『蜩ノ記』(ひぐらしのき)とは、葉室麟による時代小説、およびそれを原作とした映画作品である。2014年秋に役所広司主演・岡田准一助演で映画化された。第146回直木三十五賞受賞作で、のちに大人気歴史小説作家となった葉室麟が文壇の注目を集めた出世作である。藩主の側室との不義密通の罪で幽閉され、10年後の切腹と家譜の編纂を命じられた戸田秋谷を、檀野庄三郎という若い侍が藩命で監視する。秋谷の家族と共に時間を過ごすうちに、庄三郎は秋谷の無実を確信する。
『蜩ノ記』の概要
『蜩ノ記』(ひぐらしのき)とは、葉室麟による時代小説、およびそれを原作とした映画作品である。祥伝社の『小説NON』にて、2010年11月号から2011年8月号まで『秋蜩』のタイトルで連載された。
また、2014年10月4日に、役所広司主演・岡田准一助演で映画が公開された。
本作は第146回直木三十五賞受賞作で、のちに大人気歴史小説作家となった葉室麟が文壇の注目をグッと集めた出世作である。
江戸時代、豊後国、羽根藩の若い武士、檀野庄三郎(だんの しょうざぶろう)は、城内で些細な諍いから刃傷騒ぎを起こしてしまう。しかも喧嘩の相手は藩の重鎮である中根兵右衛門の甥だった。
藩の重鎮の親族を怪我させてしまうなど言語道断、死罪も考えられる大失態だった。しかし庄三郎に下された罰は、隠居して弟に家督を継がせるという非常に軽いもので、罰とは別に、兵右衛門から不思議なお役目を言いつけられる。
それは、藩主の側室との不義密通の罪で幽閉され、10年後の切腹と家譜の編纂を命じられた戸田秋谷(とだ しゅうこく)を監視し、逃げ出すような素振りを見せたら切り捨てよ、というものだった。
秋谷は7年前の罪により、当時より10年後の8月に切腹することを申しつけられ、それまでの間、寂れた山村で藩の歴史を編纂するお役目を続けている。しかし、藩の歴史の編纂のように重要なお役目が大罪人であるはずの彼に任されているのはなぜなのか。庄三郎は秋谷が無実なのではないかと疑い、7年前の"事件"の顛末を調べ始める。そして、藩の歴史の編纂が進み、7年前の"あの日"のことが明らかになるにつれて、その理由が少しずつはっきりしていく。
映画版は数々の映画賞を受賞しており、第38回日本アカデミー賞では、最優秀助演男優賞(岡田准一)、優秀作品賞、優秀監督賞(小泉堯史)、優秀主演男優賞(役所広司)、優秀音楽賞(加古隆)、優秀撮影賞(上田正治/北澤弘之)、優秀照明賞(山川英明)、優秀美術賞(酒井賢)、優秀録音賞(矢野正人)、優秀編集賞(阿賀英登)受賞の栄誉に輝いている。
『蜩ノ記』のあらすじ・ストーリー
檀野庄三郎と戸田秋谷の出会い
豊後国(のちの大分県付近)、羽根(うね)藩。若き藩士・檀野庄三郎(だんの しょうざぶろう)は、城内で些細な諍いから刃傷騒ぎを起こしてしまう。しかも喧嘩の相手は藩の重鎮である中根兵右衛門(なかね へいえもん)の甥・水上信吾(みずかみ しんご)だった。
藩の重鎮の親族を怪我させてしまうなど言語道断、死罪も考えられる大失態だった。しかし庄三郎に下された罰は、隠居して弟に家督を継がせるという非常に軽いもので、切腹を免れる代わりに、兵右衛門からとある人物の監視を命じられた。
その人物とは、僻村に幽閉されている元の側用人・戸田秋谷(とだ しゅうこく)である。秋谷は、7年前に藩主の側室との不義密通の罪で失脚し、家譜(かふ)編纂の完成を条件に藩主から10年間の猶予を与えられ、3年後の切腹を待つ身である。
庄三郎は、秋谷の家で寝食を共にし、家譜の編纂を手伝ううちに、秋谷とその家族の誠実で清廉な人柄に触れ、やがて深い敬愛の念を抱くようになる。
無実の疑念
秋谷の無実を確信した庄三郎は、7年前の事件の真相を調べ始めた。実は秋谷が罪を被った不義密通騒ぎの裏には、藩を揺るがすお家騒動が隠されていた。かつて藩主の側室・お由の方(およしのかた)が生んだ幼子は、世継ぎ争いで斬殺されていたが、秋谷は藩がお取り潰しになるのを防ぐため、幼子の死を病死とし、切り合いを自身の不義密通に見せかけて、藩を守ったのである。
さらに、現在の藩主の生母であるお美代の方(おみよのかた)が、実は藩内の裕福な商人・播磨屋の娘であり、播磨屋と家老・中根の一派が結託して農民から田畑を取り上げていた不正の証拠を、秋谷は「御由来書」を調べることで掴んでいた。
抗議と救出
