17歳のカルテ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『17歳のカルテ』とはアメリカの映画。原題は、『Girl, interrupted』。青年期に精神疾患と診断された主人公スザンナ・ケイセンの精神病棟での成長を描いている。ベトナム戦争の長期化や貧困・人種差別による社会分断の深刻化、主要人物の暗殺など情勢が不安定だった60年代アメリカを舞台に、病棟の内と外、パーソナリティーの正常と異常、自己存在への疑問と確信、それらとは一体何なのかを「境界性パーソナリティー障害」と診断されたスザンナ・ケイセンの視点を通して描いていく。1999年公開。
スザンナの同級生で、大学教授のギルクレスト氏とその妻バーバラを親に持つ。元々ラドクリフ大学を目指すが、最終的に母と同じウェルズリー大学に進学することを決意し、夏にはソルボンヌへの留学も予定されている、社会から見たら理想的な人生を歩んでいる女性として描かれている。
演じるのはケイディー・ストリックランド。2007-2013放映のアメリカのドラマ『プライベート・プラクティス 迷えるオトナたち(Private Practice)』で主要人物のうちの一人であるシャーロット・キング役で知られる。2004年公開の『THE JUON/呪怨(The Grudge)』で忌まわしき家に引っ越そうとした主要人物の妻ジェニファー・ウィリアムズを演じた。
『17歳のカルテ』の用語
境界性パーソナリティー障害(Borderline personality disorder)
精神疾患の一種とされている。劇中でスザンナはメルヴィン・ポッツ医師の事務所にある境界性パーソナリティー障害についての本を棚から取り出し、その定義を読み上げる。それには「自己像、関係性、そして気分が不安定である、目標があいまいで、安易な性行為におよぶといった衝動的な自傷行為もある」と記されている。この状態だけでは単に性格の一部ともとれるが、その不安定さが過度になり、自分でコントロールできない過食、自傷行為、性行為、薬物乱用などに発展すると「障害」として扱われる。スザンナの場合は、不安定さからアスピリンとウォッカの大量摂取という自分をコントロール出来ない部分までこの性質が肥大化したため、精神病棟クレイモアに入院することとなった。
精神性無食欲症
拒食症の一種とされている、心理的要因・社会的要因・生物学的要因のストレスなどから食欲がなくて体重が極端に減少する症状のこと。本編ではリサとジャネットが該当する。体重や体型が痩せすぎだと診断されても、本人たちはそれを異常と感じない傾向がある。痩せていて体力低下や疲れやすさを感じるようになるが、活発に活動することが多く見られる。精神面の影響として、もともとストレスで拒食症となっているが今度は拒食症が原因で精神的ストレスが増え、うつ気分や不安、イライラやこだわりが強くなるという傾向があると言われている。
反社会性パーソナリティ障害
精神疾患の一種で、自分の行動が不誠実だったとしてもそれを正当化または合理化しつつ社会のルールを守ろうとしない、個人的な利益や快楽のために良心の呵責なく他者の権利・感情を軽視し、欺瞞に満ちた言動を行い、暴力を伴いやすい傾向があるパーソナリティ障害。本編ではリサが該当する。遺伝や幼少期の事故・虐待などが原因となるが、リサの発症原因については言及されていない。パーソナリティーが肥大化し生活に支障をきたすようになると、アルコール依存症、薬物依存症なども併発すると言われている。カウンセリングを中心とした精神療法が主体だが、薬の投与や60年代は劇中にあるようにショック療法による処置もあったとされる。
クレイモア(Claymoore)
本編で登場する精神病棟の名称。スザンナ・ケイセン本人が入院した病院は「マックリーン(McLean)」という実在する病院だが、本編ではその名前は使われず、「クレイモア(Claymoore)」となっている。女性専用病棟で、部屋割りは2人1組、対応が難しくなった患者を隔離する部屋も奥にある。看護師が複数人常駐し、看護師長はヴァレリー。専属の医師が2名以上いる。決まった時間に決められた薬を飲むよう促され、ちゃんと飲んだかどうかチェックされる。また、患者の様子は常に監視され、お風呂に入るときも監視員つき。共有スペースではテレビを見ることができ、電話ボックスでは看護師の許可が下りた場合外部の人間と電話をすることができる。
アスピリン
解熱鎮痛剤。通常は腫れや痛みなどの炎症を和らげ、熱を下げるための薬。通常、適量は成人で1日100mg1錠。この量を超えて(多くても1日300g)摂取すると急性中毒症状となり、耳鳴り、吐き気、嘔吐、眠気、錯乱、速い呼吸などを引き起こす。ただ、実際はよっぽど大量に摂取しなければ急性中毒は起きず、例えば体重約70kgの人では、325mgの錠剤を30錠服用しても、軽い中毒で済むと言われている。劇中でスザンナは1ボトルのアスピリンを摂取したと言っており、さらにウォッカも同時に摂取していた。通常アスピリンはアルコールとの同時接種は、胃潰瘍や肝障害などの副作用を出やすくすることから控えることが推奨されているため、スザンナの摂取したアスピリンとウォッカは生死の境をさまように至る組み合わせと量だったと言える。
ジアゼパム錠(抗不安薬)
