Maison book girl(ブクガ)の徹底解説まとめ

Maison book girlとは、2014年11月5日に結成された日本のアイドルグループ。作曲家・音楽プロデューサーのサクライケンタとBiSのメンバーであったコショージメグミを中心として誕生。サクライケンタの「現音ポップ」と称する変拍子を多用した楽曲をバックにコショージメグミが詞の朗読を行うというパフォーマンスを発展させた形といえる。一筋縄ではいかない「現音ポップ」に合わせてパフォーミングを行う、という独自の世界を持っている。2021年5月30日、活動終了が公表される。

以下、Fanplus Musicよりメンバーのインタビューを引用。
「room」のMV制作秘話や各メンバーの楽曲への思いなどが語られており、「room」のMVを見る際や本シングルをより楽しむ際のサブテキスト的なインタビューになっている。

EMTG:「rooms」、良い曲ですね。
矢川・井上・和田・コショージ:ありがとうございます!
EMTG:みなさんも、しびれているのでは?
矢川:とても好きです。途中で音を止めたりするブクガらしいユニークな部分は残しつつ、楽しい感じになっている曲ですね。サクライさん(プロデューサーのサクライケンタ)に「今回の曲、すごい好きです」とLINEしたら、「それはよかった」と返ってきました(笑)。
コショージ:アルバムを出した後の最初のシングルですし、攻めたような曲があるといいなと思っていたんですけど、まさにそういうものになりました。
和田:攻めたところがありつつ、ポップな曲になったと思います。私はブクガの曲の中でもユニークなタイプが好きなんですけど、そういう私のツボも突いてくれます。
井上:盛り上がれるし、乗りやすいと同時に、印象に残る部分もある曲です。この曲で、またいろんなみなさんにブクガが気になって頂けたら嬉しいです。
EMTG:ブクガは、いろんなグループが出演するイベントでも、毎回、ものすごい印象をお客さんに残していますよね?
矢川:イベントの後にチェキ会とか特典会をやると、「今日初めて観たんです」というお客さんが来てくださるんです。初めて観てくださったお客さんに印象を残せているのかもしれないな、というのは、感じています。
EMTG:5月9日に赤坂ブリッツでやったワンマンライブも盛り上がりましたし、いい風が吹いている感覚はありますよね?
コショージ:……どうでしょう? このシングルで、いい風を起こしたいです(笑)。
EMTG:サクライさんのブクガに対する一層の情熱も、最近すごく感じますよ。
矢川:サクライさんは、メジャーデビューが決まるかもくらいの時から、すごい熱いなあってなり始めている気がします。
EMTG:もともとは、とても大人しいタイプの方ですよね?
矢川:そうですね。でも、最近は“次はこういう感じで頑張りたい!”というのを、すごく思っているようです。
EMTG:クリエイターとして手応えを感じていらっしゃるんだと思いますよ。「rooms」のMVも、二宮ユーキさん(ブクガのMVや写真を数多く手がけている映像作家、写真家)と共同監督したんですよね?
コショージ:はい。「rooms」のMVは、水の中から手が出てくるシーンがあるんですけど、あそこだけ誰の手か分からないんですよ。謎の手です。
和田:メンバーは誰もやっていないんです。怖い(笑)。
井上:あれ、女の子の手だよね?
コショージ:多分。
矢川:もしかしたらサクライさんの手かも。
和田:“サクライさんが出演している説”があるじゃない?
井上:そんな地味な真相!?
和田:サクライさんの手をまじまじと見たことがないから分らない(笑)。
EMTG:ベッドから手が垂れ下がるシーンもありますよね。
コショージ:あれは撮影の時に全員がやったんです。
井上:私、「あのシーン、一番上手だね」って二宮さんに言われた。
矢川:じゃあ、使って頂いたの、唯ちゃんの手じゃない?
井上:どうなんだろう?
コショージ:よく観たら分かるかな?
EMTG:メンバーにとっても、いろいろな謎があるMVなんですね。
和田:そうなんです。
EMTG:こういうコンセプト、テーマですよという話は、メンバーに対して毎回ないんですよね?
井上:ないです。MVも、曲に関してもそうなんですけど、具体的なストーリーとかの説明はなくて、抽象的なんですよ。MVも素材をいろいろ撮影して、後で組み立てる作り方をしているようです。だから私たちもいつも完成を楽しみにしています。
EMTG:抽象的だからこそ、いろいろ想像できてワクワクするって、リスナーの我々にとってもブクガの醍醐味です。
コショージ:曲って“私とあなた”というようなものが多いと思うんですけど、そうじゃない曲もいいなあって、最近よく感じているんです。ブクガもそうなのかもしれないですね。
EMTG:これは僕の個人的な感覚ですけど……ブクガって、“私とあなた”というような登場人物が繰り広げる具体的なストーリーではなくて、“この世界に入り込みたくなる”という場所とか空間を提示してくれる音楽だと思います。
矢川:そうですね。お客さんも「ここはこう思ったよ」って、いろいろな感想を言ってくれますし。この人の解釈が私のと似ているなあって思ったりしながら私も楽しんでいます。
和田:分からない部分を妄想で噛み砕いて解釈することを私もしていますね。
EMTG:例えば「rooms」は、《部屋》とか《雨》とか、ブクガの曲に度々登場する言葉が出てくるじゃないですか。そのことによって“この曲とあの曲は関連があるのかな?”とか想像する面白さもあるんですよ。
井上:私もいろいろ想像するのを楽しんでいます。このメンバー内でも4人それぞれイメージしていることは違うでしょうし、受け取り手によって曲のストーリーが無限なんだと思います。

