Maison book girl(ブクガ)の徹底解説まとめ

Maison book girlとは、2014年11月5日に結成された日本のアイドルグループ。作曲家・音楽プロデューサーのサクライケンタとBiSのメンバーであったコショージメグミを中心として誕生。サクライケンタの「現音ポップ」と称する変拍子を多用した楽曲をバックにコショージメグミが詞の朗読を行うというパフォーマンスを発展させた形といえる。一筋縄ではいかない「現音ポップ」に合わせてパフォーミングを行う、という独自の世界を持っている。2021年5月30日、活動終了が公表される。

以下、Real Soundよりレビューを抜粋して引用。
ある意味特異な存在としてデビューしたMaison book girlも、キャリアを積み、作品のリリースを重ねてきた。
また音楽メディアもMaison book girlに対して一定の理解と順応性を示してきた。
このReal Soundのレビューはそんな理解と順応性に即した、かなり分析的で落ち着いたレビューとなっている。

矢川葵、井上唯、和田輪、コショージメグミの4人組アイドルグループ・Maison book girl(以下、ブクガ)。プロデュースは、いずこねこのプロデュースや大森靖子との仕事、近年ではクマリデパートのプロデュースも手がけるサクライケンタ。変拍子や変則的なリズムがめまぐるしく飛び交い、ときにポエトリーリーディングまで飛び出す楽曲と、歌唱やダンスを通じた4人の表現が魅力のグループだ。
ブクガの音楽性はしばしば「現音ポップ(=現代音楽+ポップス)」と形容される。具体的には、先述した特徴的なリズム構造や楽器の編成、そして短いリフの反復を主とした楽曲の構成には、ミニマリズムをはじめとした現代音楽からの影響が如実だ。実際、サクライもスティーヴ・ライヒのファンであることを公言している。
一方で、エイトビートのノリを基調とした疾走感あふれるドラムはパンクやハードコアのようなダイナミズムを持っているし、メロディラインも一癖あるもののキャッチーだ。という具合に、現代音楽のみならず、ポストロック/マスロック的な響きの流麗さやポップパンクのような人懐こさも持ち合わせている。
なにより、変則的なビートに錯綜するリフの乱れ打ちを4人の歌声が貫通することで、全体がにわかにポップに響き出す。このグループならではのケミストリーがブクガの音楽が持つ一番の魅力だ。
ブクガは2015年の始動から5年、アルバムはインディ・メジャーあわせて4枚、シングルやEPも数多くリリースしてきた。音楽性は初期からユニークさ(変拍子、「現代音楽」的編成等々……)を確立しているが、歌唱に限れば最初はどちらかというと朴訥としていて、ときに拙さや危うさも感じるところがある。そんな歌唱がリフ同士が緻密に編み合わされたクールな楽曲と絶妙にマッチしていたことも事実ではある。
そもそも、先述したような特性上、ブクガの楽曲は歌いこなすこと自体なかなか難しい。変則的な展開や譜割りが多い楽曲を4人で分担して歌い、かつライブのステージ上では激しい振り付けも伴う。困難さはリスナーの想像以上だろう。
それが、近年の作品になればなるほど、発声も表現力もたしかなものになっている。経年による変化や、トレーニングによる技巧的な変化もさることながら、ブクガが表現したいこと、表現するべきことのビジョンをサクライもメンバーも高い水準で共有できているのだろうと思わせる。

音源単位で話を進めると、前作『yume』は、楽曲の練度、パフォーマンスのクオリティを含め、ブクガだからできる表現をつきつめたトータルな一枚として高い完成度を誇っていた。「夢」という明確なコンセプトのもと、スキット的なトラックやフィールド音(夢を見ている脳の状態を測定するMRIの動作音(!)も含む)を織り交ぜて一枚のアルバムとして聴かせる構成の妙に唸らされる。
対して最新作『海と宇宙の子供たち』は、冒頭のインスト「風の脚」とアルバムを閉じるサウンドコラージュ+ポエトリーリーディングの「思い出くん」を除けば、しっかりと歌がフィーチャーされた歌もののアルバムだ。メンバーの歌唱力、表現力が活かされた楽曲が並んでいる。さらに、ブクガの代名詞とでも言うべき変拍子は抑えられ、オーソドックスな4分の4拍子の楽曲が多い。それでも、やや変則的なリズムの打ち方やメロディラインにはブクガらしさがしっかりにじみ出ているのが面白い。
これまでブクガの楽曲では、ベースをはじめとした低域が楽曲をひっぱり、ドライブさせることは控えられてきた印象がある。もっと正確に言うなら、歌メロと伴奏のメロディが絡み合いながら並走する中域から高域にかけてのアンサンブルに聴きどころが用意されていた。
本作ではアレンジ上低域へこれまで以上にフォーカスがあたっている。ビートの太さもさることながら、たとえば「海辺にて」で、小節を埋めるようにずっしりと響くベースライン。変則的なハイハットの打ち方とこれもまたトリッキーな歌メロを、ベースとキックが土台となって支えている。BPMは遅めでリズムの刻みは最小限に、ベースの動きで楽曲のドラマを引っ張っていく「シルエット」も同じくらい鮮烈だ。「ランドリー」のAメロ~Bメロでのエレキベースの存在感も、ブクガにしてはちょっと珍しいR&Bっぽさを醸しだしている。
この意味で、本作は新境地と言っていいだろう。相変わらずハイクオリティな楽曲、パフォーマンスに、これまで以上にキャッチーなサウンド――まだブクガに馴染みがない方にも、入り口としても申し分ない一作であることは付け加えておこう。

出典: realsound.jp

サクライケンタ

以下、e-onkyo musicよりサクライケンタのインタビューを引用。
作曲やサウンドメイクだけでなく歌詞の内容についてまでかなり突っ込んだ内容になっている。
また、音響関連のサイトでのインタビューなので、音響効果についての興味深い話も含まれている。

