず、結果そのまま第七師団基地へ連行されることになった。

その後、杉元らと合流した一行は、途中で杉元らが捕らえた刺青囚人であり詐欺師の鈴川聖弘（すずかわ きよひろ）を使い、網走監獄の典獄・犬童四郎助（いぬどう しろすけ）に扮して「脱獄した囚人を取り返すため」と偽装して潜入し奪還を試みる。
第七師団27聯隊長・淀川（よどがわ）中佐をだますことには成功したが、鶴見中尉の腹心・鯉登音之進（こいと おとのしん）少尉により変装は見破られ、鈴川は射殺される。杉元・アシリパ・尾形は白石を奪還し第七師団の気球を奪って逃走には成功したものの、ほかの土方一行らとはぐれ、行動を別にすることになった。
キロンランケはこの際に、土方とも杉元ともはぐれて一時単独で行動することになる。

インカラマッとの対立

鈴川聖弘のもたらした刺青囚人の情報により、杉元・白石・アシリパ・尾形は、気球を降りた後大雪山を下山して釧路を目指した。
釧路で学者であり刺青囚人である姉畑支遁（あねはた しとん）の刺青を手に入れた杉元らは、アシリパを追ってきた元第七師団の軍人でありマタギの谷垣源次郎（たにがき げんじろう）とインカラマッと合流する。

そこへ蝗害が発生し、避難した番屋で偶然にもキロランケは杉元らと合流する。
飛蝗が去ったあと、別の場所でインカラマッと避難していたアシリパから「父を殺したのはキロランケか」と直接問いかけられる。
インカラマッは鶴見中尉と通じており、7人のアイヌが殺された現場を操作し遺留品を保管していた鶴見中尉の協力で、「遺留品に残された指紋がキロランケのものである」＝「ウイルクを殺害したのはキロランケ」と情報をつかんでいた。それを蝗害の間アシリパと二人きりになったことで伝えていた。
しかしこれは、鶴見による情報操作であり、キロランケは7人のアイヌが殺害されたことについては関与していなかった。
一行は、「ウイルクを殺したのはキロランケ、のっぺら坊はキロランケの仲間」とするインカラマッと、「ウイルクは生きており、のっぺら坊の正体はウイルク」とするキロランケの主張の食い違いで疑心暗鬼に陥ることになる。
最終的には、杉元が「一方が殺されたら自動的にもう一方を俺が殺す」と宣言することで、網走監獄を目指す旅を続行することになった。

網走監獄潜入

日本で最も厳重な刑務所である網走監獄に潜入を目指す一行は、白石の発案で、網走川に面する裏側の塀のすぐそばでアイヌの鮭猟を装って小屋を作り、トンネルを掘り監獄敷地内への侵入を試みる。土方歳三の指示通りの距離を掘り進めるため、このトンネル掘りを日露戦争での経験を活かしキロランケが指揮した。
トンネルの出口は網走監獄の看守部長である門倉利運（かどくら としゆき）の宿舎に通じており、彼の協力を得て、杉元・土方らはのっぺら坊とアシリパが接触する計画を立てる。

土方の仲間である盲目の刺青囚人・都丹庵士（とに あんじ）の先導で新月の夜闇に紛れ、杉元・アシリパ・白石・都丹がのっぺら坊の房に侵入、キロランケと牛山・土方は宿舎で待機、尾形は山側で待機し必要時狙撃で援護、谷垣は川岸に用意した丸木舟で小舟をつないで待機、インカラマッと永倉・家永は近くのアイヌのコタンで待機となった。

杉元・白石・アシリパは門倉に指示された房に潜り込むも、そこで待ち受けていたのはのっぺら坊の替え玉であった。これは網走監獄の典獄・犬童四郎助（いぬどう しろすけ）がのっぺら坊を奪われないために用意していた者で、土方はそれを利用して杉元を裏切り、アシリパを奪うつもりであった。アシリパは替え玉であることを確認したのち直ぐ都丹庵士に回収される。そこへインカラマッと内通していた第七師団が乗り込んできたため、杉元と白石は替え玉のっぺら坊の房へ籠城することになった。
第七師団から逃れるため、白石は床板を外し床下の通風孔から関節を外して脱出するも、そのような芸当のできない杉元が出られず立ち往生することになってしまう。杉元は白石へアシリパを追いかけるよう指示し、白石は都丹・土方からのっぺら坊の居場所が教誨堂と推察されることを聞き出して逃げ帰ってきたアシリパと合流を果たす。
入れ違いで、第七師団の襲撃により異変を察知したキロランケが杉元の許へ向かう。その際に、アシリパからマキリ（小刀）を杉元へと託される。このマキリはアシリパの父ウイルクがアシリパのために製作したものであり、杉元がこれを手にのっぺら坊と接触することで、アシリパとの関係性を証明するためのものだった。
杉元が出られずにいる通風孔を広げるため、キロランケは手持ちの手上げ弾を着火し爆破、杉元を救出する。キロランケはアシリパに託されたマキリを杉元に渡してアシリパの待つ正門側へ、杉元はキロランケから得た情報を頼りにのっぺら坊のいるとされる教誨堂へ向かう。

