『アス』とは2019年に公開されたホラー映画である。監督は1作目の『ゲット・アウト』(2017年)でアカデミー賞脚本賞を受賞したジョーダン・ピール。舞台は1986年のアメリカ。幼いアデレード・ウィルソンは両親とサンタクルーズの遊園地を訪れていた。その際アデレードは自身と瓜二つの姿をした少女に出会う。それから月日が経ち大人になったアデレードは家族4人で再びサンタクルーズを訪れ、休暇を楽しんでいた。そこでのある晩、ウィルソン一家は彼らと同じ姿をした赤い服の4人と出会い、巨大な陰謀に巻き込まれていく。
『アス』の概要
『アス』(原題: Us)とはアメリカのホラー映画である。アメリカでは2019年3月22日に3741館で公開され、日本では同年9月6日に全国57館で公開されている。監督は1作目の『ゲット・アウト』(2017年)でアカデミー賞脚本賞を受賞したジョーダン・ピール。本作は彼の2作目にあたる。また製作を担当しているのが『セッション』(2014年)『ゲット・アウト』でアカデミー賞作品賞にノミネートされたジェイソン・ブラム。主演をルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デューク、エリザベス・モス、ティム・ハイデッカーが演じている。ニョンゴは主人公アデレードと同じ姿をしたレッドの2役を見事に演じ分けており、彼女の怪演は映画全体を引き締める重要な要素となっている。公開初週末に5100万ドル前後の興行収入が予想されたが、結果はその予想を大幅に超えるものとなった。製作費2000万ドルに対し、公開初週末に7111万ドルを稼ぎ出したのである。前作『ゲット・アウト』の公開初週末の記録は3337万ドル。本作は『ゲット・アウト』の2倍以上のもの結果を生み出した。その後、世界で2億5500万ドルの興行収入を記録した大ヒット作として話題となった。デビュー作で脚光を浴びながらも2作目はパッとしないというジンクスを打破した人物がピールである。こうしたアメリカでの大ヒットの影響を受け、日本では公開前から話題となっていた。『アス』のタイトルには「私たち」の意味付けがされている他に「U.S.(アメリカ合衆国)」の意味も含まれたダブルミーニングとなっている。ホラー映画でありながらアメリカ社会の問題が取り上げられており、『アス』は社会派ホラーというジャンルを確立した作品として知られている。特権を与れない人々をテーマにし、アメリカ社会の階級制度や差別、難民問題などがホラーというジャンルの中で巧みに表現されている。また本作のヒットにより、社会問題をテーマに扱うホラー作品が増加の傾向を見せた。レッドの率いる赤い服の集団が地上の人々に襲いかかる様は、経済的・社会的に抑圧された人々の問題が表面化する様子や、階級構造などに対する問題を問いかけている。他にも人間の抱える抑圧された面や自己矛盾、自己認識の困難が描かれており、水面下で起きている社会の抑圧や不平等が、いずれ深刻な問題として表面化してくることへの警告が含まれた作品となっている。
舞台は1986年のアメリカ。幼いアデレード・ウィルソンはサンタクルーズのビーチにある遊園地で、両親と休暇を過ごしていた。ゲームでマイケル・ジャクソンの「スリラー」Tシャツを手に入れ、誕生日を迎えたアデレードにプレゼントする父のラッセル・トーマス。早速シャツを着たアデレードは、母のレイン・トーマスがトイレに行っている間に、ラッセルのそばを離れてしまう。そうして1人で遊園地内を歩き始めた彼女は、途中で長髪の男性に遭遇する。彼は「Jeremiah11:11(エレミヤ書11章11節)」と書かれた段ボールを持っていた。その後、アデレードはビーチ沿いにあるミラーハウスを見つけ、中へと入っていく。壁一面の大きさに及ぶ多くの鏡が無造作に設置されており、そこにはたくさんのアデレードが映っていた。しかし彼女は、その中に1人異なる映り方をしているアデレードを見つける。そっくりの彼女はアデレードに背を向けて立っていた。ミラーハウスから戻ったアデレードは医師に心的外傷後ストレス障害と診断され、ほとんど口をきかなくなっていた。やがて母となったアデレードは夫のガブリエル・ウィルソンと娘のゾーラ・ウィルソン、息子のジェイソン・ウィルソンの家族4人でサンタクルーズにある別荘を訪れていた。再びこの地に戻ってきてからというもの彼女の胸騒ぎは収まらず、悪い予感が当たることとなる。深夜の別荘の前にアデレードたちとそっくりの赤い服を着た4人が立っていたのであった。