出典: music.fanplus.co.jp

EMTG:「rooms」は、不思議な無音の間が盛り込まれていますけど、これも想像力を刺激する素敵なスパイスです。
コショージ:「次の曲、どうしますか?」という話があった時に、私は“次、攻めるとしたら無音とか面白いのかな”と思っていたんです。この「rooms」の無音は、聴いていて面白い感じになっていたので、すごいと思いました。
EMTG:コショージさんが無音に関心を持ったきっかけは、何かあったんでしょうか?
コショージ:『フィッシュストーリー』という映画を観たのがきっかけです。昔のパンクバンドのレコードが出てくるんですけど、途中の1分くらいが無音なんですよ。映画の中でそれは“呪いのレコードだ”みたいなことになっていて、“売れてるバンドだったらこういうのはかっこいいけど、売れてないバンドだったらかっこよくないじゃん”という感じなんです。それが印象に残っていて、無音って面白いなって思っていました。
EMTG:無音とか変拍子とか、マニアックな要素が入っているのにもかかわらず、理屈抜きで“ワクワクする!”ってなれるのが、ブクガの恐るべき魅力ですよ。
井上:音楽の難しい理論とかは分からなくても、“かっこいい!”と言えるものにはなっていると思います。
コショージ:「rooms」は、音楽にそんなに詳しくない友だちからもLINEとかで「新曲、すごい好き」って言われています。幅広い人たちにも刺さるものになっているんだなあと感じられて嬉しいです。
EMTG:ライブで既に歌っていますけど、お客さんの感想も熱いんじゃないですか?
井上:「めっちゃ乗ってたら、急に音が止まるから、この乗ってる手をどうしたらいい?」と言われて、たしかに! と思いました(笑)。
和田:無音の間があるので、電話はマナーモードでお願いします(笑)。「あの間の時に、会場内の物音がするのが面白い」っていう感想をおっしゃる方もいましたね。
矢川:初披露した日に、「なんだこの曲は!?って思って、嬉しくてニヤニヤしちゃった」っていう感想も頂きました。
コショージ:ライブだと、無音のところは照明を落とすんですよ。それも相まって、独特な雰囲気になっていると思います。ライブで、より立体的に表現できるようになっていきたいですね。
井上:インストアイベントの時は、照明が明るいままなので、恥ずかしいんですけど……。
コショージ:裸を見られているような感じだよね?っていう話をしています(笑)。
EMTG:(笑)では、他の曲の話に移りましょう。2曲目の「last scene -2017Ver.-」(2015年9月にリリースした1stアルバム『bath room』にも収録されている曲)は、ボーカルが新録でリマスタリングもしていますが、どういう経緯で収録することになったんですか?
コショージ:赤坂ブリッツのライブの時、最後の曲が「last scene」だったことが大きいんだと思います。「録り直したいよね?」みたいな話は、ちょっと前から出ていたんですよ。
井上:振り付けも赤坂ブリッツのライブで一新したんです。ブクガの中で「last scene」が最初にできた曲で、もう3年前くらいなんですよね。当時よりも私たちも歌とダンスで表現できることが広がっていますから、この機会に新しくすることができて良かったです。
和田:もともとのものも、あれはあれでいいんですけど、別の作品としても感じて頂けるものになったと思います。
矢川:最初にレコーディングした時は何も分からなかったので、「とりあえず歌って」って言われて、そのまま歌ったんですよ。でも、今回のレコーディングの時は「跳ねるように」とサクライさんからリズムの取り方について言われて、雰囲気を自分なりに汲み取って歌いました。とてもいい仕上がりになったと思います。
EMTG: 3曲目の「a-shi-ta」は、コショージさんが書いた詩のポエトリーリーディングですね。
コショージ:はい。7月ぐらいの朝の4時とか5時くらいのイメージの詩です。起きた朝でもいんですけど、これから寝る感じかもしれないですね。
EMTG:《朝》とか《透明》とか、不思議なイントネーションの言葉がコラージュされているのが気になったんですけど。
コショージ:あれ、どうやっているか分かりますか?
EMTG:分からないです。
コショージ:逆から読んだ音を逆から再生しているんですよ。
EMTG:言葉の音を母音と子音に分解して逆から読んで、それを逆回転で再生するやつ?
コショージ:そうです。
井上:レコーディング中にサクライさんが思いついたみたいです。母音と子音を書いて、「これやってみて」と突然おっしゃったんですよ。読んでいる時は、どの単語なのか分からなかったんですけど、完成したのを聴いたら独特なニュアンスになっていて、ブクガらしいなと思いました。
矢川:『image』のポエトリーリーディングの「opening」は感動的だったのに、サクライさんのアイディアによって、また怖い感じに戻りました(笑)。
コショージ:最初は怖くなる予定はなかったんだよ。
矢川:詩はすごくかわいいですからね。でも、面白い仕上がりになったので、みなさんに聴いて頂くのが楽しみです。
和田:「a-shi-ta」は、私が読んだ《キラキラ》というところが思い出に残っています。コショージ監督は、そこのニュアンスにこだわりがあったみたいで、何度も読み直したんですよ。
コショージ:《キラキラ》と《キュラキュラ》の間みたいな感じで読んで欲しかったんです。和田なら、ちょうどいい感じで言ってくれそうだなと思っていました。
和田:コショージ監督が求めているニュアンスを頑張りました(笑)。ポエトリーリーディングは、毎回ひとつはそういうポイントがあるんです。
EMTG:独特な風味が炸裂したシングルですね。恒例となりつつある、顔がよく見えないアーティスト写真も含めて、何だろう?って興味を持ってくれる人が、さらに広がると思いますよ。
和田:広がって欲しいです。写真を見ても、誰だか分からないかもしれないですけど……。
コショージ:でも、前回の写真よりは見えるようになっていますから。
矢川:私、顔が見えない方が落ち着くようになってしまいました。
井上:顔が見えないから想像が膨らむんです。
和田:みなさんの期待に応えられる顔かどうかは分かりませんが……。
EMTG:4人ともかわいいので、絶対に大丈夫です!
井上:良かったです(笑)。

