緋村剣心(るろうに剣心)の徹底解説・考察まとめ

緋村剣心(ひむらけんしん)とは『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の登場人物であり、同作の主人公。左頬の十字傷と後ろで一つ結びにした長い赤髪が特徴的な単身痩躯の男。赤い着物に白い袴姿で腰には刃と峰が逆になっている刀「逆刃刀」を差している。一見物腰穏やかな優男だが、その正体はかつて幕末最強と謳われた「人斬り抜刀斎」。
動乱の中で多くの者を殺めた過去を抱えており、その償いと太平の世を生きる人々を守るため「不殺(ころさず)」の信念を掲げて旅をする「流浪人(るろうにん)」を名乗っている。

神谷薫へ別れを告げた剣心は、徒歩で東海道から京都へ向かっていた。京都へ向かう最中、斎藤に横浜から大阪を船で移動するよう提案されたが彼の提案を断る。これは、船上で志々雄一派の者が襲ってきた場合、無関係な人を巻き込む可能性があることを危惧してのものだった。野宿しながら旅を続け、東京へ残していった仲間達へ罪悪感を感じている最中、山賊に襲われる女性の声を耳にする。声の元へ駆けつけると、そこで軽い身のこなしから山賊を返り討ちにし、逆に彼らから有り金を奪う少女・巻町操(まきまちみさお)と出会う。一時はお金代わりに刀を奪われそうになる剣心だったが、彼女を諭し奪ったお金を返すように促す。その際、彼女の出自と京都へ向かう目的を聞く中で、彼女が四乃森蒼紫と御庭番衆の仲間達を捜索していると知る。その時の反応から、巻町に蒼紫の居場所を教えるように付き纏われる剣心。このままでは危険に見舞われると考えた剣心は大人しく京都へ帰るように威圧するも、命がけで崖を飛び越えてでも自身を追ってくる彼女に根負けし同行を承諾するのだった。

その後、彼女と京都へ向かって歩を進める途中。茂みで血塗れで倒れている青年を発見する。遺言を聞こうとする剣心に対し青年は「俺の村と弟を志々雄から救ってくれ」と懇願し息を引き取る。青年は命からがら弟・三島栄次(みしまえいじ)を抱えて村から逃亡していたのだ。剣心は栄次から、新月村(しんげつむら)は志々雄一派に占領され、政府の討伐隊を返り討ちにしたことから政府に見捨てられた村だと聞かされる。村の現状を知った剣心は、彼の父母を助けるべく村に潜入する。しかし、剣心達が目撃したのは栄次の兄同様、全身をなます切りにされた挙句見せしめとして吊るされた彼の父母の亡骸だった。栄次の悲鳴で尖閣の部下に存在を気づかれた剣心。彼らの所業に激昂した剣心は、尖閣の部下全員を叩き伏せ、この村の有様が志々雄の思い描く日本の姿なのだと痛感する。

その際、ちょうど志々雄の位置が新月村だと掴んだ斎藤と合流し、共に志々雄が待ち構える館へ向かう。館で初めての邂逅を果たした剣心と志々雄。「動乱が終わったのなら俺がもう一度起こしてやる!俺が覇権を握り取ってやる!そして俺がこの国を強くしてやる。それが俺がこの国を手に入れる”正義”だ」と弱肉強食と富国強兵の信念を語る志々雄。剣心は、志々雄の正義のために多くの民が苦しむことが許せず刀を構えるが、その時、村の統治者・尖角(せんかく)が剣心に襲い掛かる。巨体に似合わない俊敏さを見せる尖角だが、剣心はそのスピードを逆手に取ることで彼の膝を破壊し、「龍翔閃」で撃破。一方、剣心の戦いを目の当たりにした志々雄は、剣心が噂通りの「不殺」を掲げていることに失望。つまらない闘いはしたくないと、宗次郎に場を任せ館を後にする、

折れた逆刃刀

志々雄の部下・瀬田宗次郎と相対する剣心。剣気を放ち続けても穏やかな笑みを崩さない彼に対し、殺気や闘気も感じられない剣心は後の先が取れないと判断し、得意の抜刀術の構えを取る。また、宗次郎も剣心同様に抜刀術の構えを取り、勝負は抜刀術の打ち合いとなる。しかし、互いに刀を打ちつけ合った瞬間、剣心の愛刀・逆刃刀が真っ二つに折れてしまう。宗次郎の勝利かと思われたが、宗次郎の刀もまた修復不可能なほど破損しており、勝負は引き分けとなる。宗次郎は再戦の申し出と、新しい刀を用意するように告げ剣心のもとを去る。

