いご草ちゃん（ゴールデンカムイ）とは【徹底解説・考察まとめ】

いご草ちゃんの概要

いご草ちゃん（いごぐさちゃん）とは漫画『ゴールデンカムイ』に登場する人物である。本名は春見ちよ（はるみちよ）といい、新潟県佐渡島出身で、月島基（つきしまはじめ）の幼馴染にして恋人である。月島は第七師団の軍曹で、鶴見篤四郎（つるみとくしろう）の右腕として登場した、実直な人物である。鶴見は第七師団の中尉であり、月島の上官である。カリスマ性を持つ一方、冷徹な一面を持つ。

月島は「人を殺した事がある」と噂される嫌われ者の父親の息子であった。この事から彼は、幼少期より島民達の迫害を受けていた。いご草ちゃんは、そんな月島と唯一心を通わせ、駆け落ちを約束した女性である。だが月島が日清戦争へ出兵している間に、両親の策略によって三菱財閥の幹部の息子と結婚させられてしまった。その後、東京へ移住し幸せな家庭生活を送る。しかし真相を知らない月島は彼女の行方を探し「父親が、いご草ちゃんを自殺に見せかけて殺した」という誤解から、実の父親を殺害して死刑囚となってしまった。更に鶴見により、いご草ちゃんはその存在を利用され、月島は彼の忠実な部下として尽くして行く事になる。いご草ちゃんは月島にとってかけがえのない存在であり、彼の人生に大きな影響を与えた人物として描かれている。

漫画『ゴールデンカムイ』は日露戦争直後の明治時代の北海道を舞台に描かれた作品である。顔の無い男“のっぺら坊”が隠したアイヌの金塊を求めて、様々な人々が熾烈な金塊争奪戦を繰り広げていく。血生匂い金塊争奪戦の傍ら、北海道の自然や文化、グルメを紹介していく内容となっている。金塊の隠し場所はのっぺら坊しか知らず、当人は網走監獄に幽閉されている。のっぺら坊は金塊の在処を暗号にして凶悪な24人の囚人に刺青として彫った。その24人の刺青の囚人は脱獄し、北海道の各地に潜伏している。刺青の暗号は囚人の皮を剥がして他の暗号と組み合わせるようになっており、のっぺら坊は意図的に互いに殺し合って刺青人皮を奪い合うように仕組んでいた。刺青を油紙に書き写すという方法もあるが、基本的に相手が凶悪な犯罪者の為殺し合いの末、刺青人皮を剥ぎ取るという展開になっている。金塊を求める者は他のライバル達と殺し合いながら、凶悪な犯罪者達と死闘を繰り広げなければならない。

金塊を求める勢力は大きく分けて三つ。一つ目は第七師団第27聯隊。情報将校の鶴見が率いている。第七師団は北海道開拓と防衛の為に創設された陸軍最強と言われている師団である。鶴見は中央から冷遇されている第七師団を率いて北海道に軍事国家を建国しようとしていた。その為の軍資金としてアイヌの金塊を狙っている。

二つ目は主人公の杉元佐一（すぎもとさいち）とヒロインのアシリパを筆頭にする杉元一行。杉元は日露戦争の激戦地203高地から生還した元兵士である。「不死身の杉元」の異名を持ち、どんな死地からでも生還する脅威的な生命力と戦闘力を持つ。物語序盤は故郷の幼馴染、剣持梅子（けんもちうめこ）の目の病気を治す為に金塊を狙い、物語が進むにつれてアシリパの力になる為に金塊を狙うようになる。アシリパは快活なアイヌの少女で、北海道の自然に精通し、弓矢の名手でもある。一方で鋭い観察眼を持ち、少女でありながら凶悪な刺青の囚人や金塊を狙う他のライバルと渡り合う実力を持つ。物語序盤、のっぺら坊はアシリパの父を含めた7人のアイヌを殺した仇という事になっており、アシリパは真相を知る為にのっぺら坊に会う為杉元に協力するようになる。物語が進むにつれて、のっぺら坊はアシリパの父ウィルクである事が判明し、ウィルクはアシリパに金塊を受け継がせて、北海道アイヌ民族の独立国家を建国させる為に金塊を隠した事が明らかになる。

三つ目は土方一派。元新選組副長であり、戊辰戦争を最後まで戦った土方を筆頭とした勢力である。土方は表向きは死んだ事にされていたが、実は網走監獄に収監されて生きていた。その後、刺青の囚人の一人として他の刺青の囚人達を率いて脱獄する。脱獄後、土方は仲間を率いてかつて夢見た北海道を独立させた蝦夷共和国の建国の為に行動を開始する。蝦夷共和国とはロシアからの日本侵略を防ぐ為の緩衝国として戊辰戦争時、幕末の志士達によって一時的に建国された独立国家である。

