インカラマッ（ゴールデンカムイ）とは【徹底解説・考察まとめ】

アシリパを追って小樽から網走へ向かう途中の夕張にて、山で猟をする谷垣・チカパシと別行動で、インカラマッは街で占いをして路銀を稼いでいたところ、千里眼で炭鉱をあてる詐欺をしていた青原と遭遇する。青原が三船千鶴子を探していたのを千里眼であてたインカラマッは、青原に三船千鶴子に成りすますよう拳銃で脅され、夕張炭鉱会社の幹部らに会いに行く。
その幹部らの目の前で、千里感をもって、三船千鶴子を探し当てた。
本物の三船千鶴子が現れたことで、夕張炭鉱会社の幹部らは青原の詐欺に気づき、依頼は破談になる。怒った青原はインカラマッを縛り、報復としてインカラマッを脅して金づるに仕立て上げようとした。
そこへ、猟から戻ってきた谷垣とチカパシが、インカラマッの窮地を救うこととなった。
谷垣はインカラマッを助けることにあまり乗り気ではなかったが、チカパシの「インカラマッは一緒に旅をする家族だから、戦って助けないと」という言葉に心動かされ、救出することとなった。普段はポーカーフェイスのインカラマッも、チカパシの「家族だから助ける」という気持ちを谷垣から聞かされて照れる様子を見せ、これをきっかけに三人の絆を深めた。

ラッコ鍋

釧路のコタンの近くで、動物たちを惨殺して粗末に扱う（獣姦）事件が起こっていた。その犯人として谷垣が疑われ、アイヌ達に追われたため、谷垣はインカラマッとチカパシを巻き込まないよう単独で逃亡。途中で合流したアシリパ・杉元らの働きにより、真犯人が捕まり、谷垣の疑いが晴れることとなる。
谷垣は当初の目的通りにアシリパへフチが不安を募らせていることを伝え、一度小樽のコタンへ戻ることを勧めるが、アシリパは「今を逃せばのっぺら坊の正体を明らかにすることは2度とできない」として、のっぺら坊の囚われている網走監獄へ向かうと答える。谷垣もアシリパを無事に小樽のコタンへ返すため、旅へ同行することになった。

釧路町の海岸で、インカラマッは谷垣に夕張で助けてもらったことや、冤罪で谷垣が追われたときに巻き込まないよう配慮してくれたことについて、お礼を言う。インカラマッは徐々に谷垣に好意を抱き始めていた。その二人の様子を見ていたアイヌ漁師のお爺さんは、二人を夫婦と勘違いして、ラッコの肉を譲ってくれる。
ラッコ肉は、その焼ける匂いが欲情を刺激するため、一人で食べてはならないという言い伝えがあり、独り身のお爺さんが二人に譲ってくれたものだった。インカラマッは照れ隠しにハマナスを採取しにいくと言って谷垣のもとを離れるが、その間に蝗害が発生する。
大量のバッタから逃げるため、谷垣は番屋へ、インカラマッは沖でマンボウをとっていたアシリパと舟で避難する。
インカラマッはそこで、アシリパにウイルクとの思い出を語って聞かせるが、「父は北海道のことはすべて母に聞いたと言っていた。インカラマッの存在は聞いたことがない」と返される。インカラマッは懐疑的なアシリパを前に、「当時の自分はまだ子供だったので忘れちゃったかもしれません」と涙をこぼした。
同じ頃、谷垣はラッコの肉を鍋にして杉元・白石らと食べており、結果やり場のない熱を相撲で発散していた。

バッタが去ったあと杉元らは気まずそうに番屋をそそくさと出るが、谷垣はひとり番屋の中で横になっていると、インカラマッが現れる。
インカラマッは、谷垣に「ラッコの肉を食べたせいにしていい」と言いながら、ウイルクに忘れ去られた寂しさを埋めるように、好意を抱き始めていた谷垣とオチウ（性交渉）に及んだ。