土方は犬童典獄の後を追うことでのっぺら坊の居場所を突き止めることはできたが、待ち受けていた犬童に行く手を阻まれる。その間に、杉元が教誨堂から脱出してきたのっぺら坊と偶然にも出会い、彼を正門へと誘導。
インカラマッは第七師団の襲撃によって、アシリパや情を交わした谷垣が傷つけられることを恐れ、コタンで待機の指示を破り網走監獄へ侵入していた。正門で杉元を待っているアシリパ達に、正門の屋根に登って杉元とのっぺら坊が見下ろせると呼び、アシリパへ上がってくるよう促す。キロランケはアシリパと共に正門の屋根に登りのっぺら坊の正体を確認した。

遠目からのっぺら坊の正体がウイルクであることを確認したキロランケは、前もって造反を持ちかけていた尾形百之助に狙撃の指示を送り、ウイルクを抹殺する目的を達成した。
しかし尾形はキロランケとの計画には予定のない杉元の射殺も企み、頭部を損傷する重傷を負わせる。
目的を達成したキロランケは、アシリパと白石を小舟に乗せ網走監獄を脱出を促す。キロランケの裏切りに気づき、あとから追いかけてきたインカラマッを足止めするも、揉みあいとなり、偶発的にマキリで彼女の腹部を刺して重傷を負わせてしまう。インカラマッが腹部に突き刺さったままのマキリにしがみついたことで、キロランケは証拠となるマキリを回収できず、そのままアシリパ・白石を連れて尾形と合流し、樺太を目指した。

北緯50度線―国境越え―

樺太島に上陸したキロランケらは、アシリパに南樺太にあるウイルクの故郷や少数民族の生活を紹介しながら北上し、国境線を目指していた。この旅の目的は北樺太の西海岸にある、アレクサンドロフスク・サハリンスキーにある監獄、通称「亜港監獄」にいるパルチザンの仲間、ソフィア・ゴールデンハンドを解放してアシリパと接触させ、刺青の謎を解く鍵を思い出させることだった。
正規の方法では国境を越えるため旅券（パスポート）を申請するなどの手続きが必要であるが、やましいところのある者ばかりである一行は、当時自由に国境線を行き来できた少数民族のウイルタ族に変装して、日本とロシアの国境線を越えることにする。
しかし、トナカイのそりに乗って国境線を跨いだところ、ロシアの警備兵により先導のウイルタ族男性が狙撃され負傷する。
狙撃の手口から、ロシアの警備兵に手練れの狙撃手がいることに気づいた尾形により、一行は森の中に身を隠し、尾形が狙撃戦を制するのを待つことになった。
キロランケは仕掛け爆弾を用意し、狙撃兵以外の兵士が捜索してくるのを足止めした。

実はこの警備兵による襲撃は、元テロリストであるキロランケを狙ったものであり、北海道にいる鶴見中尉がキロランケを足止めするためにロシアへ情報を流したためであった。
先導のウイルタ族男性が狙撃されたのも、一時的に尾形が彼のベルダンM1870を借りる代わりに三八式歩兵銃を預けていたためである。

夜通しの狙撃戦を制した尾形は、重度の低体温症に陥りながら一行のもとへ帰還する。重症の尾形を捨て置けない一行は、ウイルタ族男性のいとこの家に宿を借り、回復を待ってから出発することになった。
この滞在中に宿の世話になった住民にトナカイの肩甲骨を使った占いをしてもらっており、「後方から人がくる」という結果を授かっている。
しかしこの占い結果は、一行が旅立った後で亀裂を増やし、「誰かが死ぬ」と暗示した。

亜港監獄襲撃と最期