あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。（ラノベ・漫画・映画）のネタバレ解説・考察まとめ

『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の概要

『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』とは、汐見夏衛によるライトノベル、ならびに原作をもとに制作された漫画・実写映画である。
原作が小説投稿サイト「野いちご」に公開された際は『可視光の夏－特攻隊と過ごした日々－』というタイトルだったが、出版時に改題され、2016年7月にスターツ出版文庫として刊行された。TikTokで拡散されたことで刊行から4年後にブームが起きたことでも話題となった。
2021年9月から2022年7月まではマツセダイチ作画による漫画が『電撃コミック レグルス』にて連載され、「電撃コミックスNEXT」より単行本全2巻が刊行された。
また2023年12月には実写映画が公開され、公開後3日間で観客動員24万人、興行収入3億円を突破する人気作品となった。監督は成田洋一、主演は福原遥が務めた。
1945年にタイムスリップした女子中学生（映画版では高校生）と特攻隊員の青年の切ない恋を描く物語。現代を生きてきた主人公の目線を通して語られる、戦争や特攻の悲惨さや当時の人々の感情が見どころである。

『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』のあらすじ・ストーリー

1945年にタイムスリップした加納百合

加納百合（かのう ゆり）は、母親・加納幸恵（かのう さちえ）と2人で暮らす中学2年生の女の子。周囲のすべてに苛立ち、反抗的な態度を取ってばかりいたため、母親やヤマダやアオキといった教師たちも手を焼いていた。橋口（はしぐち）などのクラスメイトたちは、問題児の百合を遠巻きに見ているばかりで、親しい友人もいなかった。
ある日母親と口論になった百合は、制服のまま家を飛び出し、裏山の防空壕跡で夜を明かす。翌朝目を覚ましてみると、防空壕の外の世界は一変しており、街も学校もどこにも見当たらなくなっていた。まだ気が付いていなかったが、百合は1945年夏の日本にタイムスリップしていたのだ。
百合は知っている場所を探し求めてあちこち歩き回るが、スマホも圏外になっており、自分がどこにいるのか何の手がかりも掴めない。昨日の夜から何も食べていなかった百合は、炎天下の中を歩き続けるうちに気分が悪くなり、しゃがみ込んでしまう。

佐久間彰やツルとの出会い

体調不良を覚えた百合は、たまたま通りかかった佐久間彰（さくま あきら）に介抱される。彰は百合に水を飲ませたあと、近くの鶴屋食堂に百合を連れていき、女将のツルに百合の面倒を見てくれるよう頼む。
百合は彰とツルの服装や、2人の会話の中に「特攻隊」などの言葉が混じるのを聞いて違和感を覚える。ふと近くにあった新聞の日付欄を見ると、昭和20年6月10日となっていた。ここで百合ははじめて、自分が終戦間際の日本にタイムスリップしたことに気づくのだった。
百合は現代に戻るための方法を模索する。防空壕でもう1度夜を過ごせば元の時代に戻れるかもしれないと考え試してみるが、朝になっても百合はまだ1945年にいた。行き場を失って途方に暮れる百合に、ツルが自分の食堂で住み込みで働くことを提案してくれる。百合の鶴屋食堂での日々が始まった。
鶴屋食堂には特攻隊員たちがよく訪れていたため、ツルは隊員たちから母親のように慕われていた。隊員たちの中には、ムードメーカー的な存在の石丸智志（いしまる さとし）、穏やかに年下の隊員たちを見守る寺岡昌治郎（てらおか しょうじろう）、元中学教員で熱血漢の加藤（かとう）などがいた。百合は隊員たちから快く受け入れられ、たちまち食堂の看板娘となる。また、鶴屋食堂に魚を届けてくれる少女・千代（ちよ）とも仲良くなり、百合は次第に1945年の生活に慣れていった。中でもタイムスリップ直後に百合を助けてくれた彰は、彼女をいつも気遣い励ましてくれた。
ある日彰は、百合を元気づけようとある場所に連れ出す。たどり着いた丘には、白百合の花畑が一面に広がっていた。彰の優しさに、強張っていた百合の心もほぐれていくのだった。

戦時中の厳しい暮らしや空襲の恐怖

ツルや彰たちの優しさに触れた百合だったが、1945年の生活は、現代にはない厳しさに溢れていた。
ある日百合は、戦争孤児の男の子・たかしが店から野菜を盗み、店主に殴られている場面に遭遇する。痩せ細った小さな男の子が空腹から盗みをはたらく様子に心を痛めた百合は、その男の子に野菜を与え、「早く日本が負けて戦争が終われば、普通の生活に戻れるのに」と不用意に口にする。しかし、運悪くそこに居合わせた警官が、百合の言葉を聞いていた。百合は警官に厳しく詰問され、反論したところを警棒で殴られてしまう。警官はさらに殴ろうとするが、ツルと彰が百合を庇い、代わりに殴られることになる。百合は2人に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、「こんな戦争が正しいわけがない」という思いは捨てることができなかった。
さらに後日、百合はひとりで外出中に大きな空襲に見舞われてしまう。人々の日々の暮らしは破壊され、一面が火の海と化した地獄のような惨状を目にした百合はショックを受ける。百合自身、倒壊した家の下敷きになって身動きが取れなくなるが、炎に包まれたところを彰によって間一髪で救い出される。1度ならず2度までも自分を救ってくれた彰に、百合は次第に惹かれるようになっていった。

