真夏の方程式(小説・映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『真夏の方程式』とは、2010年から連載されていた東野圭吾の『ガリレオ』シリーズが原作の、2013年公開の日本映画である。監督は西谷弘。夏休みを玻璃ヶ浦の川畑(かわはた)家で過ごすことになった柄崎恭平(つかさききょうへい)は、仕事で来ていた湯川学(ゆかわまなぶ)と出会う。しかし同じ時期に玻璃ヶ浦に来ていた元警視庁の刑事が遺体で見つかったことにより、川畑家が抱える秘密が次第に明るみになっていく。この物語は海を臨む美しい町で湯川が少年とともに事件解決に進む様子と、血を超えた家族の愛が描かれている。

米山先生(よねやま/演:筒井 真理子)

成実が東京で通っていた私立中学校の教師。捜査に来た岸谷に協力する。しかし在校期間が短かった成実について証言するようなことはあまりなく、成実が所属していたテニス部の同期を紹介するに留まっている。

『真夏の方程式』の用語

海底資源

玻璃ヶ浦駅の海底資源掘削に反対する垂れ幕

メタンハイドレードやマンガン団塊、レアアース泥などの、深い海の底に眠る資源のこと。日本はエネルギーや鉱物資源に乏しく、資源の安定供給は常に不安定である。それを解消するため、日本の領海や排他的経済水域内に眠る海底資源を有効活用する計画として「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」が2009年より続けられている。この計画は専門的な探査や開発、そのために必要な技術開発等を具体的に定めている。

脳挫傷

交通事故、転落事故、スポーツなどの何らかの原因により、脳に強い衝撃がかかって起こる「脳の打撲状態」のことを言う。軽度の脳挫傷であれば、脳へのダメージはほとんどなく症状もほぼ現れない。重度の脳挫傷の場合はそのまま死に至るか、数時間もしくは数日かけて脳機能の低下をもたらす。その際の具体的な症状として、一時的な意識消失、眠気や錯乱、嘔吐、けいれん発作などがある。

不完全燃焼

ボイラーの不完全燃焼による、一酸化炭素中毒の発生を調べる実験

暖房器具やボイラーの不完全燃焼は、何らかの原因により器具内で十分な酸素が用意できずに燃焼不良となり、一酸化炭素を発生させる。一酸化炭素は強い毒性があり、体内に取り込むと一酸化炭素中毒となる。一酸化炭素中毒の症状としては、頭痛や吐き気が主で、一酸化炭素の濃度の濃さによってはわずか数分で死に至る。今作の塚原の事件では、重治が塚原を壁に亀裂が多くある「海原の間」に誘導し、睡眠薬で眠らせた。緑岩荘のボイラーはもともと不完全燃焼気味だったため、煙突や窓をふさいでボイラーから逆流してきた一酸化炭素を壁内部の管から「海原の間」に自然と漏れ出るように仕向け、塚原を一酸化炭素中毒死させたのだった。

業務上過失致死

業務上に必要な注意を怠って人を死傷させることを言う。業務上過失致死によって適用される業務上過失致死罪は、5年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金に処されることになる。「業務」の概念は「仕事」にのみ適用されるのではなく、人が社会生活を送るうえで反復・継続して行われることにも適用される。具体的には、娯楽での車の運転で起こった死傷も業務上過失致死に該当する場合がある。

『真夏の方程式』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

湯川 学「ある人物の人生が大きく捻じ曲げられる可能性がある」

恭平の人生への影響を懸念する湯川

湯川が恭平のことを案じ、言ったセリフ。湯川は岸谷らと塚原の事件の真相を追ううち、早い段階から犯人は重治で、恭平がその犯行に巻き込まれたことに気づく。恭平は自分が緑岩荘の煙突を塞いだことで塚原が死んだことに当然気づいておらず、この先もそれに気づくかはわからない。しかし捜査を慎重に進めなければ思わぬ形で恭平が事実に気づく可能性もあった。そのため湯川は草薙や岸谷に「この事件はかなり厄介だ。慎重に調査を進めなければ、ある人物の人生が大きく捻じ曲げられる可能性がある」と言う。まだ幼い恭平が事実を知ってしまえば、恭平は動揺し自分を責めることになる。そのため湯川は、恭平に知られないうちに事件を解決し、恭平を守る体制を作ろうとしたのだった。

互いを想い合う川畑家

「私の娘なんですから、成実は」と言う重治

川畑家は、互いに秘密を抱え合う家族だった。節子は成実が仙波との子であることを、成実は伸子を殺したことを、そして重治は節子と成実の秘密を知っているということを隠し合っていた。しかしそれらの秘密は、3人が互いを本当に愛しているからの秘密だった。成実は重治の子ではないが、重治は「節子が産んでくれた娘がかわいいのは当たり前です。私の娘なんですから、成実は」と言う。そして重治は家族を守るため、15年前の事件の真相を知っているかもしれない塚原を殺した。この事実を知って節子は「そう……」と静かに受け止め、成実は「お父さん、ごめんなさい」と大粒の涙を流し謝罪するのだった。

湯川 学「忘れるな、君は1人じゃない」

恭平(左)を諭す湯川(右)

物語の最後、玻璃ヶ浦駅で湯川が恭平に言ったセリフ。恭平が父の敬一と玻璃ヶ浦をあとにする前、湯川は自首しようとする成実に「(君には)大事な使命がある。……恭平君を守ることだ」「恭平君はいつか気づくだろう。自分が何をしてしまったのか。その時から彼は自分を責め、秘密を抱えながら生きていくことになる。だが同時に、(重治がなぜ自分に協力させたのか)きっと知りたいと思うはずだ。彼がそれを聞きに来た時には、真実を包み隠さず話してほしい。すべてを知ったうえで、自分の進むべき道を進むために」と依頼する。そして恭平本人にも「問題には必ず答えがある。だけど、それをすぐに導き出せるとは限らない。だが焦ることはない。僕たち自身が成長していけば、きっとその答えにたどり着けるはずだ。忘れるな、君は1人じゃない」と諭す。いつか恭平が事実に気づいてしまったときに不必要に傷つかないよう、そして前を向いて歩いていけるようにという気持ちからである。塚原の事件によって恭平の人生は捻じ曲げられてしまう可能性があったが、湯川はこの言葉を伝えることで恭平と成実に希望を託したのだった。

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