志々雄一派を村から追い出せたことで一件落着かと思われたが、三島栄次は尖角への復讐を狙っていた。剣心は彼が尖角へとどめを刺すところを寸前で止め、兄のような勇敢な男になるように諭し村を後にする。その際、斎藤に「流浪人」の状態では志々雄どころか側近にさえ歯が立たないことを指摘され、早く抜刀斎に戻るようにと促される。彼の発言に何も言い返せなかった剣心は、再び京都へ向けて歩き始める。

その一方、宗次郎と合流した志々雄は、名刀「虎徹(こてつ)」を粉砕したことから剣心の実力を侮っていたと認識する。そして、彼の中に眠る「人斬り抜刀斎」を力尽くでも引きずり出すべく、直属の戦闘部隊「十本刀(じゅっぽんがたな)」を京都に集結させるように宗次郎に命じるのだった。

操と共に京都へ到着した剣心は、彼女が住んでいる料亭「葵屋(あおいや)」にて、彼女が慕っている爺こと柏崎念至(かしわざきねんじ)と出会う。その十字傷から自身の正体と京都へ訪れた理由が志々雄真実絡みだと悟られた剣心。念至は剣心に対し、操を京都まで送り届けた恩と御庭番衆の最期を看取ったお礼から協力を申し出る。京都探索方・翁(きょうとたんさくがた・おきな)と呼ばれるほどの情報収集力を持つ彼らに対し剣心は、新井赤空と比古清十郎の捜索を依頼する。

もう1つの逆刃刀

剣心が京都へ到着した二日後、「葵屋」の者からの報告で逆刃刀を作った刀匠・新井赤空が八年前にこの世を去っていたことが判明する。一方、赤空には彼の全ての技術を伝授された息子・新井青空(あらいせいくう)がいると判明。青空は維新後に刀の需要が減ったこと包丁や鎌を作ることで生計を立てていると知った剣心は、新しく逆刃刀を打ってもらうため彼のいる店を訪れる。しかし、青空は剣心の依頼を拒否。それは、父・赤空が口にしていた「俺の作った刀が新時代を創る」という言葉と、実際に父の刀が多くの人の命を奪った矛盾。そして平和の時代が訪れた今、人の命を奪う刀を作りたくないという平和を愛する彼の信念だった。

剣心は彼の考えを尊重し、逆刃刀作りの依頼を断念。その後、単身で青空を説得しようとした操から「青空の息子が志々雄一派に拉致された」と報告が入る。剣心が青空のもとを去った後、「十本刀」の一員・刀狩りの張(ちょう)が新井赤空の最後の一振りを求め、青空の息子を人質にして彼らから刀の居場所を無理矢理聞き出したのだ。操の報告で「最後の一振りが白山神社に御神刀として奉納されている」と知った剣心は、青空の息子を救出するべく白山神社へ向かう。

張より先に白山神社へ到着した剣心は、青空の息子を取り戻すため張と応戦。赤空の開発した殺人奇剣を多く用いる張に剣心は鞘と折れた刀で対等に渡り合う。しかし、張が隠し持っていた愛刀・薄刃乃太刀(はくじんのたち)による不規則な太刀筋に徐々に追い詰められる。志々雄と愛刀と共に新時代を創ると告げる張に対し剣心は「時代を創るのは”刀”ではなくそれを扱う”人”でござる」と彼の考えを一蹴。そして、その言葉を聞いた青空は、剣心に賭けてみようと最後の一振りを彼に託すことを決意する。だが、刀を受け取った剣心は、逆刃刀以外の刀を抜くことに躊躇いを見せる。張は挑発のため青空の息子を斬ろうとするが、彼の行いに激高した剣心はついに刀を抜き張に「龍巻閃・旋」を繰り出す。先ほどまでとは別人の程の反応と剣技を見せた剣心。張を斬ったことで「人斬り抜刀斎」に戻ってしまったかと思われたが、実はこの最後の一振りが逆刃刀だと気づく。その直後、剣心の技に耐えきれなかった刀の柄が破損。そして、その刀身の茎には「我を斬り 刀 鍛えて幾星霜 子に恨まれんとも 孫の世のため」という赤空が平和を願う辞世の句が刻まれていた。青空の息子を無事奪還した剣心は、青空との対話でこの最後の一振りが「逆刃刀・真打」であることを聞かされ、赤空の平和を願う気持ちと共に刀を譲り受けるのだった。

