17歳のカルテ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『17歳のカルテ』とはアメリカの映画。原題は、『Girl, interrupted』。青年期に精神疾患と診断された主人公スザンナ・ケイセンの精神病棟での成長を描いている。ベトナム戦争の長期化や貧困・人種差別による社会分断の深刻化、主要人物の暗殺など情勢が不安定だった60年代アメリカを舞台に、病棟の内と外、パーソナリティーの正常と異常、自己存在への疑問と確信、それらとは一体何なのかを「境界性パーソナリティー障害」と診断されたスザンナ・ケイセンの視点を通して描いていく。1999年公開。
マーフィーは32歳で夭逝。原因は薬物の過剰摂取による貧血から生じた過度の肺炎とされ、デイジーにも通じるものがあるかと推測されていた。最終的な調査では、パートナーのサイモン・モンジャックも肺炎で死去したため、家屋のカビを知らず知らずのうちに大量に吸ってしまっていたことが夫婦の死因ではないかという結果が有力視されている。マーフィーの死後、主演のライダーは、マーフィーの演じた本作を見れなくなったと語っている。
『17歳のカルテ』の主題歌・挿入歌
主題歌・挿入歌:ペトゥラ・クラーク 「恋のダウンタウン」
本作の挿入歌、エンディングテーマとして用いられた、1964年イギリスで発表され、世界的にヒットとなったポップソング「恋のダウンタウン」、原題は「Downtown」。作詞・作曲は1960年代にヒットチャートトップのアーティストの作曲を手掛けていたトニー・ハッチ。本作では、冒頭スザンナがクレイモアに行く際のタクシーのラジオで「恋のダウンタウン」が流れているシーンがあり、またスザンナがポリーを慰めるときに弾き語りで歌った歌が「恋のダウンタウン」であったりと比較的印象的なシーンで挿入歌となっている。当時発売されたシングルは世界的ヒットとなり、まずイギリスではビートルズのシングル「アイ・フィール・ファイン」に次いで2位、イギリスリリース翌年1965年、アメリカでチャート1位に輝いた。
ポジティブなポップスといった曲調で、精神病棟という暗く見られがちな世界を重くなりすぎないように演出していて、特に本作終盤ではスザンナの退所の流れでエンディングテーマとして「恋のダウンタウン」で本作が締めくくられることで、青年期の女性たちの複雑な心の揺れを描いた本作を後味に苦みがひかないよう締めくくっている。「辛いときもダウンタウンに行けば元気になれる」といった内容の歌詞で、不安定な時代にあった60年代のアメリカでも元気になりたいという聴衆の心情がうかがえるのと同時に、本作内では病棟の中で時折混乱しながらも実は歌詞で描かれるような繁華街に飛び出していく人々と同様、喜びを探して何とか生きようとしている本作のクレイモア入所者たちの心情と重ねて見ることもできる。
挿入歌:ゼム「イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー」
ボブ・ディラン作詞・作曲の楽曲で、本作に使用されているのは北アイルランドのロック・バンド、ゼムがカバーしたもの。オリジナルの楽曲は1965年発表のボブ・ディランの5枚目のアルバム『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』Side2の4曲目に収録されている。本アルバムは、ボブ・ディランの代表作でシングルチャート1位も獲得した「ミスター・タンブリン・マン」や映画のタイトルにも採用されたスローガンを含んだ歌詞で有名な「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」も収録しており、アメリカのビルボードチャートで最高6位を記録し、その翌年はイギリスのチャートで1位を記録している。本作で使用されているものがカバーであるように、ボブ・ディランのこの曲は多くのアーティストがカバーしている。
本作で「イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー」はスザンナがクレイモアに向かうタクシーの中で、先述した「恋のダウンタウン」の次にラジオから流れており、この時期が「イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー」や「恋のダウンタウン」が人気曲としてラジオでかかっていた1960年代後半ころであることを示唆している。
