17歳のカルテ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『17歳のカルテ』とはアメリカの映画。原題は、『Girl, interrupted』。青年期に精神疾患と診断された主人公スザンナ・ケイセンの精神病棟での成長を描いている。ベトナム戦争の長期化や貧困・人種差別による社会分断の深刻化、主要人物の暗殺など情勢が不安定だった60年代アメリカを舞台に、病棟の内と外、パーソナリティーの正常と異常、自己存在への疑問と確信、それらとは一体何なのかを「境界性パーソナリティー障害」と診断されたスザンナ・ケイセンの視点を通して描いていく。1999年公開。

ポリーが悲観的になって泣き叫んだ夜、リサが見ていたテレビでは新しいディズニーランドがフロリダで建設中であることを伝えている。実際オープンしたのは1971年の10月1日。リサはその様子を見て自分はプロのシンデレラとして仕事ができる、スザンナは白雪姫になれると言っている。リサがウィック医師との面談・ショック療法のあと施設を抜け出す際、目的地にしたのがフロリダのディズニーワールドだった。

『17歳のカルテ』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

スザンナ「夢と現実が混乱したことはある?」

冒頭、泣くリサを膝枕しながら看護師の到着を待つスザンナ。

スザンナが本作一言目に観衆に対して問いかけるセリフが、「夢と現実が混乱したことはある?」である。夢(頭の中での出来事)と現実の境界があいまいとなり、精神疾患「境界性パーソナリティー障害」と診断されたスザンナが、自身のような状態になったことがあるかと問いかける。これは「境界性パーソナリティー障害」になったことがあるかという意味だけでなく、夢から覚めてどちらが夢か現実か分からなくなってしまうことがあるかという意味合いもあり、このように夢と現実の境界があいまいになってしまう現象は、誰の身にも起こる可能性があるのではないかと言うことを暗に問いかけている。

スザンナ「バカな事言った、もう死んじゃおう。 いい映画を観たから生きよう。 電車に乗り遅れたから死のう。」

トビーに死と距離の近い自分の心情を語るスザンナ。

スザンナが元恋人のトビーに対してベッドの上で言ったセリフ。生と死の境界線があいまいになっているスザンナの心情が描かれている。スザンナが自殺についてトビーに話し、「いったん自殺っていう考えが頭に浮かぶと、おかしい人種になる。自分の人生の終わりを妄想するのが大好きになる。」と言い、続けて「バカな事言った、もう死んじゃおう。 いい映画を観たから生きよう。 電車に乗り遅れたから死のう。」と言う。気に入らないことがあれば「死」が軽々しく選択肢となったり、気分がいいなら「生」を選ぼうとしたり、「生」と「死」の境界をあいまいに感じているスザンナの状態が表れている。

リサ「カミソリは痛い、水は冷たい、薬は苦い、銃は違法、縄は切れる、ガスは臭い。 生きてる方がマシ。」

トランプをしながら自殺するのが面倒だから生きてるだけと語るリサ。

リサが共有スペースでジョルジーナとシンシアとトランプをしている際に言ったセリフが、「カミソリは痛い、水は冷たい、薬は苦い、銃は違法、縄は切れる、ガスは臭い。 生きてる方がマシ。」である。自殺の方法に対して「脈をカミソリで切るなら痛い、入水自殺なら水が冷たい、薬での自殺なら薬が苦い、銃での自殺なら銃は違法、首つり自殺なら縄が切れる、ガス自殺ならガスが臭い。(死ぬときに嫌な思いをするくらいなら)生きてる方がマシ。」という意味合い。自殺も自分の未来の選択肢に入れながらも、結局死のうとしたところでとろくなことがないからとりあえず生きているだけ、というニュアンスが含まれており、生と死の境界線があいまいで不安定な状態にあるスザンナをはじめとした入所者たちの心情を描写したセリフとなっている。

