おろち(楳図かずお)のネタバレ解説・考察まとめ

『おろち』とは、楳図かずお原作のホラー漫画。『週刊少年サンデー』誌上にて、1969年から1970年まで連載された。2008年には、実写映画版が公開されている。同作品の特徴は、視覚的な恐怖描写よりも人間の深層心理の不気味さを克明に描いた点にあり、サイコサスペンスものの先駆けとして人気が高い。『おろち』は、謎の美少女おろちを狂言回しにして、数々の人間の暗部がドラマとして紡がれていくオムニバスホラー作品である。

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『おろち』の概要

『おろち』とは、楳図かずお原作のホラー漫画。『週刊少年サンデー』誌上にて、1969年25号から1970年35号まで連載された。同作品の単行本は、秋田書店サンデーコミックス版全6巻、小学館文庫版全6巻、秋田コミックスセレクト版全3巻、小学館叢書版全3巻、秋田文庫版全4巻、ビッグコミックスペシャル版全4巻など様々なバージョンが刊行されている。ビッグコミックスペシャル版が電子書籍化されており、連載順で読むことができる(それ以外の版は収録が連載順ではない)。

『おろち』は、メディアミックスとして2008年9月20日に実写映画版が公開された。映画版は、同作品の2エピソード『姉妹』と『血』をベースにストーリーが構成されている。監督を『ほんとにあった怖い話』の鶴田法男、脚本を『女優霊』や『リング』の高橋洋が担当した。主演の門前一草(もんぜんかずさ)役を木村佳乃、門前理沙(もんぜんりさ)役を中越典子、おろちと佳子(よしこ)役を谷村美月が務めている。映画版については、原作者の楳図かずおが高評価するなど、内外で話題となった。また、1984年に『火曜サスペンス劇場』枠にて、『姉妹』をベースにした2時間ドラマ『雪花魔人形ー愛と惨劇の館ー』が制作・放映されている。『雪花魔人形』には、楳図かずおがカメオ出演したが、楳図は後に同作品を「おろちも出てこなければ、タイトルも別物に変えられた」や「やんなきゃよかったなあと思う」と酷評した。

『おろち』の大きな特徴は、主人公の少女おろちを狂言回しにしたオムニバス物語という点である。不老不死とされる謎の存在のおろちは、日本国中を歩きながら、自分の目に留まった人々の人生を覗いている。完全な傍観者でいることもあれば、積極的に相手のドラマに介入していくこともあった。全9話各エピソードの登場人物に共通するのは、皆一様に暗部を抱えており、そのことが原因で人生が大きく動き出すことである。人間の予期せぬ行動・言動、そして深層心理の不気味さがホラー色の濃い描線で描かれており、所謂サイコホラー作品の先駆けとして高く評価されている。また、楳図かずおは同時期に『イアラ』を連載しており、この後『漂流教室』を発表するなど、綺羅星の如き名作を量産していった。

『おろち』のあらすじ・ストーリー

姉妹

日本国内をさすらい歩く謎の美少女おろちは、嵐をしのぐために竜神(りゅうじん)家に家政婦として入った。その際、彼女は竜神エミ・ルミ姉妹に精神感応能力を用いる。おろちは、竜神家が「18歳の誕生日を迎えると醜くなっていく」という家系であることを知った。ある日、ルミは母親から自分がもらい子であると聞かされる。そのこと知ったエミは逆上した。ルミが醜くならないからである。エミは、ルミを徹底的に虐待した。おろちは、ルミに家から出ていくことを進めたが、彼女は固辞した。エミは、恋人の弘(ひろし)に別れを告げ、自分で自分の顔を焼く。竜神家には、姉妹しか残らなくなった。ルミは、自分が18歳になろうとした時、実はもらい子はエミであると告白した。その後、弘が竜神家を訪ねると、そこには狂い死にしたエミと醜女になったルミがいたのだった。