挿入歌:ママス&パパス 「ガット・ア・フィーリン」
1960年代、アメリカで活躍したフォークグループ、ママス&パパスの楽曲「ガット・ア・フィーリン」が本作のスザンナがはじめてルームメイトのジョルジーナと部屋で会うシーンに環境音として挿入されている。「ガット・ア・フィーリン」はママス&パパス1966年発表のファーストアルバム『イフ・ユー・キャン・ビリーブ・ユア・アイズ・アンド・イヤーズ』のSide 1 の3曲目に収録されている。同アルバム4曲目「アイ・コール・ユア・ネイム」はビートルズのジョン・レノンとポール・マッカトニーが楽曲を提供したことでも知られる。このアルバムはローリングストーン誌でも評価が4.5/5と高評価であり、ロベルト・ディメリー著、音楽批評書『死ぬ前に聴くべき1001枚のアルバム』に掲載されている。
挿入歌:ザ・チャンバーズ・ブラザーズ「タイム・ハズ・カム・トゥデイ」
「タイム・ハズ・カム・トゥデイ」は、アメリカのサイケデリック・ソウル・バンドと位置付けられるザ・チャンバーズ・ブラザーズの1968年ヒット曲で、本作ではスザンナの卒業式後のダンスパーティーで挿入歌として用いられている。アメリカのビルボードチャートでは1968年秋9月-10月期に最高位、11位を獲得。11分を超える長編曲としても話題となった。
挿入歌:ジェファーソン・エアプレイン「帰っておくれ」
1960年代イギリスロックバンドのビートルズに刺激され、アメリカで続々と結成されたロックグループのうちのひとつ、ジェファーソン・エアプレインの「帰っておくれ」、原題「Comin' Back to Me」。作詞・作曲はリードボーカルでギターのマーティ・バリン。メンバーの入れ替わりが多いバンドであったため、マーティ・バリンは旧メンバーとして認識されている。「帰っておくれ」は、1967年発表のセカンドアルバム『シュールリアリスティック・ピロウ(Surrealistic Pillow)』に収録され、同アルバムはサイケデリック・ロック黎明期の典型的な特徴を兼ね備えたアルバムだと認識されている。アメリカビルボードチャートで40位を記録。本作では、スザンナがベッドでトビーに自殺について語るシーンにて挿入歌として用いられている。
挿入歌:アレサ・フランクリン「ライト・タイム」
クイーン・オブ・ソウルの異名を持ち、グラミー賞を20回受賞しているアメリカのシンガーソングライター、アレサ・フランクリンの楽曲「ナイト・タイム・イズ・ザ・ライト・タイム」、原題「Night Time Is the Right Time」。『17歳のカルテ』のサウンドトラックには「ライト・タイム」、原題は「The Right Time」として収録されている。ブルースをベースにしながらゴスペル色の強い編成の曲となっており、本作『17歳のカルテ』では、スザンナと入所者たちが看護師たちの目を盗み深夜部屋を忍び出て地下のボーリング部屋で遊んでいるときに挿入歌として使用されている。
挿入歌:メリリー・ラッシュ&ザ・ターナバウツ 「朝の天使」
「朝の天使」、原題「Angel of the Morning」は1968年にリリースされたポップソング。『17歳のカルテ』の日本版サウンドトラックではアーティストが「メリリー・ラッシュ&ザ・ターナバウツ」名義になっているが、アメリカ版では「メリリー・ラッシュ(Merrilee Rush)」名義となっている。アメリカビルボードでは7位を記録。グラミー賞で最優秀女性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス賞にノミネートされるほど注目された。この曲を書いたアメリカ出身のチップ・テイラーは、イギリスのロックバンドThe troggsの「ワイルド・シング」を書いたことで有名であるが、この「朝の天使」でさらに知名度を上げた。
本作内では、スザンナ、リサ、デイジーがそれぞれ好みの薬を交換し、デイジーのチキンの食べかす隠し癖が発覚したあと、スザンナとリサがスザンナの部屋で話をするシーンで、共有スペースでかかっている音楽として小さなボリュームで挿入されている。60年代のヒット曲が劇中たびたび環境音に近いボリュームで挿入されていることで、60年代の空気感を感じさせやすくしている意図がうかがえる。
