下剋上球児（ドラマ）のネタバレ解説・考察まとめ

『下剋上球児』の概要

『下剋上球児』とは2023年10月15日から12月17日までTBS系「日曜劇場」の枠で放送されたテレビドラマである。原作は菊池高弘著の書籍『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』である。実在する三重県白山高校が、2018年高校野球夏の甲子園に初出場するまでを描いたノンフィクション作品。ドラマでは高校野球部を舞台に学校、家族、自分自身の問題を抱える登場人物のさまざまな夢や愛が描かれている。

三重県にある越山高校野球部は弱小。廃部寸前の野球部に主人公・南雲脩司（なぐもしゅうじ）が顧問兼監督として下剋上を目指し、部員を集めて野球部を再出発させようとするが南雲にはある問題を抱えている。部員の中にも悩みを抱えている子がいて、部活を通して仲間や周りの人達に支えられ、甲子園を目指して成長していく。

主人公・南雲脩司役は鈴木亮平、南雲と一緒に野球部を支える山住香南子（やまずみかなこ）役は黒木華である。主題歌はSuperflyの「Ashes」。

『下剋上球児』のあらすじ・ストーリー

越山高校野球部

2016年3月三重県立越山高校では、社会科の教師・南雲脩司（なぐもしゅうじ）が、次年度から1名の部員を除いてほぼ幽霊部員の野球部の顧問兼監督に打診されていた。南雲は妻・南雲美香（なぐもみか）と二人の子供との時間を大事にしたいと思っていて、顧問への就任を拒んでいた。そんな中、越山高校に家庭科担当の教師・山住香南子（やまずみかなこ）が赴任してくる。山住は南雲と一緒に野球部を強くしたいとやる気満々で、スポーツで実力がある中学生たちを受験前から勧誘する。地元の有力者・犬塚樹生（いぬづかいつき）の孫で名門クラブチームのエースだった犬塚翔（いぬづかしょう）も強豪校への受験に失敗したため越山高校に入学する事になった。
南雲は3年生が引退する夏の大会までの3か月間限定で野球部の監督を引き受けた。山住の発案で部員の実力を測るため、フィジカルテストを実施する。翔ら実力のある新入生と、ゆるく野球を楽しみたいだけの部員達とのモチベーションの差があり、チームはまとまらなかった。
さらに新入生・根室知廣（ねむろちひろ）は、学校を休みがちになっていた。根室は通学にも部活にもお金がかかるので、姉・根室柚希（ねむろゆずき）に迷惑がかかると悩んでいた。
そんな中チームは、賀門英助（がもんえいすけ）率いる強豪・星葉高校との練習試合をするが、越山高校が惨敗する。そんな中、南雲は山住を呼び出し大事な話をする。それは南雲が教員免許を持たずに高校教師をしていることだった。教師を年度いっぱいで辞めるつもりの南雲は、これ以上監督も続けられないと告げた。南雲の話を聞いた山住は動揺を隠せなかった。

