アヒルと鴨のコインロッカー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『アヒルと鴨のコインロッカー』とは、吉川英治文学新人賞に輝いた伊坂幸太郎の同名小説を基にした2007年公開の日本のミステリー映画。主人公の椎名は引っ越し先で隣人の河崎という男から、隣の隣に住むブータン人のために「本屋を襲撃して広辞苑を奪いたい」と誘われる。奇妙な誘いに戸惑う椎名だったが、本屋襲撃の手伝いをすることになる。やがて明らかになる2年前の出来事。過去の物語と現在の物語が交錯する中で椎名が見た真実とは。映像化が困難とされている作品を原作の複雑な伏線やトリックを巧みな描写でまとめた。

物語の序盤、河崎の部屋のシーン

河崎の部屋。テーブルのところにいるのが河崎、玄関にいるのが椎名

河崎は初対面にも関わらず、椎名を自分の部屋招き入れる。
椎名の名前を聞くと、「しいな、しいな、おかしいな」と呟き、椎名はそれには反応しない。
酒を飲み、椎名にも出すが、玄関にいた椎名を部屋にいれようとしてグラスを玄関か届かないところに置く。
椎名は『風に吹かれて』を歌える理由を中学時代好きな女の子に聴かせるために練習したと話す。
やがて、河崎は「隣の隣のブータン人のために辞書を奪いたい」と話す。
「ブータン人は辞書さえあれば日本語がわかるような気がするんだ」と河崎が言うと、椎名は「わかるような気がするね」と言う。
椎名と河崎のキャラクターがよくわかり、演じる瑛太と濱田岳の確かな演技力を感じる場面。
部屋の場面が終わる前の、河崎が「モデルガン。椎名の分もある。一緒に本屋を襲わないか?」とモデルガンを構える河崎の姿が印象的である。

琴美「少しは熱くなりなさいよ。車にひかれそうな犬を助けるとか、欲しくて高い本があったら本屋襲ってでも手に入れるとか」

琴美は浮気性の河崎に「少しは熱くなりなさいよ」と言う。琴美は河崎と別れた後、自分の命も顧みず道に飛び出した犬を助けたドルジと出会い、付き合うことになった

二年前の回想シーンで、琴美が「少しは熱くなりなさいよ。車にひかれそうな犬を助けるとか、欲しくて高い本があったら本屋襲ってでも手に入れるとか」と河崎に言う。
琴美は浮気性の河崎に愛想を尽かし別れていた。その後、自分の命も顧みず、犬を助けたドルジと付き合うことになる。
琴美が亡くなった後で、河崎は本屋の息子江尻をを襲撃しに行く。
また、河崎になりすましたドルジは椎名を誘って本屋を襲撃して広辞苑を盗む。
河崎とドルジにとって、琴美が残した印象的な言葉である。

河崎「“さん”はいらない。河崎。呼び捨てにすると、親しく聞こえるだろ?」

河崎はドルジに自分の名前を呼ぶときに“さん”はいらないと言う。この言葉はドルジに強い印象を残し、後に河崎になりすましたドルジは椎名に同じことを言う

後半、椎名が河崎だと思っていた男が実はブータン人のドルジだったことが明らかになる。
ドルジは二年前のことを語りだす。過去、ドルジが「日本語、教えてください。河崎さん」と言ったとき、河崎が「“さん”はいらない。河崎。呼び捨てにすると、親しく聞こえるだろ?」と言う。
これは物語の冒頭で河崎になりすましたドルジが椎名に言うセリフと一緒である。
ドルジは忠実に河崎の真似をして河崎になりきった。

河崎「裏口から、悲劇は起こる」

本屋を襲撃するとき、河崎はドルジに「裏口から悲劇は起こる」と言って見張りを頼む。同じように河崎になりすましたドルジも椎名に同じことを言う

ペット殺しの3人組を逃がすまいと車の前に立ちはだかり轢かれて亡くなってしまった琴美。生き残った3人組の1人である本屋の息子江尻をみつけ江尻が働く本屋を襲撃する。河崎は「裏口から、悲劇は起こる」と言って、ドルジに江尻が裏口から逃げないように見張ってほしいと頼む。
琴美が亡くなったときも、警察に見つかったペット殺しの3人組が裏口から逃げたことから悲劇は起きたのだ。
はじめの方で、河崎になりすましたドルジが椎名と書店を襲う際にも、同様の言葉が使われてる。

麗子「助けられる人は助けたい。最近、そう思うようになった」

麗子はペット殺しの犯人の1人である江尻を殺そうとしたドルジに自首を勧める。ドルジ、琴美、河崎の物語は麗子の心境にも変化をもたらした

ドルジ、琴美、河崎の3人の物語を近くで見てきた麗子が、河崎の遺志を継いで江尻を殺そうとしたドルジに「助けられる人は助けたい。最近、そう思うようになった」と言って、ドルジに自首を勧める。
ドルジは「ソウデスネ」とわざと片言の日本語で答え、はっきり返事をしなかった。
この「助けられる人は助けたい」と言うことはバス停で困っている外国人を助けようとした麗子の行動にも表れている。
ドルジ、琴美、河崎の物語は麗子の考え方に大きな影響をもたらした。

椎名「神様を閉じ込めるんだよ。神様に見て見ぬ振りしてもらおうよ」

椎名は『風に吹かれて』を流したラジカセをコインロッカーに入れ、「神様を閉じ込めるんだよ。神様に見て見ぬ振りしてもらおうよ」とドルジに言う

ドルジ、琴美、河崎の3人の物語を知った椎名は、胃がんを患った父親の見舞いにすぐ来るように電話で母親に言われる。
新幹線に乗るために仙台駅に到着した椎名は、ドルジ達3人が“神様の声”と呼んでいたのボブ・ディランの『風に吹かれて』を流したラジカセをコインロッカーに入れ、「神様を閉じ込めるんだよ。神様に見て見ぬ振りしてもらおうよ」とドルジに言う。
物語のクライマックスであり、タイトルにもなったコインロッカーの所以がここでわかる。
物語の中盤に琴美がドルジに「神様には見て見ぬ振りしてもらおうよ。神様を閉じ込めてさ、なかったことにすればいい」と言うシーンもある。繰り返される“神様を閉じ込める”と言うキーワードはこの映画の見どころの1つである。

『アヒルと鴨のコインロッカー』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

ロケは全て仙台市周辺で行われている

原作者の伊坂幸太郎の居住地である仙台市。本作も原作同様、仙台市が舞台となっている。
映画では予算の都合上、舞台になっている地域とは別の場所でロケが行われることが多いが、本作はほとんど仙台市周辺でロケを行った。
これは中村監督の強いこだわりと言える。

歩坂町、愛宕神社、仙台市八木山動物公園、高柳公園付近高架下、東北学院大学泉キャンパス、仙台駅。重要なシーンはすべて仙台市で撮影した。
特に愛宕神社は監督が「ここから見た景色は本当に素晴らしい」と絶賛し、仙台市でオールロケをする決め手になった場所である。

椎名が神様を閉じ込めたコインロッカーは3740番

3740番のロッカー

ラスト、本作の見どころである、椎名がボブ・ディランの『風に吹かれて』をリピート再生させたラジカセを入れるコインロッカーの番号は3740番である。
ロッカーのある場所は仙台駅3階の南口付近である。

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