◆より多くの人に聴いてほしい最新アルバム『海と宇宙の子供たち』
―:前作『yume』から約1年、Newアルバム『海と宇宙の子供たち』の発売、おめでとうございます。この1年を振り返ってみて改めていかがですか?
ありがとうございます。前作『yume』はかなりコンセプチュアルなアルバムでした。今年はその後にシングルが2枚、『SOUP』と『umbla』をリリースして、その頃から今回のアルバムのテーマを先に考えながら進めていました。そこに“海と宇宙”のようなイメージがあって、『SOUP』がどちらかと言うと海で、『umbla』は宇宙。そこに“その世界の子供たち”みたいなイメージでアルバムを作っていて。『yume』はある意味で重くて聴きごたえのあるものでしたが、少し入りづらいかもなという印象もあり、今作はMaison book girlをまだ知らない方にもぜひ聴いて欲しいという気持ちでした。『yume』は”聴くぞ”という気合いが多少要るアルバムなのに対して、今回の『海と宇宙の子供たち』はで外でイヤホンで聴くような感じで楽しめると思います。
もちろんハイレゾでしっかりと聴いていただいても、全編通して気持ちよく聞けるようなアルバムにしました。
―:事前にハイレゾの音源を聴かせて頂きましたが、1曲1曲をそれぞれじっくり聴いていると、“本当にアイドルソングなのか”という難解さもありつつ、アルバムを通して聴くととても聴きやすいアルバムだなという印象が残ります。
実際『yume』はすごくコンセプチュアルに【夢】というテーマをフィーチャーしていたんですけど、今回はもう少し外に向かって開けたものになっていますね。
―:『yume』ほどではないといいつつ、やっぱり今作も音の手触りは的には結構攻めているなと…
開き具合がまだ少し足りなかったですかね(笑)僕としてはMaison book girlは4人の女の子のグループとして捉えている一方で、音楽としてはちゃんとポップスとして成立するようにって考えています。だから、前の2枚のシングルも含めて、ちゃんと歌のメロディーや歌詞が聴き取れてなおかつ一緒に口ずさめるようなものにしたいと考えながら作りました。
―:ヴォーカルの仔細なニュアンスもかなり残されていますね。リップの音も聞こえたり、音像も近くて生っぽいというか。アイドルというフォーマットだとどうしても作り込んだエディットをしがちなように思いますが。
そうですね、普通はミックスの段階でそういう帯域はガッツリ切っちゃったりするんですよね。ミックスのエンジニアさんはいつも同じ方にお願いしているのですが、前々回のシングルぐらいから、あえてそういう歌としての生々しさを残していこうという話はしました。

◆全ての音が意味を持つように
―:オケも音数が多くなくてとても整理されているというか、J-POPというよりはオルタナティヴっぽさを感じます。
トラックの音数は実際すごく少なくて、必要なものしか入れないようにしていますね。今回特に変わった作りになっているは4曲目の「悲しみの子供たち」は殆どがリズムのトラックで、和音としてはピアノとあとはアコギだけっていう。ピアノがいてアコギがいて、リズム5人くらいで演奏しているみたいな空間のイメージです。
―:「悲しみの子供たち」はアレンジ自体もコンテンポラリージャズっぽさもあり、少しジプシーっぽさを感じるピアノのフレーズもあったりで、アコースティック編成でも聴いてみたいと思いました。
昔からMaison book girlでは必要のない音は入れないようにしています。音と音の間隙を大事にしているというか、やっぱり歌と重なって色々な音が鳴っていると埋もれてしまうので、鳴らすにしても同じタイミングにしないようにとか、そういう部分を意識しています。どの曲もそうなのですが、鳴っている全部の音がちゃんと意味があるように心がけてます。
―:しっかりと帯域で計算された塊感があって、音圧で押してくる音とは真逆ですね。とてもオーディオ的でハイレゾ向きな音です。
全編通してハイレゾだとLowはかなり低いとこまで出ていて、それもちゃんと音程感のある低音になっていますね。キックもスマホの付属のイヤホンでは再生できないだろうなという成分が結構大きな音で入っていたりします。Highもちろん出ているんですが、今回はよりローエンドにこだわっています。ミックスって箱みたいなものだと思うんですけど、上を出しすぎると相対的に下が聴こえにくくなったりするんですよね。なので、Lowの深いところまで聞こえるようにHighとのバランスをとったというのが今回のミックスの方向性です。Highは聴感上聴こえやすい分、それを抑えていかにLowの見通しをよくするかという。
―:とても広いレンジ感で、普段こういう音楽を聴かない方にこそしっかりとオーディオ的に楽しんでほしいですね。ヴォーカルだけでなく楽器の音色も印象的です。例えば1曲目の「風の脚」のピアノはアルバムを象徴しているような印象がありますが、アタックを抑えた質量のある音で、ヨハン・ヨハンソンを彷彿とさせるものを感じます。
ピアノは今回は生では無くソフトウェア音源なんですけど、デフォルトの音の時点ですごく音が良くて、ある意味生より生っぽいという。
タッチノイズのコントロールもできるので、生ピアノだったらマイキングの関係で実現できないような、たとえば打鍵の音だけでなく鍵盤から指が離れる音を強調したり、そういう領域まで追い込めるんです。
―:生ピアノだと物理的に難しい側面が出てしまう分、ソフトウェア音源でこその領域ですね。サクライさんご自身の現代音楽からの影響が強くでる部分ですか。
そうとも言えると思います。音を整理する感覚であったりとか、そういう部分はクラシックや現代音楽的な要素が強いですね。音色としての展開と、メロディーの展開の関係性はかなり考えています。
―:一方で、J-POPとしての大衆性を維持したところに着地させる必要があると思うのですが、そのバランスはどのように?
そうですね、このアルバムで現代音楽的じゃ無い要素といえば、例えば普通のエレキベースやドラム、エレキギターなんかも現代音楽では大抵クリーントーンでメロディーや和音を補強していると思うんですけど、僕の場合は要所要素で歪みを加えたりしてポップス的なバランスを作っています。もちろん歌の存在もそうですね。コード進行やメロディーの展開も現代音楽とは違いますし、そういう部分がポップスとしてのこの音楽を成立させてくれているのかなと思います。