脳の興奮を抑え不安や緊張などをしずめる薬で、不安・緊張・抑うつなどの治療に用いられる。劇中、英語では「Valium」と呼ばれているが、もともとジアゼパム(Diazepam)という名称は薬に含まれる化合物の名前で、それを含んだ薬を原語では「Valium」と読んでいる。劇中ではリサやデイジーが好み、薬を持っていないか入所者に尋ねるシーンがある。薬物依存 、 不眠 、 不安 、 幻覚 、 妄想 、 刺激興奮などの副作用がある。
60年代アメリカ
ベトナム戦争の長期化やマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の暗殺などが劇中に描かれているように、社会不安が大きくなっている時代だった。スザンナは本編冒頭で「私の身にこの起こったのは60年代だったから?」とも表現している。スザンナの元彼トビーは戦争に徴兵されており、それを抜け出すためにカナダへ行こうとしていた。キング牧師暗殺のニュースがテレビで流れるシーンでは、それを見ていた誰もが不安そうな表情で描かれている。ジョン・F・ケネディ大統領が暗殺されたのも60年代であり、貧困や人種差別による分断も根強かったことで、社会矛盾が露呈した時代とも言われている。
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目次 - Contents
- 『17歳のカルテ』の概要
- 『17歳のカルテ』のあらすじ・ストーリー
- スザンナの入院
- 入院初日
- スザンナの病名と自己理解
- リサとの脱走とデイジーの死
- スザンナの回復
- 『17歳のカルテ』の登場人物・キャラクター
- 精神病棟クレイモアの入所者
- スザンナ・ケイセン(演:ウィノナ・ライダー)
- リサ・ロウ(演:アンジェリーナ・ジョリー)
- ジョルジーナ・タスキン(演:クレア・デュヴァル)
- デイジー・ランドネ(演:ブリタニー・マーフィー)
- ポリー・クラーク(演:エリザベス・モス)
- シンシア・クロウリー(演:ジリアン・アルメネイト)
- ジャネット・ウェバー(演:アンジェラ・ベティス)
- 精神病棟クレイモアのスタッフ
- ヴァレリー・オーウェンス(演:ウーピー・ゴールドバーグ)
- メルヴィン・ポッツ医師(演:ジェフリー・タンバー)
- ソニア・ウィック医師(演:ヴァネッサ・レッドグレイヴ)
- ジョン(演:トラヴィス・ファイン)
- スザンナの恋人
- トビー・ジェイコブス (演:ジャレッド・レト)
- ケイセン一家とつながりのある人物たち
- アネット・ケイセン(演:ジョアンナ・カーンズ)
- カール・ケイセン(演:レイ・ベイカー)
- クランブル医師(演:カートウッド・スミス)
- ギルクレスト教授(演:ブルース・アルトマン)
- バーバラ・ギルクレスト(演:メアリー・ケイ・プレイス)
- ボニー・ギルクレスト(演:ケイディー・ストリックランド)
- 『17歳のカルテ』の用語
- 境界性パーソナリティー障害(Borderline personality disorder)
- 精神性無食欲症
- 反社会性パーソナリティ障害
- クレイモア(Claymoore)
- アスピリン
- ジアゼパム錠(抗不安薬)
- 60年代アメリカ
- フロリダのディズニーワールド
- 『17歳のカルテ』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- スザンナ「夢と現実が混乱したことはある?」
- スザンナ「バカな事言った、もう死んじゃおう。 いい映画を観たから生きよう。 電車に乗り遅れたから死のう。」
- リサ「カミソリは痛い、水は冷たい、薬は苦い、銃は違法、縄は切れる、ガスは臭い。 生きてる方がマシ。」
- スザンナ「それ、私だ。」
- 「恋のダウンタウン(原題:Downtown)」の弾き語り
- スザンナとリサのキス
- ヴァレリーのスザンナへのまなざし
- スザンナ「あなたはもうすでに死んでいるの、リサ!」
- スザンナ「このことは、私でありあなたでもあって、心の一部が肥大化しただけ。」
- 『17歳のカルテ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 邦題は『17歳のカルテ』だが主人公スザンナの設定年齢は17歳ではない
- 原題『Girl, interrupted』はフェルメールの絵画のタイトルにインスパイアされたもの
- 長年進まなかったプロジェクト
- 脚本の方向性は『オズの魔法使い』(アイデンティティ探し)
- 極力ウィノナ・ライダーと距離を取るようにしていたアンジェリーナ・ジョリー
- デイジーを演じたブリタニー・マーフィーの悲運
- 『17歳のカルテ』の主題歌・挿入歌
- 主題歌・挿入歌:ペトゥラ・クラーク 「恋のダウンタウン」
- 挿入歌:ゼム「イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー」
- 挿入歌:ママス&パパス 「ガット・ア・フィーリン」
- 挿入歌:ザ・チャンバーズ・ブラザーズ「タイム・ハズ・カム・トゥデイ」
- 挿入歌:ジェファーソン・エアプレイン「帰っておくれ」
- 挿入歌:アレサ・フランクリン「ライト・タイム」
- 挿入歌:メリリー・ラッシュ&ザ・ターナバウツ 「朝の天使」
- 挿入歌:ウィルコ「ハウ・トゥー・ファイト・ロンリネス」
- 挿入歌:ザ・バンド「ザ・ウェイト」
- 挿入歌:スキータ・デイヴィス 「この世の果てまで」