奥義伝授

逆刃刀・真打を手に入れた剣心だったが、今回のように自分が関わった者が志々雄一派に巻き込まれることを危惧し「葵屋」を出ていくことを操と念至に告げる。その際、以前依頼していた比古清十郎の居場所が分かり次第狼煙で伝えると約束を交わすが、剣心が「葵屋」を出て行った三日後に彼の居場所が判明。比古清十郎が山奥で陶芸家として暮らしていると知った剣心は彼のいる山奥へ向かう。

一方その頃、操は京都の料亭「白べこ」で働いている薫と弥彦と遭遇。薫は剣心に再び会うべく東京から京都へ向かい、知人のアテで情報収集も兼ね「白べこ」で働いていたのだ。剣心が日本の行く末を左右する戦いに臨み、それに関わることは自身と剣心を危険に晒すことになることも承知の上で剣心に会いたいと願う薫に共感した操は、剣心の居場所へ案内すると申し出る。

数十年ぶりに師匠・比古清十郎に再会した剣心は彼に早速、飛天御剣流奥義の伝授を依頼するが比古は彼の申し出を拒否。しかし、剣心の焦燥した様子を見た比古は剣心から志々雄真実の暗躍と剣心自身が「人斬り抜刀斎」に立ち戻りつつあると聞かされる。剣心の話を聞いた比古は、剣心が維新志士に与したことで志々雄のような者が生まれてしまった事、本来飛天御剣流はどの勢力にも属さない自由の剣で人々を守るものだったと指摘される。そのことを理解しなかった剣心に奥義伝授の資格は無いと告げるが、丁度その時に剣心を追ってきた薫達が現れる。

突然の再会に驚く剣心だが、彼は何も告げずに比古からの依頼で沢まで水を汲みに行くのだった。しかし、それは比古の計らいで、剣心不在の中薫達から剣心が「流浪人」の時に飛天御剣流で何をしていたのかを問う。薫達からの話で剣心が人助けしながら全国を旅していたことを知った比古は剣心が飛天御剣流の理を会得したことを認め、奥義伝授を承諾するのだった。また、奥義伝授に向かう際、薫に「危険を顧みずに京都へ来たことを怒っているか」と問われており「半分は怒っていて、もう半分は何処かほっとした」と返答している。

奥義伝授の前、比古に自身の腕が鈍っていると見抜かれた剣心は「比古から一本取る」ことを伝授の条件として久しぶりの修行を重ねる。しかし、一週間経ってもなお一撃も入れられないことに呆れた比古は「次で一撃も入れられなければ奥義の伝授は無しだ」と発破をかける。小手先の技術が通用しないと理解した剣心は、自身が得意とする「龍槌閃」を全力で放ち、比古に一撃を入れることに成功。ついに奥義伝授が始まるのだった。

伝授を開始した比古は、剣心に手本として「壱(壱):唐竹(からたけ)、もしくは切落(きりおろし)」「弐(に):袈裟斬り(けさぎり)」「参(さん):右薙(みぎなぎ)、もしくは胴(どう)」「肆(し):右斬上(みぎきりあげ)」「伍(ご):逆風(さかかぜ)」「陸(ろく):左斬上(ひだりきりあげ)」「漆(しち):左薙(ひだりなぎ)、もしくは逆胴(ぎゃくどう)」「捌(はち):逆袈裟(さかげさ)」「玖(く):刺突(つき)」の九つの斬撃を突進しながら打ち込む防御不可能の技「九頭龍閃」を見せる。

技を見切った剣心は「九頭龍閃」を会得するが、この技は使い手の体格に応じて威力が異なること、そして、この「九頭龍閃」を破る技こそが飛天御剣流奥義「天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)」だと教わる。この「天翔龍閃」の正体は、「九頭龍閃」の発生よりも速く斬り込む超神速の抜刀術であると気づく剣心だが、抜刀術に不向きな逆刃刀で神速を超えることはできないと悟り、納刀したまま立ち尽くす。

命を捨てでも奥義を会得しようとする剣心に対し比古は「一晩時間をやる。朝までに心の中をさぐって自分に”欠けているもの”を見つけだせ」と伝授を中断。そして、それが出来なけば奥義どころか本当に命を落とすことになると告げる。その晩、剣心は一睡もせず自身を見つめ直すが己に欠けたものを見いだせないまま朝を迎え、比古と最後の立ち合いに臨む。比古は今の状態の剣心では、仮に志々雄に勝てても己の中に潜む人斬りには勝てずいずれ人を斬ると告げ、彼に引導を渡すべく重りを外した上で本気の「九頭龍閃」を放つ。死への覚悟は既に決まっていたが、目の前に迫りくる「死」を実感した剣心。その刹那、彼の中で今までの仲間や敵達の言葉と思い出が駆け巡り、「死ねない。俺はまだ死ぬわけにはいかない」と生を望んだ剣心は目の前の「死」に抗うべく抜刀術を放つ。