出典: music.fanplus.co.jp

Maison book girl『412』コメント動画

2017年12月13日:『cotoeri』

『cotoeri』

1. 言選り
2. 十六歳
3. 雨の向こう側で
4. 言選り (instrumental)
5. 十六歳 (instrumental)
6. 雨の向こう側で (instrumental)

徳間ジャパンコミュニケーションズからの、メジャー3rdシングル。
本作品以降、Maison book girlはポニーキャニオンに移籍するため、徳間ジャパンコミュニケーションズからの最後の作品でもある。
初回限定盤のみEPサイズ(18×18cm)紙ジャケット仕様でリリースされた。
今回、英語(cotoeri)と日本語(言選り)の表記違いはあるが、曲のタイトルがシングルに名付けられたのは初めてである(『river (cloudy irony)』のように()内での表記はあったが)。
これ以外にも、サクライケンタ、コショージメグミ以外の作詞家の起用は初めてであるし(「AI」という作詞家)、曲名が全て日本語表記であるのも初めて、そしてMVにメンバー以外が出演するのも初めてである(「十六歳」のMVに女優の若杉凩が出演している)。

サクライケンタ コメント
Maison book girlを発表してから11月で3年、アイドルをプロデュースし始めてから約6年が経過しました。今回の楽曲はあらゆる意味で、過去、未来、そして自分との対話であり、会話。
今回のシングルはあらゆる時間から連なるひとつの分岐点であり、年末のワンマンライブにも繋がる作品です。
ようこそ、ぼくたち、わたしたちの記憶へ
サクライケンタ