家老の一派は、不正の証拠である御由来書を引き渡すよう秋谷に迫った。しかし、秋谷がこれを拒否したため、家老の一派は、周囲に強訴の動きがあるとして村人を捕縛するという強硬手段に出た。
これに納得できない秋谷の息子・戸田郁太郎(とだ いくたろう)は、親友が取り調べ中に殺されたことに憤り、家老の屋敷に抗議に向かう。庄三郎は、その純真な心に打たれて黙って付き添い、二人を前に家老の中根は己の非道な行いを恥じ入った。
庄三郎と拘束された息子を取り戻すため、秋谷は家老の屋敷へと向かう。家老の中根は、降参すれば切腹を免じると言うが、秋谷はこれを無視し、予定通りの切腹を約束することで、二人を救い出した。
武士の覚悟
10年後の切腹は、亡き先代君主からの密命であり、お家騒動を隠蔽し、藩を守るための秋谷の覚悟であった。
ついに藩の家譜を完成させ、家督を息子に譲った秋谷は、淡々と身支度を整える。
命懸けの使命を果たし、愛する家族と敬愛する庄三郎に見守られながら、秋谷は武士としての信念を貫き通し、切腹の場へと向かうのであった。
『蜩ノ記』の登場人物・キャラクター
主人公
戸田 秋谷(とだ しゅうこく/演:役所広司)
「秋谷」は号で、名は光徳(みつのり)、順右衛門。藩主である三浦家の歴史を綴った家譜を編纂しながら、3年後の切腹が決まっている武士。向山村に幽閉されているが、いつも微笑んでいるのかどうか分からない程度の笑みを浮かべている。7年前に側室であるお由の方が襲撃された際に不義密通を疑われ、10年後の切腹を命じられた。その日から、日々の思いなどを〈蜩ノ記〉という日記を記している。
文武に優れており、眼心流剣術、制剛流柔術、以心流居合術を修行している。特に宝蔵院流槍術は奥義のレベルである。和歌、漢籍の素養も深い。
檀野 庄三郎(だんの しょうざぶろう/演:岡田准一)
元羽根藩奥祐筆である若い武士。藩主が親戚の大名へ送る文をしたためていた際に、隣席にいた幼馴染である水上信吾の顔と裃に墨が飛び、逆上した信吾に斬りつけられるが、咄嗟に居合で信吾の足に大けがを負わせてしまった。本来であれば切腹もの刃傷騒ぎであったが、原市之進の機転で切腹は免れ、家督は弟に譲ることになり、さらに秋谷の監視をする役目を与えられる。
秋谷の潔い生き方を目にし、彼の周りの人々と関わるうち、秋谷の武士としての生き方に感慨を覚える。
主人公の家族
戸田 織江(とだ おりえ/演:原田美枝子)
秋谷の妻。病床に伏せっているが、清楚な美しさを持つ女性。秋谷は人に恥じるようなことはしないと信じている。
戸田 薫(とだ かおる/演:堀北真希)
目次 - Contents
- 『蜩ノ記』の概要
- 『蜩ノ記』のあらすじ・ストーリー
- 檀野庄三郎と戸田秋谷の出会い
- 無実の疑念
- 抗議と救出
- 武士の覚悟
- 『蜩ノ記』の登場人物・キャラクター
- 主人公
- 戸田 秋谷(とだ しゅうこく/演:役所広司)
- 檀野 庄三郎(だんの しょうざぶろう/演:岡田准一)
- 主人公の家族
- 戸田 織江(とだ おりえ/演:原田美枝子)
- 戸田 薫(とだ かおる/演:堀北真希)
- 戸田 郁太郎(とだ いくたろう/演:吉田晴登)
- 羽根藩士
- 中根 兵右衛門(なかね へいえもん/演:串田和美)
- 原 市之進(はら いちのしん/演:綱島郷太郎)
- 水上 信吾(みずかみ しんご/演:青木崇高)
- 矢野郡奉行(演:矢島健一)
- 三浦家
- 三浦 兼通(みうら かねみち)/順慶院(じゅんけいいん)(演:三船史郎)
- お美代の方(おみよのかた)/法性院(ほっしょういん)(演:川上麻衣子)
- お由の方(およしのかた)/松吟尼(しょうぎんに)(演:寺島しのぶ)
- 向山村の人々
- 慶仙(けいせん/演:井川比佐志)
- 源吉(げんきち/演:中野澪)
- 万治(まんじ/演:小市慢太郎)
- 万治の妻(演:大寶智子)
- その他
- 播磨屋 吉左衛門(はりまや きちざえもん/演:石丸謙二郎)
- 庄屋(演:渡辺哲)
- 『蜩ノ記』の用語
- 豊後(ぶんご)
- 『蜩ノ記』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- ノミネート5度目での直木賞受賞
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