『アス』のあらすじ・ストーリー
再びサンタクルーズのビーチを訪れたアデレード・ウィルソン
幼いアデレード・ウィルソンはサンタクルーズのビーチにある遊園地で両親と過ごしていた。しかし途中で両親と離れ1人歩き始めたアデレード。その際、遭遇した男の手には「Jeremiah11:11(エレミヤ書11章11節)」と書かれた段ボールが握られていた。暫くしてアデレードはミラーハウスを見つけて中に入る。大きな鏡が無造作に設置されたくさんのアデレードが映っていたが、そこに背を向けて立つ彼女を見つける。ミラーハウスから戻って以来、アデレードは普通に話せなくなっていた。
大人になったアデレードはガブリエル・ウィルソンと結婚。娘のゾーラ・ウィルソンと息子のジェイソン・ウィルソンの母となる。一家でサンタクルーズ付近の別荘地を訪れていた時のこと。ミラーハウスのあるビーチへ行くこととなった。そこでは友人のキティ・タイラーとジョシュ・タイラーが双子の娘であるベッカ・タイラー、リンジー・タイラーと共に一家を待っていた。そして浜辺を満喫していたが、アデレードが目を離した隙にジェイソンはトイレへ向かい、指に血のついた男と遭遇する。ジェイソンが戻ってくるや否や、一家はビーチを引き上げた。
瓜二つの姿をしている赤い服の集団
アデレードはサンタクルーズに来てから胸騒ぎを覚えていた。ビーチに向かう途中で目撃したタンカで運ばれていく男性。彼が持っていたものは幼少期に見た「Jeremiah11:11」の段ボール。さらにジェイソンの部屋に行けば、時計が11時11分を示いていた。その後、突如別荘の前に赤い服の4人組が現れる。ガブリエルが攻撃体制に入ると4人は分散し家の中に侵入。彼らは一家と瓜二つの姿をしていた。アデレードと同じ顔のレッドは良い暮らしをするお姫様と悲惨な生活を強いられる影の話を始める。そして手錠を使いテーブルにアデレードを拘束。ガブリエルは彼と瓜二つのアブラハムに外へ引きずり出されていった。ゾーラは走り出し、そっくりのアンブラが後を追う。ジェイソンは四つん這いのプルートーと2階へ行った。小部屋で2人は向かい合って座る。ジェイソンと同じ動きをするプルートーであるが、怯えたジェイソンは咄嗟に小部屋から飛び出しドアにロックをした。一方のゾーラはすぐに追いつかれてしまう。しかし騒ぎに気付いた住人がアンブラに絡んだ隙に逃走。またガブリエルはアブラハムとボートの奪い合いを始めるが、ボートのモーターでアブラハムを撃退。アデレードもテーブルを破壊し逃れた。そしてレッドが2階へ行った隙にジェイソンと脱出。そこにゾーラとボートに乗るガブリエルも合流し湖に逃げた。
その頃、ジョシュたちの家にも赤い服の4人が現れていた。家はあっという間に乗っ取られてしまう。そこをアデレードらが訪問。彼女が引き摺り込まれた家では、血を流す一家が横たわっていた。ガブリエルはジョシュの顔をしているテックスを倒そうと彼を引きつける。その間にゾーラとジェイソンは侵入し、アデレードの救出を試みた。そこでベッカとリンジーそっくりのイオとニックスに鉢合わせ、ゴルフクラブで殴りつけるゾーラ。そしてキティの顔をしたダリアはジェイソンが殴り殺し、事なきを得た。
地下で作られていたクローン人間のテザード
両親に代わり運転をするゾーラ。途中でアンブラが現れ、車に張り付く彼女をアクセルとブレーキを駆使して森へ飛ばす。アンブラは木に貫かれ息絶えた。その後別荘付近に着くと、燃えた車の前にプルートーが現れる。ジェイソンは自身の動きを真似るプルートーの習性を思い出し、彼を炎の中へ誘うことに成功。プルートーは炎に飲まれ死亡した。だが身を潜めていたレッドにジェイソンは連れ去られ、アデレードは後を追いミラーハウスに向かう。中には地下へと続くエスカレーターがあり、下にはウサギの歩き回る明るい空間が広がっていた。そこにある薄暗い教室でアデレードはレッドを発見。彼女は地下でテザードと呼ばれるクローン人間が生活していたことを明かす。テザードは政府が秘密裏に作っていたクローンの実験体であった。
