鯉登音之進(ゴールデンカムイ)の徹底解説・考察まとめ

鯉登音之進とは野田サトル原作の漫画・アニメ『ゴールデンカムイ』に登場する人物で、大日本帝国陸軍第七師団歩兵第27聯隊に所属する陸軍少尉である。鶴見篤四郎中尉を崇拝しており、彼からも「お気に入り」とされている。銃器が多く登場する本作において、薩摩に伝わる日本剣術・自顕流を実践で通用するレベルにまで鍛え上げた一流の使い手。海軍少将の鯉登平二を父に持ち、裕福な家庭で育ったいわゆる「ボンボン」。様々な場面で月島基軍曹の補佐を必要としたが、最終的には一人前の将校へと立派に成長した。

妊娠中のインカラマッを人質として第七師団に確保されていた谷垣が、たとえ危険だとしても彼女と我が子の傍に居たいと、彼女を奪還し第七師団を脱走した際、執拗に追いかけて始末しようとする月島を諌めるためにかけたセリフである。普段は補佐を必要とすることが多く、上官らしい働きをするどころか、行動を諫められることが多かった鯉登が「銃を下ろせ これは上官命令だ」と声を掛けることで、読者が彼の立場にハッと気づかされる。さらに、鶴見に対して疑念を覚えていた鯉登に「鶴見中尉の邪魔をするなら殺す」と宣言した月島に対し、「私は鶴見中尉殿と月島軍曹を最後まで見届ける覚悟でいる」と述べる事で、 “日本のために自分の正義を模索している”というのがよく分かり、軍人としての彼の成長が伺える。

「もうこの男を解放してあげてください」

満身創痍の月島(後)を庇い、彼の解放を懇願する鯉登(左前)

補佐官として優秀な月島と過酷な任務をこなす中で徐々に信頼関係を得ていた2人であるが、鶴見への疑念により鯉登は鶴見の元を去る決意したのに対し、月島は鶴見の元に残る決意し道は分たれたかに思われていた。しかし、月島が鶴見と心中するように五稜郭攻囲戦の延長戦へと挑むのを見ると、鯉登も彼らを追いかけ参戦した。彼らの共通点は鶴見の芝居によって忠誠を造り上げられたことであったが、鯉登の補佐を「面倒くさい」「子守り」などと称しつつも彼の素直で真っ直ぐな心根に、月島自身も知らず知らずに心動かされていたのは確かである。任務を忠実に遂行する実直な軍人であった月島が、アシリパの確保が最優先の場面において鯉登を救出に行ったり、牛山を斃すために持っていた手投げ弾を鯉登の登場で投擲できなかったりするなど、鯉登のために何度も行動を翻している。
そんな月島を鶴見と心中させたくなかった鯉登の「もうこの男を解放してあげてください」という懇願は、これまでの月島の壮絶な人生を見せられてきた多くの読者の気持ちを代弁するようなセリフだった。

「だからこそ優秀な右腕となる人間が必要だ」「月島軍曹 私のちからになって助けてくれ」

大人びた精悍な表情で月島をスカウトする鯉登

金塊争奪戦の後日、多大な損害を出した上金塊を得られず、中央に対する反乱分子として処罰される第七師団に残された軍人たちを率いていく立場となった鯉登が、彼らを守るために必要な右腕として月島をスカウトしたときの言葉である。勝目の乏しい大仕事であるとも言えるが、それを全うする覚悟を決めた鯉登は大人びた表情で「だからこそ優秀な右腕となる人間が必要だ」と自身の未熟さを理解した上で「私のちからになって助けてくれ」と月島を頼る。金塊争奪戦の最終局面で、鶴見から聞きたかったにも関わらず得られなかったその言葉を真っ直ぐに告げる鯉登に、月島もまた「いつもまっすぐな人だ」と畏敬の念を覚えた。どこか意固地になって鶴見に奉仕していた月島自身もようやく本来の意味で救われたと感じられる、鯉登の真っ直ぐさが凝縮されたセリフである。

鯉登音之進の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

杉元に小便をかけられるシーンは『花の慶次』のオマージュ

鯉登(左)の手に貼り付いたカナヅチをとるため小便を出す支度をする杉元(右)

極寒の中、素手で触ったカナヅチが貼り付いてしまった鯉登は、手の皮が剥がれてしまわぬよう掌の凍った水分を融解させる必要があった。これにちょうど良かったのが体温と同じ温度で放出される小便であったため、「誰か小便かけてやれ」と月島が声をかけると、よりにもよって嫌味の応酬を繰り返す相手である杉元が進み出る。
杉元が「オレ…出るぜ」と言いながら「ごっしごっし」と支度をするのは、漫画『花の慶次』で主人公の胆力の凄さを表す描写として、戦闘中に敵へ小便をかけてみせるシーンのオマージュである。鯉登はこれを嫌がり逃走するも結局かけられてしまい、その後に登場したコマでは外套の左後ろにシミのようなものをつけて、右手を嫌そうに見つめていた。
作者の野田サトルはこの慶次の表現について、インタビューやTwitter、ゴールデンカムイの公式HPのQ&Aでも言及しており、よほど印象に残っていたとみられる。
なおこのシーンは漫画での逃走シーンは1コマであったにも関わらず、アニメでは4カットも挿入されアニメ作品の魅力である「間合い」を上手く表現している。

