
『へび少女』とは、楳図かずお原作のホラー漫画。1966年に、『週刊少女フレンド』誌上にて連載された。楳図かずおは、恐怖漫画の第一人者であるが、同作品が彼の出世作として知られている。少女が蛇に変身していく様が徹底したホラー描写で描かれており、多くの読者に強烈なインパクトを与えた。『へび少女』は、銃でうわばみを撃った祖父を持つ主人公の少女が、継母としてやって来たへび女の復讐によって、蛇に変身していく。そして、主人公の親友姉妹が、彼女を助けるために活躍するという物語である。
『へび少女』の概要
『へび少女』(へびしょうじょ)とは、楳図かずお原作のホラー漫画。『週刊少女フレンド』誌上にて、1966年11号から25号まで連載された。単行本は、ビッグコミックススペシャル版『へび女』にオリジナル版が収録されていて、電子書籍で読むこともできる。また、増補筆版が、秋田書店サンデーコミックス版『怪』の第2巻に『へび少女の怪』のタイトルで収められた。
『へび少女』はメディアミックスは行われていないものの、主人公の少女が異形の者に変わるという不条理極まりないストーリーによって、楳図かずおの代表作の1つに数えられている。また、同じ『週刊少女フレンド』に連載された『ママが怖い』と『まだらの少女』と合わせて、『へび女』3部作と呼ばれることもある。3部作は、先述したビッグコミックススペシャル版でオリジナルを読める。さらに、『へび少女』は山川サツキ(やまかわサツキ)とカンナの「山びこ姉妹」が活躍するシリーズの1作でもあり、多くのファンを獲得した。
『へび少女』は、山中村に棲むうわばみの目を狙撃した祖父を持つ主人公の少女中村洋子(なかむらようこ)が、うわばみの復讐としてへび少女へと変化させられるストーリーと、サツキとカンナの姉妹が洋子を救おうとするストーリーが組み合ったホラー作品である。
『へび少女』のあらすじ・ストーリー
山中村に伝わる恐ろしい事件
『へび少女』の物語は、過去に起きた恐ろしい事件の回想から始まる。明治40年8月の山中村にて、中村利平(なかむらりへい)という男性がしのばずの沼へ猟に出かけた。そこは、主であるうわばみが棲んでいる場所とされ、村人の誰もが近づかない場所である。そして利平は、沼の主うわばみに襲われた。愛犬のクマ公(クマこう)を失った彼は、うわばみの左目を猟銃で射貫き、命からがら逃げ帰った。ところが、彼は高熱にうなされた挙句、室内を蛇のように這いずるようになってしまう。数日後、利平は変わり果てた姿となり亡くなったのだ。
中村洋子を襲うへび女の復讐
利平が亡くなった後、孫娘の中村洋子(なかむらようこ)は、身寄りをなくしてしまい、しのばずの沼の近くに屋敷を持つ資産家の養女となった。洋子の親友である山川サツキ(やまかわサツキ)は、うわばみの復讐を恐れる彼女を励まし、へびが苦手とするタバコのヤニが入ったおまもりを預ける。洋子の養母は、左目に眼帯をしている。昼間はとても優しい養母だったが、夜になるとへび女に化けて洋子を襲った。へび女の正体は、しのばずの沼に棲むうわばみであり、うわばみは利平の孫の洋子をも復讐の対象にしているのだ。必死に抵抗する洋子だったが、へび女にへびのうろこを飲まされた上に、へび井戸に叩き落された。へび女曰く、うろこを飲んだ上で、井戸を這い上がることに成功した者はへび少女になってしまうという。洋子はその通りの行動を取らされ、へび少女に変化したのだった。
山川サツキとへび少女になった洋子
洋子のことが心配だったサツキは、妹の山川カンナ(やまかわカンナ)を連れて、屋敷の様子を窺っていた。そこで、彼女は、洋子がへび女に襲われている一部始終を目撃してしまう。へび女に存在を知られてしまったサツキは、カンナを先に家に帰らせて自分も戻ろうとするが、へび女に襲われそうになった。自宅の前で夜が明けたため、サツキは命拾いする。しかしながら、へび女の追撃は終わらなかった。へび女は、へび少女になった洋子をサツキの家に向かわせて、へびの卵を飲ませてサツキをもへび少女にしようと企てる。この計画は失敗に終わったが、へび女はサツキを誘拐することに成功した。へび女の屋敷で目覚めたサツキは、目の前に巨大なへび人形を見つけて恐怖に慄くのだった。
へび少女の行く末
へび女は、サツキに家へ帰す条件として、へび人形の目を刃物で突き刺すことを要求した。人形の中には、洋子がへび女によって入れられていた。一度は人形の目を刺そうとしたサツキだったが、中から洋子が姿を見せると思い留まる。へび少女の洋子は、サツキを襲うが、そこへカンナと父親の山川良三(やまかわりょうぞう)が現れ、タバコのヤニが入ったおまもりを洋子にかざした。山川一家が屋敷から脱出すると、正気に戻った洋子とへび女の一騎打ちが始まる。そこを山津波が襲い、へび女の屋敷を飲み込んだ。何もかもが流された後、サツキたちは洋子を発見した。洋子は生きており、サツキたちの看病の甲斐もあって順調に回復した。こうして、『へび少女』の物語は完結したのである。