出典: www.e-onkyo.com

左から和田輪、コショージメグミ、井上唯、矢川葵。

◆作り手の思いが伝わるサウンドを
―:昨今のアイドルのシーンは、音楽で勝負をする動きが強くなってきているように思います。Maison book girlのサウンドの特色の一つは難解さと表現できると思いますが、今のシーンの中におけるMaison book girlはサクライさんご自身にはどう映りますか?
昔からではあるんですけど、単純にいい音楽を作りたいってところが根底にあります。J-POP自体も二分化されると思うんです。全部コピー&ペーストで作られたような思いっきり商業的なものと、ちゃんと作り手がこだわりを持って作っているんだなと誰もが分かるようなものと。だからMaison book girlも、4人の女の子がいるアイドルグループではあるんですけど、音楽的には作り手がしっかりと作ってるというのが伝わるようなスタンスを示していきたいなと思っています。
―:『海と宇宙の子供たち』を聴いていて、今のJ-POPの中でもっとも自由なのはアイドルの音楽なのかもしれないと感じました。以前は音楽好きがアイドルを聴いてるというのを公言しづらい雰囲気があったところに、たとえばPerfumeがエレクトロとして上質な音楽性を示したようなところから随分と流れも変わって、そうした潮流の先にMaison book girlもあるのではないかと思うのですが、サクライさんはどのように感じますか?
なるほど、このe-onkyoさんで話す内容かどうか分からないんですけど(笑)アイドル業界で活動をする前は、ずっとインストばかりやっていたんです。そのうちにソロのアイドルの子の曲を作るようになって…なので7、8年前ですかね。なんとなくアイドル業界も音楽にこだわって作ろうという動きが出てきて。歌モノとしてちゃんとしたものを作ろうという形でアイドル文化が活性化されたあたりで、グループ自体もすごく増えた時期があったんですよ。で、曲を作る人がいないという状況も一方で発生して。そういう中ですごくいい曲を書く人が現れる一方で、あまり売れてないグループだと友達のバンドマンで“ちょっとDTMができる人が曲を書いてる“みたいな状態もありました。僕はそれ自体は悪くないと思うんですけど、とにかくクリエイターが不足していたので色々な人が曲を書いてたんです。そういうものを経てアイドル音楽が進化したような部分もあるかもしれないですね。
―:e-onkyo musicでも、チャートにアイドルがランクインするケースも増えてきました。ハイレゾでアイドルを聴く人が増えている状況については、どう感じますか?
さっきの話からの流れでもあるんですけど、アイドル業界以外のフィールドの方がアイドルに曲を書くケースが増えたことで、楽曲面がしっかりしたグループが多くなって必然的に音質自体へのこだわりも強くなってきています。音源だけじゃなくライヴでの音への追求も進んでいて、以前は2chステレオのカラオケ音源だったのが、ProToolsを持ち込んでパラでミキサー卓に送るグループも増えました。現場での整音への関心が高くなっていますね。ヴォーカル用のマイクもかなりこだわったものを自前で持ち込んでるケースが多いです。作り手もお客さん側も、音の事をよく知ってる人が増えているという事なんでしょうね。
―:なるほど。
特にMaison book girlでいえば、あまり他に参考にできるものがない音作りやミックスをしていると思います。作曲やアレンジはもちろん、Mixの段階でさえ「こういう感じで」というリファレンスを用意したことは無いですね。音の配置であったり、先ほどの話でも出たローエンドの表現の仕方も、他では見当たらない作りになっていると思います。

◆変拍子を抑えて多くの人に楽曲を聴いてもらいたい
―:Maison book girlの場合、小節の解釈など歌う事自体の難易度が高い曲も多いと思いますが、いつもレコーディングはどのように?
だいたいは僕が事前に仮歌を入れた音源を資料として渡しています。以前は何拍子なのかわからないまま歌っていたらしいんですが、この2年位は「この7拍子は4と3の解釈なのか、3と4のノリなのか」みたいな事を本人たちから聞かれることも出てきました。
―:プログレの現場みたいですね。
そうですね(笑)歌う側としては歌詞に歌を乗せるフィールも変わってきますからね。アクセントのつけ方とか。
―:今回はレコーディングや制作の方法論や環境的に何か特徴はありましたか?
ちょっと前の話に戻っちゃうんですけど、今回はほとんどの曲が4/4拍子なんですよね。アルバム用の歌モノの新規曲は「海辺にて」、「ノーワンダーランド」、「LandmarK」、「悲しみの子供たち」、「ランドリー」なんですけど、変拍子なのは「悲しみの子供たち」だけです。この曲だけは逆に思いっきり変拍子にしてあるんですけど、気持ちよく聴くという意味では意外と取っ付きにくいらしくて。僕自身は全ての曲が1/1拍子だと思ってるタイプなんですけど(笑)
―:1/1拍子!
いや実際は無いんですけど、「ここで展開が変わる」みたいな小節の解釈なんです。ただ、お客さんの感想なんかを見てると案外そうでもないみたいで。だから今回は逆に、4/4縛りというか、4/4拍子になるように意識的に曲を作りました。4/4という枠の中で付点の音符を使ったり楽器同士の音を少しずつずらしたりして、アクセントの置き方でグルーヴを作っています。一拍も厳密には八分音符2個分なので、その裏の部分を強調したりするのはいつも意識せずにやっています。
―:トレードマークともいえるトリッキーさですね。
その枠の中からはみ出さない範囲のトリッキーさで、多くの人に聴いてもらいたいなという楽曲を作っていきました。
―:サウンドだけでなく歌詞も非常に独創的ですが、着想自体はどういうところから?
シングル『SOUP』と『umbla』からそれぞれ2曲ずつ今回のアルバムに収録しているんですが、『SOUP』の時点で頭には『海と宇宙の子供たち』というアルバムのタイトルがあって、“海の中の偽物の世界”みたいなイメージだったんです。そこが誰かが前回のアルバム『yume』を作っているメタ世界みたいな。その上に『SOUP』というシングルの階層があって、さらに『umbla』の階層があるという。で、自分がその幾重にもある階層のどこにいるのか、というようなことを想像しながら歌詞を書きました。
―:その世界の情景がはっきりとあったんですね。
そうですね。そういう情景の投影が強いタイプなのかもしれないです。
―:最早コンセプトアルバムの領域なのでは…
いや、今回はそういう世界観をそこまで気にせず聴いていただいて大丈夫です(笑)ただ自分が作り出す上で、そういうテーマを決めておきたかったんです。アルバム全体でストーリーということではなく、どれか1曲を繰り返し聴いていてもいいし、その1曲の中にもちゃんとストーリーがあります。深読みしたければ、それはそれでまた楽しんで頂けると思います。
―:冒頭のお話にもあった「歌詞が聞き取れる音作り」というところにも繋がりますね。
はい、そうですね。
―:既存のシングル2作の時点で通奏低音のようなテーマがあることで、アルバムとして綺麗なシェイプになっているのだなと改めて感じます。それでは最後に、e-onkyo musicのリスナーに聴きどころやメッセージなどお願いします。
最近は、ライトな音楽ファンもファッション感覚で音のいいイヤホンやヘッドホンを使っている人が増えてきました。そういう人にこそ音作りやミックス…音の形みたいなものを聴いてほしいなと思うのと同時に、ちゃんとしたオーディオで聴いてもしっかりと楽しめるものになっているので、そういう環境をお持ちの方にも聴いてほしい作品になっています。皆さんぜひ聴いてみてください。