結果、剣心は比古を打ち破り生存。その後比古は「お前は多くの人を殺めた悔恨と罪悪感から自分の命を軽く考えようとする。それが真の強さを押さえてしまい時に自身に巣食う人斬りの自由を許してしまう。それを克服するためには”生きようとする意志”が不可欠なんだ。”生きようとする意志”は何よりも強い。それを決して忘れるな」と告げ倒れてしまう。奥義伝授は、先代の命と引き換えに技を会得する習わしだったのだ。剣心は比古を死なせないため彼の小屋にある薬を飲ませ看病し無事を祈っていると、翌朝に比古は復活。刀身が緩くなり技の威力が半減されたことが彼の生死を分けたのだ。

奥義伝授が終了した後、剣心は比古より飛天御剣流伝承者の証として白外套を託されるが、自身が受け継ぐのは飛天御剣流の理だけと言い受け取りを拒否。そして、山を下りる直前、自身が志々雄一派と戦っている間「葵屋」の皆を守ってほしいと依頼する。「あまったれんのもイイ加減にしやがれ」と悪態をつく比古だが、最終的にはその依頼を承諾。剣心は山を下り志々雄一派との対決に向かう。山を下りた剣心は、京都の警察署に駐在している斎藤と合流。「人斬りに戻る決心はちゃんとついたか?」と問う斎藤に対し、清々しい表情で「さあ、どうでござるかな」と返答するのだった。

京都大火

斎藤と合流した剣心は、斎藤の調査で志々雄一派が「京都大火」を目論んでいると知らされる。脅威的な計画だが、簡単に情報が漏れてしまったことに対し不信感を抱いた斎藤と剣心は、何か別の目論見があるのではないかと推察する。「京都大火」が「池田谷事件」を模倣している点も踏まえ考察する剣心。そして、剣心は「戊辰戦争・鳥羽伏見の戦いにおいて、将軍徳川慶喜が味方を欺き大阪湾から江戸へ逃げ帰ったことが官軍側の勝因になったこと」、さらに「その勝因を今度は志々雄が皮肉を込めて自分の勝因にしようとしているなら」という手がかりから東京への攻撃こそが志々雄の真の狙いだと予測する。「京都大火」は人目と人員を引き付けるための布石であり、真の狙いは「船による海上からの東京砲撃」だと気づいた剣心達は、出航前に志々雄を止めるべく急いで大阪湾へ向かう。ちょうどその時、京都に到着していた左之助も剣心と合流。無断で東京を出て行ったけじめとして一撃殴られるも、力になるために京都へ来たと言う左之助に安堵の表情を見せ、共に馬車で大阪湾へ向かうのだった。

大阪湾へ向かう直前、斎藤は現地の警察五千人を京都中に配置。また、剣心は「葵屋」の者達に手紙を出し「京都大火」の計画を知らせ京都防衛の布陣を敷く。その後、剣心達は馬車で移動しながら、志々雄がどのような方法で船を隠しているかを推測。剣心は、志々雄の「人斬り」という特性から、夜の闇に紛れて船に偽装を施していると予想する。そして十一時五十九分、剣心一行は大阪湾へ到着。蒸気を吹いている木造船が志々雄の船だと看破。再び志々雄と相まみえる。既に出航した船にどう近づくか作戦を練る中、突然志々雄の船が爆発しその全貌が明らかとなる。それは、大型甲鉄艦、通称「煉獄(れんごく)」。その姿を目の当たりにした剣心は、左之助に自身と斎藤が囮になる間、艦に近づき所持している炸裂弾で機関部を破壊するように伝える。アームストロング砲を搔い潜り船上に辿り着いた剣心と斎藤。だが、志々雄も、剣心の真の狙いが左之助であることを見抜いており、彼に回転式機関砲を放つ。無数の銃弾が放たれる中、左之助は会得した「二重の極み(ふたえのきわみ)」を海面に放ちしぶきを上げることで銃弾を無効化。その隙に、炸裂弾を投げつける。手投げの炸裂弾だったが見た目とは裏腹に高威力を持っており「煉獄」は大破、志々雄一派は退艦を余儀なくされる。計画が破綻した志々雄は、この敗因は剣心達を甘く見ていた己の隙だと痛感し、「国盗り」の前に剣心一行を葬ることが最優先だと彼らへの評価を改める。そして、退避の直前、比叡山にある自身のアジトで「十本刀」と共に剣心一行を迎え撃つと宣言するのだった。