cotoeri

●楽曲概説
1. 言選り
作詞:サクライケンタ
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
共同作詞:cotoeri (AI) 浦川通 (Dentsu Lab Tokyo, Qosmo) / 鈴木健太 (Dentsu Lab Tokyo)
cotoeriというAI(人工知能)とサクライケンタとの共同作業によって作成された歌詞をもつ楽曲。
上記写真がcotoeriとして紹介されているAI。
まずサクライケンタが過去6年間に渡って作詞してきた単語を全てこのcotoeriに入力し、cotoeriがRNN(再帰型ニューラルネットワーク)で学習、新たな詩のフレーズを生成する。
RNNとはリカレント・ニューラル・ネットワークの略で、前後関係や時系列のあるデータを扱うニューラルネットワークの一種類。
文章を学習させることで、それまでに文章に出てきたワードの流れから「その文体で次に使われるであろうワード」を推測するとこのと。
そこで出力されてきたフレーズをサクライケンタが取捨選択し、「歌詞」の形に整えたものが今回の作品となっている。
ちなみにサビに関しては1からサクライケンタが作詞している。
詳細に関しては以下のアドレスより参照できる。
http://createwith.ai/works/20171113/1099
今回、AIとの共同作業を行うに至った経緯や、作成過程のエピソードは下のサクライケンタとのインタビューの引用に詳しい。
興味のある方はそちらも参照のこと。

「言選り」
監督・編集:スズキケンタ

2. 十六歳
作詞:サクライケンタ
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
従来のMaison book girlの中でもかなりポップでとっつきやすい楽曲。
変拍子が登場しないことや、ドラムスのリズムパターンが割と単調であることもそんな思いを抱かせる要因の一つだろう。
ドラムスに関してはサビのパートでスネアの音が1音も登場しないというアレンジになっている。
曲の勢いを削がない程度に少ない音を効果的に絡ませている。

「十六歳」
監督:東佳苗

監督を務めた東佳苗はデザイナーでもあり、映像中にメンバーが来ている衣装は東が手がけるニットブランド・縷縷夢兎である。
またメンバーの他に女優の若杉凩が出演しているが、Masion book girlのMVにメンバー以外が出演するのは初めてことである。

東佳苗 コメント
プロデューサーのサクライケンタさんとは好きな映画の趣味が恐ろしく近くて、私が監督した短編映画でも何回か劇伴を担当してもらったのですが、Maison book girlさんとお仕事するのは今回のMVが初めてでした。
MVの内容は映画風の日常partとガーリーなイメージpartに分かれていますが、これは「若杉凩」から見た少女達の裏表を表しています。
今回のMVは今までのブクガ的な匿名の少女感や、モラトリアム感を残しつつも、新たに女子の偏ったリアル、上辺の繋がり、将来への不安、無力感、終わらない日常的な生身の温度を出すことが私的命題で、4人それぞれの個性に当て書きして役を演じてもらいました。
イノセントに見える少女達も隠された暴力性でキラキラに汚されていて、それは若杉凩演じる、「知る、と知らない」の狭間にいる「十六歳」から見える、難解な「少女」という風景を表現しています。
現実と非現実の狭間、少女全員が持つ怖さを、なんとなく、感じてくれたら嬉しいです。

オフィシャルブログに掲載されたコショージメグミのコメント。
現実パートと非現実パートでわかれてるんですけど
非現実パート(るるむう着てるほう白くてきらきらのほう)で実は陰湿な演技をしてます
葵と唯は付き合ってるのでらぶらぶ
こしょと和田もたぶん付き合ってるちょっとDV
こしょがなんかチャラいので葵といい感じになっちゃう
唯プンプンなのでこしょに攻撃
和田プンプンなので葵に攻撃

下のコショージメグミのコメント「私の家のシンクのところにダンボーのフィギュアが2体いるんですけど、それを見て「これだ!」と。そこから一気に書いたんですよ」で語られているダンボールのフィギュアが左上の角に写っている。

3. 雨の向こう側で
作詞:コショージメグミ
作曲:サクライケンタ
編曲:サクライケンタ
コショージメグミ作による詩の朗読。
アルバム『image』に収録されている「opening」と同じように、詩の朗読というよりは物語に近い。
コショージメグミによるとかなり難産だったとのこと。
コショージメグミ「そうです。これは、なかなか書けなくて大変だったんです」
井上唯「ずっと悩んでいました。「もう無理だあ~。だってコショージ、作家じゃないもん!」って(笑)」
コショージメグミ 「「小説家じゃないし。お話とかもうないし!」って(笑)。レコーディングの日の朝くらいまでかかりましたから。朝の5時ぐらいまで思いつかなくて。私の家のシンクのところにダンボーのフィギュアが2体いるんですけど、それを見て「これだ!」と。そこから一気に書いたんですよ」

左から井上唯、和田輪、矢川葵、コショージメグミ。

以下、音楽ナタリーよりサクライケンタのインタビューを引用。
本シングルの大きな話題の一つである、AIとの作詞共作という特異な制作過程でのエピソードや、AIとの共同作業を行うに至った経緯、プロデューサー:サクライケンタからみた現時点でのMaison book girlへの思いと今後の展望などが語られている。

