火の鳥の名言・名セリフ/名シーン・名場面まとめ

『火の鳥』はあの『鉄腕アトム』を生み出した漫画界の巨匠、手塚治虫による『火の鳥(不死鳥)』を題材とした長編漫画である。日本の漫画文化を代表する作品の一つ。仏教の「六道輪廻」の考え方を軸に「死と再生」を主なテーマとした壮大なストーリーとなっている。
全12編ともなる独立したストーリーの舞台が過去と未来を行き来する独特な構成や、宗教思想と漫画の融合が当時画期的であり、現在でも数々の作品に影響を与え続けている。
この記事では、生命の本質や人間の業を説くような火の鳥の名セリフの数々を紹介する。

「この地底には何億の人間がせまっくるしい地下都市に住んどる しかもくだらん電子頭脳に支配されて!外へでれば亡命したかどで殺される!そのほうがあわれだとは思わんか?」

猿田博士は絶滅した動物たちを再び蘇らせようとするべく人工動物を造っている。しかしその動物たちはフラスコの中で造られ、外に出ればすぐに死んでしまう運命にある。未来編主人公のマサトはその境遇について「かわいそうに…」と発言したのだが、それについて博士が言ったのがこの名言である。
火の鳥は、幸福は自分自身が人生に満足するかどうか、つまり主観的なものだと言っている。博士もここでは、人生が不幸かどうかも他人には測りきれないものだと言っているのだ。

「おれは死にたい!!死にたい!死にたい 死にたい だがなぜ死ねないんだ?おれだけが……なぜだ!?」

マサト

マサトは人間を含む地球上の全生物が死滅した世界で一人、もう一度新しく人間の歴史を作り見守る立場に選ばれる。マサトは『火の鳥』の中で初めて不死になった人間であり、以降長い間孤独に苦しむことになる。
ヤマタイ国の卑弥呼と正反対のことを述べているのがとても印象深い。マサトの苦悩を見ることで、読者は「死なないこと」は本当に幸福なことなのだろうか、と改めて考えさせられる。

「「でも 今度こそ」と火の鳥は思う 「今度こそ信じたい」 今度の人類こそ きっとどこかで間違いに気がついて……「生命を正しく使ってくれるようになるだろう」と……」

マサトは新しい人類の歴史を作ろうと、猿田博士から受け継いだ人工生命の研究をしたり、ロボットを作ったりと努力する。しかしそこに火の鳥が現れ、「人類を新しく生まれ変わらせる」とはそのようなことではないと言う。遂に役目を真に理解したマサトは、海に有機物を混ぜて一から人類の進化を見守ることになる。こうして人類は進化を遂げ、再び歴史を刻むことになる。
これは、人類の進化、発展、滅亡の流れを繰り返し見てきた火の鳥の名言だ。滅亡前のマサトたち人類の歴史も火の鳥にとっては初めてではなかったのだ。
手塚の、文明が進歩していくことによって人類の生命が危ぶまれるのではないかという危惧と、しかしそれでもどこかで間違った方向に歩んでいることに気づいて正していけるのではないかという希望が伝わってくる。

ヤマト編

「お若いの 人間はな死なないことがしあわせではないぞ 生きているあいだに…自分の生きがいを見つけることが大事なんじゃ」

グズリの息子(老人)・クマソの王川上タケル(左下)・ヤマトタケル(右下)

ヤマト編主人公のヤマト・オグナ(のちのヤマト・タケル)が、黎明編にて紹介したキャラクター・グズリの息子が老人となったのを見て、なぜ火の鳥が近くにいるのに捕まえて血を飲まないのかと聞いたときの返答だ。
老人タケルは青年になるまでグズリたち家族と狭い窪みの底に暮らしており、切り立った崖を登りきって外界に出た。彼は地上でのびのびと暮らしているというただそれだけで充足感を感じることができるのである。まさに「足るを知る」を表した名言である。

「こわくないよ ぼくは満足してる ぼくの一生はちからいっぱい生きてきたんだ 悔いはないよ」

ヤマト・タケルは「国に帰って父親(王)の墓に人柱として生き埋めにされる人々を救うこと」が自分の生きがいだと気づき、国に帰って父親やその家臣である兄弟と戦った。最終的には自らも人柱にされてしまうが、その前に埴輪を発明し、その後人柱となるはずだった多くの人々を救うことになる。
短い一生であっても、しっかりと自分の生きがいを感じていれば満足して死ぬことができるという手塚のメッセージである。

宇宙編

「犠牲じゃないわ……あたし……それで満足なのよ」

猿田(男性)とナナ(女性)と牧村(赤ん坊)

地球へ向かう宇宙船に乗っていた猿田・ナナ・牧村の3人は流刑星と呼ばれる星に流れ着いた。そこで猿田とナナは、ラトマス星人の女性(正体は火の鳥)と出会う。その女性によると、牧村は過去にラトマス星人たちの虐殺をし、最後の生き残りだった女性がその報復として牧村を不死にした(自らの血を飲ませた)のだという。不死となった牧村は、流刑星で永遠に死なずに若返ったり老いたりを繰り返すことになる。それを聞いたナナは以前から牧村を慕っていたこともあり、共に星に残る決意をする。
この台詞は、牧村を置いて地球へ行こうと言う猿田に向けてのナナの発言である。
ナナは何の罪も犯しておらず、流刑星に残ることは猿田から見ると「無駄な犠牲」なのだが、牧村を育て続けると言う生きがいを見つけたナナは幸せなのだ。

鳳凰編

「おまえが産んだ仏はおまえだけのものだ だれにもまねられぬ だれにも盗まれぬ」

舞台は奈良時代。育ちの環境から強盗殺人を繰り返してきた我王は、意外な縁によって大仏建立のため旅をしている良弁増正のお供につくことになる。ある村に寄ったときに強盗犯に仕立て上げられたが、良弁はかばうどころか捕まって拷問を受ける我王を見捨てて逃げてしまう。その後誤解が解けて良弁のところに戻った我王に、良弁は死の直前にこの言葉を残した。見捨てて逃げたのは、試練を越えた我王の心の中に本当の仏がつくられるだろうと思ったからだ、と。
実際にこの試練のあと我王は様々な悲劇に見舞われながらも悟りを開き、満たされた人生を送るようになってゆく。過去の罪に対しての因果応報はあれども、試練を乗り越えたあとには一からやり直すことができるということだろう。

「生きる?死ぬ?それがなんだというんだ 宇宙のなかに人生などいっさい無だ!ちっぽけなごみなのだ!」

我王は即身仏になった良弁を見て、生きることについて深く考える。そこで輪廻転生が存在するならば生きとし生けるものは元を辿れば全て同じ生命である、という悟りを得たときの台詞である。
「人生はちっぽけなごみ」と言っているが、悟りを得たあと我王は人生をより大事に生きていくようになる。むしろここで語られているのは「死を悲観することの愚かさ」だろう。

「美しい………なんという美しい世界だろう………美しい……………!なぜおれは泣くのだろう なぜこんなに天地は美しいのだろう そうだここではなにもかも……生きているからだ!この日照りの中でみんな生きておる!」

HANMA7
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