約束

京都大火計画は、剣心一行と現地警察・「葵屋」の活躍もあり「全焼零件、半焼七件、警官の死亡数四十一、重傷者多数」という最小限の被害で幕を閉じた。斎藤が京都大火の事後処理に当たる中、剣心は再び「葵屋」へ戻る。弥彦と薫と落ち着いて再会した剣心はお互いに近況と京都大火の状況を報告し合うが、その際に操から蒼紫が京都に滞在しており、柏崎に重傷を負わせたと知らされる。その後、柏崎は意識を取り戻し、蒼紫の凶行を止めるために彼を殺してほしいと依頼する。しかし、剣心は柏崎の傷の具合から蒼紫は柏崎に無意識の内に手加減をしており完全に人の道を踏み外していないと見抜き、殺すのではなく「葵屋」へ連れ戻すと宣言する。その約束を聞いた操は安堵から涙を流すのだった。

その後、斎藤から明日の明朝に志々雄のアジトへ向かうと伝言が入る。決戦前夜、剣心は薫に奥義伝授について尋ねられ、伝授の時のこと、奥義を使いこなすためには「死闘という極限の間で紙一重の生死を見極めなければいけない」と、奥義を使いこなせるかは心次第なのだと語る。その答えを聞いた薫は、東京出発前に恵から預かった傷薬を渡し、皆が剣心の帰りを待っているのだと告げる。そして操や「葵屋」の者達からの激励、東京で待っている仲間達の存在を再認識し「恐れるものは何もない」と翌朝を迎える。そして、翌朝には薫と共に東京へ帰ることを約束し志々雄一派の待ち構えるアジトへ向かうのだった。

比叡山アジトにて

比叡山アジトへ到着すると、入り口には志々雄の側近・駒形由美(こまがたゆみ)がアジト内の案内役を申し出る。迷宮のようなアジトの構造に驚く剣心一行。その際、志々雄からの伝言で「決闘は一対一。残りの二人は決して手出し無用」だと決闘の条件を提示される。そして「十本刀」の一員・”明王”の安慈(あんじ)と対峙するが、彼と因縁がある左之助が対戦相手を買って出る。「二重の極み」を撃ち合う彼らの対決を見守る中、左之助の成長を目の当たりにする剣心。左之助の「二重の極み」を超えた「三重の極み」で勝負は決するが、決着がついた後、安慈から「十本刀」の実力者三人以外は「葵屋」の者達の抹殺に向かったと知らされる。志々雄の騙し討ちに驚愕する剣心だが迷宮のアジトから後戻りが出来ない以上、「葵屋」にいる者達と師匠との約束を信じ先に進むことを決意する。
次の間では「十本刀」の中で一、二を争う実力を持つ盲目の剣士・”盲剣”の宇水(うすい)と対峙。その際、斎藤は焦る剣心の様子を危惧し、また宇水を殺すのに「不殺」を引きずる剣心が邪魔だという理由から宇水の相手を引き受け、先に進むように促すのだった。
その後、瀬田宗次郎の待ち構える間に向かう剣心だったが、その道中で空の部屋に蒼紫がいるという気配を感じ取る。宗次郎との戦いに備え温存するべきところだが、剣心は操達と交わした「蒼紫を連れ戻す」という約束と蒼紫と交わした再戦の約束、この二つの約束を守るために彼のいる部屋の扉を開ける。

四乃森蒼紫との再戦

蒼紫の気配を感じ取った剣心は、彼との再戦の約束と操との「蒼紫を連れ戻す」という約束を果たすべく再び蒼紫と激戦を繰り広げる。

観柳邸以来、再び対峙した剣心と蒼紫。剣心は蒼紫の様子を見て「変わり過ぎてとても”四乃森蒼紫”とは思えないでござる」と告げる。そして、蒼紫の手には観柳邸の時と違い、二本の小太刀が握られていた。刀を抜くように迫る蒼紫だが、剣心は「拙者が約束したのは隠密御庭番衆御頭の”蒼紫”であって、修羅になりかけているお主ではござらん」と刀を抜かずに蒼紫を倒すと宣言。その真意は今のままでは前以上に剣心に勝てないという現実を蒼紫に突きつけることだった。この剣心の言動を「詭弁」と一蹴した蒼紫は小太刀二刀流(こだちにとうりゅう)を用い剣心に襲い掛かる。室内の本棚を利用し攻撃をやり過ごす剣心だが、小太刀二刀流から繰り出される新技「回転剣舞六連(かいてんけんぶろくれん)」により、無理矢理抜刀”させられる”。

