神の左手悪魔の右手(楳図かずお)のネタバレ解説・考察まとめ

『神の左手悪魔の右手』とは、楳図かずお原作のホラー漫画。『ビッグコミックスピリッツ』にて1986年から1988年まで連載された。メディアミックスとして2006年に実写映画版が公開されている。数多い楳図作品の中でも圧倒的なスプラッター・ゴア描写が展開されることで知られており、多くの読者に衝撃を与えたといわれている。同作品は、主人公の少年・山の辺想を狂言回しにして、彼の周辺で起きる恐怖現象や惨劇を描いたオムニバスホラー漫画である。

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『神の左手悪魔の右手』の概要

『神の左手悪魔の右手』とは、楳図かずお原作のホラー漫画。『ビッグコミックスピリッツ』誌上にて、1986年31号から1988年32号まで連載された。同作品の単行本は、小学館ビッグコミックス版全6巻、小学館文庫版全4巻、小学館文庫版全My First WIDE版全3巻、小学館ビッグコミックススペシャル版全2巻など多様なバージョンが存在する。ビッグコミックスペシャル版が、電子書籍化された。また、これらの単行本に未収録の4ページ短編『おふだ』が存在し、そちらは単行本未収録作品集『妄想の花園』やムック本『楳図かずお大解剖』で読むことができる。

『神の左手悪魔の右手』は、連載終了後にメディアミックスとして実写映画版『神の左手 悪魔の右手』が、2006年7月22日に公開された。同作品の映画版は、監督を金子修介、脚本を松枝佳紀が担当し、主演は渋谷飛鳥が務めた。上映後にDVDが発売されたほか、Amazon Prime VideoやU-Next、Huluなどの有料動画配信サービスにて鑑賞可能である。

『神の左手悪魔の右手』の大きな特徴は、純度100%のホラー作品という点である。原作者の楳図かずおは、ホラー漫画の中にもユーモアやギャグ要素を織り込んでいることを公言していたが、同作品においては完全にホラーに振り切って執筆したという趣旨の発言をしている。そのため、数ある楳図作品の中でも最もスプラッター&ゴア描写が多く、読者を恐怖のどん底へと突き落とした名作だと高く評価されている。また、『神の左手悪魔の右手』は、各エピソードが独立したオムニバス漫画だが、バッドエンディングが多く、読後感の悪さが際立つ作品でもある。

『神の左手悪魔の右手』は、主人公の少年山の辺想(やまのべそう)を狂言回しにして、彼が見た悪夢が実際の事件として凄惨に展開されていくオムニバスホラー漫画である。

『神の左手悪魔の右手』のあらすじ・ストーリー

錆びたハサミ

東京近くにある市立八天王小学校(しりつはちてんのうしょうがっこう)に通う小学1年生の少年山の辺想(やまのべそう)は、悪夢にうなされることが多い。ある大雨の降る夜、想は姉の泉(いずみ)の顔から錆びたハサミが出てきて、彼女の顔を切り刻む夢を見た。泉は好奇心旺盛な女子高生で、友人の法子(のりこ)たちに誘われて、担任教師が亡くなったとのことで大雨の中様子を窺いへ行く。想も泉たちについて行った。すると、一行は地下室を発見する。想は、地下室の中で悪夢に出てきた錆びたハサミを見つけた。泉がそのハサミを持ち帰ってから、彼女の身に異常な現象が起きることとなる。翌日、想は机の引き出しの中に錆びたハサミを突きつけられた飼い猫の死骸を見つけて驚愕する。また、泉のクラスに新任教師の一矢知樹(かずやともき)が着任したが、想は彼の口が引き裂かれるビジョンを目の当たりにする。泉は、大量の泥を吐き出し、父親の勤める市立病院へ入院した。泉は他にも三輪車を体内から出すなど、瀕死の状態へと陥る。想と知樹の母親は、一連の怪現象の原因である地下室へと向かう。八天王市では、30年前に連続児童殺人事件が起こり、知樹は唯一の生存者だったのだ。そして、犯人はますみというフリークス少女の母親だった。ますみの母親は、娘のために児童を誘拐しては殺害を繰り返していたのだ。殺人鬼が夢と現実の狭間から解き放たれようとした時、想はその媒介となった泉の身体から法子の身体へと移動し、特殊な能力を発揮して殺人鬼を退治して、泉の命を救ったのだった。

消えた消しゴム

ある日、想はクラスメイトの大輔(だいすけ)に誘われて、たかし・みずえとともに女性教師みどりに罠を仕掛けた。大輔は、「人は死ぬ時に正体を現す」という噂を、優しいみどり先生で確かめたかったのだ。想たちは、みどり先生を人気のない建物に呼び出した。みどりは、罠に嵌って首を吊った状態で亡くなった。しかし、彼女の顔に変化はない。恐怖を感じた想たちは、工事現場にみどりの死体を遺棄した。しかしながら、翌日みどり先生はいつものように想たちの前に姿を現す。そして、想以外の関係者が次々と姿を消した。みどりは、想に正体を見られたくなかったと言い、彼らを工事現場に埋めて殺害しようとする。すると、想から不思議な能力が発現し、みどりを倒した。みどりの正体は、無数の牙を有する化け物だったのだ。そして、彼女の口には、想が守り神として作ったヌーメラウーメラ、どんどろ、でんでろ、がんがろ、べんべろの消しゴムが詰められていた。