AIが実現させた過去の自分との対話
──まず最初に、今回のシングルの収録曲が3曲とも日本語タイトルだというのが気になりました。これまでは、ほぼすべての曲のタイトルが英語表記でしたよね。
そうですね。「ブクガが新しいフェーズに進んだよ」っていうことを伝えたかったのもありまして。今まで「タイトルは英語」って言う自分の中の決まりに捉われていた部分があったけど、そこはもう崩していいんじゃないかって思える作品が作れたので、タイトルを日本語にしました。
──今作の一番大きなトピックは「言選り」の歌詞をAIと共同制作したことだと思います。これをすることになった経緯を教えてください。
12月28日にZepp DiverCity TOKYOでやるワンマンライブの内容について、「sin morning」のミュージックビデオを監督したスズキケンタとごはんを食べながら話したのが発端です。そこで「MVをまた撮りたい」と言われ、企画段階から曲作りを一緒に詰めていくことにしたんです。その中で「言葉をテーマにしよう」っていうアイデアが出てきたので、僕が過去に書いた歌詞をすべてコンピュータに読み込ませて、AIに深層学習させることにしました。初めの頃はホントにわけのわからない言葉ばっかりだったんですけど、何回も続けていくことでAIが勉強してだんだん歌詞っぽくなってきて。繰り返してるうちにかなりの膨大なテキストになるので、その中で「自分には思いつかないだろうな」っていうフレーズをチョイスして使いました。めちゃくちゃ大量の文章を読まなければいけないので、普通に歌詞を書くより何倍も大変でした。
──ああ、そうなんですか。「AIが歌詞を自動生成する」って聞くと、むしろ楽なのかと思ってしまいますが。
そうなんですよ。でも、いいフレーズとか、歌メロにハマる言葉とかを1行単位で選びながら、めちゃくちゃ長い小説を全部読むようなものなので、全然楽じゃないです。
──しかもカットアップ小説のような支離滅裂な文章でしょうしね。
そうそう、言葉がつながってるようでつながってなかったり。ホントに頭がおかしくなりそうでした(笑)。読んでるとやっぱり、本当に自分が書いてもおかしくないなっていう文章がよく出てくるんですよね。でもコンピュータって完璧ではないので、例えば「言選り」で採用した歌詞で言うと「皮膚の裏側の白い部屋で」とか「音が開く音」「切れた街」とか、普段日本語を話す人には思い付かないような言葉の組み合わせが多く出てくるんです。それが逆に面白いなって。
──1曲まるごとAIが作詞してるんですか?
サビだけ僕が新しく書き下ろしてます。この曲は「過去の自分との対話」というテーマがあって、AメロやBメロは昔の自分、サビは今の自分の歌なんです。
──ああ、なるほど。それは面白い。そういう話は、例えばボーカルのディレクションのときとかにメンバーに話しているんですか?
レコーディングの段階ではメンバーには何も説明していないです。僕が書いた曲として普段通りに歌ってもらって、あとでMV撮影のときに初めてメンバーにちゃんと言いました。メンバーは「言葉がなんかちょっと気持ち悪いけど、サクライさんが書きそうな歌詞だなと思った」って言ってました。
──サクライさんはコンピュータの完璧でないところを面白がっているようですが、もし学習能力が今よりグッと上がって、精度が高くなりきったら、この手法はそんなに面白くなかったりするんでしょうか。
たぶんそうだと思います。文章や歌詞を人間の代わりにコンピュータが作ってくれる未来は絶対来ると思うんですけど、自分が今回やりたかったのはそういうことじゃなくて、AIとの共同作業なんです。AIが書いた膨大な文字数の文章と向き合って、自分自身と対話することなんです。