小太刀二刀流と拳法で剣心を追い詰めた蒼紫は「俺が倒したいのは”人斬り抜刀斎”であり、今の状態のお前ではない」と逆刃を返すように要求。さらに「”人斬り抜刀斎”を倒し部下達に御庭番衆こそが”最強”だったという華を添え自身の人生を終わりにすることができる」と、自身がこの闘いに捨て身で臨んでいることを告げる。一方剣心は、御庭番衆の者達や操達は蒼紫の死を望んでいないと、蒼紫の自暴自棄のような言動に怒り「緋村剣心」として全力で蒼紫を倒すことを宣言し、徐々に蒼紫に反撃を加える。

両者紙一重の攻防が続くが、紙一重で剣心を倒せない蒼紫は徐々に動揺を見せ始める。そして、剣心は自身が奥義伝授の時に教わった「生きようとする意志は何よりも強い」と蒼紫に伝え、蒼紫の捨て身の姿勢が剣の腕を強くしても、精神的に弱くなってしまったと指摘する。さらに、先ほど彼が述べた「幕末最強の華を四人に捧げる」という言葉はただの言い訳に過ぎず「あの四人の”ため”でなくあの四人の”せい”にして、彼らを悪霊にしている」と厳しい言葉を浴びせる。剣心の指摘にムキになり反論する蒼紫だが、剣心はさらに操が京都の御庭番衆を守るため「お頭」を名乗っていること、剣心が蒼紫を連れて帰ると約束した時に涙を流したことを伝える。そして「強き心を取り戻せ!そして失った誇りを呼び返せ!目醒める時は今なんだ!!」と、修羅の中に眠る本来の”四乃森蒼紫”に呼びかける。蒼紫は一瞬沈黙した後「それでも俺はこの闘いに決着をつけねば前に進めぬ」と本心を口にする。剣心も決着をつけること自体に異存はないと、彼との決着を望む。その時振り向いた蒼紫の瞳は、先ほどまでとは全く別の色をしており、剣心も今の状態こそが観柳邸に流れ着く前の、本来の”四乃森蒼紫”なのだと認める。

奥義を放つ前、蒼紫は今までの自分を振り返りその上で「勝って終わりにしてみせる」と決意。互いに奥義の構えを取った状態の膠着状態が続くが、その時、由美が剣心と蒼紫の戦いを密かに志々雄に伝えようとしていることが発覚。沈黙が破られ、蒼紫は剣心に「回転剣舞六連」を放つが、刃が首筋に届いたその刹那、生と死を見極めた剣心は飛天御剣流奥義「天翔龍閃」を放つ。奥義を受け、宙高く舞い上がる蒼紫。勝敗の差は紙一重だったが、蒼紫は「随分とぶ厚い紙一重だ…」と敗北を認めるのだった。

剣心VS宗次郎

蒼紫と決着をつけた剣心。蒼紫は痛みを通り越し体中の感覚が無くなるほどのダメージを受けるが「妙に晴れた気分だ…」と敗北を認め、そして、後で駆けつけると剣心達に協力することを約束し、彼らを次の間へ向かわせる。

一方その頃、「葵屋」は「十本刀」の六人と闘い、比古清十郎の活躍もあり襲撃してきた「十本刀」を全員撃破。敗北の知らせは京都からの通信で志々雄にも知らされる。「葵屋」の者達と剣心一行によって「十本刀」はほぼ壊滅状態となる。志々雄と共にいた宗次郎は「後は僕が十本刀十人分闘えば済むコトでしょ?」と剣心を迎え撃つべく自身の間に移動するのだった。

そして剣心は宗次郎のいる間に到着。逆刃刀・真打と奥義を身に着けた今、次こそ負けるわけにはいかないと決意を固める。再び対峙した剣心と宗次郎。剣心は「葵屋」への心配が拭い切れず先を急ぐが、剣心の態度を見抜いた宗次郎は「葵屋」が「十本刀」に勝利した結果を聞かせる。その後、再び抜刀術を撃ち合う両者。結果はほぼ互角だが、剣心の逆刃刀・真打が宗次郎の「菊一文字則宗(きくいちもんじのりむね)」にヒビを入れ、わずかに剣心が宗次郎を上回る。腕を上げた剣心を称賛する宗次郎だが、剣心のような人がなぜ強くなるのか理解できないと凄まじい速さで襲い掛かる。その速さは神速の飛天御剣流を使う剣心でさえも驚愕するほどで、剣心は宗次郎の強さがその脚力から繰り出される「縮地(しゅくち)」だと理解する。