特攻に出陣する彰たちとの別れ

そんなある日、ついに彰たちに出撃命令が下される。鶴屋食堂にて、「3日後に出撃する」という彰たちの話を、百合は信じられない思いで耳にする。過去に1度出撃したものの飛行機のエンジン故障で退却したという野口（のぐち）は、「やっと出撃できるのだと思うと嬉しい」と言って涙を流していた。百合は「死ねなかったことが悔しい？」と当惑した。
そんな折、最年少隊員の板倉（いたくら）が姿を消す。百合と彰が彼を見つけるが、板倉は特攻から逃げ出す決意を固めていた。故郷に残してきた許嫁が空襲で両親を亡くした上、足に大怪我を負ったからだった。追いついてきた石丸・寺岡・加藤などの他の隊員たちは、「恥ずかしいと思わないのか！」と板倉を叱責したが、彰だけは「お前は生きて守れ」と板倉を送り出したのだった。
百合は彰が特攻に行くことを受け入れられず、自分の想いを告白した上で、「行かないで」と繰り返し彰に懇願する。しかし、命令の通り出撃するという彰の意志は揺らがなかった。困った顔をする彰と2人の様子を遠巻きに見ている他の隊員たちをみて、これ以上は迷惑になると考えた百合は、「わがまま言ってごめん」と彰を送り出す決意を固める。そんな百合を、彰は「ごめんな、ありがとう」と最後に抱きしめてくれたのだった。
翌日、彰たちは予定通り特攻機に乗り込み出撃していった。飛び立つ間際、精一杯声を張り上げて彰の名前を呼ぶ百合に、彰は優しい笑みを浮かべる。そして、胸元に挿していた何かを百合に向かって投げた。それは、かつて2人で訪れた丘に咲いていた、あの美しい百合の花だった。

特攻資料館で明らかになった彰の想い

百合の花を受け取った百合は、地面に倒れ込み気を失ってしまう。再び目覚めた時、そこは百合がタイムスリップした防空壕跡であり、外には見慣れた風景が広がっていた。百合は現代に戻ってきたのだった。1945年ではかなりの時間が経過していたが、現代ではひと晩しか経っておらず、百合はそのまま自宅に戻る。自宅では百合をひと晩中探し回っていたという母が出迎えてくれ、百合を泣きながら叱ってくれたのだった。母の愛を実感し、百合の目からも涙が溢れ出した。
タイムスリップ中に生きたくても生きられなかった多くの人たちを目にした百合は、今までの反抗的だった自分を恥じて、家でも学校でも見違えるように素直になっていた。そんな百合の変化を受けて、橋口などのクラスメイトは、少しずつ百合にも話しかけてくれるようになるのだった。
ある日百合は、学校の社会科見学で特攻資料館を訪れることになる。展示室には特攻隊員たちの写真や手紙などが展示されていて、その中には百合が鶴屋食堂で親しく関わっていた隊員たちのものも見つけることができた。
そして百合は、彰が書いた4通の手紙を発見する。4通目の手紙には「百合へ」と記されており、彰が直接は伝えられなかった百合への想いが切々とつづられていた。「君のことを愛していた」という文字を目にした百合は、同級生たちから心配されるほど号泣する。
先生たちに抱き抱えられて資料館の外に連れ出された百合は、その後も涙が枯れるまで泣き続けた。先生から渡されたミネラルウォーターをひと口飲んだ百合は、頭上に広がる青い空を見上げる。「ここは新しい世界だ」と感じた百合は、この空に飛び立ち命を散らした彰たち特攻隊員に想いを馳せた。そして心の中で、「あなたたちが命を懸けて守った未来を私は精一杯生きます」と静かに誓ったのだった。
学校に戻った百合は、校門のところで見慣れない制服を着た少年とすれ違う。百合はひと目見て、その少年を「彰だ」と直感する。少年は百合と同学年で、来週からこの学校に編入するのだという。握手を求められて彼の手を握った百合は、彰の手の感触を思い出す。少年のまっすぐな瞳を見て、百合は改めてこの新しい世界を生きていくことを決意する。

『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の登場人物・キャラクター

主要人物

加納百合（かのう ゆり／演：福原遥）

中学2年生の14歳の少女。母子家庭で育ち、父親が誰なのかは知らされてこなかった。
家庭でも学校でも居心地の悪さを感じており、その苛立ちから反抗的な態度をとっている。
母と喧嘩をして家出をし、防空壕跡で夜を明かすが、そこから1945年夏の日本にタイムスリップしてしまう。
なお、映画版では高校3年生の18歳に設定が変更されており、現代帰還後は教職の道を志して大学進学を決意する。

佐久間彰（さくま あきら／演：水上恒司）

20歳の特攻隊員。北国の出身で、地元には両親と歳の離れた弟と妹がいる。早稲田大学で哲学を研究していたが、召集されて特攻隊員となる。
タイムスリップ直後、気分が悪くなってしゃがみ込んでいた百合を介抱してくれる。
百合のことを大切に想っていたが、特攻に出撃して命を落とす。

百合の周囲の人びと（現代）

百合の母／加納幸恵（かのう さちえ／演： 中嶋朋子）