屈斜路湖での死の運命

刺青人皮の情報を得た一行は、屈斜路湖周辺の温泉宿に滞在する。そこでは、新月になると夜闇に紛れ変わった刺青をもつ強盗が度々現れ、周辺のコタンでは困り果てていた。
犯人は、硫黄山で外役させられたことで失明した都丹庵士（とに あんじ）らであり、目が見えない分、音に敏感な自身らの習性を活かして強盗を繰り返していた。
旅の男性メンバーが露天風呂に入浴する間、宿の按摩に、強盗が襲って来る時に聞こえる音について話を聞いたアシリパとインカラマッは、すでに自分らの周囲を強盗が嗅ぎまわっていることに気づく。杉元らに危険を知らせようとするが、すでに強盗は刺青の情報を得ようとする杉元らを炭鉱職員と勘違いし露天風呂で入浴していた丸腰の一行を襲っていた。それぞれバラバラに逃げ、反撃に転じる。
谷垣も、旅の一行の身を案じてやってきたインカラマッと合流する。屈斜路湖まで逃げ、アイヌの漁師が置いていった木舟に乗って温泉宿に戻り体制を立て直そうとするが、強盗に襲われ、船が転覆する。
インカラマッは泳ぐことができないため、湖の底へ沈んでいった。
インカラマッはそこで熊たちに囲まれ、自身が死の国へと送られる夢を見る。この夢は、アシリパと再会した折に聞いた、フチがアシリパの母・リラッテが死ぬときに見たものと酷似している。インカラマッが死ぬ運命であることは、ウイルクと別れた時に「北海道の東で死ぬため、二度とウイルクと会うことができない」という結果がでていた。そのため、これが「死の国へ送られる夢」とすぐに理解し、占いの通りに自身が死ぬ運命を受け入れていたインカラマッだが、空から巨大化した谷垣が現れ、インカラマッを救い出す。
インカラマッが意識を取り戻すと、谷垣がインカラマッを抱き湖を泳いでいた。
インカラマッは、この一連の夢から、「自分はここで死ぬ運命であったが、谷垣によって救われた。運命は変えられる」と確信する。

網走監獄へ潜入

網走監獄の刺青囚人の中には、公には戊辰戦争で戦死したとされた土方歳三（ひじかた としぞう）もおり、彼もまた蝦夷共和国の再建のため、数名の刺青囚人と徒党を組みアイヌの隠し金塊を狙っていた。
のっぺら坊の正体を知りたいアシリパと、のっぺら坊に刺青を施され金塊を求める土方は、目的は違えど相反しないとして、一時徒党を組みのっぺら坊の脱獄を目論む。そこには、鶴見中尉のもとを離反した狙撃の名手・尾形百之助（おがた ひゃくのすけ）上等兵もいた。
インカラマッもまた、のっぺら坊の正体を確かめるため、一行と行動を共にし、網走監獄へ潜入する。
しかしインカラマッは裏で手を組んでいた鶴見中尉に、網走監獄へ潜入することを報告していた。
鶴見中尉率いる第七師団は、自らも金塊を求める網走監獄の看守達と杉元達が相打ちになったところでのっぺら坊とアシリパを掠め取る目的で、襲撃を仕掛ける。

密かに潜入した杉元・土方組だが、第七師団の襲撃により網走監獄看守との三つ巴の戦闘が予想され危険だったため、アシリパとインカラマッは屋根にのぼり、杉元がのっぺら坊を屋外へ連れ出すことで正体を確認することになった。
インカラマッとアシリパは、杉元によって屋外に連れ出されたのっぺら坊がウイルクであることを確認したが、直後にキロランケと尾形百之助（おがた ひゃくのすけ）の裏切りにあいウイルクは狙撃され死亡、杉元も頭部を撃たれ重傷となる。
インカラマッは、アシリパに「金塊の謎を解く鍵はあなたの中だけに存在することになった、あなたを巡って殺し合いになるから」と逃亡を促す。実際この時点で鶴見は、人の皮で作られた刺青人皮の贋作を用意しており、他の勢力に奪わせ暗号解読を妨害しようと画策していた。そのため、鶴見の持つ刺青人皮を奪ったとしても暗号解読のヒントがなければ贋作と真作を見分けるのも困難となる状況であった。
その後、狙撃の合図を放ったキロランケを問い詰めるも混戦となり、偶発的にキロランケのマキリ（小刀）が腹部に刺さり重傷となる。アイヌのマキリはすべて手製の一品ものであり、キロランケの裏切りの証拠として、回収されないよう腹に突き刺さったまましがみつき、奪い取ることに成功した。
しかし、キロランケは尾形とともにアシリパを強奪し、樺太へ渡った。

出産

網走監獄で重傷を負ったインカラマッだが、鶴見中尉によって第七師団に匿われる。また同じく土方組からはぐれることになった医師であり刺青囚人の家永カノも第七師団に捉えられており、医師として重傷のインカラマッと杉元の容態を診察した。
すぐに回復した杉元は、キロランケ達からアシリパを奪還するため、一時的に鶴見と手を組む。鶴見は、自分に心酔する青年士官の鯉登音之進（こいと おとのしん）少尉と腹心の月島基（つきしま はじめ）軍曹を先遣隊として編成し、ここに情を交わしたインカラマッを傷つけられて怒り心頭の谷垣を加えた4人が樺太に渡ることとなった。