いご草ちゃんのプロフィール・人物像

CV:貫井柚佳

いご草（いごぐさ）ちゃんは第七師団の軍曹・月島基（つきしまはじめ）の幼馴染であり、恋人として登場した。縮れた髪の毛が特徴的な女性で、本名は春見ちよ（はるみちよ）である。台詞はかなり少なく、後ろ姿で描かれる事が多い。彼女の顔が描写されたのは、作中で一コマだけである。その為、全体的にミステリアスな雰囲気を醸し出している。分かっているのは、月島と相思相愛で器量が良い事である。

その特徴的な髪の毛が、佐渡島で採れる海藻の「いご草」に似ている事から「いご草ちゃん」と島民達に渾名を付けられている。その特徴をからかわれる事が多く、孤独感を抱く事が多かった。その点で、「人殺し」と噂される父親のせいで島民達から嫌われていた月島と通じ合うものがあり、彼と心を通わせていく。最終的に駆け落ちを約束する仲にまで発展する。だが月島が日清戦争に出兵している間に、佐渡鉱山を購入しに来訪した三菱財閥の幹部に器量の良さを気に入られ、彼の息子との縁談を持ち掛けられた。月島を想う彼女は当初この話を拒んでいたものの、両親から「月島が戦死した」という嘘を信じ込まされ、泣く泣く縁談を受け入れる。嫁ぎ先では、幸せそうに暮らしている描写があり、彼女の人柄の良さが垣間見える。

いご草ちゃんの装備・能力

特徴的な癖っ毛

特徴的な縮れ毛。この毛が佐渡島で採取される「いご草」という海藻に似ている事から、「いご草」と島民達から渾名を付けられ、からかわれていた。だが、月島は彼女の髪を好きだと告げている。

財閥幹部が見初めるほどの器量良し

いご草ちゃんは、三菱財閥の幹部も気に入る程の器量の良さを持ち、息子との縁談を持ち掛けられていた。結婚後も相手の男性から気に入られており、幸せな家庭を築き上げている。

作中では後ろ姿で描かれる事が多く、台詞も一コマのみと人物描写が極端に少なく、ミステリアスな印象を受ける。そんな彼女の人柄を示す数少ない特徴が「器量が良い」事でもある。因みに231話「出産」にて、初めて彼女の素顔が描かれた。

いご草ちゃんの来歴・活躍

佐渡島に生まれる

いご草ちゃんは佐渡島に生まれる。彼女の正式な名前は明かされておらず、作中では「いご草」と呼称されていた。名前の由来は、その特徴的な癖っ毛にある。縮れたその髪を人々は海藻の「いご草」に例え、彼女をそう呼んでいた。幼少期から「人殺しの息子」と揶揄され島中から嫌われていた月島基（つきしまはじめ）と親交を持つ。そんな彼を、いご草ちゃんは差別する事なく接する。月島はそんな彼女を愛し、いご草ちゃんも彼を愛する様になった。

東京へ嫁ぐ

大人になった月島は大日本帝国陸軍に入隊し、新潟県新発田の第二師団に配属される。直後に日清戦争が勃発し、彼は清へ出兵する事が決まった。故郷を離れる事になった月島は、いご草ちゃんに「戦争が終わったら駆け落ちをしよう」と告白をする。これに対し、いご草ちゃんは耳を赤らめていた。

日清戦争末期、佐渡高山を買い取った三菱財閥の重役が、佐渡島を訪れる。そこで、いご草ちゃんの器量の良さに目を付け、息子の嫁にしようと、彼女の両親に縁談を持ち掛けた。悪名高い月島と結ばれるより、「玉の輿」となる方が良いと考えた両親は、いご草ちゃんを説得する。だが、彼女は月島の事だけを想っていた。そこで彼女の両親は島ぐるみで一芝居を打つ。それは「月島が戦死した」という嘘を、島中に流す事であった。彼女の両親は月島の父親に金を渡し、「息子が戦死した」と嘘を吹聴させる。目論見は成功し、島中が月島の戦死を信じ込んだ。いご草ちゃんもこの嘘を信じてしまい、縁談を受け入れて東京に嫁入りしてしまう。そして彼女の両親は、月島が娘を連れ戻しに来ないよう、いご草ちゃんの自殺を偽装した。更に娘の帰省が必要無いように、自分達も東京へ移住してしまう。いご草ちゃんは真実を知らないまま、嫁ぎ先の男性に愛されて幸せな家庭生活を送った。

月島を手にいるために鶴見に利用されたいご草ちゃん

東京に嫁いぎ、幸せな結婚生活を送る、いご草ちゃん。だが日清戦争が終結し、島へ戻った月島は愕然とする。自分は戦死し、想い人のいご草ちゃんは、自殺をした事になっていたからだ。事実を知らない月島は「父親が、いご草ちゃんを死なせた」と思い込み、真相を聞く前に、父親を殴り殺してしまう。実の親を殺した月島は死刑囚として陸軍監獄に収監された。当時、肉親の殺害は「尊属殺人」とされ、死刑となっていた。想い人を亡くし、投げやりになっていた月島の元に、鶴見篤次郎（つるみとくしろう）が訪れる。鶴見は日清戦争の際、月島の上官を務めていた人物である。鶴見は月島の話を聞き、真相を探るべく調査に乗り出した。鶴見は情報将校を務めており、卓越した情報収集能力で真相を突き止める。