大森千絵(おおもりちえ)は、貧困で不遇な少女時代を過ごした。千絵は、父親に売られそうになったところを三郎(さぶろう)という男性に救われ、そのまま結婚した。しかし、三郎は交通事故に遭い、リハビリ中に崖から転落して命を落とした。その後、千絵は資産家の大森と再婚して、息子のジュンをもうける。おろちは、千絵と三郎を再会させようと思い、呪術で三郎を模した人形に命を吹き込もうとするも失敗した。しかし、土葬された墓から、三郎が復活することとなる。三郎の姿を見た千絵は、ひどく怯えてしまう。やがて、三郎はジュンを誘拐して、千絵に会おうとする。実は、彼はリハビリ中に千絵に突き落とされたのだ。千絵は、怪我をした三郎の世話をするという自分だけが不幸になる状況を恐れて、凶行に及んだのだった。三郎は、同じ崖で千絵に再び突き落とされて死亡し、彼に捕らわれたジュンも発見が遅れて亡くなった。

秀才

立花優(たちばなゆう)は、首筋に1歳の時強盗に襲われてできた大きな傷跡がある少年である。優の母親は、傷跡が原因でいじめられる息子にK大学合格を目指して勉強を無理強いさせていた。彼の父親は、そのような光景にたまに口を出すものの、基本的に家族のことに無関心だ。小学生になった優は、図書館で調べものをしていた際、自分が強盗に刺された新聞記事を見つけて驚愕する。それ以来、優は母親の無茶な要求に応えるようになった。並みいるライバルに対しても策を講じて追い落とし、遂に彼はK大学に合格しようとしていた。優は、実は自分が強盗犯人の息子で、優の母親が無理やり引き取って育ててきた事実を突きつける。すると、母親は優をナイフで刺そうとして、わざと自分を刺して彼の合格を取り消そうとした。優は、傷ついた母親の前で涙し、母親もまた同様だった。その晩、一部始終を見てきたおろちは右手の包帯を立花一家に巻き、その場を後にしたのだった。

ふるさと

ある夜、おろちは杉山正一(すぎやましょういち)という青年を街中で見かけた。チンピラの正一は、他のチンピラたちと喧嘩になってしまい、頭部を鉄の棒で殴られて瀕死の重傷を負った。頭部に入った鉄片が、手術でも取れなかったのだ。生まれ故郷の中瀬村へ帰りたいという正一の望みを叶えるべく、おろちは彼に代わって電車で村へ向かうが、そこには何故か手術を受けているはずの正一もいた。彼は、東京でチンピラをしていたことを故郷の人々に知られたくないようで、そのことを知っているおろちの存在を疎ましく思いながらも中瀬村へ着いた。すると、そこは素朴な村ではなく、幼馴染の良子(りょうこ)の息子新次(しんじ)が実権を握る異様な空間となっていた。新次は、村の神社に祀られている光る石によって超能力を得ていたようだ。やがて、新次に操られた子供たちが村人を皆殺しにしようとする。おろちは、光る石を割った。すると、そこには台風で全滅した中瀬村があった。そして、正一の頭部内の鉄片も、跡形もなくなくなったのだった。

カギ

渡辺ひろゆき(わたなべひろゆき)は、近所から「うそつき」と呼ばれる幼児である。ある日、ひろゆきは隣に住む病弱な少女恵美(えみ)が彼女の母親に首を絞められて死亡する場面を目撃した。彼は、両親にこのことを打ち明けるが、普段から嘘ばかりついていたことから全く信用されない。恵美の両親は、ひろゆきを殺害するべく彼を誘拐した。ひろゆきは、行く先々で助けを求めるも、誰も話を聞いてくれなかった。ひろゆきが殺されようとした刹那、おろちの機転で彼は助けられた。その後もひろゆきのうそつきは直らなかったが、おろちは彼が良い人間に成長するかもしれないと思ったのだった。

