百万円と苦虫女（映画）のネタバレ解説・考察まとめ

百万円

浜田武の荷物を無断で捨ててしまったことで、器物損壊罪で刑事告訴され、前科持ちになってしまった鈴子が実家に帰ると、弟からは激しく非難され、両親からも腫れ物にさわるように扱われる。実家に居づらいと感じた鈴子は、夕食の席で「百万円貯めて、この家を出て行く」と宣言した。その後、鈴子はアルバイトを掛け持ちして百万円を貯めて、実家を出た。以後、鈴子は百万円を貯めては、鈴子のことを誰も知らない新しい街へ移動する生活を始めるようになる。
弟の拓也に「なぜ百万円なのか」と聞かれた際には、「新しく家を借りるときの頭金と当面の生活費になるから、新しい場所に引っ越しても心配のない金額である」と鈴子は答えている。

桃娘

鈴子は実家を出てから2番目の町として訪れた山間の村で、桃農家のお手伝いとして短期アルバイトをしていた。
桃農家の藤井絹に、「桃の収穫が上手だ」と褒められ「桃娘だ」と冗談を言われたことから名付けられた。
その後、「桃農家でめんこい子が働いている」という噂を聞きつけた村の村長が「桃娘として村の桃をPRしてほしい」と鈴子に頼み来て、鈴子の意向も聞かずに勝手に企画を会議で通してしまう。会議で決めたことを中止するには、村民に理解を得るための会議を開かなければいけないということになり、村民全員を巻き込む大騒動に発展する。嫌がる鈴子に、あの手この手で「テレビの取材などに桃娘として鈴子を出させよう」とする村長や村民たちだったが、堪り兼ねた鈴子は「前科持ちだから人前には出られない」と大声で叫び、外に飛び出してしまう。
その後、鈴子の働く桃農家の息子・藤井春夫が「外から来た人に頼るのではなく、自分たちの力で村を盛り上げなくては」と真面目な話を村民に投げかけ、村民たちは納得して、鈴子が桃娘として村の桃をPRするという企画は中止になった。

『百万円と苦虫女』の名言・名セリフ／名シーン・名場面

鈴子「むしろ探したくないんです。どうやったって、自分の行動で自分は生きていかなくてはいけないですから。探さなくたって、嫌でもここにいますから。逃げてるんです。」

偶然スーパーで会った鈴子と中島が、近くの喫茶店でコーヒーを飲んでいたところ、中島が「なぜ地元ではないのに、ここに住んでいるのか」と鈴子に聞いた。鈴子は、うまく答えることが出来ず、「百万円貯めたら転々とする生活をしている」と正直に話し、ルームシェアをする羽目になった武に刑事告訴をされてしまった成り行きと、前科持ちになったことで実家に居づらくなった経緯を話した。

話を聞いた中島が「自分探しみたいなことか」と尋ねると、鈴子は「むしろ探したくないんです。どうやったって、自分の行動で自分は生きていかなくてはいけないですから。探さなくたって、嫌でもここにいますから。逃げてるんです。」と答えた。すると、中島は「何かに追われてるんですか」と聞き、鈴子は、「そうではなく、どこに行っても所在がなくて。いっそ自分のことを1人も知らないところで暮らしたいと思ったことはないか」と逆に中島に尋ねる。中島が「ありますね」と答えると、鈴子は「知らない町へ行っても、最初は知らない人ばかりだが、だんだん知られてきて、面倒なことに巻き込まれて」と言い、「百万円あれば、引っ越しもできるし、次のバイトが見つかるまでのつなぎにもなるから、百万円が貯まったら移動する生活をしている」と話した。

後に、拓也の手紙の中で鈴子は「人と長く一緒にいるためには大事なことは言わないことがコツだと思っていた」と語っているが、自分の本音を言うことで人とぶつかったり、自分が傷ついたりすることが怖く、自分の本当の気持ちから逃げている鈴子の生き方がよく表れているセリフである。

鈴子「いつの間にか何も言えない関係になってしまうことは不幸なことです。人は出会ったら必ず別れるのだと思います。その別れが怖いから、姉ちゃんは無理をしていました。でも、出会うために別れるのだと今気づきました。」

中島と別れ話をした後、自宅のアパートに戻ってくると、拓也からの手紙がポストに入っていた。
拓也の手紙には、新学期に拓也が学校に行くと机の上に花瓶が置いてあったこと、怒っていじめっ子に殴り掛かったら怪我をさせてしまい、児童相談所にいく羽目になったこと、いじめっ子が謝っても許してくれないこと、お父さんやお母さんが「別の学校に転校してはどうか」と言ってくることなど、鈴子にとっては驚きの近況が書かれていた。手紙には続きがあった。中学校時代のいじめっ子を撃退した鈴子を目撃していた拓也からの手紙には、「お姉ちゃんみたいに逃げないと決め、中学受験はせずにいじめっ子と同じ中学校に行く」と書いてあった。