事件の真相

ある日バッティングセンターで会社員に絡まれた越山高校の生徒が、相手の挑発に乗ってしまい暴力事件へと発展してしまう。その生徒はキャプテン・日沖誠（ひおきまこと）の弟で、南雲のクラスの生徒である日沖壮磨（ひおきそうま）だった。南雲と山住が連絡を受けて警察に行くと、補導された壮磨がいた。壮磨は処分が決まるまで自宅謹慎になり、南雲が事態に対処する事になった。
壮磨は兄・誠が3年間一人で練習してきた事をバカにしていた。しかし南雲は辞めずに毎日努力している事のすごさを壮磨に伝え、壮磨は真剣な眼差しで兄を見た。
南雲が壮磨の事件の対応をするため、あらためて横田宗典（よこたむねのり）が監督に就任した。練習試合が終わると、誠は思い詰めた表情で南雲の家を訪れた。事件は弟・壮磨ではなく、自分がやったとバッティングセンターでの真相を南雲に告白する誠。壮磨は兄と野球部を守るために罪を背負おうとしていたのだ。
野球部が大会に出場停止になる事を恐れていた誠だが、南雲は一緒に謝りに行こうと言う。被害にあった会社員に謝罪すると、スマホを弁償するように言われる。しかし被害者のスマホはもともと事件前から壊れていた。その事を知った南雲が相手に伝えると、相手はバツ悪くなり被害届を取り下げ事件は解決した。壮磨の自宅謹慎も解け、野球部も出場停止を免れた。
南雲は事件が終わると、校長・丹羽慎吾（にわしんご）に退職の話を切り出した。しかし丹羽は代わりの先生が見つかるまでと言って話を濁すだけだった。南雲は自分の罪に苛まれ、毎年退職届を申し出ているが、慰留されていた。
事件解決後、南雲は野球部に顔を出さなくなった。それでも選手の役に立ちたいと山住から届く映像を見て改善点を伝え、練習方法など指示を出した。しかし練習試合を重ねても勝つ事はなかった。そのため部員達は南雲の不在に不安になる。
一方南雲家では、美香に以前働いていた会社から1年だけ復帰してほしいと声がかかっていた。南雲は自分が教員免許を持っていない事を伝えたかったが、美香の東京行きを聞いて言い出せずにいた。

南雲の告白と努力

いよいよ甲子園予選1回戦の日がやってきた。越山高校の対戦相手は、一回戦で敗退した多気高校。監督の横田を隠れ蓑に副部長として指揮を執ることになった南雲は、この大会を最後に教師を辞めると決意していた。エースの翔をはじめ、久我原篤史（くがはらあつし）、楡伸次郎（にれしんじろう）ら1年生の活躍もあり、越山高校は有利な展開になる。しかし夏の一勝はできず、越山高校は敗退となった。
そんな中、美香は南雲を残し子供達と東京へ行く事を決意した。南雲は自身の罪と向き合う事になれば、街の人やマスコミから責められると覚悟している。しかしそれが子供達にも届いてしまう事を心配して美香が下した決断に賛成した。事情を知らない息子・南雲青空（なぐもあおぞら）は東京行きに難色を示していた。
南雲は覚悟を決め、校長・丹羽に教員免許を偽造した事を明かした。丹羽はあまりの罪の重さに厳しい表情になった。
南雲は東京に行く美香達を見送ってそのまま警察署に向かう。警官に「不正を働きました。罪を償いたいと思って伺いました」と告げた。
南雲が無免許で教師をしていた事はすぐに街中に広がり、野球部員達も困惑していた。越山高校では校長・丹羽や山住が保護者たちの対応に追われていた。南雲の裏切りに激怒した犬塚は、強豪校から野球指導のできる新監督を勝手に決めてしまう。
一方、南雲家では青空が学校で南雲の悪口を聞くなど家族に影響が出ていた。在宅で取り調べを受ける事になった南は、担当弁護士に、教師を目指す経緯を話す。南雲の両親は小学生の時に蒸発し、当時担任だった寿竜也（ことぶきたつや）が南雲の面倒をみてくれていた。中学を卒業したら働こうと思っていた南雲だが、寿が高校進学を勧めてくれた。高校では賀門が野球部に誘ってくれた。南雲の今があるのはこれまで関わった先生達のおかげなので、どうしても教師になる事を捨てられず志したのだという。続けて、越山高校に入ってすぐに辞めるつもりでいたが1人の生徒の変化を見て、辞められなくなってしまったと弁護士に告げた。
その頃野球部では、新監督・塩尻（しおじり）が就任した。しかし塩尻はエースの翔は使えるが、他の部員はダメだと切り捨てスカウトに力を入れていた。部員たちは練習にもほとんど顔を出さなくなる。そんな部員達を山住は練習のサポートをする。
山住は南雲の事も気になり南雲の自宅に行く。処分の事や今の野球部の話をする。南雲の処分はまだ決まっていないので身動きはできないが、野球部の事が気になる南雲は各生徒の弱みや強化ポイントをまとめたノートを山住に見せた。それを基に山住は練習メニューを組む事にした。
野球部に1人有望な新入生が入り、野球部の練習は厳しくなった。そんな中、離島から通っている根室が行方不明になる。根室は通学時間が長いのに加え、練習とアルバイトで疲労が溜まり電車で寝過ごしてしまった。それを知った南雲は根室の通学の負担を減らすため、南雲の自宅から通学する事を提案する。
根室が南雲の自宅に帰ったある日、南雲に会いたがっていた他の野球部員達も一緒に訪ねてきた。南雲はみんなの野球に対する思いを聞き、やる気のなかった部員達が希望に満ち溢れている事を感じ涙した。そんな中、担当弁護士から不起訴が決定したという連絡が入る。
弁護士が検察に提出された二千人弱の署名が書かれた嘆願書を南雲に手渡す。その嘆願書は楡が考えたもので代表者として校長・丹羽、横田、山住の名前もあった。さらに昔の教え子越前恵（えちぜんめぐみ）のものもあった。約二千人の署名は、今まで南雲が教師として生徒や学校のために努力してきた結果だった。

