わたしは真悟(楳図かずお)のネタバレ解説・考察まとめ

『わたしは真悟』とは、楳図かずおによる漫画。1982年から1986年まで『ビッグコミックスピリッツ』誌上にて連載された。恐怖漫画の第一人者楳図かずおが、来るべき近未来を描いた長編SF作品であり、連載終了後もラジオドラマ化やミュージカル化されるなどの大ヒットを記録した。また、楳図かずおの1980年代の代表作としても知られている。ともに小学6年生である近藤悟と山本真鈴の淡い初恋と、2人の行動の影響で自我を持つに至った産業用ロボットを中心にしてストーリーが展開される。

『わたしは真悟』の概要

『わたしは真悟』(わたしはしんご)とは、楳図かずおによる漫画作品。『ビッグコミックスピリッツ』1982年8号から1986年27号まで連載された。コミックスは様々なバージョンがあり、『ビッグコミックス』版全10巻、『スーパービジュアル・コミックス』版全6巻、『小学館文庫』版全7巻、『My First Wide』版全4巻、『Big comics special.楳図パーフェクション!』版全6巻が刊行されている。
日本におけるホラー漫画の第一人者として名高い楳図かずおは、独特の絵柄や「毛の生えた擬音」などの視覚的な恐怖描写で多くの読者を戦慄させてきた。その彼が、『わたしは真悟』では意図的にそのような描写を抑え込み、意識を持った機械の暴走を通して神の存在や人間の存在意義など感覚を超越したものを描いた長編SF作品として認知されている。
また、機械が意識を持つきっかけになった小学6年生の少年少女の淡い恋愛も作品の重要なモチーフとなっており、「子供でいること」への徹底した拘りが表現された。
楳図かずおにとって『わたしは真悟』は、『ビッグコミックスピリッツ』の初連載作品である。同作品が成功したことでその後『神の左手悪魔の右手』と『14歳』を連載しており、同誌は1980年代から1990年代にかけて彼のホームグラウンドになった。
連載中から話題と注目を集めた『わたしは真悟』であるが、メディアミックス展開は連載終了後であり、ラジオドラマ版が1991年10月14日から同年11月1日までNHK-FMの『サウンド夢工房』枠で放送され、ミュージカル版が2016年12月から2017年1月にかけて全国5都市(神奈川・浜松・富山・京都・東京)で上演された。
日本国内のみならず海外での評価も高く、2018年にフランスで開催された『第45回アングレーム漫画祭』で遺産賞を受賞したほか、2020年にはイタリアの『ミケルッツイ賞』で最優秀クラシック作品賞に選ばれている。
小学6年生の近藤悟(こんどうさとる)と山本真鈴(やまもとまりん)の幼い恋愛から物語が始まり、2人の恋愛の影響で意思・意識を持つに至った産業用ロボット真悟(しんご)の進化がやがて人類を脅かす存在になっていく過程が描かれた壮大なSF漫画である。

『わたしは真悟』のあらすじ・ストーリー

プロローグ

「わたしはクマタ機械工作というところで生まれたそうです…」という謎の独白と共に、ある機械の製造工程が描かれていく。部品が1つ1つ集められ、出来上がった機械は箱に入れられてそれを必要とする場所へと運ばれていった。謎の独白者は、その出来事を「1982年のことだったと聞きました」と語っている。
場面が変わると、東京のとある街にある萩小学校の日常生活が展開された。主人公の近藤悟(こんどうさとる)は、同校の6年生でイタズラ好きな少年だ。非常に子供っぽく、クラスの女子たちにいたずらを仕掛けて泣かせたりしていた。そのことからも窺えるように、異性に対する感情が芽生えておらず、クラスの中でも浮き始めている。
また、悟は家でも母親の言うことを聞かず奔放にしているため、母親が手を焼いている状態だった。
そのような状況下で、悟は町工場に勤める父親から工場にロボットが導入されるという話を聞き、大いに関心を抱いた。

悟と真鈴

悟は父親が勤める工場に導入されたロボットに興味津々となった。彼はいわゆる人間型のロボットを想像していた。そして、悟の学校で彼の父親がいる工場見学が行われ、そこで彼が実際に見たのはアームの付いた産業用ロボット「モンロー」だった。少しがっかりした悟だったが、父親がモンローのティーチングを任されていたこともあり好奇心は尽きなかった。また、工場見学の際に悟は、同じく工場見学に来ていた別の小学校の女子生徒に一目惚れした。名前も知らない少女に想いを募らせる彼は、ある日の夜に工場で再会を果たす。少女もまた、悟のことが気になっていたのだ。この日以降、悟と山本真鈴(やまもとまりん)は、工場に忍び込んではモンローにお互いの個人情報や様々な出来事を打ち込むなどして親睦を深めていく。しかし、2人の幼く淡い恋は長続きしなかった。

引き裂かれた2人

悟の父親が勤務する工場では、機械化が推し進められ工員がリストラされることになった。悟の父親も対象者となってしまい、新潟県への引っ越しを余儀なくされる。また、真鈴の父親は外交官をしており、イギリス赴任が目前に迫っていた。悟と真鈴は、お互いにもう会えなくなる可能性を憂いた。特に真鈴は、次に再会できたとしてももう子供の頃の自分達ではないであろうことを悲しんでいる。そこで、2人は今すぐに結婚することを思い立つ。子供ができれば絶対に結婚できると考えたが、悟も真鈴も子供の作り方を知らない。思い余った2人はモンローに子供を作る方法を尋ねた。モンローの回答は、「333ノテッペンカラトビウツレ」という謎めいたものだった。悟と真鈴は、「東京タワーのてっぺんに行くこと」と解釈して東京タワーへ登った。しかし、頂上に来たところでヘリコプターに救助された。2人は、お互いのことを忘れようとして別れた。

