【町山智浩】知識人たちが読み解く宮崎駿の『風立ちぬ』とは【信田さよ子】
スタジオジブリの作品『風立ちぬ』を見た知識人や著名人の感想をまとめました。映画評論家やコラムニストとして活躍する町山智浩や、臨床心理士の信田さよ子など、様々な人物の称賛の声や辛口コメントを記載しています。様々な角度で『風立ちぬ』について考えられる、興味深い感想を紹介していきます。
物語の副旋律として、映画の中には「時間の速度」にかかわる言葉が何度か出てくる。
それはいずれも「時間の流れが早くなっている」かあるいは「早めなければならない」という切迫感を語る。
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物語の後半で、菜緒子の病状が悪化し、日本の戦況が悪化する中で、二郎は「僕たちにはもう時間が残されていないのです」と絞り出すように語る。
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まことに皮肉なことに、ゆったりとした時間の流れに身を浸し、その中で植物的時間を享受することをおそらく望んでいた青年は、その半生を航空テクノロジーに捧げることによって、「時間の流れを爆発的に速める」という人類史的事業に深く加担してしまったのである。
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『風立ちぬ』 (内田樹の研究室)
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岡田斗司夫氏
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美しいモノだけが好きな男の話。美しくないモノには徹底的に冷たい
最初に感じたのは周りで泣いている人の多さなんですよ。しくしく、すごく泣いている。
そこに違和感を感じて。これ泣くような話か?と。
素直に感動して泣くような、きれいな恋愛の話じゃないぞと思ったんです。 すごくわがままな男女の話なんです。男も女もわがままなんです。女のわがままはかわいんですけど、男はかなり身勝手なんです。でも、そういう生き方しかできない。
飛行機が好きで、きれいなモノが好き。きれいなモノだけが好きな男の話ですよね。きれいじゃないモノには徹底的に冷たい。例えば自分の妹に対しても平気で約束は破るし。
記者
確かに(妹は)きれいな女の子としては描かれていない。
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貧乏人が搾取され豊かな者がより豊かになる社会だからこそ「美しいモノ」が存在する
これらの犠牲の上に中のモノができている。高価なものができている。つまり、日本人の生活を圧迫しながらこういうものができている。だけど、二郎はそんなことに関心がないということを示しているんです。
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例えばヨーロッパ文明の王宮とか美術館を見てもわかります。下々の者、一般の庶民は、押さえつけられ、貧乏で、乳児の死亡率が8割とか9割というような生活をさせられている。だからこそ、この美しいものが出来たんだという残酷な真実が、明快になります。
それをあのアニメの中に出てくるカプローニさんというイタリアの飛行機設計士は「ピラミッドのある世界」と言ったんですね。
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差別がなくて貧富の差がなくて、できるだけみんなで仲良く暮らそうという世界。そんな世界には「美しいものはない」と宮崎駿は言い切っているんです
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この映画はファンタジーじゃないんです。
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宮崎駿の矛盾と願望
ポイントポイントで出てくる二郎に語りかけられるメッセージの大半は、二郎の脳内世界なんですよ。
例えばカプローニは全部二郎の脳内妄想ですね。
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二郎の脳内で言って欲しいことを言っているだけなんです。
