冷たい熱帯魚(Cold Fish)のネタバレ解説・考察まとめ

『冷たい熱帯魚』(Cold Fish)は、園子温監督、脚本による2010年の日本映画。1993年に発生した「埼玉県愛犬家殺人事件」をモデルにしたサイコホラーで、同監督による実際の事件を土台とした「家賃3部作」シリーズの第1作。優れた演出と物語性が高い評価を獲得し、日本国内での主要な映画賞を総なめにした。しかしこの一方、俳優陣の狂気的ともいえる演技や、グロテスクな演出が話題となり「トラウマ映画」として挙げる視聴者も多い。小さな熱帯魚店を営む男性が事件に巻き込まれ、狂気に取り込まれていく姿を描く。

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『冷たい熱帯魚』(Cold Fish)の概要

『冷たい熱帯魚』(Cold Fish)は、園子温監督、脚本による2010年の日本映画。1993年に実際に発生した「埼玉県愛犬家殺人事件」をモデルにしたサイコホラーで、同監督による実際の事件をベースとした「家賃3部作」シリーズの第1作。日本では2010年11月27日にプレミア上映され、翌2011年1月29日から、映倫規定R18+に指定される形で一般公開された。2011年にはBlu-ray DiscとDVDが発売されている。
実際に発生した事件ベースの映画でありながら、優れた物語性が高い評価を獲得し、第36回報知映画賞や日本国内での主要な映画賞を総なめにした。さらに、2010年のヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門、トロント国際映画祭、釜山国際映画祭で上映され、日本国内のみならず、海外でも園子温の手腕や俳優陣の狂気的ともいえる演技が絶賛の声を集めている。
しかしこの一方、俳優陣の演技や、過剰なまでのグロテスクな演出が話題となり「トラウマ映画」として本作を挙げる視聴者も多い。
死別した前妻との間の娘と現在の妻との3人暮らしで、折り合いの悪い二人に挟まれながら小さな熱帯魚店を営む社本(しゃもと)。気が小さく、家族の問題に向き合うこともなく生きてきた彼の態度はついに娘の非行を招き、スーパーで彼女が万引きしたことで窮地に立たされる。そんな彼を救ったのは、スーパーの店長と懇意にしていた村田(むらた)という初老の男性だった。自らと同じく熱帯魚店を経営する村田と徐々に打ち解けていく一家だが、村田は徐々に狂気に満ちた本性を露にし、社本の人生までをも飲み込んでいく。

1993年に実際に発生した「埼玉愛犬家連続殺人事件」を題材としている本作だが、「犬」か「熱帯魚」かということや、事件現場の違い、作中に登場する社本なる人物は存在はせずとも、それらしき人物も登場していることから、差異はありつつも比較的忠実に作られているともいえる。しかし、作中の村田夫妻は社本の手により殺害されているが、実話の容疑者夫妻は逮捕され、裁判で死刑を求刑された後に首謀者である夫は病死、妻は生きているということが大きく異なっている。

『冷たい熱帯魚』(Cold Fish)のあらすじ・ストーリー

村田との出会い

村田が経営する「アマゾンゴールド」の店内

妻の妙子(たえこ)と、死別した前妻との間に生まれた娘の美津子(みつこ)との三人家族で、折り合いの悪い二人に挟まれながら小さな熱帯魚店を営む社本(しゃもと)。気が小さく、典型的な小市民気質である彼は家族の問題にうまく向き合うことができず、険悪な状況の妻と娘の関係も、見て見ぬ振りをして過ごしていた。
しかしそれは美津子の非行という最悪の事態を招き、遊びに出かけた彼女が万引きをしたことで、被害にあったスーパーに呼び出されてしまう。反省の色が見えない美津子にスーパーの店長は激怒しており、社本夫妻は平謝りをするしかない状況に陥るが、店長と懇意にしている人物である村田(むらた)が現れる。そして彼は巧みな話術でその場を丸く収めるのであった。
感謝する社本に対し、村田は同じく熱帯魚店を営んでおり、「アマゾンゴールド」という大型店舗の店長だと名乗った。店に招待された一家は、「美津子の社会復帰を促すべきだ」という村田の提案に乗り、美津子は住み込みで雇われる形で、アマゾンゴールドの従業員となった。
社本一家は村田の厚意に感謝し、すっかり村田の豪快かつ親切な人柄に魅了されていく。

不穏のはじまり

村田は、自身の妻の愛子(あいこ)も交えて家族ぐるみの付き合いを持つようになり、すっかり自分に気を許した社本を高級熱帯魚の養殖のビジネスに誘う。社本はこのビジネスの顧客との商談に同席させてもらえることになるが、それが完全に違法な取引だったと気づくころには、既に離れることができなくなっていた。
そしてある日とうとう、村田と愛子が顧客の吉田(よしだ)という男を殺害して遺体を切り刻み、醤油をかけながら焼却して遺骨を川に撒いている現場に立ち会わされたうえに、その手伝いまでさせられてしまう。
一見明るく人好きのする性格の村田だが、金のためなら次々に人を殺してしまう凶悪殺人犯という裏の顔を持っていたのだ。
親切だと思っていた村田の隠された一面を知ってしまい、暴力と脅しに屈服して犯行の手伝いまでさせられてしまった社本は恐怖心を感じるが、妻にも娘にも真実を打ち明けることができずに苦しむことになる。