意識を持つロボット

自我が目覚めた真悟

悟と真鈴の暴走行為は、完全に失敗に終わったかに見えた。ところが、2人の全く知らないところで異変が起きていた。悟と真鈴が東京タワーの頂上からヘリコプターへと飛び移った瞬間、モンローが自我を持ち始めたのだ。モンローは、自分が意識を持つに至った要因の悟と真鈴を両親と認識するようになった。ある日、モンローなどの産業用ロボットのプログラムを製作している東京コンピューター研究所のスタッフが、モンローに謎のプログラムが組み込まれていることと、モンローがそのプログラムに基づいて何かしらの不審物を作っていることに気づいた。しかし、モンローは自分が壊される危機を感知しており、工場から逃亡していた。悟と真鈴を両親と崇めるモンローは、2人から字を取って「真悟(しんご)」と名乗るようになる。そして、現在は離れ離れになってしまった両親の想いを実現するべく、「今も君を愛している」という悟の言葉を届けようと、真鈴のいるイギリスへ向かった。事態を重く見た東京コンピューター研究所は、責任逃れの意味もあり真悟を追跡するが、真悟を助ける子供たちに行く手を阻まれてしまう。

子供時代の終わり

イギリスにいる真鈴は、苦悩の日々を送っていた。日本の技術が次々と送り込まれていることに脅威を感じたイギリス国民が、日本を排斥する運動を行っており、父親が外交官であることでもろにその影響を受けていたのだ。また、真鈴に想いを寄せるロビンという年長少年の度を越したアプローチも彼女の悩みの種であり、彼女は悟のことを忘れる記憶喪失にまで追い込まれてしまう。そのような状況で母親の真鈴を見つけた真悟だったが、同時に真悟は自分が作った小型兵器が日本企業ビルの爆破事件に用いられたことを知った。真悟の正体は普通の産業ロボットではなく、人間の悪意を基にした秘密兵器を製造する存在であり、秘密のプログラムもそのために組み込まれていたのだ。真悟は意識を有してしまったばかりに、自分の存在そのものが真鈴を苦しめていることを悟って大いに苦悩する。一方、真鈴はロビンと共にエルサレムにいた。焦れたロビンが強引に自分と結婚しようとしていることがわかった彼女は、悟のことを思い出して必死に拒絶する。真悟は、ロビンの悪行を食い止めるべく進化を続け、遂には世界中の意識と繋がる神の如き存在へと変貌した。そして、人間の幼児の肉体を用いて、真鈴をロビンから救い出した。しかしながら、その瞬間真鈴の子供時代は終わりを告げた。

「サトル ワタシハイマモアナタガスキデス マリン」

真悟は、子供時代が終わる直前の真鈴の想いを感じ取っていた。「サトル ワタシハイマモアナタガスキデス マリン」という母親の言葉を父親の悟へ届けようと、真悟は日本へと向かった。ところがエルサレムで真悟が起こした奇跡の代償として、真悟は意識と記憶そしてエネルギーが失われていた。その道中で自分を助けてくれた老婆や、初めて心を通じ合わせた少女松浦美紀(まつうらみき)に力を分け与えることで、真悟の消耗度はピークに達する。美紀はお礼に真悟を助け、悟の居所へと向かわせた。悟は、不良少年たちから「すげぇ金もうけの話」を持ちかけられて佐渡島へと渡っていた。佐渡島には秘密の国防町が存在し、悟と不良少年たちはソ連の襲撃と勘違いされてしまい、殺し合いが展開される。何とか生き延びた悟は、新潟県の港へと戻ってきた。そこには、動物たちに連れて来られた真悟のアームが落ちており、地面には「アイ」と書かれていた。悟は、真悟の存在も「アイ」の意味もわかっていないようだった。

『わたしは真悟』の登場人物・キャラクター

メインキャラクター

近藤悟(こんどうさとる)

『わたしは真悟』の主人公。東京都の萩小学校に通う小学6年生の少年。いわゆるガキ大将的な性格の持ち主で、女子に平気でいたずらを仕掛けて泣かせるなど第二次性徴を迎えていない様子が窺える。そのために、クラスメイトの間では浮いた存在になっている。また、いつまでたっても精神的な成長を見せないことで、母親をも呆れさせていた。しかし、別の小学校の女性徒である山本真鈴(やまもとまりん)と出会って彼女に一目惚れして以降は、ごく普通の少年に変貌していく。また、悟と真鈴が豊工業でモンローを介して仲良くなっていったことが真悟誕生の大きな要因になった。

山本真鈴(やまもとまりん)

『わたしは真悟』のヒロイン。小学6年生でロングヘアが似合う美少女。悟とは別の学校だったが、工場見学会で彼に一目惚れした。その後、夜な夜な豊工業で彼と会って仲を深めていく。しかし、その後は父親の仕事の都合でイギリスへ行くことを余儀なくされて悟と別れた。悟よりも自分が大人になることを恐れていた。また、イギリスでは日本企業の排斥運動やロビンの度を越した求愛に巻き込まれるなど悟よりも苦労した様子が描かれている。

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@yudai1004

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