出典: www.e-onkyo.com

左から井上唯、和田輪、矢川葵、コショージメグミ。

以下、オフィシャルサイトよりインタビューを引用。
完成直後の本アルバムに対する各メンバーの思いなどが語られている。

ーーこのインタビューはアルバム完成後に行うものですが、皆さんにはそれ以前にアルバム『海と宇宙の子供たち』初回限定盤Bに付属するEXCLUSIVE BOOK用にインタビューを二度行っており、その都度アルバム制作の進捗を伺ってきました。
コショージ ー確かに。そういう意味では、アルバム完成までの目撃者ですよね。
ーーそれこそ前回お話を聞いたのは、最後の1曲をレコーディングする当日でしたものね。
矢川 ーあ、そうだ!
和田 ー「ランドリー」ですよね。
矢川 ー完成しましたね(笑)。
ーーいや、想像以上の内容に仕上がったので本当に驚いています。
全員 ーありがとうございます!
ーー皆さん、すでに完成したアルバムは聴いたと思います。なかなか客観的にはなれないと思いますが、ぶっちゃけ手応えはどうですか?
矢川 ーふふふふ(笑)。前回のアルバム『yume』はCD1枚通して「すごい!」と思ったんですけど、今回は1曲1曲の強度がすごいなと思っていて。どれか1曲ではなくて、どの曲もこのアルバムを象徴している曲だなと思うので、どこから聴いてもアルバムの全体像がイメージできる、そういう強みが持てたのはよかったなと思います。
ーー『yume』やそれ以前の『image』は頭から聴くことで意味を持つ作品だったと思いますし、トータルでMaison book girlというグループを見せていたところが強かったのかなと。
井上 ーそうなんですよね。特に今回のレコーディングは1曲録るごとに「また前と違う曲調だな」と毎回思っていたんですけど、ちゃんとアルバムとして通して聴いたら、シングルとして過去に発表した曲とも馴染んでいて。アルバムとしてしっかりワンパッケージになっているなと感じました。
ーー楽曲の振れ幅は過去イチですものね。なのに、アルバムとしての統一感はしっかりある。なぜなんでしょうね?
井上 ーMaison book girlが歌っているから?
コショージ ーおー。
和田 ーそれもあるのかも。
井上 ー……蕎麦屋がカレーを作ったみたいな?
矢川 ーん?(笑)
和田 ーあ、蕎麦屋のカツ丼とか同じ出汁を使ってるから?
井上 ー麺類とごはんものなのに、おんなじ出汁っていうね。
ーー言いたいことはわかります(笑)。出汁が一緒だから、素材や調理法が変わっても軸にある味は変わらないわけですし。普通はここまでやったらとっ散らかった内容になっても不思議じゃないのに、不思議とトーンや質感は統一されていますから。
和田 ー確かに。レコーディングのとき、サクライ(ケンタ)さんからの歌い方のディレクションが曲によって全然違っていたんですけど、アルバムになったときにここまで統一感が出るのは不思議ですよね。
ーーこの感覚って、実はここからブレイクするアーティストの正しい流れじゃないかなと思って。
和田 ーえっ、それはどういうことですか?
ーー多くのアーティストが初期の3作くらいで最初にやりたかったことをやりきることで、活動の基盤を完成させる。以降のライブでも軸になる曲にこの頃の楽曲が多かったりするのは、まさにそれですよね。
コショージ ーあー。
井上 ーなるほど。
ーーで、4作目くらいからより外側へ向けて、それまでに築き上げたスタイルを噛み砕いた形で作り直していく。そうすることで、コアなリスナーからよりライトな層へと行き届くことが増えると思うんです。Maison book girlの場合、今回の『海と宇宙の子供たち』がインディー時代を含めると4枚目のアルバムに当たります。前作『yume』までで “これぞMaison book girl”みたいなスタイルを確立し、今回のアルバムで外側に向けた新たな挑戦に取り掛かり始めたと捉えると……。
和田 ーうんうん、わかります。今までの私たちって、サクライさん含めて「自分が一番やりたいと思っていることで売れないと意味がない」という考え方だったと思うんですよ。でも、「これがMaison book girlですよ」と伝えられる地盤ができたからこそ、今はこうやって外に向けたものが作れるようになったんでしょうね。
ーー実際、ライブでもこの1年くらいに発表した楽曲って、独特の強さを放っているんですよ。10月から始まった『Maison book girl LIVE HOUSE TOUR 2019_2』のうち、僕は11月17日の浦和Narciss公演を拝見しましたが、初期の楽曲が多く並ぶ前半でライブの空気感をかっちり作り上げて、「闇色の朝」から始まりニューアルバムの2曲(「海辺にて」「「ノーワンダーランド」」で締めくくる後半で今のMaison book girlを提示する。この後半の構成が本当に素晴らしくて、「今のブクガ、すげえじゃん!」と感動したんですよ。
コショージ ーいやあ、うれしいです。
ーー最近のライブを観てより感じたのですが、皆さんの中で歌や表現することに対して自信も付いたところもあるんじゃないでしょうか?
コショージ ー確かに。今まではお手本がなかったり道しるべがなかったというのもあるんですけど、どこか闇雲にもがきながらやっていたところがあって。でも、最近はワンマンという形でツアーを数多く回らせてもらうことで、今自分たちが見せたいものを見せ、今やりたいことがやれているのは多いですね。
井上 ー対バンだと短い時間の中で、対バン相手やそのお客さんに合わせて自分たちをわかりやすい形で見せなくちゃいけないけど、ワンマンで長尺のライブをツアーという形でやれているのは、かなり大きいですよね。
コショージ ー対バンは対バンで良い経験になるけど、それだけでは気づけないことや見つけられたいものも多いので。なので、ここ1年くらいの楽曲をワンマンツアーでじっくり披露できていることは、自分たちの成長や自信につながっている部分は少なくないと思います。それに加えて、ボイトレの先生やダンスの先生に付いてもらっていることで、自分の中にあったモヤモヤを解決してもらえた。「じゃあ次のライブはこうやってみよう」ということが今年はすごくいい感じにできていたので、それも自信に直結したのかな。
和田 ーあと、最近の曲は歌詞が開けた感じになっていることも大きいですよね。昔の私たちだったら、きっと言わされている感があったと思うんですけど、最近は全員に自我が芽生えたというか。自分のやりたいことがそれぞれ見えてきたからこそ、今ちゃんと自分たちの言葉や表現で伝えられるようになって、今自信を持ってこれを歌えているのかなと思います。