スザンナ「それ、私だ。」

スザンナの境界性パーソナリティー障害に対する自認に対して、それは誰でもあてはまることだと付け加えるリサ。

精神病棟という、そこと関わらない人から見たら社会的に特殊な環境や状況でも、実際は誰の身にも起こりうる日常の一部であることを伝えようとしている本作の一貫した姿勢が表れているセリフ。地下室でボーリングをして遊んだ後、ポッツ医師の部屋に忍び込んだ一行は、それぞれ自身の精神疾患のカルテを読み漁る。スザンナはそこでまじまじと昼間ポッツ医師に診断された「境界性パーソナリティー障害」の文字を目にする。ポッツ医師の本棚から境界性パーソナリティー障害に関する記述を見つけたスザンナはそれを読み上げ、「これ、私だ」と一言口にする。そのあとリサがすかさず「みんなだ」と付け加える。その記述だけ聞けば誰しも当てはまる状態になりえるという意味合い。

「恋のダウンタウン(原題:Downtown)」の弾き語り

ポリーの隔離部屋の扉の前で「恋のダウンタウン」を弾き語るスザンナと一緒に歌うリサ。

上記のシーン同様、精神病棟という、そこと関わらない人から見たら社会的に特殊な環境や状況でも、実際は誰の身にも起こりうる日常の一部であることを伝えようとしている本作の一貫した姿勢が表れているシーン。ポリーが自身の顔のやけどの跡を気にして悲観的になり、隔離室で泣いている際に、60年代のヒット曲である「恋のダウンタウン(原題:Downtown)」をスザンナがギターで弾き語りした。このシーンでは、精神疾患と診断されて周りから「頭がおかしい」と見られるようになっても、人を思いやったり励まそうとする行為があることを描く。映画のレビューなどでもこのシーンのことを語る観衆が多い。スタジオで演技中に収録された音源がそのまま使われており、スザンナとリサの拙い歌唱で人間味を醸し出している。「恋のダウンタウン」は劇中の主要部、スザンナがクレイモアに向かうタクシーの中やエンディングテーマとしても使用されている。

スザンナとリサのキス

脱走中、ヒッチハイクした車の中でリサにキスするスザンナ。

リサがスザンナにクレイモア脱走を提案し、ヒッチハイクして乗った車の中でスザンナがリサにキスをするシーン。衝動的で荒っぽい言動、病棟のスタッフを軽視する姿勢、さらに反社会性パーソナリティー障害を才能と語るリサは、本来であれば警戒の対象となる人物だが、クレイモアに入所していたスザンナにとってリサは影響力のある大切な友人のひとりとなり、脱走の興奮からではあるがスザンナがリサにキスをすることでその脅威を心から受け入れている様子を表している。リサも同じクレイモアに所属する入所者は攻撃しない傾向があることから、スザンナからのキスを受け入れており、このときの二人の心は重なっていると言える。その後のデイジー宅での事件で、二人の方向性は真逆となるが、その対比としても印象的なシーンとなっている。

ヴァレリーのスザンナへのまなざし

自身の考えを文章に綴ったらいいとスザンナにアドバイスするヴァレリー。

他作品ではコメディー色の強いウーピー・コールドバーグがその色をひそめ、シリアスで奥が深い看護師長を演じたことで印象深くなっているシーン。スザンナが入院生活にも慣れてきて、リサがいなくなった傷心に浸っていた際スザンナをバスタブの中へ突き落としたり、デイジーの自殺後スザンナの胸の内を聞いたりと、看護師長としての貫録を見せるヴァレリーを演じ切っている。バスタブのシーンでは、60年代のアメリカの人種差別による分断を象徴するかのように、スザンナがヴァレリーの人種をけなす強いことばを発している。しかし、ヴァレリーはそのスザンナに怒るのではなく、スザンナのうちにある甘えを注視している。また、本編後半でスザンナの心情の記述能力を見出し、文章を書くよう促したように、入所者ひとりひとりをぞんざいに扱うことなく退所への道筋を見出そうとしている。原作で語られる実際のヴァレリーも、精神医学の難しい専門用語を使うことなく、正直で率直な人柄で入所者から信頼されていたと記されている。本作ではそんなヴァレリーの助けを借り、スザンナも退所への運びとなる。

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