いご草ちゃんの居場所も特定した鶴見は、彼女と面会をしていた。いご草ちゃんは自分の髪を切り「月島の遺骨と共に埋めて欲しい」と、彼の上官である鶴見に託す。鶴見は、彼女に真実を伝える事無く、その場を立ち去った。そして再び月島の元を訪れ、突き止めた真実を話し、預かった髪の毛を月島に渡す。月島は、いご草ちゃんの生存に驚きつつも、死刑囚となったが故に、彼女との再会を諦めた。諦観を決め込んだ彼に、鶴見はロシア語を死ぬ気で学ぶよう激を飛ばす。この時鶴見は、宇佐美時重（うさみときしげ）が引き起こした殺人事件を隠蔽した結果、北海道の第七師団に情報将校として転属が決まっていた。宇佐美は同郷の鶴見に、恋情にも似た忠誠心を抱いている第七師団の上等兵である。この時彼は少年であったが、親友の男の子を鶴見への嫉妬心から殺害してしまった。鶴見は宇佐美の想いの強さに目を付け「鶴見が移動に使っていた馬が、宇佐美の親友を蹴り殺してしまった」と偽装工作をして彼を庇った。だが、この宇佐美の親友というのが鶴見の上官の息子であり、怒った上官は鶴見を北海道の第七師団へ左遷してしまったのである。

ロシアと日本の戦争を予期していた鶴見は、月島をロシア語の出来る優秀な部下として監獄から連れ出そうと考えていたのである。これ以降、月島は死ぬ気でロシア語を勉強し、鶴見の工作によって死刑を免除された。そして監獄から出された月島は、ロシア語の通訳として鶴見と共にロシアへ赴くのであった。

鶴見の忠実な部下として九年間、共に活動をする月島。そんな中、日露戦争が勃発し、奉天に出兵する。戦地で月島は、偶然居合わせた同郷の第二師団の兵士から「いご草ちゃんの遺体が見つかった」事を聞く。いご草ちゃんが生きていると思っていた月島は、鶴見が「自分に嘘をついた」と激昂し、彼に殴り掛かる。鶴見は淡々と「いご草ちゃんが死亡し、絶望して死刑を受け入れていた月島を救う為に、あの様な事を言った」と真相を語り始める。その時敵からの砲撃が始まり、咄嗟に鶴見は月島を庇った。月島達は爆発に巻き込まれ、重傷を負う。この時、鶴見は前頭葉の一部を吹き飛ばされ、脳の一部が露出する大きな傷を負った。

重傷を負った月島と鶴見は、迅速な手当ての甲斐があり、一命を取り留める。野戦病院で鶴見は、月島に真相の続きを話し始めた。いご草ちゃんは生きており、今も東京で生活をしている。鶴見は月島を死刑から救い出す為、一芝居を打った。「月島は、父親に幼少期から虐待され、婚約者を自殺に見せかけて殺される。逆上した彼は、父親を殴った末に誤って殺してしまった」という筋書きで、鶴見は月島を救い出そうとしていたのである。こうする事で月島は「尊属殺人」より罪の軽い「過失致死」を犯した事になり、鶴見の手によって死刑から免れる事が出来たのである。その際鶴見は、偽のいご草ちゃんの死体を用意し、事前に月島の実家に埋めた。後日、佐渡島の住民達の目の前で、いご草ちゃんの死体を月島の実家から掘り出したのである。こうする事で父親の「非道さ」を演出し、住民達に嘘を信じ込ませたのであった。そして、この鶴見の嘘を信じ込んだ1人が、月島に接触した第二師団の兵士だったのである。鶴見は月島に「如何に自分が月島を必要とし、大切に想っているのか」を熱く語りつつ、真相を話すのであった。

実の所、第二師団は奉天会戦では第七師団とは別の場所に配置されていた。つまり第二師団の兵士が、戦地で月島と接触する事はあり得ないのである。月島はこの事から、これも鶴見の工作であり、大掛かりな芝居である事に気付く。だが嘘と嘘が錯綜し、何が真実なのか分からなくなった月島は思考を停止してしまった。そして命懸けで自分を救い、自分を必要とする鶴見の為に働く事を決意する。彼は自分が鶴見に利用されている事に気付きつつも「自分は救われたのだから、それで良い」と諦観の様な心境に至ったのだった。

日露戦争終結後、月島は北海道の小樽の海に、いご草ちゃんの髪の毛を捨てる。それは真実を探る事を捨て「鶴見の為に命懸けで尽くす」という心の現れであった。これ以降、彼は鶴見の右腕となり、己の心を殺して汚れ仕事を淡々とこなす冷徹な人物となる。そして月島は第七師団の一員として、過酷な金塊争奪戦に身を投じていくのであった。

いご草ちゃんの関連人物・キャラクター

月島基（つきしまはじめ）