空飛ぶ広報室（小説・ドラマ）のネタバレ解説・考察まとめ

『空飛ぶ広報室』の概要

『空飛ぶ広報室』とは小説家の有川浩が執筆した小説であり、2012年7月27日に幻冬舎より単行本が出版され、2016年4月12日に幻冬舎文庫より文庫判が出版された。その後2013年4月〜6月にTBS系列にてドラマ化された。航空自衛隊の広報室を舞台にした話であり、映像化するのは難しいと言われていたが、防衛省・航空自衛隊の全面協力で作成された。
ドラマ化するにあたって脚本に野木亜紀子、プロデューサーに土井裕泰と磯山晶を迎えた。
ブルーインパルスに乗るという夢を叶えるために、航空自衛隊のパイロットになった空井大祐（そらいだいすけ）。着実にステップアップし、念願のブルーインパルスに乗ることが決まり松島基地への異動も決まっていた。だが、松島基地への異動の直前に不慮の交通事故にあいパイロット免許を剥奪される。失意のまま1年が経ったときに広報班への異動となる。そして、報道記者になるという夢を叶えるために警視庁クラブの報道記者になった稲葉リカ（いなばりか）。ガツガツ仕事をする稲葉は行き過ぎた取材をしたことにより、報道局から情報局への異動となる。夢やぶれた2人が出会い、仕事や恋愛、人間関係など新しい夢に向かって歩んでいく物語である。
小説とドラマでは設定や内容が異なる部分がいくつかある。小説での主人公は空井大祐だが、ドラマでの主人公は稲葉リカである。小説では航空自衛隊の広報や、航空自衛隊の仕事をメインに書かれているが、ドラマでは仕事がメインではなく、恋愛の要素が多く取り入れられている。最終的な結末も小説とドラマでは異なっている。
小説『空飛ぶ広報室』は2012年12月に雑誌『ダ・ヴィンチ』の「BOOK OF THE YEAR 2012」で小説ランキング部門の1位を受賞し、2013年には第148回直木三十五賞候補にノミネートされる。ドラマ『空飛ぶ広報室』では綾野剛が第22回橋田賞の新人賞を受賞した。
ドラマでの共演者は柴田恭兵、ムロツヨシ、要潤、生瀬勝彦など豪華なメンバーである。平均視聴率は12.6%で最高視聴率は最終回の15.3%であった。
『空飛ぶ広報室』のドラマ主題歌は安室奈美恵の『Contrail』である。このドラマのために書き下ろした楽曲であり、配信限定シングルである。

『空飛ぶ広報室』のあらすじ・ストーリー

出会い

戦闘機F-15Jに乗った航空自衛隊パイロットである空井大祐（そらいだいすけ）と、同期である峰永圭介（みねながけいすけ）とのドッグファイトのシーンから始まる。

ドッグファイトから1年後、不慮の交通事故にあいパイロット免許を剥奪された空井は、航空幕僚監部広報室の広報班へ異動となった。そして、帝都テレビの稲葉リカ（いなばりか）は念願だった報道記者になれたが、取材相手から訴えられたことで情報局へ異動となった。そこで「働く制服シリーズ」を任され、航空自衛隊を訪れることになる。

今回帝都テレビから新しい担当者が来ると聞いた航空幕僚監部広報室の鷺坂正司（さぎさかまさし）室長は空井にやらせてみることにする。
稲葉は自衛隊を毛嫌いしており知識も全くなく、航空自衛隊でスクープをとり早く報道局に戻ろうと考えていた。

そんな中帝都テレビドラマ班から、人気の日9ドラマの撮影協力を頼まれる。1週間後という無茶なスケジュールだが、鷺坂室長は営業マン顔負けの交渉術で、各所への許可取りに走り回り、撮影許可が出た。そして報道局に戻りたいと考えている稲葉は、空井メインに密着することを決め撮影を始める。その際に鷺坂室長から1年前の航空自衛隊の広報誌を渡され、そこで初めて空井が元戦闘機パイロットだと知る稲葉。