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貧富の差のある世界が気になっていたんだけど、脳内で悪魔のような男が「貧富のある世界でいいんだよ、その中で美しいものだけを目指していいんだ」と免罪符を与えるように言っている。映画館で見ている人は、「尊敬すべき人に教えを受けた」と思っちゃうけど、あれ実は全部、脳内なんですよ。
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菜穂子の「あなたは生きて」は菜穂子が言ったんじゃない
最後に許してくれる菜穂子も、脳内なんですよ。「あなたは生きて」というのも、菜穂子が言ったんじゃなくて、あくまで二郎の言ってほしかったことなんです。
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だって、菜穂子を犠牲にしてまで作った飛行機です。「もっと一緒にいてほしい」と言っていた、余命いくばくもない女の子と一緒にいないで作った飛行機です。その飛行機による戦争に負けた状態で、二郎が言ってほしかったのは「あなたは生きて」なんです。
彼はそう「言ってほしかった」のです。
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モノを作る人間の性(さが)
モノを作る人間ってすごく不謹慎なんですよ。
例えば阪神大震災があった時、映画作っている人はやはりニュース映像を食い入るように見るし、現場にも行くんですね。なぜかというと、本当に地震で街が壊れたらどうなるか見たいから。取材して、同じようなシーンを自分も作りたいと思うから。
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『風の谷のナウシカ』とは、1984年公開のトップクラフト制作の長編アニメーション作品である。原作・脚本・監督は宮崎駿。1982年に『アニメージュ』で連載していた宮崎の同名漫画を原作としている。宮崎駿の長編アニメーション映画としては第2作である。 「火の七日間」という最終戦争から1000年後の世界。近代文明が崩壊し、「腐海」と呼ばれる異形の菌類の森に世界は覆われていた。本作には、この世界の過酷な現状やナウシカの生き様を表した印象的なセリフが数多く登場する。
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目次 - Contents
- 町山智浩氏
- 常に妄想する主人公。それは宮崎駿自身。
- 「ものを作る人たち」の業
- 反戦のはずなのに戦闘機や戦車を愛してしまう矛盾
- 庵野監督の声優起用
- 信田さよ子氏
- 樋口真嗣氏
- あの日々の日本を、美しい航空機を、健気な女の子を愛し抜く映画。
- 宮台真司氏
- つまらんかった
- 薄っぺらかった菜穂子
- 力と美は一体
- モノと人間の関わり
- 東浩紀氏
- アニメとしては神がかっているが、物語は謎ばかり
- 岩崎夏海氏
- 童貞には全く楽しめない映画ですね。槍賃はニヤリとする映画かもしれない。
- 「宮崎駿は終わった」と言いたがる人の多いこと。「終わった」って言いたいだけなんだよね。
- テーマ「生きていくことに矛盾を感じながらも生きなければいけない」に共感する人は少ない
- 日本の近現代史を知ってるか知らないかで120度くらい評価が違う
- 「風立ちぬ」はクリエイター論
- 小林よしのり氏
- 素朴な作品なのにイデオロギー的な見方をされるのがすごくイヤ!
- 宮崎駿の描く「日本」が好き
- 宇野常寛氏
- もしジローとナオコの間に子供が生まれていたら…
- 小飼弾氏
- 金返せ
- 「夢と技術と子供」「歴史」「女」に対する甘え
- 庵野監督の声優起用について
- 作品と「ひこうき雲」とはなんの接点もない
- 虚構を避け、現実に逃避したという甘え
- ドクター中松氏
- 航空機のプロから見た、合格点と不合格点。
- 内田樹氏
- 宮崎が描きたかったのは、あのゆったりとした「時間の流れ」そのものではなかったのか
- 岡田斗司夫氏
- 美しいモノだけが好きな男の話。美しくないモノには徹底的に冷たい
- 貧乏人が搾取され豊かな者がより豊かになる社会だからこそ「美しいモノ」が存在する
- 宮崎駿の矛盾と願望
- 菜穂子の「あなたは生きて」は菜穂子が言ったんじゃない
- モノを作る人間の性(さが)
- 悪魔のささやき
- 二郎の妹
- 「生きねば」というコピーとユーミンの主題歌。たぶん両方とも鈴木敏夫
- 宮崎駿の本音
- アニメーションは、画面の全てに意味がある
- 「風立ちぬ」の感動は、罪悪感
- 宮崎駿が大人向けアニメを作ると「大人なら当然ダンテの神曲ぐらいわかるよね?」となる。
- 僕らふつうの日本人は、二郎からシベリアを渡される庶民