出典: www.maisonbookgirl.com

左から井上唯、矢川葵、コショージメグミ、和田輪、サクライケンタ。

ーーそれに加えて、サクライさんが表現していることと皆さんが歌いたいこと、表現したいことの距離がより近くなった。そこが乖離することなく、最高の形で伝えることができる今だからこその歌の強さなのかもしれないですよね。その点でいうと、今回のアルバムは聴き手に歩み寄った作品だとも感じていて。アルバムコメンタリーのインタビューでコショージさんが「ポエトリーの『思い出くん』はまさに聴き手のことを意識して書いた」とおっしゃっていましたが、ほかの楽曲にも同じような意識が備わっているからか、聴いていてすごく優しい気持ちになれるアルバムなんですよ。
井上 ー優しい気持ちか……。
コショージ ー……Charaですね。
全員 ー(笑)。
コショージ ー(Chara「やさしい気持ち」を歌い出す)
井上 ーなるほどね(笑)。 (ツボに入り、しばらく全員笑い続ける)
矢川 ー曲が頭の中で再生される(笑)。
コショージ ー曲のイメージが強いよね。
ーー強引ですけど、今回の『海と宇宙の子供たち』というアルバムには、そういう楽曲が並んでいるんじゃないかとも思うんですよ。
井上 ー確かに!
コショージ ー悲しい気持ちになったときには「悲しみの子供たち」が流れてほしいですね。
ーー皆さん自身が頼もしくなったのもあるんでしょうね。聴いている人の不安や迷いを引き受けられる、そういう強い意志もアルバムから伝わってきますし。それが先ほどの「優しさ」にもつながって、音に包み込まれることや投げかけられる言葉にホッとさせられたり。特にアルバムが終盤に向かっていくにつれて、その要素はさらに強まっている気がします。
コショージ ー確かにその感覚はありますね。今までもその表現はあったとは思うんですけど……例えば悲しい人や落ち込んでいる人が聴いてくれたとき、「私たちも同じ気持ちだよ」と寄り添う意味での優しさは表現していたとは思うんですけど、今は寄り添うけどその場から動けなくなっちゃうことが嫌だなと思って。「寄り添うけど、あなたは前に進んでほしい」みたいな気持ちが強まっているんですよ。
ーー次のアクションにつながってほしいという感情が強まっているような?
コショージ ーうんうん。それが全曲に共通しているのかもしれませんね。
ーーこのアルバムの起点ともいえる『SOUP』の頃から芽生え始めた感情がより明確なものになって、このアルバムで行動として表出した。本当に2019年のMaison book girlを総括する1枚になりましたね。インストの「風の脚」を経て「海辺にて」から始まり、「闇色の朝」へと続くアルバム序盤の構成も素晴らしいですし。
コショージ ー私たちも曲順関係なく1曲ずつ録っているので、どういう構成になるんだろうと想像はしてみるとけど、結局は全然想像つかなくて。なんなら、サクライさんが「こうしたい」みたいな感じで話していた曲順と全然違う並びになっていましたから。そこも1曲完成するごとに変わっていったんでしょうね。
ーー加えて、「長い夜が明けて」はアルバムのクライマックスにふさわしいポジションに収まりました。
コショージ ーこの子、いい子なんですけど……ライブでもそうなんですけど、置き場所に困るんですよ(苦笑)。
矢川 ー主張が強いもんね。
ーーでも、収まるべき場所に収まった感が強い。
コショージ ーそう。
ーー前回お話を聞いた際は歌入れ直前だった、「ランドリー」のレコーディングはいかがでした?
コショージ ー「ランドリー」レコーディングの日はインタビューをしていただいたあとにボイトレが入っていたんです。レコーディングの前にボイトレができたことはこれまでなかったので、私はすごく良い状態でレコーディングできたと思います。
井上 ーでも、「ランドリー」は作るときに、サクライさんがすごく悩んでたよね。「どんなのがいいかな?」ってずっと言っていたので、グループLINEで励まして(笑)。
コショージ ーあったね(笑)。あと、「ランドリー」は過去の「bath room」とちょっとリンクしている部分があって。なので、サクライさんも一緒かもしれないですけど、アルバムの中でも実は裏番長みたいな感覚があるんです。
和田 ー「ランドリー」って曲調が今までみたいに特徴的じゃなくて、わりとまろやかなんですけど、〈最後の夜ももう来ないの〉という歌詞のあとに「長い夜が明けて」が続くじゃないですか。実はこの2曲で言いたいことは近いんじゃないか、そういう強さを隠し持っている子たちが集まったアルバムになったんじゃないかと感じています。
ーー1曲1曲で完結しているものの、実はリンクする部分も備わっているから、続けて聴いたときのストーリー性も感じられる。このインタビューが公開されるのはアルバム発売後ですが、今から反響が楽しみですね。
コショージ ーどうなるんだろう……うちらアーティスト自身が「聴いてください!」と言ってもね。
井上 ー「それは言うっしょ」みたいな感じだし。
コショージ ーそうそう。でも、言いすぎてもなとも思うし……うん、でも頑張ります。アルバム曲のMVもたくさん作っていただいているので、1曲でも目に止まればアルバムを聴いてもらえるかなって。