女王蜘蛛の舌

ある日、想と泉は父親と同じ病院に勤める外科医高品明(たかしなあきら)の誘いで、彼の友人木玉(こだま)が営むペンションへとやって来た。しかし、木玉は見る影もなく瘦せ衰えていた。その後、想は昆虫採集のために、ペンション周りの森を散策する。すると、大きな屋敷を発見した。そこには、美しい女性が住んでいたのだ。その夜、ペンションに無数の蜘蛛が侵入して、木玉が亡くなった。翌日、屋敷の使用人栗津(くりづ)がペンションを訪れ、体調不良の女性を診察してくれと高品を連れて行った。整った容姿をしている高品を見た女は、彼を誘惑する。一度は女の魅力に溺れそうになった高品だが、彼女の異様な雰囲気を感じ取って求愛を拒絶した。栗津が高品を監禁するも、想たちが駆け付けて、高品は救出される。高品を諦め切れない女は、彼の婚約者かおりを殺害して彼女に成りすました。屋敷の女の正体は、舌に大きな女郎蜘蛛のある化け物だった。想は、女を自動車に閉じ込め、殺虫剤を投げた。すると、女の体内からおびただしい数の蜘蛛が這い出てきた。生き残った女郎蜘蛛は、手術中の高品の前に現れたが、カラスに変身した想によって啄まれて退治される。しかし、想の学校の女児の舌に、女郎蜘蛛が取り憑いていたのだった。

黒い絵本

久保田もも(くぼたもも)は、生まれつき足が不自由な少女で、寝たきりの生活を余儀なくされている。彼女の唯一の楽しみは、父親自作の絵本の読み聞かせだった。父親が描く絵本は、グロテスクな内容であり、ある日読み聞かせてくれた絵本では、人形を拾った女性が無残な死を遂げるというストーリーが展開される。実は絵本の内容は現実であり、ももの父親は娘を喜ばせるために、連続殺人を犯してはその様子を絵本に描いていたのだ。ももはある時、冷蔵庫の中に2人の女性の生首を見つける。また、彼女を心配する行政の女性を家に入れてしまう。ももの父親は、ハイキングで道に迷った2人組の女性を惨殺して絵本に描き、さらに行政の女性をも殺害した。父親の異常性に気づいたももは、彼に殺されそうになる。ももの危機を予知夢で察した想は、遠く離れたももの家を訪れ、父親を退治して彼女を救った。ももの父親の正体は、絵本の中のキャラクターだったのだ。

影亡者

泉の同級生の土井みよ子(どいみよこ)は、母親に代わって、寝たきりの祖父を介護や赤ん坊の面倒など一切の家事を行う薄幸の少女だった。みよ子の将来の夢は保母さんになることと、一度で良いから大ファンの人気スター兵藤タケル(ひょうどうタケル)に会うことである。ある日、彼女は往年の大女優大森世津子(おおもりせつこ)が路上で倒れているのを目撃し、救急車に同乗した。世津子はそのまま亡くなったが、彼女に取り憑く影亡者が新たにみよ子へ憑依する。それ以降、みよ子はとんとん拍子で人気スターへの道を歩むが、裏では多くの犠牲者が出ていた。みよ子の元の守護霊だった三郎太(さぶろうた)もその1人であり、彼は想に取り憑き、その影響で想の意識は長らく失われてしまう。泉と三郎は、みよ子から影亡者を追い払うべく、霊能者の香月細子(かずきほそこ)を頼るが、彼女は影亡者によって霊能力を失い死亡する。細子の師匠である霊能者が、兵藤タケルに子供たちの霊を憑かせて、テレビ番組の中でみよ子と面会させるも、影亡者は凄まじい勢いで子供たちの霊を食っていく。すると、ヌーメラウーメラに変身した想が現れ、悪魔の右手で影亡者を退治した。これで平和が訪れたと思われたが、みよ子の身体を離れた影亡者は、想の父親の病院にいる実験動物の猿に取り憑いた。知能が発達し、影亡者の絵を描いて不敵に笑う猿のシーンが展開されて、『神の左手悪魔の右手』は完結したのだった。

『神の左手悪魔の右手』の登場人物・キャラクター

山の辺家

山の辺想(やまのべそう/演:小林翼)

山の辺想(やまのべそう)は、『神の左手悪魔の右手』の主人公。想は、東京都の近くにある八天王市(はちてんのうし)に在住する小学1年生である。
気弱な性格を象徴するかのような容姿をしていて、常に悪夢にうなされている。そのせいで、姉の山の辺泉(やまのべいずみ)や小学校のクラスメイトから弱虫扱いされていた。しかしながら、実際の彼は、弱い者を見捨てることができない正義感と恐怖や困難に立ち向かうことができる勇気を有している。そして、ストーリーが進むにつれて悪夢は予知夢であることが判明し、想は自らが創り出した(と思っている)存在ヌーメラウーメラに変身して怪事件を解決していたことが明らかにされる。
なお、映画『神の左手 悪魔の右手』では、「山辺ソウ」という名前に変更された。

山の辺泉(やまのべいずみ/演:渋谷飛鳥)

想の実姉で高校生の少女。八天王市にある屋敷高等学校(やしきこうとうがっこう)に通っている。
好奇心旺盛な性格の持ち主で、そのため想が見た予知夢に関わる事件に巻き込まれることが多い。『錆びたハサミ』では、自分の肉体を通して様々な物体が出てきた。霊的な現象を信じておらず、想のことを臆病な弟だと思っているが姉弟仲は悪くなく、『影亡者』において意識不明に陥った彼の代わりに事件解決へと奔走した。
なお、実写映画版では「山辺イズミ」という名前に改められ、主人公設定に変更されている。

山の辺由紀子(やまのべゆきこ/演:山本奈津子)

想と泉の母親。
『錆びたハサミ』にて、泉が怪事件に巻き込まれた様子を目の当たりにして、八天王市へ引っ越してきたことを後悔していた。
実写映画版では、「山辺カオル(やまのべカオル)」という名前に変更されている。

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