しかし、その時の速度は「縮地」ではなく「縮地」の三歩手前なのだと判明。直後、「縮地」の二歩手前で斬りつけられる。高く飛び上がり回避しようとするが、脚だけでなく身のこなしも速い宗次郎は剣心を逃がさない。また、彼の感情欠落が剣心の先読みを機能させず追い詰める。剣心は彼の速さを逆手に取り、飛天御剣流突進術「九頭龍閃」で反撃。だが、宗次郎は防御も回避もできないこの技を避け、剣心の背に一太刀浴びせるのだった。

徐々に追い詰められる剣心だが、宗次郎は今までの二撃で剣心を仕留められないことに困惑と苛立ちを見せる。その際、草履が破けてしまい交換するまでの間、一時休戦となる。宗次郎は自身の速さについてくる剣心の強さを認めるが「不殺」を貫く彼が自分や志々雄に敵うはずがないと結論付ける。それは、虐待され続けて育った宗次郎の出自と彼を助けた志々雄が植え付けた「弱肉強食」による考えだった。

弱き者を守るため剣を振るう剣心を否定するべく、あえて「縮地」を使わず「縮地」の一歩手前で倒すと宣言。室内を縦横無尽に駆け回り、剣心を翻弄するが剣心もギリギリのところで宗次郎に対応。その時「あなたが正しいならなんで守ってくれなかったんです?」と支離滅裂な言動を見せる。宗次郎は剣心との闘いで感情が揺れ始め、徐々に錯乱状態に陥っていたのだ。そして、感情の動きを察知した剣心はついに宗次郎を捉えることに成功。しかし、剣心はとどめを刺さずに「あの時守ってくれなかった」という言葉の真意と、今からでもやり直しは効かないのかと問う。

その剣心からの問いに、宗次郎はついに発狂し絶叫。自身を惑わす剣心を倒すため、彼最強の技「瞬天殺(しゅんてんさつ)」の構えを取る。一方剣心も奥義「天翔龍閃」の構えを取り応戦。宗次郎は、剣心と志々雄のどちらが正しいか見極めるべく奥義を放つ。神速の抜刀術同士の打ち合いは、技の破壊力が雌雄を決し剣心に軍配が上がる。敗北した宗次郎は「正しいのは緋村さんだった」と結論づけようとするが、剣心はその「勝負に勝った方が正しいという考え方は志々雄の方が正しいということ」と反論し、本当の答えは自身が今まで犯した罪を償いながら自分の人生の中で見つけ出すようにと諭す。

この言葉を聞いた宗次郎は「簡単に答えを出させてくれないなんて、志々雄さんよりずっと厳しいや」と、剣心の優しさと厳しさに涙するのだった。

最終戦開始

敗北した宗次郎は、この先は道なりに進めば志々雄のもとに辿り着けると、剣心達に先に進むように告げる。その後、宗次郎は由美に「天翔龍閃」の正体が「左足から踏み込む抜刀術」だと伝え志々雄へ伝えるように依頼。同時に、自分が志々雄から貰った脇差を返すように頼むのだった。

一方その頃、回復した蒼紫は剣心のもとへ駆けつけるため移動を開始するが、ちょうどその時宇水を倒して志々雄のもとへ向かう斎藤と出会う。彼からアジト内の見取り図をもらい、一同は志々雄を倒すべく決戦の場へ向かう。

志々雄の決戦の直前、蒼紫・宗次郎との連戦で既に満身創痍の剣心。彼らと合流した由美は、志々雄の邪魔をしないという条件をもとに見逃すことを提案するが剣心は彼女の提案を断り志々雄が待ち構える「大灼熱の間」へ赴く。闘場で再び相まみえる両者。ついに最後の戦いが始まるのだった。

傷を負っても志々雄と競り負けない剣心。互いに刀を打ち合うが、その時志々雄の刀が突如として燃え始める。抜刀の際の鞘と刀の摩擦熱から火を出しているのだと推測する剣心だが、地面との摩擦でも発生する炎に困惑している所を斬りつけられる。「斬る」と「焼く」を同時に受ける志々雄の「焔霊(ほむらだま)」。剣心は技を受けた際の斬撃と傷の浅さから、彼の技の正体が、刀に施された極めて細かいノコギリのような刀とその刀に染み込んだ「人間の脂」だと見破る。志々雄の愛刀・無限刃(むげんじん)は逆刃刀の兄弟刀であり、刃毀れせず使い続けるためににあえて刀を毀すという特製を持っていたのだ。