樺太先遣隊は、無事キロランケからアシリパを奪い返したが、樺太大泊港で帰還船に乗って現れた鶴見中尉とアシリパの間で「保護されたあとのアシリパと杉元それぞれの処遇」と「アイヌの金塊の使い道」について、交渉が決裂。アシリパは杉元と同行を続けるつもりだったが鶴見は杉元とアシリパを引き離し別々の船で帰還させてようとした。また、金塊の用途についてもアシリパは「アイヌ民族の未来のために使う」ことを望んだが、鶴見はこれを「そもそも和人を殺すための軍資金だった（＝そのアイヌの未来に配慮する義理はない）」と明言を避けた。
結果、アシリパは杉元・白石とともに逃亡。成果のないまま北海道へ戻ることになった谷垣だったが、インカラマッが自分との間に子を妊娠していることが発覚し、この妊娠の事実は谷垣だけでなく第七師団にも知られることとなる。
鶴見は、杉元やアシリパから信頼されている谷垣を改めて駒として利用するべく、彼の子を宿したインカラマッを網走の病院から別の場所へと移動させていた。
インカラマッはそのまま、谷垣にとっての人質という立場となり、谷垣は鶴見によってアシリパを追うことを強要されることとなる。

谷垣は仕方なしに流浪の旅に出るはずだったが、網走の病院周辺を嗅ぎまわっていたところ、イケマの根をもつ婦人に出会い、彼女から小樽の絵葉書を見せてもらう。この絵葉書はインカラマッが、谷垣が探してくるのを想定して送ったものだった。
谷垣は、臨月のインカラマッを奪う形で第七師団の病院から連れ出すも、逃走途中に破水し、やむを得ずフチのいる小樽のコタンへ逃げ込む。この際追っ手として鯉登少尉・月島軍曹も小樽のコタンへ乗り込んだが、分娩が進行しており、結果アイヌ女性らに言われるまま手を貸し、インカラマッは無事女児を出産した。
最終的には、鯉登少尉の計らいで、産後間もない谷垣・インカラマッとその子を見逃す形で逃亡を許した。

鯉登少尉が二人を見逃したのには、樺太から負傷して戻った際同じ病院で療養している間インカラマッに占いを披露され気を許すようになったことも関連しているが、次のような強い正義感が大きな理由である。
彼は、この時点で様々な策略で兵士をたらし込んで自身の駒にし、邪魔者は容赦なく排除していく鶴見の行いに疑問を感じていた。しかし、鶴見の言動は“日本を守る”という点で一貫しており、自分が騙され利用され、一時的に日本軍に対して裏切り行為を働いていても、その根底には“日本を守る”という正義が伺えた。
よって、鯉登少尉は「正義を成そうとしている我々が、戦いに疲れて妻と共に去ろうとしている者を追いかけて殺すのは、自らの行いを穢すも同然。鶴見のためにも月島のためにも、谷垣たちのためにも、ここで彼らを見逃すべきである」として、二人を見逃す決断を下した。

谷垣の五稜郭戦への参戦を見送る

金塊争奪戦の最終局面、五稜郭攻囲戦が始まったそのころ、偶然にもインカラマッと谷垣は、生まれたばかりの子どもを連れて函館の街にいた。
戦闘が行われるさなか周囲の異変に気づき、街の老婦人に「五稜郭で日本軍とロシア軍が戦争しているらしい」とあやふやな情報を聞いていたところ、土方と行動を共にする元新選組の永倉新八（ながくら しんぱち）が五稜郭へ向かって走る姿を見つける。永倉は谷垣へ「来るなッ！」と争いへ巻き込まない様に配慮するも、谷垣は、フチに世話になったにも関わらず、アシリパが一番大変なときに力になれない自分に歯噛みする。
インカラマッは、子どもが生まれたばかりの産後まもない体でありながら、谷垣が未練なく自分の役目を果たしてケリをつけてくるのを待っている、と気遣い、アシリパの許へ行くよう促した。
谷垣はインカラマッへ必ず戻ると約束し、五稜郭での戦いに参戦。アイヌの金塊の半分が使われた北海道の土地の権利書を手に入れ、五稜郭から逃亡しようとするアシリパが落馬しそうになるところを助けた。
谷垣はその後アシリパらを函館駅へ向かう列車に乗せたものの鶴見による銃撃で負傷、死亡したかに思われた。しかし、そののち激しい戦闘で機関士を失い暴走する列車から、杉元に投げ出されたアシリパを助けるため再度登場。読者へ無事な姿を見せ、インカラマッとの約束を果たした。