年末のワンマンは、7割くらいの人は意味がわからないかもしれない
──先ほど「AIを使った作詞はMV監督と話しているときに思い付いた」と言っていましたが、その会話の中で何か別の案も挙がったんでしょうか?
曲の内容を決める前の段階では、めちゃくちゃなMVの案をけっこういっぱい考えてましたね。僕が初めにやろうって言ったのは、1曲で2バージョンあって、1つはメンバーが今まで通り普通に踊るという真面目な内容。もう1つは同じ日に同じ構図で、メンバー全員の実の父親ががんばってダンスするというもので。
──それだけ聞くとブクガのクールなイメージと全然違いますね(笑)。
ご本人が問題なければ本当に撮ろうと思って、真面目に確認してもらったんですけど、(矢川)葵ちゃんのお父さんが絶対嫌だって言って。
──わはは(笑)。
まあ、普通は嫌ですよね。(井上)唯ちゃんのお父さんもちょっと嫌がってて、和田(輪)のお父さんは「ほかがやるんだったらやってもいい」みたいな感じ。コショージ(メグミ)のお父さんは、実はちょっとやりたかったんじゃないかな?っていう反応でした。まあ、そういう案もあったっていうだけの話ですけど。
──それともう1つ、「Zepp DiverCity TOKYOワンマンについて考えているときにこの曲のアイデアが浮かんだ」と言っていましたが、と言うことは「言選り」はワンマンの中で重要な役割を持つ曲になるんでしょうか?
そうですね。まだ詳しくは言えないですけど、いろいろ面白いことをやろうと考えていて。年末のワンマンはものすごいことになると思います。もしかしたら7割くらいの人は、終わったあとに「意味がわからない……」って感じになるかもしれない。
──わはは(笑)。
せっかくなので、それくらいコンセプチュアルなことをやろうと思っております。ワンマンの演出などについて、コショージとよく夜中に電話で話したりするんですけど、コショージはけっこうオチを付けたがるんですよ。でも僕はオチはなくてもいいと思っていて。お客さんが観たあとで考えるようなものを観せたいので。もちろん僕の中には正解はあるんですけど、受け取り方次第でいろんな解釈ができる余白があるような芸術が僕は好きなんです。その感覚はライブの演出に限らず、曲も同じです。だから今回のシングルも、同時に鳴っている音数はすごく少ない。
──確かにそうですね。
「音数が少なくても気持ちよく聴こえるように」っていうのはミックスのときにもすごくこだわっています。一聴しただけではちょっとわかりにくいかもですけどね。シングル曲なので1曲目はわりとサビをキャッチーに作ったんですが、2曲目の「十六歳」はそういうことを考えずに作ったので、いつも通りの曲だからこそ音数が少ないのが聴いていてわかりやすいと思います。
──「十六歳」はスリリングな疾走感がありますよね。音数を少なくした結果なのか、曲に勢いが出たような気がします。
そうですね。音数を少なくしたうえでサビのドラムは激しめにしたりして、変わった形の勢いを出そうと試みました。

出典: natalie.mu

左から井上唯、和田輪、矢川葵、コショージメグミ。

エレキギターを使うのは“ごまかし”だった
──今アレンジやミックスのこだわりを伺いましたが、使う楽器についてはどう考えていますか? 例えばマリンバだったりハンドクラップだったり、ちょっと聴いただけで「ブクガっぽい」とわかるようなおなじみの音色がブクガの曲では多く使われている印象があります。
そうですね。でもロックバンドが毎回エレキギター、鍵盤、ベース、ドラムだけで曲を作っても、そこに疑問は感じないと思うんです。僕はどちらかというとバンドサウンドよりもクラシックや現代音楽が好きなので、チェロ、ビオラ、バイオリン、マリンバ、ピアノみたいな楽器編成でいつも曲を作るのは、自分としてはそんなに不自然なこととは思っていなくて。僕、そもそもエレキギターが好きじゃないんですよね。
──カオティック・スピードキングや大森靖子さんのサポートなどで頻繁にエレキギターを弾いているのに(笑)。
ははは(笑)。ブクガは、最初の「bath room」ってアルバム(2015年発売)ではエレキギターをけっこう使ってるんですが、入れたくて入れてるというよりは“ごまかし”だったなと思ってて。
──ごまかし?
ギターを入れると音がすぐまとまるんですよ。けど自分がスキルアップするのにつれて、ギターを入れる必要がどんどんなくなってきた。たぶん今後、ドラムもだんだん音数が少なくなっていくんじゃないかなと思います。最小限のパーカッションだけでも十分な気がしていて。ベースの役割をするもの、オケのハーモニーの部分、リズム、歌が最低限あれば十分だと思うんです。今回のシングルの2曲もそうなんですけど、間を意識して、必要以上に叩かない最小限のフレーズを作りたいんです。飾り立てて豪華っぽく聞こえるようにしても、「無理に派手に聞こえることになんの意味があるのか?」って気持ちになっちゃうんですよ。余白を作れるところにはどんどん作っていって、そこは聴いてくれる方が想像で埋めてくれたらって思ってます。
──エレキギターを使わないのは、聴く人によっていろいろな解釈ができるようにするためだと。
一聴してわかりやすい音楽を求める人がいるのももちろんわかっています。ブクガもバックバンドを入れて生演奏でライブをすることがあるんですが、そのときはCD音源を再現するのでなく、アレンジを変えてテンポも上げて、まったく別物としてやっています。そういうのが聴きたい人もいると思うし。単純にバンドは楽しいし勉強にもなっています。
──今は生演奏でライブをするときはロックバンド編成でやっていますが、例えば小編成の室内楽団なんかと一緒にステージに立って、音源に寄せたライブをしたいという気持ちもあるんでしょうか?
そうですね。着席のコンサートホールで、ストリングスの前でダンスを踊るみたいな。そういうライブも来年あたりやりたいなと思ってはいます。