「龍翔閃」で反撃を試みる剣心だが、この技を新月村で見ていた志々雄は技を看破。「お前もここで、俺の糧になるか?」と彼の肩の筋肉を食いちぎる。筋肉を食いちぎられた痛みと出血に苦しむ剣心、志々雄はそんな彼の様子を気にせず、「弱肉強食」は自然の摂理なのだと告げる。「弱者は強者の糧として生きる責務があり、一番強い者が頂点に立つ。自身より弱い明治政府に代わり、最も強い自分こそが国の覇権を取る”国盗り”はこの国の摂理なのだ」説く志々雄だが、剣心は誰かを犠牲にしようとする彼の思想を否定。志々雄は自身の信念を理解できない剣心を倒すため超至近距離での爆発・「紅蓮腕(ぐれんかいな)」をくらわせ剣心を再起不能にする。

闘志衰えず

「紅蓮腕」を受け昏倒した剣心、志々雄が勝利の余韻に浸ろうとしたその瞬間、斎藤が牙突で奇襲を仕掛ける。牙突は志々雄の頭部を直撃し奇襲は成功したかと思いきや、志々雄は斎藤の脚を斬りつける。かつて同士に騙し討ちされた際、額を強打され昏倒した経験から志々雄は針金製の額当てを身に着けていたのだ。千載一遇の勝機を逃した斎藤だが、それでも諦めず通常の牙突「壱式(いちしき)」、上から下に振り下ろす「弐式(にしき)」、対空迎撃用「参式(さんしき)」、そして零距離から繰り出される奥義「零式(ぜろしき)」を放ち応戦。しかし、いずれも志々雄には通じず「紅蓮腕」で反撃され昏倒。斎藤が倒された姿を目の当たりにした左之助は激昂し、志々雄の顔面に「二重の極み」を放つが志々雄は余裕の表情を崩さず、一撃で左之助を気絶させる。また、遅れて駆けつけた蒼紫も「回転剣舞六連」を見破り撃破。すべての敵を倒した志々雄だが、剣心の強さを知る蒼紫は「奴がお前より弱いとは俺にはどうしても思えん」と告げる。そして志々雄は、蒼紫の背後から立ち上がる剣心の姿を目にする。先ほどよりも強い闘志を放つ剣心。そして、剣心の闘志に呼応するかのように斎藤と左之助も目覚める。最終戦第二局面が始まるのだった。

再び目覚めた剣心を称賛する志々雄。闘いを愉しむ彼だが、由美は既に十五分経ってしまっていることに気づき取り乱す。志々雄は全身に火傷を負った後遺症で発汗機能を失い自力の体温調整が出来ない身体になっていたのだ。医者の見立てでは彼が全力で闘えるのは十五分であり、それ以上はどうなってしまうか分からない状態なのだ。由美は志々雄の参謀・方治(ほうじ)に闘いを止めるように頼むが、志々雄を盲信する彼は志々雄も剣心同様に限界を超えることができると信じ、手を出さないことを決意する。

剣心は志々雄に再び掴まれ「紅蓮腕」をくらいかけるが寸前で技を回避。そして、そのカウンターで「龍槌翔閃」、「龍巻閃旋・凩・嵐」と飛天御剣流五連撃を繰り出す。それでも余裕を崩さない志々雄は「焔霊」を浴びせる。痛みを超える気迫と覚悟で技を耐え志々雄の包帯を掴む剣心。剣心は、力弱くとも懸命に生きる者達にまで自身と同じような痛みを強いる志々雄の時代は認めないと告げ、志々雄の身動きを封じた状態で「九頭龍閃」を放つ。

技の衝撃で吹き飛ばされた志々雄だが、彼もまた剣心同様、限界を超えて立ち上がる。その凄まじい剣気は闘場の炎をより一層燃え盛らせるほどだった。そして志々雄は剣心と決着をつけるべく終の秘剣「火産霊神(かぐつち)」を放つと宣言する。

時代の選びし者

志々雄は剣心よりも早く刀を振り下ろしたが、限界を迎えた身体は炎を上げ消滅。時代が生き残るべき者を選んだのだ。

asai
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エルダー=ピーベリー(るろうに剣心)の徹底解説・考察まとめ

エルダー=ピーベリー(るろうに剣心)の徹底解説・考察まとめ

エルダー=ピーベリーとは、『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 第零幕』の登場人物で、外国人居留地に在住する西洋人の女性医師。 若輩かつ女性ということで、西欧では信用も仕事も得られず、やむなく自分の技術を活かせる場所、必要としている人を求めて日本にやってきた。困窮する者からは金を取らない高潔な医師だが、日本においても“若い娘”というだけで色眼鏡で見る者が少なくないため、普段は男装している。主人公緋村剣心と交流し、協力して外国人居留地で起きた事件を解決した後、アメリカへと渡っていった。

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