後日譚

金塊争奪戦後、谷垣とともに彼の故郷の阿仁へ移り住み、15人の子どもを儲けた。
作中で出産した第一子は女児であったが、その後はすべて男児であったという。子どもは全員谷垣によく似た顔立ちである。

インカラマッの関連人物・キャラクター

ウイルク

アシリパの父であり、樺太アイヌの母とポーランド人の父をもつ。北海道アイヌの中でも珍しい特徴的な青い瞳の持ち主。のっぺら坊の正体であり、網走監獄の囚人に金塊の在り処を示す刺青を施した。もともとロシアのパルチザンの一味であり、極東に住む少数民族を守るため、北海道アイヌの金塊を求めてキロランケとともに北海道へ渡った。アシリパの母・リラッテと出会い、結婚。アシリパを儲ける。アシリパをアイヌの先頭に立って戦えるよう教育を施した。
北海道アイヌの金塊の在り処を突き止めたが、自身の過去を知る何者か（＝鶴見中尉）のもたらしたパルチザンの残党であるという情報により、自分を疑う者と庇う者との間で殺し合いとなってしまった。事件の容疑から逃れるため、自身の顔の皮を剥ぎ、他の遺体に被せて逃亡。鶴見の追跡を逃れるため、支笏湖周辺の監獄部屋に逃げ込み、網走監獄へ投獄されることで生き延びた。
樺太から北海道へ渡ったばかりのころに少女のインカラマッと出会い、旅をした。インカラマッに数々のアイヌの文化について教わったはずであるが、アシリパには「すべて妻から教わった」と説明しており、インカラマッについては一切話していなかった。
インカラマッはウイルクに対して恋心を抱いていたが、ウイルク本人はインカラマッのことは友人として大切にしており、別れの時に母の形見の衣装（赤いチンヂリ）を贈った。
ウイルクはインカラマッが網走監獄に現れた際、彼女の着るチンヂリを見て、ひと目でインカラマッだと認識した。

谷垣源次郎（たにがき げんじろう）

第七師団歩兵第27聯隊に所属する軍人で階級は一等卒。出身は秋田県の阿仁。従軍前は地元でマタギとして猟をして暮らしていた。
物語の開始当初は鶴見中尉の手駒のひとりであったが、刺青人皮をもつアシリパを単独で追跡するもレタラに攻撃され気を失っている間に、同じ任務についていた軍人らもヒグマに襲われ死亡。仕掛け罠にかかって負傷し、消息を断つ形で任務を外れた。その後、アシリパのコタンでフチ（アシリパの祖母）の世話になり療養したことで恩義を感じ、第七師団から袂を分かつ。
「アシリパの同行者に裏切り者がおり、命に関わる危険が迫っている」というインカラマッの占いにより不安を覚えたフチを安心させるため、アシリパを追いかけて旅に出る。ついてきたインカラマッに対して、当初は懐疑的でそっけない態度であったが、薄情になりきれない性格で、彼女の身が危険になったときは、同行するチカパシの説得もあり救出した。旅を通して徐々に絆を深め、好意を抱くようになり最終的にはインカラマッとの間に子どもを儲けた。
旅に出た当初は猟をするなどして路銀を稼ぎながら旅をするつもりでいたが、インカラマッが占いでよく稼ぐので、ご飯をよく奢ってもらい徐々に胸や尻などが大きくなった。本人は否定しているが、周囲からは「（インカラマッの）ヒモ」などと認識されていた。

チカパシ

アシリパのコタンにいたアイヌの少年。家族を疱瘡で亡くした孤児。
猟に興味があり、恩返しとしてアシリパの叔父と猟をしていた谷垣を影からコッソリ見ていた。チカパシに少年の頃の自分を重ね共感した谷垣が猟する様を見させたことで、懐く。アシリパの叔父いわく「他の子どもと遊ばない変わった奴」。
谷垣がアシリパを追って旅に出た際、こっそりついてきた。居場所のないコタンに無理やり帰されないよう、「家族のふりをすれば怪しまれない」と提案し、渋々ながら谷垣の了承を得る形で旅に同行した。
チカパシによる設定では、インカラマッは「トカプ（おっぱい）の大きなお姉ちゃん」であり、谷垣は「近所に住む金玉のでっかい人」。