出典: www.maisonbookgirl.com

左から井上唯、和田輪、矢川葵、コショージメグミ。

ーー実は昨夜、Amazon Prime Videoで配信が始まるドキュメンタリー番組『Pick Ups! -Maison book girl-』を観させていただいたんですよ。
全員 ーおー!
井上 ーあの番組はすごいですよね。本当によくできているなって。
和田 ー『情熱大陸』だったね。
矢川 ー背景とか照明がしっかりしているので、喋ってる自分を観ると「もっとしっかり喋って!」と思っちゃう(笑)。
コショージ ーでも、前半2回と後半との高低差がすごいよね(笑)。
ーーああいう番組もアルバムを広めるための施策としては、少なからず効果があるのではないかと思います。Maison book girlに入っていきやすいニューアルバムを発表するタイミングに、グループのことをよく知ることができる副読本的な番組があるわけですから。
コショージ ーありがたいですよね。
井上 ー2回目はアルバムのレコーディング場面ですから、これを観た人がアルバムに興味を持ってくれるかもしれないですし。でもさ、ドキュメンタリーを通してメンバー個人を好きになることってない? 私はあるんだけど。
矢川 ーうん、あるねえ。
コショージ ー私は、この業界の人がすごく観てくれそうだなと思っていて。
和田 ーなるほど。
井上 ー名前は知っているけど活動内容については深く知らないという人が観たら、もっと興味が湧くような内容だと思いますし。特に、小難しそうなグループだなというイメージを持っている人にこそ観てほしい。
矢川 ー最近、「闇色の朝」のMVを観て私たちのことを知ったというツイートもよく目にするんですけど、「バンドだと思ってた」とか「4人で歌ってるんだ」っていう声もまだ多いので、そういう人たちにも届けばいいなと思います。
ーー逆に、何の予備知識もない人Maison book girlというユニット名を聞いたら、何人組で何をやっているグループなんだろうとイメージするんですかね?
井上 ー洋服のブランドとか?
矢川 ー個性的なシンガーソングライターとか?
和田 ーソロプロジェクト名っぽいもんね。今でも「ヤバイ、Maison book girlめっちゃいい! 見つけちゃったかも?」みたいなツイートをしている人が結構いて。そういう人たちは曲やMVのことは知っているけど、メンバーである私たちのことはあまり知らないと思うので、このドキュメンタリーを通してちゃんと私たち4人が頑張ってやっているぞというのを観てもらえて、そこからライブに行ってみようかなと思ってもらえたらいいなね。
ーー『yume』より前っていい意味での匿名性も“売り”のひとつとしてあったし、そこが武器にもなっていましたよね。
コショージ ー確かにそうですね。アーティスト写真でも顔が見えてなかったりしましたし(笑)。
ーーでも、今回の『海と宇宙の子供たち』はそういう鎧が必要ないアルバムですし、もっと「この4人がやっています!」ということを、胸を張ってアピールすべきだと思うんです。
コショージ ー「これこれ、私なんです!」みたいな(笑)。
ーーはい(笑)。で、そういうアルバムを発表したタイミングにLINE CUBE SHIBUYA(旧・渋谷公会堂)という大会場でのワンマンライブ『Solitude HOTEL ∞F』を行うのも、何かしっくりくるものがあるんですよ。
コショージ ー本当ですか? でも、全然背伸びしてますよ(笑)。
ーーLINE CUBE SHIBUYAのことを発表するまでに、いろんな葛藤があったそうですね。
コショージ ーそうですね。今年の4月くらいから、なんとなく側にいたんですよ、「来年1月に渋公」という雰囲気が。そのときから意識はずっとしていて、実際発表するまでは本当に不安だったし、自分なりの葛藤もあって。でも、「やります!」と言えた今は、1月5日目掛けて猪突猛進って感じですね。
ーーもはや不安はないと?
コショージ ーはい。それって、要するにこういうことだったと思うんです……今までは自分たちのライブに自信が持てていなかったところが、たぶんあったんですよ。だから、自分たちから「ライブに来てください!」ってあまり積極的には言えなくて。きっとMaison book girlを好きな人は「来てください」と言わなくても来てくれると思っていたから、「来てください」という言葉はMaison book girlに興味がない人や「ちょっと気になっているけど、ライブはどうしようかな?」という人に向けて使うものだなって。あとは、Maison book girlのことに興味がない人もライブを観て好きにさせるだけの自信もなかったんですよ。だけど、今はMaison book girlに興味がない人にも絶対に好きになってもらいたいし、いいライブをしているなと思わせたい気持ちが強いから、めちゃくちゃ言いまくろうと思って。しかも、今回は絶対にソールドアウトさせたいんです!
ーーライブ開催を発表した今年9月22日のWOMBでのイベントでも、涙ながらにおっしゃっていましたよね。
コショージ ーはい。このライブがソールドアウトしたら、きっと何かが変わると信じているんですよ。だから……今までもやる気はあったけど、もしかしたら……さっきの話じゃないですけど、自分のやっていることに対して自信が付いてきたのかもしれないです。なので、今までとも違うMaison book girlを絶対に見せたいですね。
ーー年が明けてまたお話を聞くときは、「伝説のライブになりましたね!」くらいの話をしたいですね。
全員 ーいやー!(笑)
矢川 ーどうしようかなあ(笑)。
井上 ーなるといいなあ。
コショージ ー内容に関しては絶対責任を取るから、とにかく気になった人全員に来てほしいです!

出典: www.maisonbookgirl.com

左から井上唯、和田輪、矢川葵、コショージメグミ。

以下、音楽ナタリーよりインタビューを引用。
各楽曲の簡単な解説や、裏話など興味深い内容が含まれている。

好きな曲、バラけそうですよね
──前作「yume」はアルバム全体を通して“夢”というテーマを表現する作品でしたが、新たなアルバム「海と宇宙の子供たち」は“海”や“宇宙”といった題材を各楽曲ごとで表現しているように感じられました。
コショージメグミ レコーディング中は、アルバム全体のテーマを考えながら作っていったというよりも、各楽曲ごとのイメージを意識して作っていったんです。それで完成した楽曲が集まったとき、このテーマが見えてきましたね。
──アルバムのテーマに合わせてか、衣装の雰囲気もかなり変わりました。肩の袋のような部分はどうなっているんでしょう……?
和田輪 ここ、お菓子のゴミとか入ってますね。
コショージ サクライ(ケンタ。プロデューサー)さんが考えた衣装なんですけど、アルバムのテーマになっている海や宇宙とかイメージしているのかも。
井上唯 塵とか?
矢川葵 こういうの、海に漂っていそうですよね。
コショージ まあそういう感じです(笑)。
──「海と宇宙の子供たち」には新曲が5曲収録されていますが、皆さんそれぞれどの曲が特に印象に残りましたか?
コショージ 私が一番好きな曲は「悲しみの子供たち」で、5つの中ではあとのほうで完成したんです。仮歌の前にワンコーラス分のメロをもらったんですけど、それだけでもめっちゃ聴きました。Bメロの畳み掛けからサビに入る部分とか、特にヤバいですよね。ボーカルパートもみんなの声がはっきり分かれていて、それぞれの個性とか、魅力がよく伝わるんじゃないかと。
矢川 最後にできたのは「ランドリー」なんですけど、今回サクライさんが相当楽曲制作で悩んでいて、私たちに「どういう曲がいいと思う?」と聞いてくることもあったんです。その頃はよくみんなで椎名林檎さんのミュージックビデオを観ていたので何曲か紹介しました。
井上 「こういう曲が欲しい」というより、ちょっと息抜きになればいいかな……と思って教えたんですよね。「この曲が好きです」「これどうですか?」みたいな感じ。
矢川 それで「ランドリー」のイントロが届いたら……。
コショージ 椎名林檎さんの「正しい街」っぽかった(笑)。
矢川 でもそういうテイストを混ぜつつブクガらしい曲に仕上がっていたので、うれしかったです。心配だったんですけど、こんなに追い詰められてもいい曲が作れるから「すごい!」って思いました(笑)。
井上 「海辺にて」はもうライブでも披露している曲で、葵ちゃんがソロで入ったあと全員でガッと歌うサビとか、緩急の付け方は特にいいかも。
──「海辺にて」は過去曲だと「おかえりさよなら」に近い、ミドルテンポでスケール感のある楽曲でしたね。ある程度テンポを抑えている分、歌い込むためのパワーが必要な楽曲だったかと。
井上 ライブでは音数が少ない分歌声がよく聴こえるみたいで、ファンの方からは声や歌詞に関する感想をもらうことが多かったです。歌詞って相当集中しないと聴き流してしまったり、印象に残らないですよね。それだけ聴き込んでくれたのかも。
和田 今までの曲ではハモリが入るのはサビのユニゾンぐらいだったんですけど、「LandmarK」はメンバー同士の掛け合いがたくさんある曲で。リアルタイムにメンバーの声が重なるのはこの曲が初めてでした。ライブでの聴こえ方も音源とはだいぶ変わりそうです。
──シングル「umbla」の収録曲「シルエット」で初めて本格的にコーラスを録音したとお話ししていたので、そこから発展させ、より複雑な構成のボーカルに挑戦した楽曲と言えそうですね。
和田 ボイトレのときも、例えば「もうちょっと葵ちゃんの歌い方に寄り添ったほうがいい」とか、お互いのバランスについて教えてもらうことが多くて。レコーディングでは1人ずつ歌録りしたけど、ライブではよりキレイなハーモニーが生み出せそうです。
──挙げていただいた曲、見事にバラけましたね。
コショージ みんな空気を読んだんだと思う(笑)。でもお客さんが好きな曲もバラけそうですよね。