アデレードとレッドの決戦が始まる。レッドは踊るようにアデレードの振る鉄の棒を交わしながら、攻撃をしていく。そしてレッドのハサミを受けながらも、不意をついたアデレードの棒がレッドを突き刺し、最後にはアデレードがレッドの首を絞め殺した。そうして無事に救出されたジェイソン。一家に再び平和が戻り、車の中で安堵の表情を浮かべるアデレードに昔の記憶が蘇る。ミラーハウスで意識を失ったアデレードは、レッドに地下へと運ばれていた。レッドはアデレードに手錠をかけ、ベッドに拘束。するとレッドはアデレードのTシャツを着て、地上の両親のもとへ向かったのである。この時からレッドとアデレードは入れ替わっていたのだ。死亡したレッドこそが本物のアデレードであり、アデレードのほうがクローンのレッドなのである。車内で訝しげな視線を送るジェイソンがいたが、ガブリエルたちはこの事実を知らない。付近では多くのテザードが手を繋ぎ、赤い不気味な列を山の向こうへと伸ばしていた。
『アス』の登場人物・キャラクター
ウィルソン一家とテザード
アデレード・ウィルソン/レッド(演:ルピタ・ニョンゴ/マディソン・カリー(子供時代)/アシュリー・マッコイ(10代))
右の女性がアデレード、左の女性がレッド。
吹替:森夏姫
アデレードは本作の主人公であるウィルソン一家の母。バレエを習っていたが14歳にピークを迎えていたと話している。ジェイソンを常に気にかけており、彼が少しの間視界からいなくなった間にもパニックに陥るほどであった。自身の幼少期の経験から、まだ幼いジェイソンが連れ去られることを危惧していた。家族を守る為、テザードにも勇敢に立ち向かうアデレード。決定権は夫のガブリエルよりも自身にあるとし、家族を引っ張っていこうとしていた。しかしその本性はテザードであり、彼女が幼いアデレードを連れ去った人物である。テザードと戦っている最中に決定権が自身にあると主張する理由も、彼女のほうがテザードのことを理解している為。レッドとの決戦ではテザードとしての本性が抑えきれず、最後はアデレードのほうが不気味に映っている。レッドはアデレードと同じ顔をした赤い服を着ている女性。アデレードのテザードとして地下で暮らしアブラハムとアンブラ、プルートーを連れて、ウィルソン一家を襲撃する。地下にいるテザードたちの救世主として、彼らを束ね地上を襲うが、彼女こそが人間のアデレード本人である。幼少期に地下へと連れ去られテザードに囲まれながら生き延び、復讐の機を長い間待ち侘びていた。
ガブリエル・ウィルソン/アブラハム(演:ウィンストン・デューク)
出典: note.com
吹替:乃村健次
ウィルソン一家の父。アデレードと同様、家族を守るためなら1人でテザードにも立ち向かっていく強さを持つ。テザードらが登場する前からも、登場後も彼が笑いを誘う役割を担っていた。真剣に考え言葉を選んでいるはずが失言をしている場面もあり、家族を呆れさせながらも、愛される父親像の重なる人物である。彼のテザードはアブラハム。心優しいガブエリエルに対し、アブラハムは凶暴なテザードとして登場する。動物のように叫ぶが、人間の言語を話すことはない。ガブリエルのメガネに興味を持ち、彼から奪っては同じようにして掛けていた。聖書におけるガブリエルが神のことばを伝える天使であるのに対し、アブラハムは旧約聖書の創世記に登場する預言者である。どちらの名前も神聖さを象徴する名前であることが特徴的な人物。
ゾーラ・ウィルソン/アンブラ(演:シャハディ・ライト・ジョセフ)
出典: mofumuchi.com
吹替:イブ優里安
