【町山智浩】知識人たちが読み解く宮崎駿の『風立ちぬ』とは【信田さよ子】
スタジオジブリの作品『風立ちぬ』を見た知識人や著名人の感想をまとめました。映画評論家やコラムニストとして活躍する町山智浩や、臨床心理士の信田さよ子など、様々な人物の称賛の声や辛口コメントを記載しています。様々な角度で『風立ちぬ』について考えられる、興味深い感想を紹介していきます。
関東大震災で、燃えている街があった時、上を飛行機が飛んでいるのが二郎には見えるんですけど、あれも同じなんです。あの上を飛行機で飛べたら、どう見えるだろうか、と。あとカプローニさんがいっていた「街が破壊されるというのはこういうイメージなのか」とか。彼にはイメージがつかめる
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悪魔のささやき
カプローニとカストルプ、外国人がふたり出てきます。両者とも主人公の顔を正面から見て語りかける時に、瞳の虹彩がぎゅーと放射状になる。あれは狂気の光というやつです。
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カストルプは本当のことを言うんです。「この戦争であなたの国は破滅する、でもここへ来て忘れればいい」と。あれは何かと言うと、軽井沢に来て恋をして下の世界なんか忘れてしまいなさい。美しいものに夢中になって自分がやっていることの意味とか、これで本当にいいのかという社会的責任みたいなものは放棄していいと。
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それで二郎は、美しい飛行機を作るという夢に熱中しました。結果、日本はどうなるかということは忘れようとした。二人の悪魔は同じことを言っているんです。
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二郎の妹
これまでの宮崎アニメになかった面白い存在は妹です。妹はかわいくないんです。だから二郎にとっては意味がない。約束破ったり。でも彼女はかわいくないからこそ恋愛しない。あの世界では恋愛すらも美しい者同士の特権なんですね。
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菜穂子は自分がきれいだと分かっていて、自分が死ぬという命の有限さも分かっている。だから恋がしたい訳です。
妹のほうはそうじゃない。自分はどんどん社会に出て行きたい、社会を何とかしたい、だから医者になる。つまり、二郎の良心なんです。『ピノキオ』におけるジミニー・クロケットなんです。
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「生きねば」というコピーとユーミンの主題歌。たぶん両方とも鈴木敏夫
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本人が考えたもんじゃないですよ。どうせ鈴木敏夫さんが考えたんでしょう。生きねばは関係ない。この映画はうまく宮崎駿以外の中和剤が入っている。「生きねば」というコピーとかユーミンの主題歌とか。両方とも映画と関係ない。
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ただあの歌がかかるだけでそういう愛を支えた女の子の話みたいに見えちゃうんです。それはでも余計なもので、本当は関係ない。30年前に松任谷由美が高校の時に作った曲ですから本当は関係ない。それと合わせるだけでそういう映画にみえる気がするだけです。
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宮崎駿の本音
「戦争というは困ったもんだ」とか「いけないもんだ」ということをやるんですけど、本当の宮崎さんにはどうでもいいんです。「どんな飛行機がそこで出てきたか」とか。
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現実の宮崎駿はお絹と結婚したんです。
最初、二郎はお絹という女中がちょっと好きだった。現実の宮崎駿は同じように若いころに若いアニメーターと結婚して息子ができた。
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でも本当はこう生きたかったんですね。若くてきれいで命が有限ですぐに死んじゃうような人と結婚して、アニメばっかり作る。「おまえが死んだおかげでこのアニメができたんだよ」と言うと、ラストシーンで許してくれる。「いいのよ、あなた。家庭をないがしろにしてて」。っていう妄想を重ねているんです。
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アニメーションは、画面の全てに意味がある
みんなアニメの見方があまり分かってないから。画面に出てくるすべてのものに意味があるので、すごく注意深く画面を見なきゃいけないのに、見ていない。台詞しか聞いていない。
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小道具さんが適当に集めた小道具じゃなくて、ここの位置にはこれを描かれなければいけないというものしか描かれようがないんです。
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アニメの場合はすべての要素を描かなければいけないから、描いていることに関して作者はすごく意識的なんですね。
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「風立ちぬ」の感動は、罪悪感
これは僕の持論なんですけど、あらゆる物事で感動するというのは罪悪感が解消されるからなんです。
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『風立ちぬ』を見た僕らの感動は何かというと罪悪感。自分の中にも同じような自分勝手な二郎がいるから。だから感動するんです。自分勝手な菜穂子もいるんです。そういう「恐ろしい映画」であるなあと思って2回目見に行って欲しいですね。1回目感動して、感動が何か分からなかった人はある種残酷で恐ろしくて美しい映画。美しいということは残酷なんです。
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目次 - Contents
- 町山智浩氏
- 常に妄想する主人公。それは宮崎駿自身。
- 「ものを作る人たち」の業
- 反戦のはずなのに戦闘機や戦車を愛してしまう矛盾
- 庵野監督の声優起用
- 信田さよ子氏
- 樋口真嗣氏
- あの日々の日本を、美しい航空機を、健気な女の子を愛し抜く映画。
- 宮台真司氏
- つまらんかった
- 薄っぺらかった菜穂子
- 力と美は一体
- モノと人間の関わり
- 東浩紀氏
- アニメとしては神がかっているが、物語は謎ばかり
- 岩崎夏海氏
- 童貞には全く楽しめない映画ですね。槍賃はニヤリとする映画かもしれない。
- 「宮崎駿は終わった」と言いたがる人の多いこと。「終わった」って言いたいだけなんだよね。
- テーマ「生きていくことに矛盾を感じながらも生きなければいけない」に共感する人は少ない
- 日本の近現代史を知ってるか知らないかで120度くらい評価が違う
- 「風立ちぬ」はクリエイター論
- 小林よしのり氏
- 素朴な作品なのにイデオロギー的な見方をされるのがすごくイヤ!
- 宮崎駿の描く「日本」が好き
- 宇野常寛氏
- もしジローとナオコの間に子供が生まれていたら…
- 小飼弾氏
- 金返せ
- 「夢と技術と子供」「歴史」「女」に対する甘え
- 庵野監督の声優起用について
- 作品と「ひこうき雲」とはなんの接点もない
- 虚構を避け、現実に逃避したという甘え
- ドクター中松氏
- 航空機のプロから見た、合格点と不合格点。
- 内田樹氏
- 宮崎が描きたかったのは、あのゆったりとした「時間の流れ」そのものではなかったのか
- 岡田斗司夫氏
- 美しいモノだけが好きな男の話。美しくないモノには徹底的に冷たい
- 貧乏人が搾取され豊かな者がより豊かになる社会だからこそ「美しいモノ」が存在する
- 宮崎駿の矛盾と願望
- 菜穂子の「あなたは生きて」は菜穂子が言ったんじゃない
- モノを作る人間の性(さが)
- 悪魔のささやき
- 二郎の妹
- 「生きねば」というコピーとユーミンの主題歌。たぶん両方とも鈴木敏夫
- 宮崎駿の本音
- アニメーションは、画面の全てに意味がある
- 「風立ちぬ」の感動は、罪悪感
- 宮崎駿が大人向けアニメを作ると「大人なら当然ダンテの神曲ぐらいわかるよね?」となる。
- 僕らふつうの日本人は、二郎からシベリアを渡される庶民