バンドセットのライブ経験がメンバーにもたらしたもの
──楽器の音数を少なくした結果なのか、それとも各メンバーの歌い手としての成長なのか、今回のシングルはこれまでの音源と比べて歌声が前に出ている印象がありました。
そうですね。歌がうまくなったのは僕も今回かなり感じました。だからごまかす必要がないので、歌を前に出しても大丈夫になった。声への加工も最小限にしているから、今までより人間的な感じになったかもしれないです。
──やっぱりそうなんですね。
バンドセットのライブをやり始めたのも意味があったなと思います。通常のオケでライブをするのとは違って、生演奏だと歌声がバンドの音圧に負けちゃうんですよ。メンバーはそれが悔しくて声量を上げるトレーニングをしたみたいで、今回のレコーディングの際にけっこうみんな歌がうまくなってて(笑)。
──サクライさんは、4人それぞれをボーカリストとしてどう評価してますか?
コショージは抑揚を付けた歌い方をするので、歌詞が感情的になる部分を歌わせています。音を取るのが苦手みたいで「音程がわからない」ってずっと言ってますけど、感情表現の仕方は一番心得ていると思います。葵ちゃんはけっこう僕の好きな歌い方をしてくれる人ですね。初めの頃はホントに棒読みみたいな歌い方だったんですけど、いつも送ってるデモに僕が入れた仮歌に影響されたのか、細かい部分で僕の好きな歌い回しになってきて。歌自体もうまくなったので、サビ前とか大事なところを任せることが多くなりました。
──なるほど。
和田はもとからうまく歌えたので、困ったときにすごく使いやすいですね。安定しています。唯ちゃんに関しては、昔は今聴いたらびっくりするくらい活舌が悪くて声も出てなかったんですが、今は歌も断然うまくなって声量も出るようになって。バンドセットでもソロパートでちゃんと聴こえるくらい声がしっかりしています。でも、うまくなったとはいえ、まだまだ全員歌のスキルアップはしてほしいですね。歌に説得力が欲しい。

出典: natalie.mu

左から井上唯、和田輪、矢川葵、コショージメグミ。

ブクガは“自分を表現するツール”という感覚
──ちなみにサクライさんがプロデュースするもう1つのグループ、クマリデパートの曲を作ったり、ほかのアーティストに楽曲提供する際はブクガとは違うことを意識しているんですか?
ブクガとはまったく別ものとして考えていますね。楽曲提供にしろ、一聴して僕の曲だとわかるように気を付けてはいます。クマリデパートの場合、最近の曲はどれも「みんなこういうロックなのが好きだろう」みたいな感じであえて勢いだけで3時間くらいで作ったやつです。クマリデパートでは「わかりやすくてキャッチーな曲だけをやろう」と思ってるので。
──ブクガで作っているのはサクライさんが作りたい曲、クマリデパートで作っているのは多くの人が聴きたいであろう曲、ということなんですね。
そうですね。ある意味、お客さん目線なんです。楽しんでもらうことを最優先に考えているんです。逆にブクガに関しては、楽しんでもらうってことをなるべく考えないようにしてます。僕が作りたいものを作って気に入ってくれる人がいたらラッキー、みたいな。
──なるほど。でも「気に入ってくれる人がいたらラッキー」というスタンスでありながら、ブクガは今年に入ったあたりから音楽ファンの注目度が一層高まっている印象があり、ブレイク前夜のような空気を感じるようになりました。そういう感覚はサクライさんの中にもありますか?
どうなんですかね。僕あんまり最近現場に行けてないんですけど、Twitterとかを見てたり、MVについてコメントしてくれる人のうち半分くらいが外国の方なので、自分が知らない人にも聴いてもらえてるんだなっていう実感はあります。だったら僕はこのやり方のまま、ブクガの質をどんどん上げていくしかないんだなって気持ちになりました。みんなが体験したことがないような、もっと面白いものを提供しなければってホントに思います。曲についてももちろんですけど、ホームページのデザインやアー写、グッズなど含めて。
──サウンド面だけでなくトータルでブクガをプロデュースしているわけですからね。
はい、例えば撮影のときはカメラマンの横に、どっちが撮ってるのか分からないくらいべったり付いて指示してますしね。自分でも言ってることがめちゃくちゃ細かいなと思うし、別にそうしたくてしてるわけじゃないんですけど、気になって仕方がないんですよ。「ブクガのことは自分のこと」っていう意識が強い。自分のことなのでどうしても気になるし、手抜きできないんだと思います。
──では今後も、ほかのクリエイターにいろいろなことを任せることはなく、“サクライケンタ完全プロデュース”という形で続けていくつもりですか?
そうですね。ブクガは“自分を表現するツール”っていう感覚なんです。僕は別に歌がうまいわけでもないですし、ダンスが踊れるわけでもない。そんな僕が作るものに、それぞれの個性をプラスして表現してくれるのがメンバーなんです。
──メンバーとサクライさんの関係性は昔と比べて変わりました?
例えば家族や恋人でもそうだと思うんですけど、一緒にいるときに無理にしゃべらなくても大丈夫、何も言わなくてもわかり合ってる、っていうことがありますよね。最近はだんだん慣れてきて「いい意味で口数が減った」って感じです。もちろん、しゃべりだしたらお互いすごいしゃべるんですけどね。そもそも僕もメンバーも明るいタイプではないし。そういうところで、独特ないい関係性が築けているのかなというのを感じてます。

