17歳のカルテ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『17歳のカルテ』とはアメリカの映画。原題は、『Girl, interrupted』。青年期に精神疾患と診断された主人公スザンナ・ケイセンの精神病棟での成長を描いている。ベトナム戦争の長期化や貧困・人種差別による社会分断の深刻化、主要人物の暗殺など情勢が不安定だった60年代アメリカを舞台に、病棟の内と外、パーソナリティーの正常と異常、自己存在への疑問と確信、それらとは一体何なのかを「境界性パーソナリティー障害」と診断されたスザンナ・ケイセンの視点を通して描いていく。1999年公開。

スザンナ「あなたはもうすでに死んでいるの、リサ!」

泣き叫びながら「あなたはもうすでに死んでいるの、リサ!」と言い放つスザンナ。

本編終盤、地下室でスザンナがリサに追いつめられるシーンで、自論を展開し自身の正当性・合理性を主張しながら迫ってくるリサにスザンナが叫ぶようにして言ったセリフ。このことばでストーリの中でリーダー格を発揮し続けてきたリサが、スザンナから言い伏せられ、劇中はじめて泣き崩れる。本作中、リサにとって一番衝撃が大きい出来事となった。また、クレイモアにとどまり続けるのでなく外の世界へ戻っていく流れにいたスザンナが、過去の仲間意識と決別する瞬間でもあった。スザンナは「あなたはもうすでに死んでいるの、リサ!あなたの心は本当に冷たい。だからあなたはここ(クレイモア)にいつも戻ってくる。あなたは自由じゃない。生きてるのを実感するためにはこの場所にとどまり続けるしかない。」と泣きながらリサに伝える。スザンナの意見に泣き崩れるリサ。他の入所者たちからも自分と異なる意見をあまり言われたこともなかったリサだったので、スザンナの鋭い指摘により自分にも非があるという事実が露呈したことで、それまで自分の意見が一番正しく特別であったリサの自分自身に対する概念が崩れた瞬間だった。

スザンナ「このことは、私でありあなたでもあって、心の一部が肥大化しただけ。」

クレイモアをあとにし、タクシーで新天地へと向かうスザンナ。

本編のエンドロール前、クレイモアを後にするタクシーの中で語られたスザンナのモノローグの中の一節に「このことは、私でありあなたでもあって、心の一部が肥大化しただけ。」というセリフがある。上記シーン同様、精神病棟という、そこと関わらない人から見たら社会的に特殊な環境や状況でも、実際は誰の身にも起こりうる日常の一部であることを伝えようとしている本作の一貫した姿勢が表れているシーン。「精神病棟の入所者という特殊な人間」ではなく、入所者の状態は嘘をついて楽しんだり、子どもでありたいと願ったり、人間のパーソナリティーの一部分が肥大化してしまっただけで、「特殊」なのではないというスザンナの見方を表している。またスザンナは続けて「彼らは弱さがあるけど、私の友だちだった」と言っている。

『17歳のカルテ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

邦題は『17歳のカルテ』だが主人公スザンナの設定年齢は17歳ではない

映画内の設定上、スザンナは18歳となっている。また、登場人物のクレイモア入所者が皆17歳というわけでもない。映画が日本で放映された2000年、世間では17歳による暴力事件が多発しており、「キレる17歳」などの見出しがメディアで取り上げられる頻度が高かった。そのことから「17歳」という年齢を前面に押し出した邦題がつけられた。

原題『Girl, interrupted』はフェルメールの絵画のタイトルにインスパイアされたもの

フェルメール作『中断された音楽の稽古(Girl Interrupted at her Music)』。

原作である『Girl, interrupted(直訳:中断された少女)』のタイトルは、フェルメールの絵画『Girl Interrupted at her Music(中断された音楽の稽古)』からインスパイアされたもの。劇中にはフェルメールからインスパイアされたタイトルになぞらえてフェルメールの絵画の特徴が引き継がれている。それは「窓」である。フェルメールの代表作、『牛乳を注ぐ女』『士官と笑う娘』『窓辺で手紙を読む女』などの一部作品では絵画左側に「窓」がある。『17歳のカルテ』でもフェルメール作品同様、「窓」が効果的に使用されている。冒頭、物語の導入で使用される格子窓やスザンナはじめ入所者たちがよく眺めている窓など、内側と外側の境界線の比喩として用いられている。

また、『17歳のカルテ』にはもともと、スザンナとリサがクレイモアを脱走する際に、スザンナが美術館に立ち寄りフェルメールの絵画『Girl Interrupted at her Music(中断された音楽の稽古)』を眺めるというシーンがあった。しかし、最終的な編集によりカットされている。このシーンは他のカットされたシーンとともに、DVDのコレクターズエディションに特典映像として収録されている。

長年進まなかったプロジェクト

監督ジェームズ・マンゴールドとウィノナ・ライダー。

ライダーが製作権を購入しプロデューサーのダグラス・ウィックと組んでから5年間この映画のプロジェクトが頓挫。3本の脚本を書いたが、ライダーとウィックの満足のいくものではなかった。ライダーがディレクターとなるジェームズ・マンゴールドの『君に逢いたくて(原題:Heavy)』を観たあと、ジェームズにわざわざスザンナの本を買い映画の話を持ちかける。ライダーとウィックとマンゴールドは1998年の中ごろにようやく脚本を完成させ、コロンビア(映画会社)と、ライダーの他の出演映画(『ロスト・ソウルズ(原題:Lost Souls)』)のスケジュールとの兼ね合いで1999年の上半期までに映画製作ができるよう計画することとなった。

脚本の方向性は『オズの魔法使い』(アイデンティティ探し)

本編終盤、ジョルジーナがオズの魔法使いを見ているシーン。

ジェームズ・マンゴールドを迎え脚本づくりに取り組んだウィノナ・ライダーとダグラス・ウィックは、映画の脚本の方向性を『オズの魔法使い』に沿うかたちにすることを決める。アイデンティティ形成の不安定なスザンナが、病棟での物語を通じて自己を確立していく様を『オズの魔法使い』の主人公ドロシーたち一行が欲しがっていたもの、これは各キャラクターのアイデンティティの比喩であるが、それを探す旅に出て、結局それらはすでに自分たちが持っているものだったというストーリー展開になぞらえている。さらに、本編のリサのキャラクターの方向性は、西の魔女という風に設定されていた。劇中ではジョルジーナがオズの魔法使いをとても好んでいるという設定で、ジョルジーナの登場シーンではオズの魔法使いシリーズの本をベッドに広げている。本編終盤ではテレビに映っているオズの魔法使いのドロシーが家に帰るシーンをジョルジーナが見ている様子が描かれているが、このオズの魔法使いのシーンはアイデンティティを取り戻しつつあるスザンナが元の世界へと帰っていくことへの比喩となっている。

極力ウィノナ・ライダーと距離を取るようにしていたアンジェリーナ・ジョリー

ディレクターのジェームズ・マンゴールドによると、アンジェリーナ・ジョリーの役と映画に対する理解と、その理解を空間や小道具を使って表現する様子に驚いたことが多かったようだ。その中でアンジェリーナ・ジョリーはライダーとプライベートな交流は控え、スザンナとリサの関係性を徹底的に研究・再現しようとしていたという。劇中では、スザンナがリサに興味・行為を持ち友だちと感じることはあっても、リサは自分のことにしか関心がないという関係性が忠実に描かれている。

デイジーを演じたブリタニー・マーフィーの悲運

故 ブリタニー・マーフィー。

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