『へび少女』の登場人物・キャラクター
メインキャラクター
中村洋子(なかむらようこ)
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中村洋子(なかむらようこ)は、『へび少女』の主人公の1人で、山中村に住んでいる。年齢は明かされていないが、小学校高学年だと推察されている。心優しい性格の持ち主であるが、祖父の中村利平(なかむらりへい)が過去にうわばみの左目を狙撃したことでへび女の復讐の標的となってしまう。次々と家族を亡くし、村のはずれに住む資産家に養女として引き取られた。しかし、そこはうわばみの屋敷であり、養母の正体はうわばみの変身したへび女だった。洋子はへび女に肉体的・精神的に追い詰められて、遂にはへび少女となり親友の山川サツキ(やまかわサツキ)を襲うようになるのだった。その後、洋子を屋敷に拉致・監禁するも、へび女の策略に嵌りサツキに殺されそうになる。人形から脱出した洋子は、へび女と戦い、2人とも突然発生した山津波に飲まれた。洋子は一命を取り留め、サツキたちの看護を得て徐々に回復したのである。
山川サツキ(やまかわサツキ)
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山中村に住む少女で年齢は不明だが、中村洋子と同い年なので小学校高学年だと思われる。『へび少女』のもう1人の主人公とも言える存在であり、同作品における狂言回しの役割を果たした。洋子と同様に優しい心根の持ち主であるものの、彼女よりも活発な一面がある。身寄りがなくなってしまい、村はずれに引っ越した洋子のことを心配し、妹の山川カンナ(やまかわカンナ)とともに彼女の家を尋ねるも、洋子は既にへび少女になりかかっていた。へび女が洋子をへび井戸へ突き落としたところを見たことで、へび女の標的となる。へび少女になった洋子に追い詰められ、へび女の屋敷に捕らわれた。その後、へび人形の中にいる洋子を殺害するように強要されるも、父親の山川良三(やまかわりょうぞう)とカンナに助けられ、さらに洋子がへび女と戦ったことで難を逃れた。
山川カンナ(やまかわカンナ)
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サツキの妹で、年齢は不明だが幼稚園年長か小学校低学年だと推察される。幼児らしい落ち着きのない態度が特徴で、『へび少女』におけるコメディーリリーフ的な役割を果たした。また、サツキを思う気持ちが誰よりも強く、姉がへび女とへび少女(洋子)に襲われて行方不明になった時も、カンナの行動力によって事件解決の糸口が見出された。
へび女

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目次 - Contents
- 『へび少女』の概要
- 『へび少女』のあらすじ・ストーリー
- 山中村に伝わる恐ろしい事件
- 中村洋子を襲うへび女の復讐
- 山川サツキとへび少女になった洋子
- へび少女の行く末
- 『へび少女』の登場人物・キャラクター
- メインキャラクター
- 中村洋子(なかむらようこ)
- 山川サツキ(やまかわサツキ)
- 山川カンナ(やまかわカンナ)
- へび女
- その他
- 中村利平(なかむらりへい)
- 中村家のばあや
- 山川ウメ(やまかわウメ)
- 山川良三(やまかわりょうぞう)
- へび女の母
- へび屋敷のばあや
- クマ公(クマこう)
- 『へび少女』の用語
- うわばみ
- 山中村(やまなかむら)
- へび井戸(へびいど)
- へび人形(へびにんぎょう)
- へびよけのおまもり
- 『へび少女』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 中村洋子「サツキさんどうかんがえてもうわばみがしかえしにきたとおもうの…」
- へび女「これでおまえもへびになるんだよ」
- へび女に狙われた山川サツキ
- 人間を蛇にする中村洋子の恐ろしいおみやげ
- 『へび少女』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 楳図かずおの名前を全国区にした代表作の1つ『へび少女』
- 楳図かずおの1960年代作品の主要発表媒体となった『週刊少女フレンド』
- 山びこ姉妹(山川サツキとカンナ)が活躍する『へび少女』
- 『へび少女』以降も蛇を扱った恐怖漫画を描いた楳図かずお
- 『へび少女』の主題歌・挿入歌
- イメージソング:田中路子「へび少女のうた」
- イメージソング:楳図かずお「へび少女」