その手紙を読み終わった鈴子は、「姉ちゃんだめだ、全然だめだ」と言いながら、涙を流した。中島のことが好きで一緒にいたいがために、お金を貸していたが、そうした鈴子の態度は逃げていただけだったことに気付いたのだ。その手紙を読み、鈴子は中島のことを忘れ、この町を出て行くことを心に決めた。鈴子は拓也にもらった手紙の返事を書き、拓也への手紙の中で「家族でも恋人でも大事なことは言わないでいることが長く一緒にいるためのコツだと思っていた」と言い、「いつの間にか何も言えない関係になってしまうことは不幸なことです。人は出会ったら必ず別れるのだと思います。その別れが怖いから、姉ちゃんは無理をしていました。でも、出会うために別れるのだと今気づきました。」と続けた。

鈴子は、中島と一緒にいたいがために頻繁に「お金を貸してほしい」と言う中島に対して、自分の不安な気持ちを抑えて我慢をしていた。そして、鈴子が「不安に思っている」という本当の気持ちを中島に言えるようになった時には、もう中島の話を聞く余裕もないほど心が疲弊してしまい、結局好きだった中島と別れることになった。自らの気持ちを無視して本当のことを言えない関係になってしまった中島との別れを思い返し、拓也の「こわいけど逃げずに、いじめっ子と向き合う」という言葉に励まされ、鈴子もこれからは逃げずに人と向き合おうと心に決めたときの言葉である。

『百万円と苦虫女』の裏話・トリビア・小ネタ／エピソード・逸話

『百万円と苦虫女』のロケ地

主人公の鈴子が、百万円が貯まるごとに移動をする設定となっているこの作品の中には、鈴子の実家がある東京の町、最初に一人暮らしを始める海辺の町、2番目に住むことになる山間の村、最後に登場する地方都市と4つの町が登場する。
まず、鈴子の実家周辺のロケは、主に千葉県浦安市で行われていた。鈴子の実家として登場する大規模な団地風のマンションは、京成サンコーポ浦安である。鈴子が中学時代のいじめっ子を撃退したのを目撃した日、いじめから逃げない鈴子に心を開き始めた弟の拓也が、鈴子の手を握りながら2人で実家へと歩いて帰るシーンなどで使われている。また、鈴子が中学時代のいじめっ子たちに、前科持ちとなったことをからかわれ絡まれたシーンでは、パークスクエア（撮影当時）で撮影が行われていた。
海辺の町は、鈴子は海の家でアルバイトをしていたため、ほとんどが海辺のシーンとなった。この海辺のシーンは、茨城県日立市の河原子海水浴場で撮影が行われた。
山間の村は、福島県福島市での撮影が主だった。鈴子が短期アルバイトとして手伝った桃農家の桃園は、福島県の飯坂町にあるものである。
最後に登場する地方都市は、主に埼玉県内での撮影が行われていた。鈴子がアルバイトをする、中島と出会ったホームセンターは、鴻巣市にあるスーパービバホーム鴻巣店である。また、ラストシーンで鈴子が地方都市から出て次の町へ行くために訪れた駅は、上尾市の上尾駅である。

同志とも言えるタナダユキと蒼井優のタッグ

『百万円と苦虫女』の監督タナダユキにとって、初めての大規模な映画の撮影となった本作。その主演を務めた蒼井優は、タナダにとって特別な存在である。2008年に公開された『百万円と苦虫女』の後、2020年公開の『ロマンスドール』という映画にて12年ぶりにタッグを組むことになったタナダと蒼井。こだわりのある大人の為のエンタメ＆カルチャーメディア『otocoto』に掲載されている、2020年1月30日に行われたタナダユキと蒼井優へのインタビューの中で、タナダは蒼井のことを「まだ現場で知らないことがたくさんあるダメな監督だった時代から見捨てないでいてくれる数少ない女優」であると語っている。また、同じインタビューの中で蒼井もタナダとのテンポ感が似ており、「お互いに同志と思っているけど、それを言葉にすると照れるとお互いに思っている感じも似ている」と話している。蒼井にとっても、タナダは同じ感覚で良い作品を作り上げることが出来る、特別な存在であると言える。

『百万円と苦虫女』の主題歌・挿入歌

主題歌：原田郁子「やわらかくて きもちいい風」