出典: natalie.mu

矢川葵

サクライさんに「こういう曲が今人気」って教えてあげる
──最近サクライさんは「『こんな曲がやりたい』って要望があったら教えてほしい」とお話したり、皆さんから意見を聞くことが多くなったそうですね。
コショージ 今回のアルバム制作中も何度か相談されました。「採用されるかはわからないけど」とは言ってましたけどね。例えば「悲しみの子供たち」のときは、「karma」みたいなワンマンでも対バンでもセトリに組み込みやすい曲があるといいですね……とざっくり伝えたり。テンポが速くて、そこまで重たくない曲は映えるし、ライブ全体の進行がうまく締まるんですよ。
──ほかのアーティストの曲ではなく、ブクガの過去曲を例にして要望することが多いんでしょうか?
コショージ そうですね。強いて言えばさっき挙げた椎名林檎さんぐらい。あとは何があったっけ?
矢川 自分が普段聴く音楽はメジャーなJ-POPがほとんどなので、「こういうタイプの曲が好きです」という話もちょっとしました。
井上 サクライさんが普段聴いているものとは真逆の音楽が好きだから……。
矢川 「こういうのが今人気なんだよ」って教えてあげる。
──もし皆さんの意見を共有せず、サクライさんの中から出てきたアイデアだけだった場合、ポップな雰囲気の「ノーワンダーランド」「ランドリー」のような曲は生まれなかったかもしれないですよね。そういう意味では、皆さんの意見がアルバム制作に与えた影響は大きかったんじゃないかと思います。
井上 これまで作ってきた作品の中では、一番サクライさんと話し合った作品になったかもしれない。
コショージ あと「LandmarK」「ランドリー」とか、“ラン”って付く曲多いよね?
井上 「ノーワンダーランド」もそうだし。
コショージ サクライさん絶対気付いてないと思う(笑)。

出典: natalie.mu

コショージメグミ

上達したからこそ悩んでしまった歌声
──楽曲の構成だけでなく、ボーカルの譜割りやコーラスの割り当ても複雑になってきていて、レコーディングも苦労したのではないでしょうか?
コショージ 確かにそうでしたね。最近みんなでボイトレをやってて、それぞれの個性を生かしつつ伸ばす、みたいなスタイルで教えてもらっているんです。私はエアリー系の声を出すためにとにかく肺活量を鍛えるトレーニングをやっているんですけど、「悲しみの子供たち」では強く張った声が必要で、練習している内容とは真逆の歌い方だったんです。用意していた装備とは全然違う競技が始まった!みたいな感じでしたよね……でもまあ、がんばりました。
和田 歌録りはいつも私が最初にやるんですけど、サクライさんからは「もっと強く!」と何度かお願いされるんです。それで4人全員の歌録りが終わったあと、「ここ強すぎたから録り直してもいいですか?」みたいになることがよくあって。でも「悲しみの子供たち」のときは録り直しなしでOKだったんです。みんな歌声が強くなってきているだけじゃなく、いろんな表現ができるようになったのかもしれない。
──歌録りではサクライさんからどんな意見をもらうんでしょうか?
和田 漠然としたものがほとんどですね。「もうちょっと葵ちゃんっぽく」「空間的に広い感じに」とか、イメージ的なものが多いです。
井上 「ランドリー」も大変だったよね? なんだっけ、「リュックサック」って言いながら練習したリズム。
コショージ・矢川 シャッフル?
井上 そうそう! それを感じて歌えるよう、ボイトレの先生に「リュックサック、リュックサックって頭の中で意識しながら歌うの」と教わったんです。「もっとリュックサック!」とか言われたり(笑)。それがすごい難しかった。
──これまでの楽曲では和田さんが皆さんにリズムの取り方を伝えていたそうですが、最近ではボイトレの先生がレクチャーすることが多くなったんでしょうか?
和田 そうですね。私は曲の拍は理解できるんですけど、声を出しやすくする方法はわからなかったんです。先生は声の出し方や力の抜き方も教えてくれたので、かなり歌いやすくなりました。
井上 今まではレコーディング前に練習する時間がなかったんです。今回のレコーディングでは一部ですけど仮歌の入ったテイクを使って、先生と一緒に練り込みました。
矢川 ほかには「LandmarK」はシンプルにキーが高くて。高い音程の歌声はがんばって出そうとすると、キンキンした感じになっちゃうんです。ライブではまだ披露してないので、もっと上手に歌えるようにならないとな……と気を付けてます。今までも歌入れを終えるごとに「ここまでのキーは楽に出せるようになったな」と実感できても、次の新曲ではさらに高いキーが入ってきて(笑)。どんどんサクライさんに鍛え上げられてます。
──高いキーで歌うことに関して、サクライさんからアドバイスはありましたか?
矢川 「レコーディングのときは難しくても、ライブのときはたぶん出るから大丈夫!」みたいな、根拠のない励ましをしてくれました(笑)。でも歌えるようにならなきゃ曲の魅力が半減してしまうから、がんばらないと。
──先日行われたワンマンのMCでは、和田さんがアルバムのレコーディング中、ボーカルに関してどうしても納得できない部分があり泣いてしまったとお話ししていました。現在Amazon Prime Videoで配信されている番組「Pick Ups!」にもそのシーンが収められています(参照:Pick Ups! -Maison book girl-)。
和田 特に揉めたわけではないんですよ。サクライさんは「俺はこれでいいと思うねんけどなー」と言ってくれたんですけど、どうしても自分ではしっくりこなくて、何度も録り直させてもらったんです。歌入れのときはまず自分たちがやってみたい歌い方で録音して、そのあとにサクライさんから意見を聞いて調節していく、という流れになるんです。それが大掛かりになっちゃったんですね。
──録り直しした楽曲は「LandmarK」でしたが、和田さんの中で具体的に気になっていたのはどの部分だったんでしょうか?
和田 この曲のサビは高いパートと低いパート、2種類あって2人ずつ分かれて歌うんです。私は低いほうを担当したんですけど、サクライさんから要望があった歌い方があまり耳なじみがよくないように聴こえたんです。最近では声の表現の幅が広がったんですけど、私が好きではない歌い方もできるようになったところもあって。表現力が上がったからこその弊害なのかもしれません。

