神の左手悪魔の右手(楳図かずお)のネタバレ解説・考察まとめ

『神の左手悪魔の右手』とは、楳図かずお原作のホラー漫画。『ビッグコミックスピリッツ』にて1986年から1988年まで連載された。メディアミックスとして2006年に実写映画版が公開されている。数多い楳図作品の中でも圧倒的なスプラッター・ゴア描写が展開されることで知られており、多くの読者に衝撃を与えたといわれている。同作品は、主人公の少年・山の辺想を狂言回しにして、彼の周辺で起きる恐怖現象や惨劇を描いたオムニバスホラー漫画である。

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久保田ももの父親が描いた絵本の見開き

『神の左手悪魔の右手』の『黒い絵本』は、久保田ももの父親が絵本を描くために残虐な殺人事件を起こす様子が描かれた。その中でも、ハイキングをしていた2人組の女性が殺害されたシーンが特に残虐だといわれている。女性たちは道に迷ってももの父親が準備した小屋に入るが、そこで強制的にケーキや吐瀉物を食べさせられた挙句に残殺された。そして、その生首は絵本製作に必要とされて、ももの家の冷蔵庫に保管される。冷蔵庫の中で苦悶の表情を浮かべる2つの生首と、絵本でケーキの上に乗せられた2つの首は、残酷な名場面として多くの読者に衝撃を与えた。

山の辺想「そしてわたしの正体は、ヌーメラウーメラ!!」

『神の左手悪魔の右手』のラストエピソード『影亡者』において、山の辺想は土井みよ子の守護霊三郎太に身体を乗っ取られてしまう。しかしながら、ストーリーのクライマックスで、彼は真の姿であるヌーメラウーメラとなって影亡者と激しい戦闘を繰り広げた。「そしてわたしの正体は、ヌーメラウーメラ!!」と叫び、初めてヌーメラウーメラの姿を披露したシーンは、陰惨な描写が多い同作品の中でヒーロー然とした名場面として高く評価されている。

『神の左手悪魔の右手』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

『神の左手悪魔の右手』で展開された圧倒的なスプラッター&ゴア描写

山の辺泉の両目から飛び出す錆びたハサミ

楳図かずおは、ホラー漫画の第一人者として知られている。彼は、インタビュー等で、「自分の漫画家としての資質がホラーとギャグにある」という趣旨の発言をしていた。また、「ホラーを描いていてもギャグの要素がゼロになることはない」という意味の言葉も遺している。その楳図自身が、「ホラーに振り切って描いた」語ったとされるのが、『神の左手悪魔の右手』である。同作品の全5編からなるストーリーでは、全てダークな展開が繰り広げられ、それを直接的に読者にアピールすべく徹底的なスプラッター&ゴアシーンが描かれた。特に、『錆びたハサミ』にて山の辺泉の体内から多くの異物が出てくるシーン、『黒い絵本』にて女性たちが次々に惨殺されるシーン、『影亡者』において多くの守護霊が影亡者に食われて、その結果対象の人間が悲惨な最期を遂げるシーンなどが、読み手の恐怖を駆り立てている。

『ジョジョの奇妙な冒険』に影響を与えたといわれる『神の左手悪魔の右手』

自作の絵本を久保田ももに読み聞かせる彼女の父親

楳図かずおは、一般読者のみならず、同業者やクリエイターからの人気が高い漫画家である。漫画家の伊藤潤二や岡崎京子、小説家の綾辻行人、タレントの中川翔子など、楳図ファンを公言する著名人は多い。楳図作品はオマージュの対象になることもしばしばであり、伊藤潤二は『富江』シリーズや『うずまき』といった代表作における楳図の影響をインタビュー等で語ってきた。また、はっきりとした影響を公言しているわけではないが、荒木飛呂彦は『ジョジョの奇妙な冒険』の第3部『スターダストクルセイダース』の中で、楳図の『神の左手悪魔の右手』のオマージュと思われるシーンを描いている。

『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』に登場するボインゴの絵本の1ページ

『スターダストクルセイダース』のラスボスDIOの手下であるオインゴボインゴ兄弟は、オインゴの変装能力とボインゴの絵本による予知でジョースター一行と対峙した。ボインゴの予知で、彼の絵本を欲しがった日本人観光客が、電柱に首を刺された状態で死亡したエピソードは、『神の左手悪魔の右手』の『黒い絵本』の冒頭における人形を拾った女性の死亡シーンの影響があると評されている。また、ボインゴの予知能力のある絵本と、山の辺想の悪夢との共通点を指摘する読者も多い。

芸能界の光と闇を描いた『神の左手悪魔の右手』の1編『影亡者』

『神の左手悪魔の右手』小学館文庫版第4巻表紙

楳図かずおは、20代の頃劇団ひまわりに所属した経歴がある。また、独学で音楽を学び、シンガーソングライターとしてアルバム発表やライブ活動を行っていた。さらに、1995年に漫画執筆を休業して以降は、タレント活動にて世間一般に認知されていた。このように、楳図は芸能人志向の強い人物であったが、劇団所属時代に執拗な宗教への勧誘に遭って一時期芸能界から距離を置いたこともある。芸能界の光と影を身をもって知った彼は、自作『おろち』の1編『ステージ』や『洗礼』などで、芸能界の華やかな部分と闇の部分をリアルに描いた。『神の左手悪魔の右手』の『影亡者』も芸能界が舞台となっており、影亡者に取り憑かれた土井みよ子が、平凡な少女から癖のある極悪人へと変貌する様子が描かれたのである。

『黒い絵本』を基に制作された映画『神の左手 悪魔の右手』

映画『神の左手 悪魔の右手』にカメオ出演した楳図かずお

映画『神の左手 悪魔の右手』は、2006年に公開された。同作品は、監督を『ガメラ』平成シリーズや『デスノート』で知られる金子修介が担当し、脚本を『デスノート』の監督補として金子を支えた松枝佳紀が務めた。元々は、那須博之が監督する予定だったが、彼が2005年に急死したため金子が引き継いだという経緯がある。映画版は、『黒い絵本』をベースにしたストーリーが展開されており、R-15指定だった。原作漫画との相違点は、柴沼清美や谷ミワ子といった映画版オリジナルキャラクターがいるほか、主人公が想ではなく泉である。また、「山辺イズミ」などキャラクターの名前も変更された。原作者の楳図かずおが、ワンシーンにてカメオ出演したことも話題になった。

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