ステージ

目黒佑一(めぐろゆういち)は、3歳の時に父親を轢き逃げ事故で亡くした。彼は、轢き逃げ犯が自分のよく見ていたテレビに出ている芸能人の田辺新吾(たなべしんご)だと警察に言う。田辺は裁判にかけられるも、佑一の証言が不確かだったことで無罪になった。その日から佑一は陰気な性格になってしまい、近所からも爪弾きにされる。佑一は、ある時から花田秀次(はなだひでじ)というスター歌手のファンになり、家出した。その後、オーディション番組で様々な不正を行い、花田の目に留まり彼の弟子となる。花田に尽くす佑一だったが、彼には真の目的があった。実は花田の正体は、整形した田辺だったのだ。そのことをつきとめた佑一は、花田に水銀を飲ませて声を奪った上で、花田が暴走運転する車内で告発した。田辺が全てを打ち明けた手紙を読んだ佑一は、帰郷してラーメン屋で働くようになる。その表情は、穏やかであった。

戦闘

男子中学生の岡部正(おかべただし)は、父親が同じ学校の教諭である。とても明るく真面目な正は、どんな人にも親切に振舞う父親のことを尊敬していた。ある日、正は、隻腕で左足のない男性から、父親に渡してほしいと髑髏を受け取る。その日から、岡部家に災難が訪れるようになる。正は、男性の呼び出しに応じ、戦争映画を上映している映画館へと赴いた。そこで、彼は男から父親がガダルカナル島における戦闘で何をしたのかを聞かされて衝撃を受ける。おろちは、正の父親が寝ている時、彼の記憶に入り込んだ。男の正体は佐野(さの)といい、ガダルカナル島で父親と一緒に戦った元仲間だった。しかし、戦地では飢餓の極限状態が続き、遂には弱って死んだ仲間を喰らうまでになった。正の父親も、そのようにして生き延びたのだ。正は、すっかり暗い性格になってしまい、父親に不信感を持った。父親は、正と2人きりの登山を行い、そこで人の肉を喰ったと告白する。2人が遭難しそうになった時、正はザイルを切って自死しようとするも、父親の人生を肯定して思い直すのだった。

田口恵子(たぐちけいこ)は、生まれつき目が不自由で盲学校に通っている少女だ。彼女は、父親と2人で暮らしている。ある日、父親の留守中にとある男性が助けを求めて恵子の家に入り込んだ。彼は後から入ってきた男に殺害される。恵子は盲人だったため、難を逃れた。しかし、恵子の父親が容疑者として逮捕されてしまう。恵子は、友達で手術で目が見えるようになった男児のさとると協力して犯人を捜そうとしたが、さとるがうっかり犯人に情報を与えたことと、自分が犯人の身分証明書を焼失させてしまったことで窮地に立たされる。真犯人は、恵子の必死の抵抗で逮捕されたものの、実は近所の人々もグルだったことが判明し、町に居づらくなった恵子と父親は引っ越さざるを得なくなったのだった。

門前理沙(もんぜんりさ)は、常に美人で聡明な姉の一草(かずさ)と比較されて育ち、暗い人生を歩んできた。門前家のことが好きになれない理沙は、成人後家を出て九州のホテル経営者のもとへ嫁いだ。しかし、夫婦喧嘩が絶えず、ある日決定的な喧嘩をした後で飲酒運転して事故を起こす。事故は、おろちが介入したことで大事には至らなかったものの、この影響でおろちは「ねむり」という10年単位の睡眠状態へと陥ってしまう。「ねむり」の間、おろちは自分と容姿が似ている佳子(よしこ)の意識の中で、門前家の行く末を見守る。佳子は門前家の血筋で、流しをしていたところを離婚して門前家に戻っていた理沙に引き取られた。佳子は、一草の優しさに触れて彼女を「おかあさま」と呼んで慕う一方で、理沙からは熾烈な虐待を受ける。一草は心臓が悪く臥せっており、思い余った佳子は自分の心臓を与えると宣言する。佳子が、門前家の階段から転落して危篤状態になると、おろちが目覚めた。おろちが門前家に来ると、佳子は亡くなる直前だった。そこで、理沙は佳子が門前家の血筋ではないことを一草に告白した。すると、一草は、呪詛のような汚い言葉を吐き続けて死亡した。一草は、佳子の心臓を移植手術してもらいたいがために、佳子が早く死ぬように動いていたのだ。理沙は、姉が聖人君子ではないことを暴いたのだ。おろちは、いたたまれない気分で門前家を去るのだった。

『おろち』の登場人物・キャラクター

主人公

おろち(演:谷村美月)

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