アデレードとガブリエルの娘。走ることが得意であるが、その夢を叶えようとすることに消極的な少女。そして走ることよりも車の運転に関心を寄せているような言動もしている。子供であるにも関わらず、アデレードを助けるためゴルフクラブでテザードを殴り殺す凶暴さも見せている。そこにはテザードから生まれた子供であることが関係していると考えられる。彼女は人間から生まれた子供ではない。そして本人もそのことに気付いていない。母親が人間ではないという事実をゾーラが知ることはなかった。彼女のテザードであるアンブラはゾーラとは対照的に、走ることに強い自身を持つ。レッドは、笑いながら生まれてきた彼女をモンスターだと言った。彼女も言葉を発することはないが、笑みを浮かべている場面が多い。またアンブラはラテン語で「影」を意味する言葉。
ジェイソン・ウィルソン/プルートー(演:エヴァン・アレックス)
左がジェイソン、右がプルートー。
吹替:れいみ
アデレードとガブリエルの息子。いつも仮面を頭に乗せているが、あまり被ろうとはしない。そして火のつかないマジック用ライターで遊ぶことがあった。対照的に彼のテザードであるプルートーは顔の火傷を隠すためにいつもマスクを被っている。そして火が好きな少年であった。2人の関係は他の人間とテザートの関係よりも近しく描かれている。またガブリエルの真似をアブラハムがする場面もあったが、ジェイソンとプルートーはこの特性が顕著に現れる。そしてジェイソンは映画の重要な位置についており、アデレードがテザードであることに気付いた可能性のある唯一の人物として描かれている。そして映画はジェイソンが仮面で顔を覆い、手を繋いだ多くのテザードを映してエンディングを迎える。
タイラー一家とテザード
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目次 - Contents
- 『アス』の概要
- 『アス』のあらすじ・ストーリー
- 再びサンタクルーズのビーチを訪れたアデレード・ウィルソン
- 瓜二つの姿をしている赤い服の集団
- 地下で作られていたクローン人間のテザード
- 『アス』の登場人物・キャラクター
- ウィルソン一家とテザード
- アデレード・ウィルソン/レッド(演:ルピタ・ニョンゴ/マディソン・カリー(子供時代)/アシュリー・マッコイ(10代))
- ガブリエル・ウィルソン/アブラハム(演:ウィンストン・デューク)
- ゾーラ・ウィルソン/アンブラ(演:シャハディ・ライト・ジョセフ)
- ジェイソン・ウィルソン/プルートー(演:エヴァン・アレックス)
- タイラー一家とテザード
- キティ・タイラー/ダリア(演:エリザベス・モス)
- ジョシュ・タイラー/テックス(演:ティム・ハイデッカー)
- ベッカ・タイラー/イオ(演:カリ・シェルドン)
- リンジー・タイラー/ニックス(演:ノエル・シェルドン)
- その他
- ラッセル・トーマス/ウェイランド(演:ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)
- レイン・トーマス/アーサ(演:アナ・ジョップ)
- ダニー/トニー(演:デューク・ニコルソン)
- ナンシー/シド(演:カーラ・ヘイワード)
- グレン/ジャック(演:ネイサン・ハリントン)
- 『アス』の用語
- ハンズ・アクロス・アメリカ
- エレミヤ書
- テザード
- 『アス』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- ガブリエル・ウィルソン 「砂浜で走れ。負荷がかかりキツいからさ。砂浜で鍛えれば地上で無敵だ。」
- レッド「そしてある日影は気付いたのです。彼女は神によって試されていたのだと。」
- レッド「空の下で育つのはどんな気分だ。太陽を感じ、風を感じ、木々を感じる。お前らには当然のことか。」
- 『アス』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 作中に点在するエレミヤ書の11章11節を象徴する数字
- 分断や断絶を象徴するハサミやサンタクルーズ
- 「ハンズ・アクロス・アメリカ」が元になっている手を繋いだテザードの並ぶ光景
- 『アス』の主題歌・挿入歌
- ED(エンディング):Minnie Riperton「Les Fleurs」
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