撮影当日トラブルにより撮影が止まってしまうが、空井がトラブル解決のために全速力で走り撮影は無事に終わった。

事故の後遺症により全速力で走れない空井は足を引きずり床にしゃがみこんでしまう。稲葉はカメラを回しており、空井は全く本音を話せないでいた。そのとき、撮影にきていた子どもにブルーインパルスに乗るにはどうしたらいいか聞かれ、空井は泣いてしまう。それを見た稲葉は空井が事故を忘れられずに前に進めていないと思い、撮影することをやめる。空井は全てをさらけだして泣いてしまい、稲葉は頭をなでてあげる。このことで空井は広報官として進むきっかけとなった。

自衛官との結婚

広報室のメンバーとの懇親会に行くことにした稲葉は、広報室のメンバーとも距離が近づいてきた。そこで、隊員たちに今までの恋愛についての企画を考える。だが企画に目玉がなく困った稲葉は空井に相談する。すると、近くに結婚式を控えている隊員がいると知り、取材できないか空井に頼む。その隊員は戦闘機パイロットの同期、峰永であった。事故以来の対面だったが、抱きしめて友情を確かめ合いドッグファイトのときと同じようにじゃれあっていた。

結婚式当日を迎え式が進んでいくと、新婦である滝川安奈（たきがわあんな）の両親がいないことに気付いた稲葉と空井。探してみると、安奈の父親滝川紘一（たきがわこういち）が峰永の職業にまだ納得していなかった。それを聞いた空井は広報官に任せてほしいとお願いする。席に戻ると鷺坂室長のスピーチが始まり、それを聞いていた安奈の両親は新郎新婦2人の表情を見て、大丈夫だと安心する。

その夜広報室のメンバーと飲むことになった稲葉。ガサツでおっさんな広報室の紅一点柚木典子（ゆずきのりこ）と険悪になるが、お酒を飲み進めると稲葉は酔っ払ってしまう。酔っ払った稲葉は柚木を空井と思い込み、空井へ当たりが強かったことを謝り抱きしめてしまう。

2秒で変わること

メディック隊員のPVは航空幕僚監部幹部らの許可が出なかったことで、1から考えることになった広報班。予算が少なく自分達で撮影することに決め、入隊した理由をもとに作成することになる。隊員募集すると、空井と教育課程を一緒にしていた芳川秋恵（よしかわあきえ）が選ばれる。それと同時に帝都テレビの新しいミニ番組「あしたキラリ」にも出演する。

そんなある日、稲葉は同期の藤枝敏生（ふじえだとしお）が報道キャスターに志願していたことを知る。休暇中のキャスターに変わり報道キャスターとして登板するが失敗してしまう。同期の藤枝が苦しんでいたことを知り、何かできないか考えた稲葉は「あしたキラリ」のナレーションを藤枝に任せる。

航空自衛隊のPVは入隊説明会に間に合い、稲葉はPV完成まで密着取材として同行する。すると、稲葉は入隊説明会でスピーチを頼まれてしまう。稲葉は広報室のメンバーと出会えたことで前を向いて進んでいるというスピーチで会場を盛り上げたのである。

入隊説明会の帰り道、空井は稲葉に2秒だけもらいキスをする。それに応える稲葉は手を繋いで帰っていくのであった。

会わない決意、見えた景色

航空自衛隊のPVは評判上々で、航空自衛隊に追い風が吹いていると盛り上がる広報室のメンバー。しかし、NPO法人はたらく市民の会代表、小日向耕三（こひなたこうぞう）が、航空自衛隊のPVを見て戦争讃美だと伝える新聞記事が出ていた。その夜帝都テレビで放送しているNEWS番組に小日向が出演しており、テレビでも自衛隊を酷評していた。稲葉は納得いかず報道局長にまで訂正するよう直談判するが、何も変わらなかった。そして、稲葉は航空自衛隊の担当を外されてしまう。稲葉は空井からの質問には何も答えずに一方的に別れを告げる。