挿入歌:ウィルコ「ハウ・トゥー・ファイト・ロンリネス」
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目次 - Contents
- 『17歳のカルテ』の概要
- 『17歳のカルテ』のあらすじ・ストーリー
- スザンナの入院
- 入院初日
- スザンナの病名と自己理解
- リサとの脱走とデイジーの死
- スザンナの回復
- 『17歳のカルテ』の登場人物・キャラクター
- 精神病棟クレイモアの入所者
- スザンナ・ケイセン(演:ウィノナ・ライダー)
- リサ・ロウ(演:アンジェリーナ・ジョリー)
- ジョルジーナ・タスキン(演:クレア・デュヴァル)
- デイジー・ランドネ(演:ブリタニー・マーフィー)
- ポリー・クラーク(演:エリザベス・モス)
- シンシア・クロウリー(演:ジリアン・アルメネイト)
- ジャネット・ウェバー(演:アンジェラ・ベティス)
- 精神病棟クレイモアのスタッフ
- ヴァレリー・オーウェンス(演:ウーピー・ゴールドバーグ)
- メルヴィン・ポッツ医師(演:ジェフリー・タンバー)
- ソニア・ウィック医師(演:ヴァネッサ・レッドグレイヴ)
- ジョン(演:トラヴィス・ファイン)
- スザンナの恋人
- トビー・ジェイコブス (演:ジャレッド・レト)
- ケイセン一家とつながりのある人物たち
- アネット・ケイセン(演:ジョアンナ・カーンズ)
- カール・ケイセン(演:レイ・ベイカー)
- クランブル医師(演:カートウッド・スミス)
- ギルクレスト教授(演:ブルース・アルトマン)
- バーバラ・ギルクレスト(演:メアリー・ケイ・プレイス)
- ボニー・ギルクレスト(演:ケイディー・ストリックランド)
- 『17歳のカルテ』の用語
- 境界性パーソナリティー障害(Borderline personality disorder)
- 精神性無食欲症
- 反社会性パーソナリティ障害
- クレイモア(Claymoore)
- アスピリン
- ジアゼパム錠(抗不安薬)
- 60年代アメリカ
- フロリダのディズニーワールド
- 『17歳のカルテ』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- スザンナ「夢と現実が混乱したことはある?」
- スザンナ「バカな事言った、もう死んじゃおう。 いい映画を観たから生きよう。 電車に乗り遅れたから死のう。」
- リサ「カミソリは痛い、水は冷たい、薬は苦い、銃は違法、縄は切れる、ガスは臭い。 生きてる方がマシ。」
- スザンナ「それ、私だ。」
- 「恋のダウンタウン(原題:Downtown)」の弾き語り
- スザンナとリサのキス
- ヴァレリーのスザンナへのまなざし
- スザンナ「あなたはもうすでに死んでいるの、リサ!」
- スザンナ「このことは、私でありあなたでもあって、心の一部が肥大化しただけ。」
- 『17歳のカルテ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 邦題は『17歳のカルテ』だが主人公スザンナの設定年齢は17歳ではない
- 原題『Girl, interrupted』はフェルメールの絵画のタイトルにインスパイアされたもの
- 長年進まなかったプロジェクト
- 脚本の方向性は『オズの魔法使い』(アイデンティティ探し)
- 極力ウィノナ・ライダーと距離を取るようにしていたアンジェリーナ・ジョリー
- デイジーを演じたブリタニー・マーフィーの悲運
- 『17歳のカルテ』の主題歌・挿入歌
- 主題歌・挿入歌:ペトゥラ・クラーク 「恋のダウンタウン」
- 挿入歌:ゼム「イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー」
- 挿入歌:ママス&パパス 「ガット・ア・フィーリン」
- 挿入歌:ザ・チャンバーズ・ブラザーズ「タイム・ハズ・カム・トゥデイ」
- 挿入歌:ジェファーソン・エアプレイン「帰っておくれ」
- 挿入歌:アレサ・フランクリン「ライト・タイム」
- 挿入歌:メリリー・ラッシュ&ザ・ターナバウツ 「朝の天使」
- 挿入歌:ウィルコ「ハウ・トゥー・ファイト・ロンリネス」
- 挿入歌:ザ・バンド「ザ・ウェイト」
- 挿入歌:スキータ・デイヴィス 「この世の果てまで」