稲妻強盗夫婦の息子を鶴見が抱く姿は『歌を歌う天使達(1881)/ウィリアム・アドルフ・ブグロー』のオマージュ

赤ん坊を抱く鶴見(左)とそれを見守る月島(中央)、鯉登(右下)、二階堂(右上)

『ゴールデンカムイ』は作中の随所に古今東西の名作をオマージュしている。このシーンでオマージュされているのは、19世紀フランスのアカデミズム絵画を代表する画家ウィリアム・アドルフ・ブグロー作の『歌を歌う天使たち』であり、元ネタを知らない人もあまりの出来過ぎた構図と神々しさから、一目で何かのオマージュであることを察した。
独身であるはずの鶴見の堂に入った抱き方が聖母のように重なり、音楽を奏でる天使達に彼の部下である月島・鯉登・二階堂が配置されている。天使たちの持つ楽器の代わりに、鯉登の軍刀と二階堂の義足が配置されているのも上手く描かれている。
後に鶴見が妻子を亡くしていたことを読者が知ると、このオマージュによって隠されていた伏線に舌を巻くことになる印象的なシーンでもある。

週刊誌掲載分と単行本とで演出が異なる「五稜郭攻囲戦にて鯉登と鶴見が対峙するシーン」

かつて鯉登少年が監禁されていた運命の場所で対峙する鶴見(右)と鯉登(左下)のシーン(加筆修正前)

『ゴールデンカムイ』は週刊誌掲載と単行本化でいくつか加筆修正が行われているが、最終巻では大きく修正されたシーンがある。そのうちのひとつが、この五稜郭訓練所内での鶴見と鯉登が対峙するシーンである。
元々の週刊誌掲載分では、金塊争奪戦後に中央より反乱分子として裁かれる部下達を憂いた鯉登が鶴見を問い詰めた際、鯉登は「鶴見から部下を守る」と表現しそれに対して鶴見の方から「中央の裁きには人身御供として死ぬことを了承する」描写が行われていた。しかし、単行本化にあたっては鶴見は部下の行く末を顧みておらず、鯉登はそれにより自身から鶴見の下を去った様に描写が変更されている。
この修正によって鯉登本人の成長による別離であることが読者にとって分かりやすく描かれた。さらに鯉登自身が鶴見にかけて欲しかった「私の力になってくれ」という言葉を、最終話にて鯉登自身から月島にかけることでこれらのシーンの対比となり、その末路の違いが印象的な表現となっている。

鯉登少尉のキエエエッ(猿叫)!!ボタン

出典: kamuy-anime.com

kamuy-anime.com

作中で“「キエエエッ(猿叫)!!」といえば鯉登少尉”と言っても過言ではなく、父平二の「もすッ」に並んで、彼の代名詞となっている。
彼自身の読者による高い人気もあり、アニメの公式HPでは彼の猿叫をTwitterで投稿するボタンまで稼働されている。ボタンを押すと鯉登の画像とともにTwitterの投稿文が作成されるのだが、一定の確率で彼に関係するキャラクター画像が登場するため、他の画像見たさに何度も押してしまうファンも居たという。またこれにより「鯉登少尉」がトレンド入りすると、事態を確認しようとしたファンがボタンを押してしまいさらに投稿者を増やすという顛末まであった。とはいえ、投稿文が作成されるまでが自動で行われるだけで、投稿自体は内容を確認してから行えるため、投稿した本人もある種ネタとして分かってやっているところがある。

鯉登音之進のモチーフとなった鯉登行一

『ゴールデンカムイ』の登場人物には実在した人物がモチーフとして描かれていることがあり、鯉登もまた「鯉登行一(こいとぎょういち)」という人物がモチーフの一人とされている。
鯉登行一は、大正から昭和にかけて日本帝国陸軍に所属し、第七師団の最後の師団長となった人物である。このため、一部のファンの間では完結前から「鯉登は将来第七師団長に昇進するのではないのか」と囁かれていた。
ただし鯉登行一は1886年生まれの鯉登より5年あとの1891年に生誕している。また陸軍大佐の父を持ち愛媛で生まれており、戦後の生活は清貧であったとのことで、鯉登のモチーフとして採用された部分は名前と最終階級だけとみられる。