壊れていく社本

行方不明になった吉田を探し、アマゾンゴールドに押し掛けてきた彼の弟分たちとのトラブルに巻き込まれた社本は、すっかり疲れ果てていた。店の駐車場で村田の顧問弁護士を務める筒井(つつい)と愛子がキスをしながら同じ車で消えていくのをぼんやりと眺めていると、二人組の刑事に話しかけられる。
吉田を探しているという彼らは、「よく知らない」と白を切った社本に対し、かつて村田の助手として働いていたという人物の写真を見せた。そしてこの男とその家族は行方不明であること、表向きは村田の金を持ち逃げして夜逃げしたことになっているが、村田の周辺で30人以上もの人間が行方不明になっていることを明かす。刑事は社本に名刺を手渡し、自分たちが接触してきたことを村田に明かさないこと、という口止めと、何か不審なことがあればと伝え、名刺を置いて去っていった。こうして、警察に真実を伝えるべきか否か迷い続ける社本の元に、激昂した村田から電話での呼び出しが入る。
彼は自分を裏切っていた筒井に妻の愛子を差し向けて毒を盛って殺害し、さらにその運転手の男を社本の目の前で「処分」した。そして社本は遺体の運搬を手伝わされ、いつもの山小屋で解体作業を行うことになる。

全ての終わり

二人分の遺体を切り刻み、山奥の川に捨てた社本は、村田に「善人ぶっているだけの極悪人」と罵られる。さらに、美津子が非行に走ったのが社本が頼りないせいだ、と至らなさを責められた上、妻の妙子を抱いたことを仄めかされて怒り狂う。わざと自分を怒らせるような発言をした村田にまんまと乗せられる形で、煽られるままに彼を殴る社本だが、気が小さく、人を殴ったことなど勿論ない彼はその場で泣き叫び、崩れ落ちてしまう。
しかし村田は容赦なく社本を煽り、その場で愛子を抱くように強要する。社本は一瞬の隙をついてボールペンで愛子の首を刺して難を逃れ、村田をめった刺しにして殺害する。
村田を殺害した社本は、息があった愛子に村田の遺体を処分するよう言いつけて山小屋を出ると、アマゾンゴールドで働いていた美津子を強引に連れ出して自宅に戻る。妙子を怒鳴りつけて食事を用意させ、いつも通り暴言を吐く美津子を殴りつけた社本は、気を失った彼女の横で妙子を犯して家を出ていった。道中で刑事に電話をして山小屋の場所を教えた社本は、素直に村田の遺体を解体していた愛子を殺害。更に刑事の車に乗せられる形で現場に到着した妻の妙子を手にした包丁で殺し、娘の美津子と対峙する。
社本は生きることの痛みと重さを説き、美津子の目の前で自らの首を切って絶命した。
呆然とその姿を眺めていた美津子だが、我に返るとようやく父が死んだと喜び、社本の遺体を足蹴にするのであった。

『冷たい熱帯魚』(Cold Fish)の登場人物・キャラクター

社本 信行(しゃもと のぶゆき/演:吹越満)

主人公。「社本熱帯魚店」を営んでいる、気弱で大人しい男性。死別した前妻との娘である美津子と、現在の妻である妙子と共に暮らしている。気弱であるゆえに、妻にも娘にも厳しく言えない性格ではあるものの、趣味は星を見ることで、作中でも地元のプラネタリウムに何度か行っている描写があり、妙子を誘ってデートをするなどロマンチストな一面もある。大金を稼ぐビジネスにはあまり興味を示さず、マイペースとみられる一面もある。
村田から「海外から輸入した高級熱帯魚の養殖で儲けよう」と話を持ちかけられる。その後村田夫妻が殺人を犯すところを見てしまい、自身も犯罪に巻き込まれるうち、村田の暴力や巧みな言葉に屈服するようになる。

社本 妙子(しゃもと たえこ/演:神楽坂恵)

家庭で出すほとんどの食事をインスタントか冷凍食品で済ませてしまう社本の二番目の妻。生活に不満を感じるも、村田と知り合って肉体関係をもってからというもの、ビジネスの話を持ってくる。
美津子からは後妻であるという理由で嫌われ、暴言や暴力を受けることもある。おおざっぱな性格の女性だが、社本が店にいない時は店番を務め、魚たちの面倒もしっかりと見ている。

社本 美津子(しゃもと みつこ/演:梶原ひかり)

反抗期の信行の娘。実母を失った寂しさと、母を亡くして間もなく再婚した父への怒りをあらわにしている。義母の妙子を母とは認めず、暴言を吐いて手をあげることも。
素行が悪く、スーパーでの万引きを見咎められたところを助けられたことをきっかけに村田と知り合い、村田の経営する「アマゾンゴールド」で住み込みのバイトを始める。

村田 幸雄(むらた ゆきお/演:でんでん)

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