稲葉と空井、どちらもお互いのことを想って涙を流すことしかできなかった。

それから半年後、空井はたくさんの企画を考えて営業に行っていた。全ては退官が近付いている鷺坂室長のためである。営業している途中で、日9ドラマの主演俳優である桐谷隆史（きりたにたかふみ）にブルーインパルスに乗せてもらえないか相談される。桐谷隆史と空井は過去に航空自衛隊でのドラマ撮影のときに面識があったからである。鷺坂室長へのはなむけにはこれ以上ないと考え、広報室のメンバーたちは大急ぎで準備に取り掛かる。

空井から稲葉に松島基地への新幹線のチケットが送られてきた。稲葉と空井は隣同士でブルーインパルスを見られたのである。

キリーのブルーインパルス特番が大ヒットし、帝都テレビで航空自衛隊特集をすることになった。今までの密着取材を元に作成することになった稲葉は、空井のところへ挨拶に行こうと電話する。

あの日の松島〜見えたこと

また明日と言って電話を切った日に、東日本大震災が起きる。東日本大震災の日に松島基地で仕事をしていた空井。震災後、稲葉と空井はメールでやりとりをしていたが、空井からこのまま松島基地に残り、もう連絡は取らないと告げられる。お互いを想うあまりそれぞれ身を引くことを決意したのである。

その後稲葉の番組で東日本大震災が起きた松島基地のことを取り上げることになった。空井がいる松島基地へ取材に行かなければならないが、公私混同してしまうから行かないと決心する。だが、決心したその日にかつての広報室メンバーから稲葉に取材してきてほしいと懇願される。

稲葉はあの日に松島基地で起きた全てを空井に取材する。取材が終わると鷺坂が稲葉のところへ来てくれ、松島に住んでいる人たちの話も聞けることになった。松島の住人にとってブルーインパルスは復興の証だと知った稲葉は、次の日の取材を松島基地外から撮ることにする。

ブルーインパルスの帰還、地元の人たちの笑顔、それを見ていた稲葉と空井はお互いのいる場所へ走り出し、自分の想いを伝え合う。

数ヶ月後、鷺坂は子どもの野球コーチとして人生を楽しんでいた。そして空井は松島基地の広報として、稲葉は東京の帝都テレビで働き遠距離結婚していた。

『空飛ぶ広報室』の登場人物・キャラクター

主人公

稲葉リカ（いなばりか／演：新垣結衣）

ドラマ『空飛ぶ広報室』の主人公。帝都テレビのニュース番組「帝都イブニング」のディレクター。負けず嫌いである。
父親が新聞記者だったことで報道記者になることを目指す。念願の報道記者となり警視庁記者クラブとしてガツガツと仕事をしていた。だがそのガツガツさが裏目に出て、当時容疑者と言われていた家族に強引な取材を試みる。だが、その容疑者は無罪だったことでテレビ局にクレームが入り、稲葉は情報局へと異動となる。早く報道局に戻りたい一心で、航空自衛隊でスクープを取ろうとしている。広報室の室長である鷺坂から「いなぴょん」と名付けられる。

空井大祐（そらいだいすけ／演：綾野剛）

小説『空飛ぶ広報室』の主人公。空幕広報室広報班所属。2等空尉であり、元戦闘機パイロット。TACネームはスカイ。
子どものときに見たブルーインパルスに憧れ、ブルーインパルスのパイロットを目指す。その後着実にステップアップし、ブルーインパルスのパイロットとして松島基地への異動も決まっていた。異動の目前に不慮の交通事故に遭い、パイロット免許が剥奪される。失意のまま1年を過ごし、その後空幕広報室の広報班へ異動となる。

航空幕僚監部広報室

鷺坂正司（さぎさかまさし／演：柴田恭兵）