南雲監督の復活

一方山住は横浜青隆高校を辞めるきっかけとなった生徒・椎野陽大（しいのようだい）と偶然再会する。椎野は親の都合で五十鈴高校に転校していた。そんな時夏の予選で対戦相手となる五十鈴高校の野球部員から、山住は前の学校で部員と淫行したと聞かされる。部員達は驚き南雲に電話で確認するが、それを聞いた南雲は山住がそんな事をするわけがないときっぱり否定した。その電話で楡が、五十鈴高校に勝ったら野球部の監督として南雲に戻ってきてほしいと言い出した。南雲は勝ったら監督に復帰すると約束する。
迎えた夏の甲子園の予選の当日。越山高校と五十鈴高校の試合が始まった。初回に3点を取られたが、7回で根室の活躍により逆転する。越山高校は1点差を守りきり、五十鈴高校に勝った。この1勝で南雲は約束通り、越山高校野球部監督に復帰。山住の噂も全くの嘘だった。山住を陥れるために椎野が仕組んだ事だった。2回戦は敗北した越山高校だが、南雲が監督として復帰し、甲子園出場を目標としてこれまでより多くの練習試合をこなす。冬の厳しい練習にも耐え、部員達はたくましく成長した。監督に復帰した頃東京から美香が戻り、南雲もよりやる気になっていた。春になり新入生も加わり、夏の県大会予選が始まった。
弱小だった越山高校は、これまでと違いベスト8まで勝ち進む。そのせいで部員たちは浮ついてしまい、準々決勝では雑な攻撃になる。油断だらけの試合だったがなんとか勝利し、準決勝に進出する。準決勝の対戦は、賀門率いる星葉高校。そんな時翔とかつて同じクラブチームだった星葉高校の江戸川快斗（えどがわかいと）と児玉拓海（こだまたくみ）に、自分達みたいに野球一筋で努力してきた強豪が勝つべきだと言われる。それを聞いた越山高校の部員達は火がついた。