よくある宣伝文句とは違う、本物の「ここだけでしか体験できない」
──今のブクガの状況を、サクライさんはどう見ていますか?
まだ全然だと思ってます。
──具体的に言うと何が足りていないんでしょうか。
もちろん自分が曲を書いてるので、僕がもっとスキルアップしないといけないですし、全部がまだまだだと思ってます。今回のシングルで一段階上がった手応えはあるんですけど、そのおかげで「まだ全然面白いところに行けそう」っていう新しい景色と可能性が見えた感があるので。
──結成当時に思い描いていたイメージがあったと思いますが、3年経った今、当初の想定と変わった部分は何かありますか?
やりたかったことについては、ニュアンスとしてはできてはいますが、全体のスケールアップのために単純にもっとお金をかけたいですね。前にやっていたプロジェクト(いずこねこ)の頃から「自分が表現したいことを誰かにステージでやってもらう」ということをしていたので。昔と比べてブクガはその密度が高いと言うか。障害物がなくなって、自分とメンバーが直接つながってる感覚が強くなりましたね。何も言わずとも、僕が思ってるMaison book girlをみんなちゃんと理解してくれてると感じます。
──いい状態ですね。サクライさんの中で「今後ブクガをこうしていきたい」みたいなビジョンはあるんですか?
今まで別になかったんですけど(笑)、今回のシングルは「たくさんの人に聴いてもらいたい」っていうことをけっこう考えました。AIで歌詞を作ることが取っ掛かりになって、興味を持ってくれる人がいたらいいなとか。やっぱりいいものを作っても、人に聴いてもらわないと意味はないので。「聴きたい人が聴いてくれたらいい」っていう気持ちは変わらないけど、「聴きたくなる以前に知らない」っていう人がいるのはすごいもったいないと思っていて。
──そうですよね。
聴いたらファンになってくれる可能性がある人が、知る手段がないから知らないまま、っていうのはお互いもったいないじゃないですか。聴いたら好きになってくれそうな人に伝えたいけど、どの人がそうなのかはわからないので、できるだけ多くの人に聴いてもらうっていう方法を取るしかないなって思ってます。
──なるほど。
今回のシングルはカップリング含めけっこう気合いを入れて作ったし、作品としていいものができたと自負しているので、それをちゃんと広めたい。売りたい……と言うか聴いてほしい。今がそのタイミングだと思うんです。
──ライブについては何か今後の展望はありますか?
とりあえず年末のワンマンでは、やりたいことは全部やろうと思っていますし、それをお客さんが好きなように感じてくれたらいいなと思ってます。よくある宣伝文句の「ここだけでしか体験できません」みたいなレベルじゃなく、本当にあの会場でしか体験できないことをするつもりです。あとで映像で観てもわかりにくい、その場にいないと理解できないことをいろいろやりたいと思います。

出典: natalie.mu

左から井上唯、和田輪、コショージメグミ、矢川葵。

以下、rockin on.comよりメンバーのインタビューを引用。
MVに秘められた謎や各楽曲に関するエピソードなどが語られており、本シングルを聴く上でのサブテキスト的なインタビューになっている。

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