出典: natalie.mu

井上唯

まだまだプロとは言い切れない
──1月にはワンマン「Solitude HOTEL」シリーズの新たな公演が行われます。これまで回数を重ねるたびに1F、2Fと階数が増えていますが、今回は「∞F」になっているんですよね。
コショージ 「8F」の8を横にして∞、と表記しているんですよ。
──「∞」に意味深なメッセージが込められているように感じたのですが、考えすぎですかね……?
コショージ そうかー、じゃあすごいことしないといけないですね(笑)。今回から参加するスタッフさんが増えたので、それぞれの力をぶつけ合っていいライブにしたいです。
井上 ここまでスタッフさんが集まるワンマンって初めてじゃない?
コショージ そもそもこのワンマンに向けて、Amazon.co.jpとのコラボライブをやったところもあるよね。
──今年9月に行われたAmazon.co.jpとのコラボライブは、第1部には振付師のHIROMIさん、第2部には過去のワンマンライブにも参加経験のあるhuezが演出を担当しました。どちらの部も演出をすべてお任せしたのでしょうか?
コショージ 各部とも一緒に作っていった感じです。まず「こういうことがやってみたいんです」と大まかなイメージを伝えたあと、「こういう表現はどうですか?」とアイデアをいただいて、そこからすり合わせていきました。ワンマン「Solitude HOTEL」シリーズに近いところもありつつ、これまでできなかった表現にも挑戦できたんです。
──HIROMIさんは現在皆さんのダンスレッスンも担当されています。ブクガでは長年ミキティー本物(二丁目の魁カミングアウト)さんが振り付けを手がけてきましたが、HIROMIさんが参加されたことで何か変わったことはありましたか?
矢川 これまでは「動きづらいけどどうしたらいいかわからない」みたいな悩みが生まれたとき、ミキティーさんと一緒にとにかく試行錯誤しながら解決していたんです。
コショージ ずっと手探りだったよね。
矢川 HIROMIさんはダンスの基礎をしっかり学んできた方なので、何か悩んだときは「こういう方法があるよ」とすぐに教えてくれるんです。解決方法を的確にアドバイスしてくれるので、すごく勉強になります。
和田 ほかにはダンスの基本的な部分、例えばターンのやり方も正しい方法がわからなくて、今まで無理やりやっていたんです。そこでHIROMIさんから基礎を教わったら、過去曲のターン部分が全部きれいに踊れるようになって。そんなふうに応用することもできて、かなりやりやすくなりましたね。
──HIROMIさんが関わってから、過去の楽曲の振り付けを変えることもありましたか?
コショージ 何曲かありますね。新曲の振り付けもHIROMIさんが担当しています。歌割りも変えたよね?
矢川 ダンスの流れを考えてね。
──一方でhuezはレーザー照明や映像を用いた演出が特徴的で、近年のブクガのワンマンでは欠かせない、非常に個性的なステージングを手がけていますね。
コショージ huezの演出はまず土台となるものを作ってもらっています。そのあと、例えば虫の出てくる映像だったら虫の数を調節してもらったり、ダンスとの兼ね合いを考えて映像に出てくるオブジェクトの配置を変えてもらったり、微調節して仕上げてもらいましたね。レーザー照明についても、こちらのオーダーに合わせてもらうこともあります。「Solitude HOTEL ∞F」はこのAmazonライブの1部と2部、両方を掛け合わせたものになりそうです。
矢川 前回(Solitude HOTEL 7F)の映像をこないだひさしぶりに観たんですけど、今年やったライブでも「今のほうがもっとうまく歌える」と思えたんです。これまで成長してきたことを「∞F」でしっかり見せられるようにしたいです。
和田 私は1回1回のライブごとに目標を設定するんじゃなく、常に最大限右肩上がりでありたいという気持ちです。最新のライブが頂点になるようにしたいので、「∞F」も同じような気持ちで臨みたいです。ただ、どんなにいいライブができたとしても、観てもらえないと意味がないので。だからこそお客さんがいっぱいきてほしい。
井上 今ちょうどワンマンツアーをやっているんですけど、公演を重ねるごとに技術が向上しているのが実感できて。どんどん完成度を高めていって最高の状態で年明けのワンマンを迎えたいです。
コショージ これからライブの構成を考えるんですが、ステージに関わる人が増えたからこそ柱となるコンセプトが重要で、それをみんなと揉んでいるんですね。全員がプロだから、私もちゃんとやらないといけないなって。ちょうどこないだ出た「ポケモン」を発売日に買ったんですけど、ずっとワンマンのことを考えたくてやらずに我慢してます……。
矢川 カッコいいよ。
コショージ 「カッコいい」って(笑)。周りのスタッフさんはみんなプロだけど、私はまだまだプロとは言い切れないんです。皆さんの力があってこそいいライブができるし、このワンマンで新曲をしっかりと届けたいので、今は一番がんばらないといけない時期ですね。

出典: natalie.mu

和田輪

8gfujiteru_1015
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@8gfujiteru_1015

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