鶴見との出会いのアイテムになった「月寒あんぱん」

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マンスール(ゴールデンカムイ)の徹底解説・考察まとめ

マンスール(ゴールデンカムイ)の徹底解説・考察まとめ

マンスールとは、『ゴールデンカムイ』のキャラクターで、ロシア皇帝の暗殺にも加担したパルチザンのソフィア・ゴールデンハンドの仲間の1人にして砲撃手である。 アイヌの隠し金塊を手に入れるため、ソフィアや仲間たちと共に北海道に乗り込み、主人公の杉元たちに協力。金塊を我が物にせんとする第七師団と壮絶な戦いを繰り広げ、敵の駆逐艦を旧式の大砲で撃破するという大殊勲を挙げた。突如鳴り物入りで登場し、作品の内外からその力量に疑問を持たれるも、鮮やかな活躍で評価を覆したキャラクターである。

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二階堂浩平(ゴールデンカムイ)の徹底解説・考察まとめ

二階堂浩平(ゴールデンカムイ)の徹底解説・考察まとめ

二階堂浩平(にかいどう こうへい)とは、『ゴールデンカムイ』の登場人物で、アイヌの隠し金塊争奪戦に参加している大日本帝国陸軍第七師団の兵士である。双子の兄弟の二階堂洋平を返り討ちにした杉元佐一に激しい殺意を抱くようになり、復讐を果たさんとたびたび死闘を演じた。戦いを経る毎に両耳や手足を失って行き、治療の際に使用したモルヒネによって薬物中毒者と化し、その副作用で子供のような性格の異常者となった。最終的に武器の仕込まれた義手や義足を装備し、心も体も壊れていきながら金塊争奪戦の最前線で戦い続けた。

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津山睦雄(ゴールデンカムイ)の徹底解説・考察まとめ

津山睦雄(ゴールデンカムイ)の徹底解説・考察まとめ

津山睦雄(つやま むつお)とは、野田サトル原作の漫画・アニメ作品『ゴールデンカムイ』に登場する刺青の囚人のうちの一人で、「三十三人殺し」と呼ばれている。本編には登場せず、第七師団の鶴見中尉が刺青人皮を持っている。津山から剥いだ刺青人皮をベストのように着こなす鶴見中尉の姿は、多くの読者に衝撃を与えた。「三十三人殺し」という経歴から、モデルは「津山三十人殺し」の都井睦雄(とい むつお)であるという見方が一般的だ。

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菊田杢太郎(ゴールデンカムイ)の徹底解説・考察まとめ

菊田杢太郎(ゴールデンカムイ)の徹底解説・考察まとめ

菊田杢太郎(きくた もくたろう)とは、野田サトル原作の漫画・アニメ作品『ゴールデンカムイ』の登場人物で、鶴見中尉率いる第七師団の一員。作中では珍しく、比較的常識的な言動をする男だ。日露戦争で倒したロシア将校の銃を奪い、戦争が終わった後でも持ち歩いている。金塊争奪戦には途中から参戦したが、その正体は軍中央から鶴見中尉に差し向けられたスパイ。また、かつて故郷を出たばかりの杉元佐一(すぎもと さいち)と出会い、軍に入隊するきっかけを作っており、「不死身の杉元」の生みの親とも言える。

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江渡貝弥作(ゴールデンカムイ)の徹底解説・考察まとめ

江渡貝弥作(ゴールデンカムイ)の徹底解説・考察まとめ

江渡貝弥作(えどがいやさく)とは、野田サトルによる漫画作品『ゴールデンカムイ』の登場人物で、北海道・夕張で剥製工房を営んでいる青年である。剥製職人としての腕は良いが、人間の死体の皮で革細工を作るという歪んだ趣味を持っている。自分の実の母親を剥製にして所有。母親の偏った教育の下で成長したが、母を慕うなどマザコン気質の持ち主である。鶴見の依頼により贋物の刺青人皮を作成したが、刺青を狙う尾形や杉本に狙われる。初めて自分を受け入れてくれた鶴見を慕っており、最期は鶴見の為に自らの命を犠牲にした。

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インカラマッ(ゴールデンカムイ)の徹底解説・考察まとめ

インカラマッ(ゴールデンカムイ)の徹底解説・考察まとめ

インカラマッとは、『週刊ヤングジャンプ』にて連載されていた野田サトル原作の漫画・アニメ作品『ゴールデンカムイ』に登場する人物で、占いで生計を立て北海道を旅するアイヌ女性。少女の頃にアシリパの父ウイルクと交流があり、金塊争奪戦の渦中にいるアシリパの周囲に現れる。目的を明かそうとせず、周囲を占いで惑わすような行動を取るため、その存在を怪しまれている。鶴見中尉率いる第七師団から離れ小樽のアシリパのコタンで療養していた谷垣源次郎と、疱瘡で家族を失ったチカパシとともに、アシリパを追いかけ旅をする。

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