準決勝

その頃、南雲は星葉戦のスターティングメンバーで悩んでいた。準々決勝の試合で翔の投球を星葉高校が撮影しに来ていた。そのため翔の投球は、研究し尽くされている。そう思った南雲は、翔を先発ピッチャーから外し、根室を起用しようとする。山住は翔や他の部員の事を考えて反対する。
一方犬塚翔の祖父である樹生が目の病気で失明する恐れがあり、翔はその事で不安を募らせていた。
準決勝当日、翔はピッチャーから外され、代わりに根室が先発に選ばれた。翔だけではなく、キャプテン・椿谷がスタメンから外され2年を抜擢されるなど部員達にも変化があった。部員達は、戸惑ったが監督である南雲が決めた事なので覚悟を決める。そんな時部員達にお守りを手渡ししていた山住が倒れてしまう。数日前の練習の時に山住の脇腹に打球が直撃した。その場では大丈夫だと言っていた山住だが、実は痛みを我慢していたのだ。山住不在の試合が始まった。星葉高校相手にミスを連発する越山高校。焦る部員達に南雲は、部員達にバカにしたような言葉を言う。それに対して部員達は怒りだした。しかしその怒りで緊張がほぐれ、いつものプレイを取り戻した。根室の完投と翔のサヨナラヒットで見事に越山高校は決勝進出を決めた。
試合後南雲は自分の犯した罪に対して賀門に謝罪する。賀門は南雲の事を許しており、甲子園出場を目指す南雲を激励する。
その頃越山高校ではある問題を抱えていた。野球部が甲子園に出場するための遠征費用がない。この問題を解決するため校長・丹羽は、樹生などの地元の有力者を集めて事情を説明し援助してもらえるように頼んだ。
準決勝の試合の後、南雲の家に部員達が訪れ決勝へと決意を固める。三年生は、決勝戦が高校生活最後になるかもしれない試合。そしてその後の進路について思いを巡らせるのだった。そんな中、大学からスカウトを受けていた根室は、これ以上柚希に苦労をかけたくないためその事を言えずにいた。

日本一の下剋上

いよいよ決勝の日、対戦相手は伊賀商業。越山高校は、チーム一丸となって球場入りする。試合開始後越山高校は一時は苦戦するが、根室の2点タイムリーヒットや、壮磨のヒットにより、試合は同点に追いつく。しかし、7回裏に伊賀商業に逆転される。続く8回表では、越山高校の逆襲が始まる。椿谷のヘッドスライディングや、楡のツーベースヒットなどがあり、ついに5対5の同点になる。さらに1点を追加し6対5と勝ち越しに成功。9回裏では、伊賀商業がノーアウト満塁のチャンスを作るが、越山高校はこれを抑え勝利した。優勝した越山高校野球部は、初の甲子園出場の切符を手に入れ、日本一の下剋上を果たす。
心配していた甲子園出場の資金は、寄付や募金などですぐに集まった。そして樹生の手術も無事成功する。
そしていよいよ甲子園。これまでに味わった事がないような応援の中、球場に入る部員達。南雲は「この景色を一生忘れるな」と部員達に言った。試合の結果は11対0で惨敗。2018年の夏は終わる。
2023年の冬、越山高校野球部のOB会が開かれる。部員達はそれぞれの道に進んでいた。翔は家業を継ぐ傍から、越山高校野球部のコーチもしている。根室は特待生として大学に進み、卒業後社会人チームで活動している。他の部員達も旅館を継いだり、公務員になっていた。南雲は他のチームで野球を教えている。

『下剋上球児』の登場人物・キャラクター

主要人物

南雲脩司（なぐもしゅうじ）／演：鈴木亮平

少年期／演：羽山由一郎、青年期／演：平川丈
三重県立越山高校野球部の監督。2児の父で妻とは共働き。大学まで野球一筋だったがケガのため大学を中退。しかし教師への夢が諦められず、32歳で大学に再入学。教員試験に合格し、2013年に三重県の教員として内定をもらう。越山高校の教諭として社会科地理・歴史を担当。3年目の2016年に野球部の顧問兼監督を期間限定で引き受ける。しかし過去に大学卒業に必要な単位を取得できておらず、教員免許を偽造する。その件で自身が耐えきれず学校を退職し警察に自首する。野球部をはじめ2,000人の嘆願書によって不起訴処分になる。2017年三重大会の一回戦突破を機に非教員として越山高校野球部監督に復帰。2018年三重大会で優勝し、甲子園初出場を成し遂げる。

越山高校の教諭

山住香南子（やまずみかなこ）／演：黒木華